第25話 ホトクの森
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
建設途中の壁の宿泊所に来て、一夜が明けた。
安宿ではなかった。森を壁で囲む大規模工事だけあって、宿泊施設も大きく本格的なものだった。工事期間の長さに合わせて、長期間の運用を想定してあるのだろう。
当然、宿屋とも呼べないような雑魚寝ではなかった。上階で、フェトと二人部屋だ。
一階に、男女別の共同浴場まであった。女湯が混んでいた。女のハンターや従業員も多そうだ。
「ちゃんと寝とくのよ、フェト。見張り櫓は、熱が下がってからよ」
ベッドで本を読むフェトに、釘を刺す。護衛対象が旅の疲れで体調を崩して、本日の護衛はお休みである。
「心得ておりますわ。淑女たるもの、こほっ、これ以上、人様にご迷惑は、こほっ、かけられませんことよ」
発熱と咳がある。でも、寝込むほどではない。多少の心配は否定できないが、見る限り問題なさそうではある。
「じゃあ、行ってくるわ。何かあったら、宿泊所の従業員さんを頼ってね。病人がいる、って頼んではあるから」
「ユウカさんこそ、森の魔物退治は、こほっ、気をつけてくださいませね。ご自分の力量を過信して、こほっ、慢心なさいますのが、こほっ、ユウカさんの危なっかしい、こほっ、ところですわ」
「大丈夫大丈夫。森の魔物を倒しまくってくるから、武勇伝を楽しみにしときなさい」
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
今日は、宿泊の交換条件で、森の魔物退治に行くことにした。フェトの護衛があるから、いつやろうかと困っていた。好都合と言うべきか、フェトがダウンしたので、その機会が巡ってきた。
フェトは、ロリ巨乳の魔物研究者であり、護衛のアタシの雇い主である。
「じゃあ、行ってくる!」
「いってらっしゃいませ」
手を振って、勢いよく部屋を出た。
フェトも、若草色のパジャマ姿で、微笑して、手を振っていた。
◇
壁の大門をくぐって、森へと出る。
宿泊所は、結構な広さの敷地と共に、壁に囲まれている。半分は、森を囲むための本格的な壁である。もう半分は、壁が完成するまでの間に合わせの、簡易的な壁である。
壁近くに宿泊所を建てて、壁の足りない部分は低くて薄い壁で囲った。という説明が分かりやすいだろうか。
枝葉に覆われた森の中から、低い壁を見あげる。低いし、木材っぽい模様が多い。ザコい魔物しか出ない区域でも、不安になる。
「よう、嬢ちゃん! ランクSハンターだって? よろしく頼むぜ!」
声をかけられた。一緒に森を巡回する魔物ハンターだ。
「ピンクハリケーンよ。よろしく」
握手する。精悍な二十歳くらいの男である。鋼で補強された革鎧を着て、武器は鉈状の長剣を背負う。
ランクはBと見る。脱廉価品の入り口っぽいサイズ感とデザインの武器である。小綺麗と小汚いの中間の、荒くれ者風味も抜けていない。
「ランクSとは魂消たな! 田舎者のワシでも名前知っとる!」
「自己紹介は歩きながらしてくれ。さっさと出発するぞ」
メンバーは、アタシを含めて五人だ。精悍な二十歳くらいの男、四十歳すぎた背の低い手斧弓矢毛皮服の男、全身鎧に金属棍棒と円盾の男、駆け出しハンターと一目で分かる安装備の少年だ。
少年は、十二歳か十三歳くらいだろうか。こんなご時世だし、子供の魔物ハンターも珍しくはない。
「先頭は重装備の人? じゃあ、アタシは最後尾ね」
五人で雑に隊列を組んで、歩き出した。
森の中を、下草を掻き分けて進む。
「かなり広い森だけど、全部を壁で囲むの?」
アタシは誰となしに聞いた。
「途中まで、って聞いてるぜ。今出来あがってる壁で三割だとさ」
精悍な男が答えた。口の軽そうな、軽薄そうな口調だった。
「それでも凄いわね。広いと魔物狩りだけでも大変そう、って、巡回しなくていいの? 真っ直ぐ進んでる感じじゃない?」
「壁に挟まれた範囲は、正規に契約した専属ハンターがやるんだと。オレたちみたいな流れ者は、壁から出た森を適当に巡回して、適当に魔物を狩ってればいいってさ。こっちとしても、変な責任を負わなくて済むから、その方が気楽でいいぜ」
「それは、そうね」
アタシは納得した。
決められた範囲の魔物の殲滅は難しい。遮蔽物の多い森の中となれば尚更だ。
そのくせ、その範囲内で被害が出れば責任問題となりかねない。そういう依頼専門の魔物ハンターでもないと、依頼を受けたいとも思わない。
逆に、適当に魔物を狩って魔物の数を減らすのは難しくない。遭遇した魔物を倒す実力さえあれば誰にでもできる。魔物の数が減れば危険性もさがるので、実行すれば実行しただけの効果もある。
「他の三人も、そんな感じなんだ? ボクはハンターになって初めての依頼かな?」
目の前を歩く少年の頭を、背後から撫でる。
「ぼっ、僕の村は、小砦の中にあるんです」
少年が、恥ずかしさに赤い顔で、動揺に慌てて、頭に載ったアタシの手を払いのけた。いかにも思春期で生意気盛りの少年っぽい反応だ。
「貧乏な村で、税金を払うだけでいっぱいいっぱいだから、ボクが魔物ハンターになって稼いで、村の皆の生活を楽にしてあげたいんです」
子供なりに志し高い、力強い口調だった。雰囲気は、言葉遣いの丁寧な、村のガキ大将っぽい。
「偉い!」
アタシは嬉しくなって、少年の頭を撫でた。
少年が、恥ずかしさに赤い顔で、動揺に慌てて、頭に載ったアタシの手を払いのけた。
「でも、仲間はいないし、誰もパーティを組んでくれないし、危ないからって依頼を受けさせてももらえませんでした。だから、独りでも雇ってもらえてランクも問われない、この依頼を受けました」
言葉の最後の方には、少年の落胆が見て取れた。きっと、夢と希望に溢れて踏み出した一歩目で、現実の厳しさを叩きつけられたのだ。
アタシは満面の笑みで、少年の頭を荒く撫でる。
「最初は誰だってそんなもんよ。これから強くなって実績を積みなさい。差し当たって今日はアタシが守ってあげるから、先輩たちの戦いぶりをよぉっく見とくのよ」
「そうしとけ、ボウズ。勇むヤツは早く死ぬ。まずは一歩さがるところから覚えるんだぜ」
「ワシも似たようなもんじゃ。猟師だけじゃ食っていけんから、出稼ぎに来とる」
「少年は運が良い。実力あるハンターの強さを目の当たりにできるのだからな」
他の三人も、嬉しそうに笑った。
少年を中心にして、硬かった雰囲気が和んだ。初対面の緊張があっただけで、魔物ハンターの大半は、もとより気のいい連中なのだ。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第25話 ホトクの森/END
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