第27話 森の壁の見張り櫓
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「あらあらまぁまぁ。そのような厄介な魔物に襲われましたのね。大変でしたわねぇ」
朝食の席のフェトが、驚きに目を丸くした。
フェトは、ロリ巨乳の魔物研究者である。見た目は女の子で、小柄で華奢で普段着の上に白衣を着て、長い金髪を上品に編み込んで、細い銀縁の丸眼鏡をかけ、薄化粧で小綺麗にして、胸が大きい。
「そうなのよ。ここの森に、あんなに強い魔物がいるなんて、思わなかったわ。みんな無事で、本当に良かった」
アタシは言い終えて、肉の串焼きを片手に首を傾げた。
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
朝の食堂には、たくさんの人がごった返す。広い飲食スペースに、作業員、魔物ハンター、従業員、行商人、様々な格好の人たちが、窮屈に並ぶテーブルを埋め尽くす。
食器の鳴る音、談笑、行き交う靴音と、騒がしさも相応だ。騒がしさに、聞き間違ったのかも知れない。
「あんなに強い魔物が、この森に出るのって、変よね。例の、北の魔物が流れてる説? だったっけ?」
肉を頬張りながら確認するアタシを、フェトが何か言いたげに一瞥する。
「強い魔物ではございませんわ。人間にとりましては厄介な魔物、でしてよ」
アタシは、口の中の肉を呑み込む。
「でも、強かったわよ。保護色で、素早くて、曖昧な姿形すら見えなかったんだから」
「魔物が人間と同じ世界を見ているとは限りませんわ。人間にとりましての保護色が、魔物にとりましての保護色とは限りませんのよ」
「あー、確かに。保護色じゃなかったら、魔物としては小型で、身軽で素早いだけだもんね。大砦近くに棲息するには、弱すぎるかー」
「ですからこそ、威嚇で追い払えましたのかも知れませんことよ。その魔物は、人間相手なら有利に戦えますから、人間を獲物と決めていましたのね、きっと。弱いはずの獲物に圧倒されましては、混乱して、尻尾を巻いて逃げましても不思議ではありませんわ」
フェトが、興味深げに締め括った。いかにも魔物研究者らしい、小難しそうな説明だ。
アタシは、難しいのは苦手だ。
皿に積まれた肉の串焼きを取る。根元の一切れを奥歯で噛んで、串を一気に引き抜く。
「それに、北の魔物が流れている説、ではございませんことよ。北部の強い魔物の勢力拡大に伴いまして、他の魔物が南へと追い出されている可能性がある、と申しあげていますの」
「だっただった。その証拠には、なりそうにはないかあ」
アタシは、肉を口いっぱいに頬張りながら相槌を打った。
「淑女! テーブルマナー! お手本を見せてさしあげますから!」
フェトが、我慢の限界と、鋭い口調で言い放った。ナイフとフォークで、上品に葉物野菜を切り始めた。
ナイフで小さく切った野菜をフォークで刺して、小さな口に運ぶ。口を閉じて、上品に動かす。
「そんなチョットずつ食べてたら、食べ終わる前に昼食時になっちゃうわよ……?」
アタシは、困惑しながら、率直な感想を口にした。
◇
「はい、はい、本日は、見張り櫓に案内させていただきます、事務のジョッテンと申します。どうぞどうぞ、よろしくお願いします」
痩せた男が、腰低く自己紹介した。滞在手続きをしてくれた、三十歳前後で、気が弱そうで、影の薄い印象を受ける、デスクワーク専門の管理職っぽい人だ。
「ああ、ああ、ピンクハリケーンさん。昨日は、ええ、ええ、危険な魔物の討伐と情報提供を、ありがとうございました。いやもう本当に、危うく、多くの被害者を出すところでした」
穏やかで紳士的な口調だ。建設現場の荒くれ感とは真逆の人だ。
「いいのいいの。報告は当たり前ってか、報告書を書いたのアタシじゃないし。書類書くのって、苦手なのよねー」
アタシは感謝されて嬉しくて、照れて顔を赤くした。照れ隠しに頭を掻いた。
「案内、よろしくお願いいたしますね、ジョッテンさん。用心棒の魔物ハンターの方も、よろしくお願いいたしますわ」
フェトが丁寧にお辞儀をした。
場所は、仮設の壁に設置された仮設の大門の前である。朝の陽光の下に、大門は大きく開かれている。多くの人がくぐり、壁の端の建設現場を目指す。
ジョッテンは、短い黒髪を七三に分け、黒縁の眼鏡をかけ、旅の道中のような厚めの布服を着る。休暇にハイキングを楽しむ役所の職員っぽくもある。
鎖鎧にハルバードの大男も、用心棒として同行する。長物にしても普通より大きい武器を持つ大男なんて、高ランクの魔物ハンターに違いない。
「……」
大男が、ゴツいオッサン顔で、不愛想に会釈した。無口で、鎧の鎖だけがガチャガチャと鳴った。
「はい、はい、ではでは、早速、出発しましょう。安全を最優先に、それはもちろん、薄暗くなるより前に帰路に就く予定です。ふふふふ、実はですね、ささやかではありますが、昼食を用意させていただきましたので、楽しみにしておいてください」
ジョッテンが、木の皮を編んだバスケットを示して、ニッコリと笑んだ。
「重ね重ね、ありがとうございますわ。こんなに良くしていただいて、申し訳ないくらいでしてよ」
フェトも微笑んで、再び、丁寧にお辞儀した。
◇
四人で、壁と森の間の、土の道を通る。切り株や掘られた穴が、あちこちにある。
こっちは、北側の壁である。現在建設中の南側よりも、道が荒れている。森が近く、道が狭い。
用心棒が先頭、非戦闘員のフェトとジョッテンが真ん中に横並び、アタシが最後尾だ。見張り櫓は壁の森側にあるから、魔物に遭遇する可能性は低いだろう。でも、油断して不意討ちされるうっかりハンターではないので、ランクSなので、一応の警戒はしておくのだ。
「到着しました、到着いたしました。こちらが、ご要望にありました、最も北西方向に設置された見張り櫓になります」
ジョッテンが、大仰な身振り手振りで、壁の上を指し示した。
思いのほか早く着いた。道中、魔物の気配すらなかった。
フェトが、青い顔で見あげる。
高い壁の一番上に、籠型の見張り櫓がある。あがる手段として、何本も何本も壁から突き出た棒が、櫓目指して真っ直ぐ上へと続く。
握りとしても足場としても、その連続して突き出た棒しかない。棒がある、とも言える。ちょっと手が滑ったり足が滑って棒から落ちても、すぐ下の別の棒に手足をかければいいから、階段型より安全性はむしろ高い、とアタシ的には思う。
「いやいやいや、こんな不安定な足場では危険だと、管理部に申請はしております。それがそれがですよ、壁の建設が進めば移設される見張り櫓だからと、予算をおろしてもらえないのですよ。すみません、本当にすみません」
ジョッテンが、平身低頭の謝罪をした。
忙しない人だな、とアタシは思う。視線を上にあげ、見張り櫓を見あげる。
昼前の空が明るい。曇り始めてはいる。薄い灰色の雲で、雨が降りそうではない。
視線をおろし、フェトを見おろす。
両腕を広げて無言で抱っこを要求するフェトの顔は、恥ずかしさに赤かった。
「……んっ!」
「はいはい。フェトがこれを独りで登れるとは思ってないわよ」
アタシは、やっぱりフェトは子供みたいなところもあってカワイイなあ、と微笑ましく微笑した。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第27話 森の壁の見張り櫓/END
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