第39話 戦い終わって
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
アタシは、小砦マキエタのハンターギルドにいる。ちょっとは名の知れたランクS魔物ハンター『ピンクハリケーン』も、今日ばかりは主役を引き立てる添えもの、オマケである。
「皆さん!」
一階フロアの中央付近で、最強の魔物ハンターの一人と評される『清楚なる白百合』が、キンキンと高く響く声をあげた。
二十歳くらいの華奢な美女である。聖職者を思わせる純白の清楚なドレスローブを纏い、銀色の柔らかく膨らむ長い髪をしている。百合の花を模した、金属製の白く大きなハンドベルを二個、腰にさげる。
「地下水路に入り込んだグランゲーターは、私と、協力者の方々の手で、討伐しました! 安心して、日常生活に戻ってください!」
清楚の白く華奢な手が、暗青色の大きな宝石を持ち、高く掲げる。退治したグランゲーターが変化した宝石である。
全ての魔物は、倒すと宝石になる。魔物は、こことは別の世界の生命体であり、生態に謎が多い。
囲む人々から、ワアッ、と歓声があがる。清楚を称える言葉が飛び交う。
清楚はたくさんの人々に囲まれて、拍手喝采を浴びる。広いフロアが狭く感じるくらいに、たくさんいる。魔物ハンターだけではなく、討伐の知らせを直に聞きに、住人たちも集まっている。
「清楚なる白百合様。グランゲーターの討伐、ありがとうございました。こちらが、今回の報酬となります」
胸の大きな受付嬢が、両手で持つ大きさの布袋を清楚に渡した。カチャカチャと、宝石や金片銀片の音がした。
小砦内に入り込んだ大砦周辺レベルの魔物の討伐なんて、町の命運さえ左右しかねない大事業である。規模も、期待も、責任も、報酬も、桁が違う。
それを、たったの一パーティで達成してしまうからこそ、最強の一人、なのだろう。
「ありがとうございます。無事に討伐できたのは、私だけの力ではありません。ピンクハリケーン、ソイユニ、ロリ巨乳ちゃん、自警団員の皆さんの協力あればこそ、です」
清楚が、キンキンと高く響く声で、集まった人々に向けて演説した。ロリ巨乳ちゃん、の箇所で、ドッと笑い声が溢れた。
清楚なる白百合は、ここ小砦マキエタの人気者だ。マキエタを拠点として、マキエタの人々を魔物から守り続けているのだから、当然といえば当然か。しかも、最強の一人だからと驕らず、鼻にかけず、狡猾でも計算高くも理知的ですらない。
好く言えば純朴、自分の心に素直、自分の心に正直で、悪く言えば、……いや、やめておこう。
◇
称賛に囲まれた清楚から離れて、アタシは隅の待合席に座った。
ついてきたフェトもソイユニも、隣と向かいの席に座る。フェトは、ロリ巨乳の魔物研究者で、アタシの今の雇い主で護衛対象である。ソイユニは、男のホビットの魔物ハンターで、清楚の唯一の固定パーティメンバーである。
アタシとソイユニの間には、四角いボロい木の机がある。荒くれ者の集まるハンターギルドの備品は、イスであれ何であれ、乱暴に扱われてボロボロになる。前任が壊れて補充した直後くらいしか、美品を見る機会はない。
「アンタがいてくれて、本当に助かったぜ、ピンクハリケーン。アンタがいなけりゃ、大勢が死んでた」
ソイユニが、少年のガラガラ声で感謝した。
「そうでもなかったと思うわ。清楚なる白百合は想像以上に強かったし、自警団の皆も勇敢で纏まってた。グランゲーターがちょっとくらい暴れても、抑えられたでしょうね」
アタシは、人々に慕われる清楚を遠目に見ながら、微笑した。
「ソイツは買い被りすぎだろ。清楚は、強いんだがなぁ、間抜けがすぎて、いつも大変なんだ」
ソイユニが、肩を竦めて苦笑する。人間の子供に近い容姿とは不釣り合いな毛むくじゃらの手で、ボロい机に封書を置く。
「約束の紹介状だ。大砦近くまで馬車を出してくれる。腕は確かだが、料金は高い」
「感謝いたしますわ。北の大砦周辺の魔物を調査できましたら、今この地で起きております異常の原因を、解明できるかも知れませんわね。原因が分かりましたら、解決の手段を探ることだって可能でしてよ」
フェトが微笑んで、丁寧に頭をさげた。
フェトは、最近の魔物の不可解な出現状況を調査するため、所属する研究所の指示で実地調査を行っている。アタシは、その護衛として雇われている。
