第38話 最強の魔物ハンター
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
アタシは見ている。木の陰で見守っている。
地下水路を出た川原で、最強の魔物ハンターの一人と評される『清楚なる白百合』が、手負いのグランゲーターを討伐しようと戦っている。
清楚なる白百合は、二十歳くらいの華奢な美女である。聖職者を思わせる純白の清楚なドレスローブを纏い、銀色の柔らかく膨らむ長い髪をしている。
右手に、金属製の白いハンドベルを握る。ハンドベルと呼んではいるが、人の頭よりも大きな鈍器であり、見た目はメイスや瓜錘に近い。
永続付与された魔力が白く淡い光として認識できるほどに、強力な魔力付与武器である。百合の花を模して、花弁が重なるような特殊な構造をしている。
左手にも、同様のハンドベルを握る。鈍器の二刀流である。
グランゲーターは、七眼七脚の巨大なワニだ。ゴツゴツと突起の多い硬い皮は、暗青色ながら黒光りに近い。
「これで! 仕留めます!」
清楚が、キンキンと高く響く声で、気合いを入れた。
両手のハンドベルは、肩の前に構える。巨大ワニの突進すら止め、硬い皮を無視して中身にダメージを与える、攻防一体の強力な武器である。
「ゴガァァァァァ!!!!!」
怒り狂ったグランゲーターが、咆える。清楚を目掛けて突進する。川の水を跳ね、川原の石を撒き散らす。
白いドレスローブから露出した華奢な肩に触れる位置へと、ハンドベルが振りあげられた。いつでも振れるようにと、身構えた。
「グォガァァァァァ!!!!!」
グランゲーターが、重低音で咆哮する。硬い鼻先が清楚に当たる距離に合わせて、巨大な頭部を横振りする。
清楚が、後方へと跳躍する。白いドレスローブを風に靡かせ、低く跳んで、川原の砂にヒールを食い込ませる。
グランゲーターの鼻先は、清楚には届かなかった。しかし、撒き散らした小石が、清楚へと飛んだ。
小石の幾つかが、清楚の白い肌に、顔に当たった。清楚は避けようとも、防ごうともしなかった。
対処できなかったわけでも、対処し損なったわけでもないだろう。ハンドベルの連続使用のしづらさと、発動のタイムラグを考慮し、対処しなかったのだ。
小石をベルの魔力で防御して、グランゲーターの圧倒的高威力の攻撃を防御し損ねたら、本末転倒である。小石なんぞ当たりたければ当たれ、とスルーして不思議はない。
最強の一人が持つ強力な魔力付与武器であろうと、完全無欠ではない。何でもかんでも防げて何でもかんでも壊せるわけではない。強い武器を使いこなす使い手の強さがあってこそ、強い。
「きゃっ?!」
清楚が思わず目を瞑って、いつもと違うカワイイ声を出した。後退った。動揺して、ハンドベルの動きをとめた。
「マジかっ?! 清楚っ! 避けろ!」
ソイユニが、少年のガラガラ声で叫んだ。
ただ、今回は、不運にも、清楚の判断が裏目に出た。一瞬の判断ミスが、絶体絶命のピンチを招いた。
魔物ハンターの生死を分けるのは、いつだって一瞬なのだ。
◇
グランゲーターの巨体の突進は、凄まじい速度だ。ほんの一瞬で距離を詰められ、僅かの隙を見せれば直撃をもらうだろう。今の清楚の動揺は、そのまま致命的な隙だ。
だから、アタシは木の陰から飛び出す。
「だぁりゃぁぁぁっっっ!」
高く跳んで、両手で握る大斧を、グランゲーターの鼻先に叩きつけた。
硬い皮に、傷の一つもつきやしない。ただの鋼の大斧では、逆に刃の方が欠ける。鋼の破片だけが飛ぶ。
すぐさま、一軒家の壁みたいな上顎を、ワニ口が開くよりも早く跳び越える。落下の勢いを乗せて、大斧を目玉の一つへと振りおろす。
爬虫類特有の縦長の瞳孔は、ゴツゴツと突起の多い硬い瞼に守られた。またも大斧の刃が欠け、アタシの体重を乗せた一撃は弾かれた。
そのまま暗青色の硬い皮を駆け、グランゲーターの右側の川原へとおりる。振りあげられたワニ脚へと向けて、大斧を横振りし、振り向く勢いを加速して横回転して、回る軸足で地面を抉り、回転力に遠心力を加える。
「どぉりゃぁぁぁっっっ!」
降るワニ脚に大斧を叩きつけ、ガインッと金属音が鳴って、弾いた。アタシの全力は、運好く、グランゲーターの脚一本に負けなかった。太いワニ脚に踏み潰されずに済んだ。
ソイユニがランクS以上の助っ人を探していた理由が、今こそ分かった。
「くあっ!」
ワニ脚を弾いた大斧が、同じ威力で弾き返される。勢いに引っ張られ、両腕が頭上へと、背後へと伸びきり、背筋まで仰け反り、大斧は背後の地面に突き刺さる。アタシは仰け反りすぎて、ブーツが川原から浮く。
「のりゃっ!」
大斧から両手を放す。弾かれた勢いのままバク宙する。地面に突き立つ大斧の柄尻を踏んで、高く高く上へと跳躍する。
「ゴアッッッ!!!」
グランゲーターが、大口を開けて追ってきた。巨体が、頭部を高く振りあげ、胴の前半分も脚で跳ねて、アタシを一咬みに砕こうと迫ってきた。
人間の跳躍なんて、高が知れている。巨大な魔物に敵うわけがない。尖った歯の幾重にも並ぶ粉砕機みたいな大顎が、目の前にある。
ああ、そうだ。ソイユニが強い助っ人を探していたのは、ソイユニの言葉の通りに、清楚なる白百合は苦手が酷く、しかも多いからだ。致命的な弱点だらけだからだ。
たぶん清楚は、アタシよりも雑だ。アタシよりも乱暴だ。アタシよりも考えなしだ。
こんなにたくさんの協力者の命を預かる、責任重大な戦いですら、何も考えずに動き、息をするように苦手を失敗し、当たり前のように状況を悪化させた。よくもまああんなのが、『最強の魔物ハンターと評されるうちの一人』になれたものだ。
そう、そして、あんなで最強と呼ばれるということは、この『清楚なる白百合』は、弱点だらけでも、人間としては最強で、弱点をカバーしてもらえさえすれば、人一人の強さの概念を、強さの概念そのものをブッ飛ばしてしまうくらいに、常軌を逸して、強い。
「感謝します!」
巨体の前半分を振りあげたグランゲーターの腹の前に、清楚が立つ。鈍器みたいなハンドベルを二本とも横振りに、ワニ腹へと叩きつける。
教会の鐘の音量で、ベルが響いた。背中よりは柔らかそうなワニ腹が波打った。波は巨体の全てへと広がって、ゼリーみたいにブヨブヨと揺れて、直後にグランゲーターが消えた。
大きな暗青色の宝石が、川原に落ちた。カチン、と硬い音がした。昼下がりの静寂には、風の音と、川のせせらぎと、ベルの余韻だけが残っていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第38話 最強の魔物ハンター/END
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