第4話 ラムライノス討伐戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「ねぇ。魔法でさ、壁の一部だけヒビを入れて脆くするって、できる?」
アタシは考え込む真顔で、軽く握った右手を口元に当てて、男に一つの提案をした。
「何言ってんだ、ハンター?! そんなことしたら、簡単に壁を破られちまうだろ?!」
男が驚いた。小砦ジフトの自警団員の、二十歳くらいの精悍な男だ。
今、アタシはジフトの壁の内側の間近にいる。壁を挟んで外側には、この壁を突破できるほどに大きくて強い、ラムライノスという魔物が三体、土煙をあげながら迫る。
そのラムライノスをどうにかしないと町そのものが危険だ、という危機的状況にある。
「壁にヒビを入れたら、そりゃまあ、簡単に破られるわね」
アタシは真顔で答えた。
男の顔に動揺が見える。こっちの正気を疑う目をしている。
「そ、そりゃ困るぜ、ハンター。壁を突破されたら、町が滅茶苦茶にされる。最悪、ジフトが滅んじまう」
「ああ、うん、えっとね、このままだと、ラムライノス三体が、一緒に壁を突破して入ってきちゃうのよ。アタシと自警団員十人じゃ、三体同時どころか、二体同時も無理だと思うの。だから、一体ずつ誘い込んで、各個撃破したいわけ」
アタシは、難しいことを考えながら説明した。難しいのは苦手だ。説明も苦手だ。
男が驚く。今度は、尊敬と信頼に瞳を輝かせている。
「町に多少の被害が出るのは、必要経費だと我慢してね。入ってきた一体を、アタシと長槍組で倒すの。遠距離組は、壁の穴に攻撃して、残りのラムライノスが入ってこないよう牽制ね」
「わ、分かった。すぐに集合をかける。作戦指揮は、全部ハンターさんに任せるよ」
「うん。よろしく」
駆け出す男を見送って、アタシは準備運動を始めた。
◇
全員が配置についた。壁正面の中央にアタシ単独、離れて左右に自警団員が分かれた。
「魔法、うちまーす!」
自警団員の小柄な女の子が、緊張した顔で挙手した。
お金持ちのお嬢さんっぽい、育ちの良さそうな子供だ。
魔法の行使には知識と教養が必要だから、魔法使いには金持ちやインテリが多い。年齢と力量の関連性の薄さと、希少性から、子供や老人が実戦参加することも珍しくない。
女の子が、赤い宝石の欠片を手に持つ。両手で握り、祈るように胸に当てる。かわいらしい声で、詠唱を唱え、音を奏でる。
「ばーすとえくすぷろーじょん!」
詠唱の完成と同時に、壁際に爆発が起きた。爆音がして、空気が振動した。砂が舞って、視界を覆った。
舞った砂が散って、視界は徐々にクリアになる。壁にヒビが入っている。家一軒分くらいの高さと幅がある。
「上出来! ありがと! 各自、戦闘態勢!」
アタシは声をあげて、大斧を両手で持ち、刃を下に向け、地面に突き立てる。土の地面に、刃が突き刺さる。
壁のヒビの大きさは丁度いい。あれなら、最初の衝突で、一体のラムライノスだけが入ってくる。それを確実に止め、仕留める。
「来るぞ! 気をつけろ!」
見張り櫓の男が叫んだ。
直後に、ゴォンッ!と、凄まじい衝突音がした。高く分厚い壁が揺れて、ヒビの部分が割れて、破片となって飛び散った。
大きな魔物が一体だけ入ってきた。ゾウほどもある大型の、サイみたいな見た目の魔物だ。太い丸太状の角を持ち、鉄色で鎧に似た凹凸の外皮をした、ラムライノスだ。
「任せて!」
アタシは大斧を盾にして、肩で支え、踏ん張る。ラムライノスが突っ込んでくる。
ガガンッ!と、金属同士が激しくぶつかりあう音がした。
全身に強烈な衝撃が走る。骨が軋む。踏ん張った足が、土を抉ってずりさがる。
でも、止まった。ラムライノスの突進を止めた。
「みんな! 脚を攻撃して! 別のやつが入ってこないように、牽制も大事よ!」
大斧を支えたまま、自警団員に指示を出した。あとは、みんなの奮闘を信じて、ラムライノスを押しとどめ続けるだけだ。
「くっ……」
ジリジリと押される。少しずつ後退ってしまう。
魔物にパワーで対抗できるのはおかしいとか、トロール女とか、失礼な発言をされることもある。でも、そんなことはないと、アタシは思う。
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女の身でありながら、ハンターギルドに所属し、魔物の討伐を生業とする。
武器は、両刃の大斧を愛用する。防具は、急所と関節を金属鎧で守る、白銀のハーフプレートである。
女にしては背が高く、女にしては筋肉質で、パワータイプの近接戦士である。胸はない。ピンク色の長髪で大斧を振りまわす戦い方から、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
十六歳の可憐な少女に、トロール呼ばわりはない。ちょっと背が高いだけで、マッチョでもない。身長と肢体の比率でいえば、華奢ですらある、と思う、たぶん。
「グオオォーーーン!」
ラムライノスが、苦痛に呻き声をあげた。押してくる力が一気に弱まった。
「よしっ! 反撃に移るわよっ!」
アタシは、大斧を地面から引き抜いて、ラムライノスを押し返す。勢いのままに大斧を振りあげ、縦一直線に振りおろして、ラムライノスの鼻先に叩きつける。
「グオオォォー!」
大斧の刃は硬い外皮に弾かれた。しかし、ラムライノスは嫌がって鳴いた。
効いている。十分にダメージが通る。ダメージを蓄積させれば倒せる。
「攻撃続けて! 残り二体の牽制も踏ん張って!」
アタシの大斧と、自警団員の長槍で、ラムライノスの生命力を削る。疲労に重くなる肢体を、気合で動かし続ける。
「グオアァーーーッ!」
ラムライノスが断末魔の悲鳴をあげた。消えて、宝石になって、地面に落ちた。
「……やった! みんな、まず一体、倒したわよ!」
アタシは歓喜の声をあげた。自警団員たちからも、高い歓声があがった。
まだ二体残ってるなんて、些末なことだった。このグループで、強い魔物を倒したという事実が、アタシも、きっと自警団員たちも、とても嬉しかった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第4話 ラムライノス討伐戦/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。