第32話 先へと進む
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「フェトシャール様、ピンクハリケーン様。貴重な情報のご提供を、ありがとうございました」
受付嬢が、ニコやかな笑顔で、丁寧にお辞儀した。
ここは、小砦ホトクのハンターギルドである。
ホトクの森の壁の外側を走っていたアタシたちは、生存者を粘り強く捜索していた馬車に助けられ、小砦ホトクへと逃げ延びた。アタシ、フェト、ジョッテン、オッサン用心棒の四人とも無事だ。他の人は、分からない。
「皆さんのご無事を、心よりお祈りいたしますわ」
フェトが、心痛を表情に出して、丁寧なお辞儀を返した。
多数の魔物の森への侵入は、通信魔法でギルドへと、すでに伝わっていた。アタシたちは、確認できた魔物に関しての情報を提供した。そこにどんな魔物がいたか分かるだけでも、救助作業の大きな助けとなるだろう。
「ユウカさん、少しお待ちいただけますかしら。わたくしも、研究所に調査結果を報告いたしますわ」
受付カウンターを離れたフェトが、待合席に座る。ボロい木の四角いテーブルに書類を置き、書類の上に宝石を載せる。
所謂、通信魔法用の宝石である。情報を遠隔で伝えられる消耗品、としか知らない。一般人には高額アイテムなので、使ったこともない。
フェトの隣の席に座る。ちょっとボロい木のイスである。すでに別の人が入った受付カウンターの方を見る。
「救助隊が出発しますのは、早くても一週間後とおっしゃっていましたわね。周辺の小砦に資金の提供を呼びかけまして、集めた資金で協力者を募りまして、人員と物資の確保ができましたら救助を開始、でしたかしら? 情報の提供を終えましたわたくしたちに、今この場でできますことは、もうございませんわ」
フェトが、慰める口調で、アタシの内心を見透かした。
アタシは、今すぐにでも、助けに行きたかった。誰か一人だけでもいいから、無事を確かめたかった。でも、自分にそんな力はないと、知っていた。
「フェトは、これからどうする? かなり危ない目に遭ったし、調査終了して帰るわよね? これも縁だし、勤め先のある小砦まで護衛するわよ?」
諦めに溜め息をつく。フェトの編み込み金髪を撫でる。フェトの金髪は、手触りがサラサラで気持ちいい。
「今夜の宿泊先を探してくださいませ、ユウカさん。その前に、北の大砦の近くの小砦に行きます馬車の手配ですわね。北の大砦の周辺で何が起きていますのか、わたくし、必ず突きとめてみせますわ」
フェトが、銀縁の丸眼鏡の奥の、凛と光る瞳でアタシを見あげた。研究者としての決意と覚悟が見て取れた。ホトクの森に残された人たちを助けに行けない後ろめたさも、アタシと同じ悔しさも、円らな瞳に見て取れたのだった。
◇
数日かけて、北の大砦の一つ北の、小砦マキエタに辿り着いた。結局、帝国の端を迂回して、北の端の小砦から南下、の遠回りルートだった。
「大きな問題が発生しましてよ、ユウカさん。情報管制の最も厳しい大砦と呼ばれるだけありまして、周辺の小砦のどれも、大砦からは遠く離れていますの」
マキエタのハンターギルドのボロいテーブルに地図を広げたフェトが、抗議の口調で告げた。荒くれ者の集うハンターギルドの設備なんて、どこでも大半がボロボロだ。
「アタシに言われても困るわよ。魔力付与品の双眼鏡なんでしょ? それくらい見えないの?」
アタシは、言葉のままを表情に出した。
「さすがに見えませんわ。北の大砦に、危険を承知で近づくしかありませんことよ。そのルートの乗合馬車はございませんから、チャーターするしかありませんかしら」
「まあ、できなくはないわね。お金はかかるけど、箱馬車を買って、馬車を御せる魔物ハンターを雇えばいいわ。但し、大砦の近くまで行ってくれる御者兼ハンターが見つかれば、の話ね」
アタシとフェトは今、マキエタのハンターギルドにいる。賑わって、魔物ハンターでごった返す。騒がしいし、活気に溢れる。
ギルドが盛況だと、暗く意気消沈する気分にはなれない。お祭りみたいな、楽しい気分に、やる気になる。
「予算と相談ですわね。残りの調査費用を全て使ってしまって良いかしら。あ、でも、宿泊費用は残しませんといけませんわ」
「アタシの活動範囲って、主に南部なのよね。北部はあんまり来たことないから、そういう伝手はないわ。見つけるのに時間かかるかも」
「ソイユニ! なんという奇跡でしょう! ロリ巨乳、ロリ巨乳ですよ!」
キンキンと高く響く声の女が叫んだ。
「いいから黙ってろ、清楚。オイラが交渉する」
変声期真っ只中くらいの、少年のガラガラ声が聞こえた。
アタシの横に、少し耳の尖った子供が立ちどまった。見た感じ、人間なら十歳くらいだ。人間なら、だ。
「ホビットですわね」
