第33話 作戦開始
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
広い川原に、数十人が集まった。
川幅は大人の身長十人分くらいで、川岸は小石と砂が混じって、草の茂る土手があって、踏み固められた土の道に出る、のどかな田舎の風景だ。朝日が眩しく、風は涼しく、水音が心地よい。
「作戦を確認するぜ! 集まってくれ!」
ソイユニが、少年のガラガラ声で、全員を呼び集めた。
大きな石の上に、地下水路の地図を広げる。フェト、どさくさに紛れてフェトに頬擦りしようとする清楚、肩で清楚をブロックするアタシ、自警団の数人が地図を覗き込む。
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
「んまぁっ、んまぁっ! 私とロリ巨乳ちゃんの触れ合いを邪魔するなんてっ! 許せませんわ、この俎板っ!」
清楚が、キンキンと高く響く声で憤った。
「誰がロング俎板よ!」
アタシは思わずツッコんだ。
睨み合う。眼力で火花を散らす。拳を握る。
「清楚も、ピンクハリケーンも、ちょっと黙ってろ。コイツは、皆の命に係わる大事な話だぜ」
ソイユニが、手慣れた呆れ顔で、毛むくじゃらの手で仲裁した。
一触即発だったアタシも清楚も、渋々と黙る。アタシは二人と昨日知り合ったばかりなのに、ソイユニの、このタイプは扱い慣れてる感が釈然としない。
「ここマキエタの地下には、川にレンガで蓋をして造った地下水路が流れてる。討伐対象の魔物は、この地下水路に迷い込んだグランゲーターだ。大砦周辺レベルのヤツだから、清楚にしか倒せないと思ってくれ」
ソイユニは、人間の子供に近い容姿の、少し耳の尖った亜人種、ホビットである。掠れた茶髪で、分厚い布の服に分厚い布のマントで体を覆う。
「地下水路で戦うと、清楚が地下水路を破壊しちまう。開いた穴からグランゲーターが街中に出ると、酷い被害が出る。だから、オイラとピンクハリケーンでグランゲーターをここまで誘き寄せて、清楚が討伐する、って寸法だ」
最強の一人、清楚の実力を疑う気はない。戦力的な不安はない。
別の最強の一人、『ヘブンズソード』とパーティメンバーだったことのある、スピニースというエルフの弓使いを知っている。スピニースは、一人の魔物ハンターの強さの常識を遥かに超えた強さを持つ。ついでに、アタシの好みのド真ん中の、華奢なイケメンエルフである。
最強の仲間であの強さならば、最強はさらに強い。大砦周辺レベルの魔物の討伐を生業とし、帝都周辺レベルとも渡り合える、との評判も納得できる。
不安があるとすれば、川原にフェトを残していくことか。フェトを清楚の近くにいさせていいものか、未だに迷う。でも、危険な地下水路に連れて入るわけにはいかないし、自警団の人たちがガードしてくれるそうだし、信じるしかない。
「管理組織のお話では、川を塞ぎます鉄格子が一箇所、破壊されていたそうですわ。そこから侵入されましたのでしょうね。野に魔物が溢れまして数年、初めての事態と聞きましてよ」
フェトが説明を引き継ぐ。地図に細く小さな指先を触れる。
「地下水路は、元からありました川にレンガで蓋をしました本流と、各所に水を引きますために掘りました支流に分かれていますの。本流は幅広く深く、グランゲーターが移動可能でしてよ。支流は狭く浅く、小柄なソイユニさんでしたら、移動に使えますわ」
フェトは、ロリ巨乳の魔物研究者である。見た目は女の子で、小柄で華奢で普段着の上に白衣を着て、長い金髪を上品に編み込んで、細い銀縁の丸眼鏡をかけ、薄化粧で小綺麗にして、胸が大きい。
「……アタシは?」
アタシは、嫌な予感を感じつつ、フェトに聞いた。
「ユウカさんは、通れる支流と通れない支流があると考えられますわ。グランゲーターの回避に支流を使おうとしまして、嵌まって最期を迎えませんようにお気をつけくださいませ」
フェトが真顔で答えた。場を和ませる冗談なんて口にしない、真面目な性格のロリ巨乳だ。
自警団の数人から、笑い声が漏れた。内容が冗談と聞こえたのだろう。
小砦の自警団は、清楚がグランゲーターに逃げられた場合に、周囲を包囲して追い返す役割だ。
装備は、弓、長槍、剣、盾、投網、前以て張ったロープ、くらいか。魔法使いらしき団員が、二名はいる。
命懸けだ。命を懸けても十中八九は不可能だ。
ほぼ一般人の集まりである。魔物との戦闘は素人に近い。大砦周辺レベルなんて、見たこともないはずである。
相手が悪すぎる。それでも笑う余裕があるのは、魔物ハンター『清楚なる白百合』への絶対的な信頼に違いない。
清楚なる白百合は、最強の魔物ハンターのうちの一人と評される、高名なハンターである。二十歳くらいの華奢な美女で、聖職者を思わせる純白の清楚なドレスローブを纏い、銀色の柔らかく膨らむ長い髪で、白いハンドベルを腰にさげる。ハンドベルは金属製で、百合の花を模して花弁が重なるような特殊な構造で、人の頭よりも大きな鈍器である。
「ユウカさんは、高さはありましても厚みがありませんから、まだまだ選択肢が多くていらっしゃいましてよ。清楚なる白百合さんは、厚みもあっていらっしゃいますから、もし地下水路に入りましても支流の活用は難しいですわね」
フェトが真顔で補足した。
自警団の数人から、笑い声が漏れた。
「ハァッ、ハァッ。ああっ、ロリ巨乳ちゃんっ、ロリ巨乳ちゃんがっ、私の名前を呼んでくれましたっ。これはもうっ、相思相愛っ」
興奮した清楚が、独り言を呟く。ドレスローブから露出した華奢な肩を、フェトに寄せる。
アタシは、二人の間に腕と肩を滑り込ませ、清楚とフェトが接触しないようにブロックする。妨害に無言で憤慨する清楚と、火花を散らして睨み合う。
自警団員が申し訳なさげに、いつものこととばかりに苦笑する。清楚なる白百合は、ピンポイントでロリ巨乳をこよなく愛する変態でもある。
「ですから、誘き寄せますには、危険を承知で本流を使わざるを得ませんわ。無理はせず、支流も活用します選択肢を忘れずに動いてくださいましね」
「了解! 任せときなさいって!」
信頼の瞳のフェトに、アタシは右の拳で、自身の白銀の胸鎧を叩いて答えた。
「よし! じゃあ、作戦開始だ!」
ソイユニの号令で、全員が動き出した。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第33話 作戦開始/END
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