第45話 EP8-5 アタシの戦い
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
北の大砦のハンターギルドの、高い屋上から町を見まわす。高い壁の向こうに、太陽が顔を出す。ハンターギルドで一夜を明かし、今朝も快晴の青空である。
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
町というか、都市だ。小砦よりも、遥かに規模が大きい。
壊れた街並み、大きな川、広がる緑が、彼方まで続く。ホワイトウルフに占拠されていなければ、たくさんのたくさんの人たちが、変わらぬ日常を送っていたに違いない。
「ピンクハリケーン様。ご要望にありました高ランクの魔物ハンター様をお連れしました」
屋上の床にある石扉が持ちあがって、アンリナが顔を出した。かけていない眼鏡の縁をかけなおす仕種をした。バサバサに傷んだ長い水色髪の、気の強そうな目をした、三十歳手前ぐらいの、ハンターギルドの受付嬢だ。
「あの日、当ハンターギルドに居合わせたハンター様方には、住民の避難誘導と保護に分散していただきました。ここに残ったハンター様は、ランクSのこの方と、四階に常駐をお願いしているランクBの方の、お二人だけです」
アンリナに続いて、巨漢のハゲマッチョ男があがってくる。袖なし肩剥き出しの黒革鎧を装備し、左腕には曲線的なフォルムの金色のガントレットを嵌める。髭も剃って、筋骨隆々ながら、全身ツルっとした印象である。
「ランクSの、レフトオブゴールドって者だ。よろしく頼むぜ、ピンクハリケーン」
金色のガントレットを厚い胸板の前に掲げた。太い腕を誇示するように、ガントレットも大きくて太い。金ピカで、格好いい。
「いいわ。期待以上だわ」
アタシは、思わず感嘆した。称賛した。
ゴールドが男前に微笑して、親指を立てて応えた。
アンリナが呆れ顔をした。魔物ハンター同士特有のやり取りってヤツは、それ以外の人々には理解されないものだ。
「で、オレッチは何をすればいいんだ?」
「ちょっと待ってね」
アタシは、屋上の石の手すりに手をかけ、周囲を見まわす。少し離れた大通りにいる、巨大な陸亀を指さす。
「あのヒルトータスっぽいの、ここの近くまで誘導できる? 近すぎると、この建物に被害がでるから、距離の調整もできるといいけど」
「アンタァ運がいい。オレッチは、投擲武器専門だぜ」
ゴールドが、右手の親指を立てて答えた。
アタシも、右手の親指を立てて応えた。
「他の魔物が近くをウロウロすれば、縄張り意識の強いホワイトウルフは追い払おうとすると思うのよ。ここの一階フロアのヤツらがヒルトータスの方に出てって、数が減ったところを襲撃したいの」
「なるほどなぁ、アンタァ頭いいな。魔物に魔物の相手をさせるなんざぁ、並のハンターじゃあ思いつかねぇ。マジ凄ぇ」
ゴールドが、顎を擦りながら感心する。
あんまり感心されると、申し訳ない気持ちになる。完全に、フェトの真似である。フェトと一緒にホトクの森に行ってなければ、こんな作戦は考えつかなかったに決まっている。
「えへへへっ。えっと、干し肉、食べる?」
アタシは褒められたのが嬉しくて、照れ笑いしながら干し肉を一切れ差し出した。
「おっ?! ちょうど腹ペコなんだ。助かるぜ」
ゴールドが、指先で摘まんで、端を一欠けだけ折り取る。そのまま、口に放り込む。
「くぅ~! 美味い干し肉だ。腹に沁みやがる」
屋上に積んであった石の一つを拾い、金色のガントレットで握った。軽く放りあげて、パシッと軽快な音で、握りなおした。
「さっそく、お願い」
「おうっ! 任せときなっ!」
両手をハゲた頭上に振り被る。黒革のブーツの右足を高くあげ、踏み出し、石床を強く踏み込む。ちょっと揺れて、金色のガントレットで握る石を、思いっきり放り投げる。
石が青空高く飛んだ。放物線を描いて降下して、ヒルトータスの背中の、暗緑色の甲羅に当たった。
簡単に、当たった、としか表現のしようがないが、かなりの距離だ。大通りの三区画以上向こうだ。
「よぉっし、命中っ! こんだけ快晴なら、楽勝だぜ。っと、おっとぉ、雨なら、水が確保できるかぁ」
ゴールドが、冗談交じりに笑った。
ヒルトータスが、こちらに向きを変えて、歩き出す。動きは緩慢だが、巨体ゆえに歩みは速い。
「流石ぁ! 完璧! あとの距離調整もお願いね」
アタシは満面の笑みで親指を立てて、ゴールドを称賛する。ゴールドも親指を立てて応えるのを見てから、下階へと向かう。
さあ、次は、アタシの出番だ。
◇
