第18話 東砦の女ハンター
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
小砦ステンイに着いた。壁の高さが他の小砦の二倍ほどあった。大砦にも迫る高さだ。
ステンイは、東の大砦の東隣にある小砦である。隣といっても、馬車で一日はかかる。
東の大砦との流通の拠点だけあって、栄えている。馬車駅が牧場の規模ある。行商人と積み荷でごった返す。
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
「ありがとね、用心棒のハンターさんたち。おかげで、のんびりできたわ」
アタシは、馬車に同乗した二人の魔物ハンターに手を振った。十文字槍の細マッチョと、ナックルのオッサンマッチョだ。
「おうよ! また会おうぜ、同業の嬢ちゃん」
二人も手を振り返して、レンガ造りの事務所へと入っていった。
「さて、と……」
アタシは、他の馬車を見まわす。行商人と魔物ハンターが、次々と降りてくる。
「ユウカさんは、どなたかをお捜しですかしら? 今の馬車団に、お知り合いでもいらっしゃいまして?」
フェトが、不思議そうにアタシを見あげた。
フェトは、ロリ巨乳の魔物研究者である。見た目は女の子で、小柄で華奢で普段着の上に白衣を着て、長い金髪を上品に編み込んで、細い銀縁の丸眼鏡をかけ、薄化粧で小綺麗にして、胸が大きい。
「アタシはね、華奢なイケメンが好きなのよ」
アタシは真顔で答えた。
「さっきの二人みたいに、物理戦闘系はほぼマッチョだから、守備範囲外なのよね。でも、魔法使いなら、華奢なイケメンかも知れないじゃない?」
「どこを守っていらっしゃるのかしら……」
フェトが、呆れ顔で溜め息をついた。
馬車の一台から、黒いトンガリ帽子に黒いローブという、いかにも魔法使いな格好の男が降りてくる。
「あ~、そっちかぁ」
アタシは落胆した。長い白髪に長く白い顎髭の、皺だらけの老人だった。木の枝が複雑に絡み合う杖を突き、腰が曲がって、ヨボヨボで、歩きも覚束なかった。
かの御老体が、凶悪な魔物、デミリザードキングを屠った魔法使いなのだ。魔法使いの強さは、筋肉でも体力でも若さでもないのだ。
「あ、あのっ!」
魔法使いの老人に、フェトが駆け寄る。
「素晴らしい魔法でしたわ。あなたのおかげで、無事にここに辿り着けましたわ。心より感謝いたしますわ」
フェトの頭を、老人が優しく撫でる。
「ふぉっふぉっふぉっ。それは、良かった」
どこにでもいそうな、穏和な老人の声音だった。
魔法使いも、他の用心棒たちも、事務所へと入っていく。行商人たちは、街中用の馬車へと荷物を積み替える。馬車駅を、たくさんの人が慌ただしく行き来する。
「じゃあ、フェト、まずはどこ行く? 宿屋探す? 先に食事?」
「西の見張り櫓にあがる許可をいただきに行きますわよ! 大砦の周辺を観察できます機会なんて、滅多にございませんもの!」
フェトが、これまで以上に意気込んで、小さな足で歩き出した。
「はいはい」
アタシは微笑して、広い歩幅で、小さな背中を追った。
◇
「許可は、自警団でいただけばよろしいのかしら?」
隣を歩くフェトが、アタシを見あげて首を傾げた。
「どうだろ? 大砦の隣の小砦だから、帝国の役所かも知れないわね。まずは自警団に行って、聞いてみるのがいいと思う」
アタシも首を傾げながら答えた。
帝国軍が軍隊として機能していれば、民間人の集まりの自警団に権限はない。町の警備も公共施設の管理も、軍関係者が行うはずである。
実際、大砦には自警団はなかった。警備は帝国軍がやっていた。
ここ小砦ステンイは、ちょうど中間みたいな状態だろう。大砦ではないし、小砦であって小砦でもない。帝国軍基地がありつつ、自警団もあったはずだ。
「それでしたら、自警団に案内してくださいませ」
「いいわよ。場所分かるし」
フェトと手を繋いで、大通りを歩く。整備された石畳で、往来が多い。広い道の左右に商店が並び、どこも客で賑わう。
