第44話 EP8-4 原因と結果
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
アタシはユウカ、魔物ハンターだ。ホワイトウルフだらけになった北の大砦に救援に来た。ハンターギルドの建物へと突入したら、避難した住民たちがいた。
まだ日が暮れるには早い。暗いフロアに、窓の鎧戸から細い光だけが射す。
「状況を正確に把握してもらうため、最初から説明させてもらうぞ」
帝国軍の黒いプレートメイルの男が、大股で、丸い岩みたいな石のイスに座り、腕組みした。
背の高い、その割に肢体の細い男である。伸びた黒髪がウネウネと硬く波打ち、毛玉みたいに丸く膨らみ、愉快な見た目をしている。肌は浅黒く、彫りが深く、三十歳くらいの見た目だが、実年齢はもっと若そうな気がする。
「ああ、俺は、帝国北部軍に所属する帝国騎士、ゾルドヌだ。よろしく頼む」
見た目の面白い人だな、と見ていたアタシの視線を勘違いしたのか、気さくな口調で自己紹介した。帝国軍人にしては、支配者側の傲慢さがない。
まあこんな、魔物に占拠された大砦で、民間施設に籠城して、食料も水もない、なんて絶体絶命の状況で、権力も何も無意味だ。
「アタシはユウカ。二つ名はピンクハリケーン。ランクSの魔物ハンターよ」
アタシも、礼儀として、自己紹介した。黒いガントレットを装備した手と、白銀のガントレットを装備した手で握手を交わした。
「ここ、北の大砦を治めるシュッツ将軍は、周囲をホワイトウルフのテリトリーとすることで、砦間の人の往来を制限していた。帝国の将軍といえども魔物を操るなどできるはずがないから、そうなるように干渉していたのだろうな」
ゾルドヌが、腕組みで説明を始める。騎士階級の帝国軍人だけあって、階級の高い関係者しか知らない情報が最初から入っている。
アタシは、向かいの石のイスに座って、真正面で聞く。ゾルドヌの左右のイスには、元王国騎士のジラルドと、ハンターギルド職員のアンリナが座る。
「結果的に、北の大砦は、外に出るものも外から訪れるものもいない陸の孤島となった。それ自体は、将軍の目論見通りだったのだろう。しかし、外からの、レジスタンスの襲撃によって、大きな問題が発生したのだ」
「そこは自分が説明しよう」
説明者がジラルドに代わった。
「自分の所属するレジスタンスは、現帝国支配からの解放と、旧王国の復権を目的に活動している。北の大砦への潜入、シュッツ将軍の打倒は、その達成のための一歩である」
元王国騎士で、今はレジスタンスの一員らしい。征服者側の現帝国軍人と反抗勢力側の元王国騎士が並び座る姿は、不思議で不自然とも映る。まあそこは、状況が状況だからだろうとも思う。
「結果から言えば、レジスタンスは北の大砦の陥落に成功した。シュッツと一部の帝国軍将校は戦わずして逃亡し、逃亡の時間稼ぎのために大砦の壁に穴を開けた」
いかにも騎士っぽい、堅っ苦しい口調だ。
「レジスタンスのリーダー率いる精鋭部隊は、シュッツを追って大砦を出た。レジスタンス本隊は、壁の穴を塞ぎ住民を守るために残った。その時点では、壁の穴は塞げる規模と数だった」
「シュッツ将軍は、目的のためならば手段を選ばぬ冷酷な方なのだ」
再びゾルドヌが説明を代わる。
「塞げる規模の穴でレジスタンスを足止めし、どうにもならない規模の穴を時間差で開け、大砦もろともレジスタンスの殲滅を図られたわけだな。ほとんどの配下に何も伝えず、これほどの惨状を領地に齎すとは、とても人の血が流れているとは信じられん」
愉快な見た目のゾルドヌでさえも、話しながら表情を歪める。怒りに歯噛みする。
レジスタンスのジラルドが、悔しげに俯いた。レジスタンスの活動の結果、人々が絶体絶命の窮地にある、とも言える現状に後ろめたさがあるのだろう。
◇
ようやく本命の出番と、アンリナが、かけていない眼鏡の縁をかけなおす仕種をして、口を開く。
