第47話 EP8-7 積み重ねてきたもの
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「ワシが、この依頼を受けるぞ! 友の危機だ、報酬は要らん! 少ないが、資金も提供しよう!」
身長二メートルはあるマッチョの巨躯の大男が、依頼書を受付カウンターに叩きつけた。その上に宝石や金片銀片の入った布袋を置いて、重低音で、豪快に笑った。
その巨躯を鈍い鉄色のフルプレートメイルで覆い、その巨躯すら隠す大きさのタワーシールドを背負う。ランクSハンターで、『フォートレス』の二つ名で呼ばれる。
「資金は有難く、預からせていただきます。ですが、フォートレス様の討伐隊への参加は、お断りさせていただきます」
金髪さらさらストレートヘアを六四分けにした、化粧美人の受付嬢が、笑顔で言い放った。
「何故だっ!?」
「超重量のフォートレス様が同乗されると、馬車が間に合わないからです。そもそも、不落の前衛と御高名でも、奪還にも救助にも不向きでいらっしゃいますよね?」
驚くフォートレスに、受付嬢が笑顔で、非情な現実を突きつけた。
「むむむ……。なるほど確かに、仕方あるまい。ならば、後方支援部隊に参加するのは、構わんだろう?」
「それも、お断りします。フォートレス様お一人の重量が空けば、どれほどの物資が積めるとお思いですか?」
受付嬢は笑顔で、情け容赦なく、非情な現実を突きつけた。
「おっ! やっぱり、フォートレスさんも来てましたか!」
二十歳くらいの青年が、受付カウンターへ駆けつけた。ここ、小砦ジフトの自警団員だ。
「受付のお姉さん! このラムライノスの宝石を、ピンクハリケーンさんの依頼の報酬に足してやってくれ。町の奴らから集めたカンパも、少ないが使ってやってくれ」
青年が、宝石と布袋をカウンターに置く。
「情報が早いな、自警団の。ワシも、ついさっき知ったところだぞ」
「それなんですが、フォートレスさん。街中で、官憲の奴らが騒いでて」
「やっと来たか。まあ、一般人にしては早かったと、褒めておいてやろう」
プライドばかり高そうなチョビ髭面のおっさん官憲が、二人の会話に割って入った。剣盾の紋章の入った堅っ苦しい黒服の、帝国役人の制服を着た男だ。
「おい、お前ら。その金品を儂に寄越せ。帝国軍の名義で、その依頼に一緒に提供しておいてやる」
踏ん反り返り、傲慢な口調で、チョビ髭を指先に摘まんで撫でる。
青年が怒って、食ってかかった。
「何寝言言ってやがる! お前ら官憲の手柄なんぞにするわけないだろ!」
「ふんっ。ちょっとは頭を使え、一般人ども」
チョビ髭官憲が、呆れ顔で、青年の肩を押して遠ざけた。
「将軍領の大砦に民間組織が手を出そう、という話だ。資金提供を考える小砦や民間は、癇に障った帝国軍に目をつけられるんじゃないか、睨まれるんじゃないか、と二の足を踏む。だがそこに、すでに帝国軍から資金提供があったとなれば、どうなると思う?」
「……あっ」
青年が、察して、目を丸くした。
「こっちも、掻き集められるだけの金品を掻き集めてきたのだ。俎板娘には、借りは返した、と伝えておけ」
チョビ髭官憲が、傲慢にチョビ髭を撫でながら、金品の入った布袋をカウンターに置いた。
◇
むさ苦しいマッチョ男が、受付カウンターの前に立った。
「魔物ハンター様ですね。ご用件をどうぞ」
受付の、三十歳くらいの太めの身綺麗な男の職員が応対した。ここは、小砦ワーツのハンターギルドだ。
マッチョ男が、カウンターに宝石を置く。
「ピンクハリケーンってさ、この間、胸の大きなチビッ子と一緒にいたピンク髪の人だよなあ? こいつは、ギガントスネークの宝石なんだけどよお、ピンクハリケーンの依頼の報酬に足しといてくれねえか?」
「え? ああ、もしかして、あのときの?」
太っちょ職員が、少しだけ気まずそうにした。
「まあ、そうなんだ。ギガントスネークを倒したピンクハリケーンが、宝石を拾わずに行っちまうのを、見張り櫓から見てたんだけどなあ。そこは、懐に入れちまおうと思って、拾ったわけよ」
マッチョ男も、少しだけ気まずそうにする。
「でもやっぱり、ピンクハリケーンがまた次に寄ったときに、渡そうと考えなおしたわけだ。いやあ、ギガントスネークを大斧で両断、あれは凄かったなあ。馬車の用心棒もしてる身としては、一応、命の恩人みたいなもんだしなあ」