「おい、お前! 帝国に盾突くレジスタンスじゃないだろうな? 取り調べるから、ちょっと詰め所まで来い!」
偉そうで高圧的な男の声が聞こえた。
「お待ちください、軍人様。私は、ただの花屋です。帝国に逆らうなんて、滅相もございません」
若い女の声が聞こえた。
声のした方を見る。胸の大きな美女が、むさい口髭の帝国軍人に絡まれている。
女は、たまにいる美人店員といった感じだ。淡い若草色のワンピースに、白いエプロンだ。
男は、女に絶対にモテない感じである。帝国軍の黒いプレートメイルを着て、腰にロングソードを帯剣する。脂ぎった丸顔をしている。
男が軍人の立場を利用して、女に因縁をつけている、と見る。女の方はどう見ても、ただの一般人である。
レジスタンスのどうのこうの、なんて噂は、帝国が王国を支配してからずっと囁かれていることだ。もともとあった王国を滅ぼしたのだから、王国の残党がレジスタンスを結成しない方がおかしい。
今となっては、帝国の役人が民間人に難癖をつける際の常套句ですらある。領土の大半が無法地帯ゆえに日常となってしまった光景、と言える。帝国の法は人々を守らず、軍規に軍人を縛る拘束力はない。
「それじゃあ、仕方ないかぁ」
アタシは、フェトの手を放した。肩を鳴らし、帝国軍人に向けて足を踏み出した。
「お待ちなさいませ、ユウカさん。ここで帝国軍と問題を起こしましたら、大砦の将軍と事を構えることになりかねませんわよ」
フェトの小さな手が、アタシの上着の裾を掴んでとめた。
「うっ、それは、そうかもね」
アタシは躊躇した。
ソロの魔物ハンターとして動いていれば、帝国の役人を殴るくらいは朝飯前だ。小砦の役人数十人に追われる破目になっても、逃げるなり返り討つなりすればいい。
しかし、今は事情が違う。大砦の隣だから、大砦を治める将軍の本隊から援軍が来る可能性がある。さすがのアタシも、本隊相手に勝てないし逃げられないと知っている。
しかも、今はフェトの護衛中で、一緒にいる。ここで軍人を殴れば、フェトの調査の妨げになり得る。フェトの立場まで悪くしてしまう。
「う~。でも、あんな悪逆非道を見過ごすわけにも、いかないんだけど」
アタシは困った。大砦の遠くと近くの、如何ともし難い差異だ。
「そ、それは、そうですけれども」
フェトも困った。
アタシは、こういう状況が苦手だ。目の前の敵を殴るのが得意だ。
「そこのお前。少しいいか?」
ハスキーな女の声がした。
「何だ、女? 歯向かう気か? 俺様は帝国軍人だぞ!」
男が恫喝した。アタシが迷ううちに、別の誰かが止めに入ったようだった。
「弱い犬ほどよく吠える。権力の笠がなくては、対話もできないのか?」
口の悪い女だ。ハスキーボイスの、赤い短髪の、緑色のコートを着た、たぶん魔物ハンターだ。
「何だ、その口の利き方は?! 俺様への暴言は、東の大砦のハーシャーリア将軍に唾するのと同じことだぞ!」
男の更なる恫喝に、通行人たちが騒つく。ほとんどが怯え、巻き添えを食う前に立ち去る相談ばかりが聞こえる。
「退屈な脅し文句だな。ハーシャは着飾ることにしか興味のない女だ。小砦の治安なんて、気に留めはしない」
「な、なぜそれをっ!?」
男が動揺した。
再び、通行人たちが騒つく。怯える声はない。将軍という虎の威を失った傍若無人な男への、非難に変わっている。
男が、衆人を見まわす。集まる非難の視線に、冷や汗を流す。
「おっ、お前ら、な、何だ、その目はっ! 見世物じゃないぞ! おっ、覚えてやがれっ!」
分かりやすい捨て台詞を残して、男は無様に逃げていった。
アタシは、カッコイイ人だなあ、と思いつつ、ハスキーボイスの女の方を見ていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第18話 東砦の女ハンター/END
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