三階フロアに着いた。鎧戸から細い光が射すだけの、暗いフロアだ。
「自分たちは準備万端です、ユウカ殿」
白いプレートメイルの元王国騎士、ジラルドが手を振る。他にも何人か、戦える人たちが集まる。全員、長い籠城に、やつれ、渇き、疲弊している。
一階には、ホワイトウルフが屯する。二階は、魔物があがってこないように破壊され、何もない。三階は、魔物に人の気配を悟られないように、普段は無人である。
四階は、見張りが数人常駐する。五階から上は、避難民が寝泊まりしている。
「こっちも準備オーケイよ。ヒルトータスが近くに来るように仕向けたから、追い払いにホワイトウルフが出ていくはず。下のヤツらが少なくなったら、突撃するわ」
アタシは、元は階段のあった穴を塞ぐ床板を、静かに持ちあげた。一階フロアに、数十頭のホワイトウルフが眠っているのが確認できた。三階から一階までの高さは、大人の身長五人分くらいだ。
アタシの近くには、降下用のロープを握った男たちが片膝をつく。緊張具合から、戦いに不慣れな自警団員だと分かる。
ヒルトータスの歩みが、振動で分かる。床が揺れて、軋む。天井から、パラパラと砂粒が落ちてくる。
自警団員たちは、いよいよ緊張に、顔を強張らせる。騎士のジラルドとゾルドヌも、緊張に手が震えている。
ホワイトウルフが数頭、起きて外へと走り出た。ヒルトータスを威嚇する吠え声と、仲間を呼ぶ遠吠えが聞こえた。数十頭が起きて、一階フロアの壊れた出入り口や窓から、外へと飛び出していった。
アタシは、背負う両刃の大斧を両手で握り、平らな胸の前に構える。呼吸を整え、階下に意識を集中する。
「まだ二十頭は残ってやがる。これ以上は、減ってくれそうにないぞ。今降りても、囲まれて食い殺されるだけだろ」
誰かが、悲観的に言った。
まだだ。まだ早い。まだ、下の状況を把握しきれていない。
ヒルトータスの接近で、寝ていたホワイトウルフのほとんどが、起きた。数頭が、落ち着かない様子で、瓦礫だらけの荒れた室内をウロつき始めた。
一階の板床は、あちこち壊れて、穴から石床が覗く。机、イス、受付カウンター、階段、吹き抜けの廊下、そういったものだったのだろう木片や瓦礫が散乱する。
まだだ。まだ早い。出ていったホワイトウルフどもがすぐには戻れないように、この建物から十分に離れるまで待つのだ。
残るホワイトウルフ二十数頭を観察する。瓦礫の山に、他より一回り大きいヤツがいる。泰然自若と伏せて、目線だけを外へと向ける。
アイツが、多分、あの集団のリーダーだ。大きな集団の中の小さな集団のリーダー、人間の軍隊に例えるなら部隊長か。
「よし! 行くわよ!」
アタシは、号令を出すと同時に、穴から飛びおりる。両腕で大斧を振りあげ、仰け反り、落下速度を加算して、腹筋と腕力で一気に、床のド真ん中へと振りおろす。
ドォンッ!と石床が轟いた。板床が割れて、木片と瓦礫が弾けた。衝撃に、ホワイトウルフや大きな瓦礫は、ちょっと浮いた。
ホワイトウルフどもが、ビックリしている。唐突な人間の出現と、大きな音と、揺れに、何が起きたのか分からず、動けずにいる。
「たぁっ!」
アタシは間髪入れず、一回り大きいリーダーホワイトウルフに駆け寄り、斬りかかる。動き出す前に、大斧の刃を叩きつける。
消えて、白い宝石が落ちた。
この状況で即座に動けた二頭が、背後から飛びかかってくる。瓦礫に突き刺さった大斧を引き抜き、上半身の捻りで後方に横振りする。
二頭とも消えて、白い宝石が二つ落ちた。
残りの二十頭ほどは、ビックリしたまま動けず、こっちを見ている。
魔物は人を恐れない。人間を知らない。人間の強さを、恐ろしさを認識しない。
でも、感情がないわけではない。恐怖がないわけではない。
自分たちのリーダーが倒された、とは認識できる。リーダーを失った恐怖は、知っている。一瞬でリーダーを倒したアタシは、怖いはずである。
「ガウッ」
ホワイトウルフの一頭が、怯える声で吠えた。窓から外へと飛び出した。
追うように、他の二十数頭も駆け出す。外へと、出ていく。一階フロアに、一頭たりとも残らない。
「今のうちよ! ロープを垂らして降りてきて! ヤツらが戻る前に、急いで物資を回収して!」
アタシは、高い天井の穴へと叫んだ。
皆、ビックリした表情で、こっちを見おろしていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第45話 EP8-5 アタシの戦い/END
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