ここまでの調査で、北の大砦の周辺で何かが起きていて、そこを中心に魔物の大規模な移動が発生した、とフェトは考えているらしい。
アタシとしては、全く何も分からない。難しいのは苦手だ。考えるのも苦手だ。
まぁ、フェトが喜ぶなら、それでいい気がする。そこにフェトの望むものがあって、アタシがフェトの手伝いをできて、フェトの笑顔を見られれば、十分すぎる。
「今日は予約と準備をして、明日の朝に出発か、一日か何日か休養してもいいわね。グランゲーターの相手は、さすがに疲れたわ。大斧は修理に出して、色々と買って」
「ここまで来ましては、心が逸ってしまって、待つなんて一日でも無理でしてよ。明日の朝に出発いたしましょう」
「そう言うと思った。まずは宿屋ね。あとはアタシがやっとくから、フェトは先に、ゆっくり休んでて」
「私が懇意にしている宿屋を紹介します。一緒にお風呂に入りましょう、洗いっこしましょう、ロリ巨乳ちゃん」
清楚が人混みから出てきた。宝石や金片銀片の入った布袋を机に置いた。
◇
「こちらが、お二人の分の報酬です。活躍に見合う金額には足りませんが、ご容赦ください」
布袋をアタシの前へと押して、清楚が頭をさげた。最強の魔物ハンターと評されるうちの一人なのに、偉ぶることのない人だ。
「十分よ。地元価格で依頼を受けてて、自警団員にも分配するんでしょ? アタシとフェトの二人分なら、多いくらいよ」
「いいや、少ないぜ。グランゲーター相手に命を張って、決定的なアシストまでしてもらった。別の形で、補填はさせてもらう」
ソイユニが、真顔で補足した。真面目で実直だ。
「でしたら、北の大砦に関する情報をいただけませんかしら? 事前の情報は一つでも多い方がいいですわ。滅多に行けません場所ですから、実りのある有意義な調査にしたいと考えていますの」
フェトが、銀縁の丸眼鏡の奥の瞳を、期待にキラキラと輝かせる。根っからの研究者であり、希望に満ち溢れたロリである。夢を信じる子供みたいな、応援したくなる空気を纏っている。
「悪いが、北の大砦の情報は持ってない。あの辺りは情報管制が異常に厳しくてな、魔物退治の依頼すら来ないんだ。言うまでもなく危険地帯だから、近づく必要もないのに近づくこともないぜ」
ソイユニが、当然とばかりに、抑揚少なく答えた。
「まあ、そうよね」
アタシも、当然と納得の口調で、相槌を打った。
「もっと協力なさい、ソイユニ! ロリ巨乳ちゃんのお役に立てる、希少なチャンスですよ!」
清楚が、キンキンと高く響く声で、ソイユニの頭を小突いた。
小突かれた頭を押さえて、ソイユニが舌打ちする。こんな最強の一人の固定パーティメンバーとは、大変に違いない。
「分かった分かった。北の大砦周辺で最も強い魔物は、ホワイトウルフだ。見た目は白い狼の獣型で、天気を変えるヤツらと比べれば、単体じゃあザコだが、百体千体が群れで動く、って、アンタらには常識だろ?」
「情報としましては、存じあげていますわ」
「話には聞いたことある」
「だろ。その程度しか、情報がないんだ。ここ最近は強い魔物の出現が多いってのも、アンタらの話を聞くまで気にも留めなかったくらいだからな」
「あら? 強い魔物が多いですか? いつもあんな感じじゃありません?」
清楚が、初耳と表情に出して、口を挿んだ。
ソイユニが、呆れ顔で頭を抱える。アタシ以上に単純脳筋近接の清楚のバックアップは、気苦労が多いに決まっている。
「まあ、ありがと。お陰で、雇い主の意向に添えるわ。補填とかは、本当に、気が向いたらでいいわよ」
「そうか? こっちも、アンタらのお陰で、犠牲を出さずに済んだ。改めて、礼を言わせてくれ」
アタシは、ソイユニの毛むくじゃらの手と、固い握手を交わした。ホトクの森での後ろめたさが、少しだけ軽くなった気がした。
魔物ハンターってのは、救えたり救えなかったり、助けられたり助けられなかったりしながら、いつか終わりの日が来るまで続けていくしかないと、親父の言葉を思い出していた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第39話 戦い終わって/END
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