第37話 川原の決戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
清楚なる白百合が、突進するグランゲーターの正面に立ち塞がる。
右手に、金属製の白いハンドベルを握る。ハンドベルと呼んではいるが、人の頭よりも大きな鈍器であり、見た目はメイスや瓜錘に近い。
永続付与された魔力が白く淡い光として認識できるほどに、強力な魔力付与武器である。百合の花を模して、花弁が重なるような特殊な構造をしている。
左手にも、同様のハンドベルを握る。鈍器の二刀流である。
「私が! この清楚なる白百合が相手です!」
清楚が、キンキンと高く響く声で名乗りをあげた。白いドレスローブから露出した華奢な肩の前に、ハンドベルを構えた。ベルを鳴らすように、華麗に振った。
ベルが鳴る。カラァーン、カラァーンと、教会の鐘の音量で、響く。堪らず、全員が耳を塞ぐ。
「ゴガァァァァァ!!!!!」
負けない音量でグランゲーターが咆えて、清楚を目掛けて突進した。
ゴォォォンと、ぶつかる音がした。グランゲーターが、見えない何かにぶつかった。巨体の体当たりが、清楚の少し前で止まった。
見ただけでは、何が起こったのか分からなかった。
見えない何か、あるいは何だか分からないもの、あるいは見えない壁、あるいは空気の壁、あるいは音の壁に、ぶつかった。外野では、武器に付与された魔力による何かだろう、と予想しかできない。
ともかく、あの巨体を止めた。凄まじい突進を止めてしまった。人一人の強さの概念なんて、いとも容易く超えていた。
グランゲーターが口を大きく開ける。白く尖った歯の幾重にも並ぶ、一軒家の壁が倒れてきたみたいな上顎が、清楚に向けて落ちる。
清楚が、またも両手のハンドベルを振る。華麗に鳴らす。教会の鐘の音量で響く。
グランゲーターの上顎が、何かにぶつかって阻まれた。斜めにズリ落ちて、下顎と重なって、ガドンッ、と重い鉄板同士を打ち合わせたような音が轟いた。
◇
音だけで、自分が潰される瞬間を想像してしまう。恐怖を感じて、足が竦む。そういう轟音である。
「ひっ?!」
近くの自警団員が、恐怖に短い悲鳴を漏らした。
「ガァァァッ!!!」
咬みつきの直後に、太い尻尾が横薙ぎに清楚を襲う。鋭く撓り、清楚の左側面へと、豪快に振り込まれる。
清楚が、左手のハンドベルを、左へと振った。教会の鐘の音量で響いた。太い尻尾が空間をぶん殴って、止まった。
清楚が、よろめいた。すぐに体勢を戻したが、確かによろめいた。
力負け、ではないだろう。あの魔力付与武器の特性、使いにくさに依るものだ。どれほど強力な武器も、完全無欠はあり得ないのだ。
「しっかりしろ、清楚! オマエしか倒せんぜ!」
ソイユニが、少年のガラガラ声で鼓舞した。
武器に欠けた部分は、使い手の強さで補うしかない。使い手の強さでも足りなければ、仲間が支えるしかない。
清楚とグランゲーターが、睨み合う。攻防の隙間の、僅かの静寂である。
「分かっています!」
清楚が、キンキンと高く響く声で答えた。凛として、力強かった。
「手負いにはすんなよ! あの巨体が怒り狂って暴れたら、大勢が死ぬぞ! 半端な傷は与えず、一撃で仕留めろ!」
ソイユニが、追加で警告した。
「わっ、分かっています!」
清楚が、そういえばそうだった、と思い出した危ない危ないの口調で答えた。
最強の魔物ハンターと、大砦周辺レベルの魔物の睨み合い。見ているだけで心臓が締めつけられ、脚が震え、背を向けて逃げ出したくなる威圧感で、睨み合う。
それでも、アタシも、ソイユニも、他の皆も、見守るしかできない。恐怖に耐えて、逃げ出さずにいるしかできない。
アタシは緊張を呑み込んで、ソイユニに聞く。
「硬い鎧には斬撃よりも打撃が有効、は分かるけど、あんなメチャクチャな魔物に致命傷を与えられるの?」
ソイユニに聞くべきだ、と思った。清楚の邪魔をしてはいけない、とも思った。
「清楚のベルは、衝撃を相手の中身に直接ぶつけられる。どんなに硬かろうが、どんなに巨大だろうが、その衝撃で破壊できる急所があれば、倒せるぜ」
ソイユニが、清楚の方を気にしながら、抑揚少なく答えた。
「じゃあ、清楚の弱点は? 真っ向勝負専門のパワータイプで機敏には動けない、は見て分かるわ」
「清楚の弱点は、出力調整が下手、コントロールが悪い、考えるのが苦手、だな。武器の弱点なら、連続使用に向かない、重い、使用から発動までにタイムラグがある」
ソイユニの話が終わる前に、膠着した戦いが動いた。
◇
ワニ脚の一本が、清楚を踏み潰そうと振りあがる。清楚が、さがって避けようとはせず、逆にグランゲーターの懐へと駆け込む。
降るワニ脚を、左のハンドベルの響きで弾き返す。右足を、硬いワニ皮に密着する位置に踏み込む。僅かに動きの止まったグランゲーターの、首の側面へと、右のハンドベルを叩きつける。
ベルが高らかに鳴る。カラァーン、カラァーンと、教会の鐘の音量で、響く。硬いワニ皮が、波打つ水面のように揺れる。
一瞬だった。流れるような攻防だった。その一瞬の清楚の動きは、見惚れるほどに美しかった。
波打つのをやめたグランゲーターが、片面四眼で清楚を睨んだ。頭部を横振りして、清楚を弾き飛ばした。
「きゃっ?!」
清楚が、予想外の事態とばかりにビックリして、いつもと違うカワイイ声を出す。派手に川原を転がる。地面の凹凸に引っかかって、跳ねる。
「ぎゃふっ?!」
顔面から川原に叩きつけられて、変な悲鳴をあげた。小石交じりの砂に、うつ伏せに倒れたまま、動かなくなった。
「……くっ! 上手く急所に当たりませんでした!」
石に直撃した顔面を押さえつつ、フラつく足で立ちあがった。いつものキンキンと高く響く声で、失敗を申告した。
良かった。無事だ。大した怪我もなさそうだ。
あの巨体の一撃をもらって生きてるとは、さすがは脳筋近接、もとい、最強の魔物ハンターと評されるうちの一人だ。人間の強さの概念を超えて丈夫だ。
「あんの清楚っ。やりやがった。グランゲーターを手負いにしやがった」
ソイユニが、忌々しげに舌打ちした。
「マズいです、ソイユニ! 援護しなさい! 囮になりなさい!」
「無茶言うな! 無理に決まってんだろ! オマエと一緒にすんな!」
ソイユニも、最強の一人の固定パーティメンバーなのだな、と納得する。やり取りに慣れてる。ボケとツッコミの関係っぽい。
しかし、こちらの都合など知らぬ存ぜぬと、怒り狂ったグランゲーターが清楚を目掛けて突進する。川の水を跳ね、川原の石を撒き散らす。
「マズい! 絶対に止めろ、清楚! いや、絶対に仕留めろ!」
「分かっています! ここは通しません!」
清楚は真っ向から迎えうつべく、両手のハンドベルを肩の前に構えた。美女の瞳は、変わらず凛々しかった。恐れも怯えも、微塵たりともありはしなかった。
でも、アタシの勘が告げていた。コイツは、最強の一人でも簡単に勝てる相手ではない、と。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第37話 川原の決戦/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




