第3話 ラムライノス襲撃
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
アタシは、小砦ジフトのハンターギルドに来た。
ギルドは、レンガ造りの三階建ての大きな建物だ。レンガ造りの街並みの中でも、一際高くて大きい。魔物が溢れる世界だけに、依頼が殺到して儲かるのだろう。
木の両開きの扉を開く。建てつけが悪く、ガチャガチャと蝶番が鳴る。パワフルでガサツな利用者が多いから、よく壊れる。
「まずは、受付に紹介状を出して、っと」
出払っているのか、同業者が少ない。新人パーティらしき四人組しかいない。
暇なハンターは、ギルドで依頼待ちをするものだ。ギルドにハンターがいないのは、町に滞在するハンターが少ないのか、依頼が多くて忙しいのか、だ。どちらにしても、町にとっては良い状況ではない。
「ねえ、受け付けしてもらっていい? ケルンのギルドで依頼を受けた、ユウカよ。これ、紹介状」
暇そうな受付の人に、声をかける。紹介状を、受付カウンターに置く。
「はい、伺っております。ピンクハリケーン、ユウカ様ですね」
受付嬢がニコやかな笑顔で答えた。
肩までくらいの長さの金髪さらさらストレートヘアを六四分けにした、化粧美人の大人の女の人だ。ギルドの事務的な紺色の制服が似合う、仕事のできる雰囲気だ。
ちょっと苦手な感じだ。ケルンで受け付けてくれた、華奢なイケメンエルフのお兄さんみたいな人が良かった。
「そうよ。依頼内容はこっちで聞くように指示されたから、まずは教えて」
アタシは、落胆を心の奥にしまった。魔物ハンターが魔物の討伐に来たのだ。受付の人が好みか苦手かなんて、今は関係ない。
「到着早々に乱闘騒ぎに巻き込まれたと、お聞きしました。ご災難でしたね」
ニコやかに紹介状を確認しながら、気まずい世間話を向けてくる。
「あ、ああ、うん、巻き込まれて、うん、災難だったわ」
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女の身でありながら、ハンターギルドに所属し、魔物の討伐を生業とする。
武器は、両刃の大斧を愛用する。防具は、急所と関節を金属鎧で守る、白銀のハーフプレートである。
女にしては背が高く、女にしては筋肉質で、パワータイプの近接戦士である。胸はない。ピンク色の長髪で大斧を振りまわす戦い方から、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
「承りました。依頼に関して説明させていただきます」
受付嬢が笑顔で、丁寧に頭をさげた。
「えっ、あっ、うっ、わ、分かったわ」
アタシは、ちょっと動揺した。上品な大人は苦手だ。
受付嬢が、受付カウンターに資料を広げた。
鷲のような鳥の絵が描かれた紙もある。見た目が鳥で魔物とくれば、有名どころなら思い浮かぶ。
「ユウカさんほどのハンターでいらっしゃれば、もうお分かりのことと思います。今回の依頼は、ロック鳥の退治です」
受付嬢の笑顔が、神妙な真顔に変わった。
ロック鳥は、大きな鳥の魔物だ。大きくて強いくらいしか特徴のない、鳥型の魔物だ。
しかしながら、飛べる魔物全般、囲む高い壁を無視して町を襲う。人間の最大の対抗手段を、無効化してしまうのである。空を飛ぶ魔物の出現は、町にとって危機であり、一刻も早く解決すべき緊急事態である。
「ここジフトの北方向に、高い岩山があります。その頂上付近に、ロック鳥が巣を作り、住みついた、との報告を受けています。迅速な退治のため、近隣の小砦のギルド支部へも、ユウカさん同様に高ランクのハンターの募集をかけています」
「ロック鳥か……」
アタシは、渋い顔で独り言を呟いた。
ロック鳥は厄介だ。空を高速で飛び、家一軒よりも大きいし、家一軒くらいなら足の爪で掴んで引っこ抜くのだ。
大斧なんて届かない。体当たりが直撃したら耐えられない。掴まれたら終わる。
「アタシじゃあ、主力になれないわね」
「ユウカさんには、主戦力となる方の補助を、お願いしたいと考えております」
「それなら、いいわ」
アタシは即答して、資料を手に取る。契約書に目を通す。難しいことは分からないが、ギルドが発行したものだから問題ないに違いない。
サインする箇所にサインを入れる。これで契約が成立する。
「はい、っと。これでいいわね?」
「はい。契約の成立を確認いたしました。この地に住む皆様のために、よろしくお願いいたします」
突然、建てつけの悪い扉が荒々しく開かれた。
「大変じゃ! ラムライノスの群れが町に向かってきとるぞ!」
入ってきた初老の男が、慌てふためいて叫んだ。
◇
町の壁の下に駆けつけた。もちろん、安全な内側だ。
灰色の高い壁を見あげる。高さは、三階建ての建物よりもずっと高い。レンガや岩や鉄板で、分厚く頑丈に造られている。
「ラムライノスはどう? 近い?」
壁の小穴から遠眼鏡で覗く男に聞いた。
「ハンターか、助かる。こっちに真っ直ぐ向かってきてる。数分で到達される」
男は蒼褪め、こちらを横目に見て答えた。
腰にロングソードをさげ、ラウンドシールドを背負った、二十歳くらいの精悍な男だ。武器も防具も廉価品だから、ハンターではなく、ジフトの自警団員だろう。
「数分かぁ……」
遠眼鏡を借りて、壁の小穴から覗く。明るい青空の下、草の少ない土の地面を、ラムライノスが三体、土煙をあげながら突進してくる。
ラムライノスは、大型のサイみたいな見た目の魔物である。体の大きさは、ゾウほどもある。太い丸太状の角を持ち、鉄ほどに硬い外皮をして、小砦の壁くらいなら衝突を繰り返して突き破る。
あの三体は数分で到達して、数分あれば壁を破るだろう。
そもそもラムライノスなんて、帝都近くや大砦周辺に出現するような、強い魔物だ。中央から遠い地方の、小砦の近くに出るのはおかしい。
いや、おかしいとか考えている場合じゃない。ラムライノス三体が壁を破って入ってきたら、町が滅茶苦茶にされる。その前に対策する必要がある。
「こっちの戦力は、どのくらい?」
アタシは、遠眼鏡を男に返しつつ聞いた。
「自警団員が十人だ。魔法を使えるのが一人、弓を使えるのが四人。長槍なら全員分ある」
男が簡潔に答えた。自警団のリーダーっぽい、手慣れた受け答えだ。
「魔法使いがいるのはラッキーね」
魔法使いは希少で、魔法は強い。だから、魔法の触媒となる宝石は、小さな欠片でも価値がある。
遠距離攻撃できる弓矢は、ハンターでなくても、比較的安全に魔物にダメージを与えられる。これも有効である。
長槍は、中距離戦ができるから、近接武器よりはマシだ。ラムライノスなんて強い魔物に接近戦を挑めば、そこそこのハンターだろうと命はない。
「住民の避難は?」
「進めてる。この辺りは終わってるはずだ。壁近くのやつらは避難し慣れてるからな」
「それもナイス」
最悪の状況、ではなさそうである。住民の心配が不要なら、取れる手段が増える。打開策の一つくらいなら、思いつく可能性があがる。
「ねぇ。魔法でさ、壁の一部だけヒビを入れて脆くするって、できる?」
アタシは考え込む真顔で、軽く握った右手を口元に当てて、男に一つの提案をした。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第3話 ラムライノス襲撃/END
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