「その結果、町の内も外もホワイトウルフのテリトリーとなりました。生き延びた住民は籠城を余儀なくされています。ここからが本題ですので、ここまでの話はお聞き流しいただいて問題ありません」
気の強そうな目をして、気の強そうな口調で、容赦もなかった。
「アタシ、難しいの苦手だから、助かるわ」
こちとら、魔物、倒す、だけで生きる魔物ハンターである。時代背景とか説明されても困る。
「当ハンターギルドの地下室に、緊急事態に備えた備蓄がございます。木製の床の下に、頑丈な石の地下室がありまして、頑丈な石の収納扉からしか入れませんから、魔物に荒らされてはいないはずです。元より、このような状況においては、避難施設となります前提の設計ですので」
「その地下室に、水があるの?」
「水の魔法の触媒となります宝石がございます。千人が三日生き延びられる量のはずです。明日の脱出の際に回収して、道中の飲用にする予定でしたが、三日で救助が来る方に賭けて籠城に利用するのが賢明でしょう」
「ああ、そうよね、宝石よね。大量の水を担いで運ぶのかと、ちょっと心配したわ」
アタシの率直な反応に、三人とも不安げな顔をした。こんな勢い任せの生き方をしていると、よくあることだ。
アンリナが、かけていない眼鏡の縁をかけなおす仕種をして、続ける。
「問題は、一階フロアに屯するホワイトウルフの群れです。正確な数は不明ですが、五十頭以上はいます。夜行性ですので、昼は数が多く、夜間は出払って数が少なくなります」
「夜は数が少なくても、騒ぎになれば外から来るだろうから、やるなら朝ね。ホワイトウルフの大半が疲れて寝入るタイミングを狙いたいかな」
「二階は吹き抜けで、壁沿いの廊下と上り下りの階段しかありませんでしたが、魔物があがってこられないように破壊しました。ですから、三階から一階へは、三階の床の穴から一階フロアへと直接降りるしかありません。昇降の手段にはロープを垂らすとして、床の穴の大きさを考えますと、多くても二人ずつしか降りられません」
「アタシ一人で行くわ。ここの人たちは、ろくに食べてないんでしょ? 力、出ないでしょ?」
「自分も行こう。騎士たるものが、少女一人に危険を押しつけて、高みの見物なぞ出来ようはずもない」
ジラルドが、暑苦しいほどに厳格な口調で、口を挿んだ。理念の中心からして、誇り高い亡国の騎士だ。
「おいおい、俺も行くぞ。どうせ命を懸けるなら、格好よく懸けたい」
ゾルドヌも慌てて名乗りをあげた。軍規が形骸化した支配者側だ。思考も口調も、緩い。
「いいけど、足を引っ張らないでよ」
アタシは、ちょっと嬉しくて、意地悪く笑った。
「数十頭のホワイトウルフが屯するフロアに、一人二人ずつしか降りられません。そう無謀をお伝えしようとしましたが、言葉足らずでしたでしょうか。まさか、無謀を承知で、策もなく突撃するおつもりではありませんよね?」
アンリナが、呆れ顔でアタシを見る。不安げではない。魔物ハンターの相手をしてきたギルド職員だから、魔物ハンターがどんなヤツらか、知っている。
「二人ずつ順番に降りたとして、数十頭のホワイトウルフに各個撃破されるだけです。よくて数頭、悪ければ一頭も倒せないでしょう。騎士様お二人にランクSハンター様が、揃って無策とおっしゃるなら、無駄死にもよいところです」
手厳しい。耳が痛い。かなり痛い。
「策なら、あるわよ。おーいって呼んで、とりゃって行って、ドーンってなって、バーンってやるの。悪くないでしょ?」
アタシは、得意げに微笑した。アタシにしては手順の多い複雑な作戦だ。
アンリナが、苦い顔で、バサバサの水色髪の頭を抱えた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第44話 EP8-4 原因と結果/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