フェトに先に答えを言われた。アタシは、それくらい分かってたもん、と大仰な頷きでアピールした。
「ホビットが珍しいか? いや、珍しいだろうな」
ソイユニと呼ばれたホビットが、不服と表情に出して、直後にガラガラ声で納得した。
ホビットとは、人間の子供に近い容姿の、少し耳の尖った、亜人種である。ホビットの魔物ハンターは珍しい。そもそも、亜人種が人間社会に交じって生活すること自体が珍しい。
「珍しくはありますわね。人間の括りですら数種の種族からなりますから、種族の違いなんてものに意味がありますとは思いませんですけれども」
フェトが先に答えた。アタシも、そう言おうと思ってたもん、と大仰な頷きでアピールした。
本当は、種族だ何だと難しいことは、アタシには分からない。難しいのは苦手だ。
「さすが! 理知的なロリ巨乳です! ロリ巨乳です!」
ソイユニの後方に立つ女が興奮して、キンキン声で叫んだ。
「いいから黙ってろ、清楚。オマエが喋ると、交渉に入れん」
ホビットのソイユニは、掠れた茶髪で、分厚い布の服に分厚い布のマントで体を覆う。武器も防具も、有無すら分からない。魔物ハンターっぽい気がするけれど、ハンターギルドにいて、そんな雰囲気がある、くらいしか推測できる根拠がない。
人間の女の方は、二十歳くらいの華奢な美女である。聖職者を思わせる純白の清楚なドレスローブを纏い、銀色の柔らかく膨らむ長い髪で、白いハンドベルを腰にさげる。ハンドベルは金属製で、百合の花を模して花弁が重なるような特殊な構造で、人の頭よりも大きな、むしろ鈍器である。
たぶん、間違いなく、高名な高ランクハンターだ。
「オイラは魔物ハンターをやってるソイユニってもんだ。おい、ピンク髪のアンタ、受付でランクSのハンターだって聞いたぜ? 見た感じ、『アックス蛮族ランバーガール』だろ?」
「誰がロング俎板よ!」
アタシは思わず勢いよく立ちあがって、全力でツッコんだ。
「こんなに可憐な美少女は、『ピンクハリケーン』に決まってるでしょ? で、後ろの人って、最強の魔物ハンターと評されるうちの一人、『清楚なる白百合』よね? 武器とか、呼ばれ方とか、ロリ巨乳好きの変態だとか、噂の通りだわ」
アタシは、急に冷静な口調で、ボロいイスに座りなおした。怒りに熱くなっては、最強の一人に会えた興奮と緊張が勿体ない。えっとつまり、最強の一人を前にして、興奮していたし緊張していた。
「知ってるなら話が早い。オイラは、清楚の唯一のパーティメンバーだ。ちなみに、清楚は性格に問題があって、誰も固定パーティを組んでくれない」
「余計なことはいいです、ソイユニ! いいから、早く! そちらのロリ巨乳ちゃんを私のパーティに勧誘して!」
清楚が鼻息荒く、フェトににじり寄る。アタシは右肩と右腕でブロックする。
「違うだろ! いいからさがってろ、清楚。何度交渉を決裂させれば気が済むんだ?」
ソイユニが苦虫を噛み潰したような顔で、清楚を押しやった。
「魔物討伐を手伝ってほしい。訳あって、高ランクの協力者が必要なんだ」
清楚を押しやりながら、ソイユニが頭をさげた。礼儀正しいホビットだ。気苦労が多そうだ。
「最強の一人なんでしょ? 魔物討伐の手伝いなんているの? それとも、そこまでヤバイ魔物が出たの?」
「強い魔物ではあるが、清楚なら討伐できる相手さ。協力者がいる理由は、どんなに強い魔物ハンターでも、得手不得手がある、って説明で足りるか? 清楚は、その不得手が特に酷い」
ソイユニが苦虫を噛み潰したような顔で、清楚を横目に睨んだ。気苦労が多そうだ。
「それと、立ち聞きしてたわけじゃないが、協力してくれるなら、危険地帯に馬車を出せる御者を紹介してもいい。ここは清楚の活動拠点だから、顔が利くんだ。他にも困りごとがあるなら、報酬の一部として、可能な範囲で助力できる」
「いいの? ラッキー! ありがと、是非とも、手伝わせて」
アタシは笑顔で、ソイユニと握手を交わした。見た目は小柄なのに、大きくゴツく、毛むくじゃらの手だった。
「何だ? そんなに簡単に決めていいのか? かなり危険な依頼で、真正の変態だぞ?」
「いいわよ。討伐の依頼が出てるなら、困ってる人たちがいるんでしょ。ランクSハンターとしては、見過ごせないわ」
最強の一人と臨時パーティが組めるとか、報酬が魅力的だとか、頭の中にそんな明確な動機はなかった。フェトの助けになれるとは、ちょっとだけ考えた。
たぶん、ホトクの森から逃げ帰った無力感を、誰かを助けて払拭したかっただけだと、思う。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第32話 先へと進む/END
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