「なるほど。そういうことでしたら、喜んでお預かりいたします。こちらも、魔物の目撃情報を突き返そうとして、後ろめたさがありましたので」
太っちょ職員が、苦笑いした。マッチョ男も、苦笑いした。お互いに見合って、気まずそうに笑い合った。
◇
「僕らじゃ、この依頼は受けられませんか?」
駆け出しハンターと一目で分かる安装備の少年が、隣の、土色の全身鎧の男に聞いた。
「やめとけやめとけ。ホワイトウルフ一匹でも、ランクB相当の実力は要るらしいぜ。駆け出しと根性なしには、荷が重すぎるだろ」
精悍な二十歳くらいの男が、口の軽そうな、軽薄そうな口調で割り込んだ。ちなみに、根性なしだ。
「どうしていつも、すぐそんな根性ないこと言うんですか。ピンクハリケーンさんに恩返しできるチャンスですよ。僕らが今生きてるのも、ホトクの森からこんなに早く救助されたのも、ピンクハリケーンさんのお陰じゃないですか」
「そりゃまあそうだが、ムリなものはムリってな」
精悍な男が、軽薄に笑った。
土色の全身鎧の男は、不満げな少年の肩に手を置く。土色の金属のガントレットで、岩みたいにゴツゴツしたデザインである。触られた感触も、ゴツゴツしている。
「後方支援部隊ならば、我々にも務まるだろう。物資の輸送も、避難民の誘導も、人手があって困ることはない。護衛の高ランクハンターが同行して危険性は低く、自衛できるハンターが後方支援に参加するなら歓迎されるだろう」
「そうか! それなら、僕たちでもピンクハリケーンさんのお役に立てますね! 会って直接、お礼を言ったりできますかね!」
少年は、瞳を輝かせて、声を高くした。
「おやおやおやおや! 皆様、皆様も、いらっしゃっていましたか!」
短い黒髪を七三に分け、黒縁の眼鏡をかけた、三十歳くらいの痩せた男が声をかける。気が弱そうで、影の薄い印象を受ける、デスクワーク専門の管理職っぽい人である。ホトクの森の建設現場で事務をしていた、ジョッテンという。
「ああ、ああ、ハンターギルドの職員の方、職員の方。こちらの提案書を、提案書を、責任者の方に通して、通していただけませんでしょうか」
ジョッテンは、少年たちへの挨拶も早々に、受付カウンターの一つへと立った。腰は低く、それでいて強い調子で、書類を差し出した。
「こちら、こちらの提案書は、ホトクの森共同開発会社から、北の大砦救助依頼への、正式な資金提供の申し出です。ホトクの森の開発再開には北の大砦の奪還が不可欠と、重役のお歴々を、どうにか説得いたしました」
「ジョッテンさん、すごい!」
「七三眼鏡のくせに、やるじゃねぇか! ケチなお偉いさんどもは、さぞゴネたんだろ!?」
少年と精悍な男の称賛に、ジョッテンは照れた。痩せた顔を赤くし、堪えきれない笑みを浮かべた。
「いやあ、そこはまあ、そこはまあ、工事の延期一日につき、どれ程の損失が出るか、出るかと、詳細な内訳つきで突きつけてやりました! 北の大砦の周辺の小砦が解決するのを待てばいい、なんて呑気な意見は一蹴ですよ!」
腰の低いジョッテンにしては珍しく、興奮気味に捲し立てる。
「帝国軍の不興を買うのでは、との反対意見もありました。流石にそれはどうしたものか、と頭を悩ませていたのですが、それが、それが、異例なことに、帝国軍名義の資金提供がすでに行われていまして、解決したんです。これで漸く、命の恩人の、ピンクハリケーンさんとフェトさんのお力になれると、なれると、駆けつけた次第です」
言いたいことを言い終えたジョッテンが、全力疾走直後みたいに息を荒くした。
少年とジョッテンは、熱い握手を交わした。精悍な男も、ジョッテンと熱い握手を交わした。
「ということだ、受付の職員殿。我々も、後方支援でその依頼を受けたい。距離を考えると、すぐに準備をして出発した方がいいな」
土色の全身鎧の男が、フルフェイスヘルム越しでも分かる、嬉しげな声で告げた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第47話 EP8-7 積み重ねてきたもの/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




