第102話 EP12-5 退魔の剣
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「久しいな、勇者よ。息災のようで、何よりである」
ゴートと触手の塊が、満面の笑みで再会を喜び合う。
「汝モナ、賢者ヨ。マサカ、我ノ代デ再会スルトハ、夢ニモ思ワナカッタ」
触手の塊が、抑揚の少ない無機質な声で、グルグル巻きに拘束する魔物用のゴツい鎖の食い込む触手の塊を捩って、感激を体現するようにガチャガチャと鳴らした。
「まぁ、いいけどさ……」
アタシは部屋の隅から、二匹の様子を窺う。何とも言えない奇妙な気分になる。
フェトはボロテーブルにボロボロの古い本を何冊も広げ、エレノアたちに熱弁を振るっている。
「王族の秘密の文献と、ゴートさんが持参してくださいました文献と、細部まで、それこそ乗った輸送船の船首像の彫刻に至るまで、一致いたしますわ。しかもそれぞれ別の視点、人の目線と魔物の目線で語られていて、とても興味深いですの」
「つまり、長い長い時を経て、今ここで嘘をつくために準備したにしては良くできている、ってことね? 無理矢理に疑うなら、両文献とも大昔の酔狂な吟遊詩人の力作、か。 ふぅ、むしろ、そっちの方が無理があるわよねぇ」
エレノアが、顎に手を添えて、考え込む。鋭い目で、触手の塊の方を見る。
フェトもつられて、円らな瞳を動かす。キラキラと興味津々の輝きを、触手の塊に向ける。
「魔王ヲ弱ラセル退魔ノ剣カ。話ニハ聞イテイタガ、実物ハ初メテ見ル。勇者ノ我ニコソ相応シイダロウ」
「そうもいかんのだよ、勇者よ。百聞は一見に如かず、抜いてみたまえ。ああ、リード君、ちょっと貸してくれないか?」
ゴートがリードに手招きした。
リードが、不可解と首を傾げながら、背負う石の灰色をした古ぼけた鞘の剣を渡した。
剣は、ゴートの手から触手の塊の触手の一本へと手渡された。
「ホホゥ、コレガ」
触手の一本が鞘を持つ。別の触手で柄を持つ。厳かに、鞘から剣を抜く。
「……熱ッ!? エッ、痛、痛イッ?! チョッ、何コレ、無理ッ!」
剣を途中まで抜いて、小芝居染みた苦しみ方をして、剣を鞘に戻した。
「……強者トシテ譲歩シヨウ。コノ剣デ、人間ノ勇者ノ非力ヲ補ウトイイ。コレハ、人間ノ勇者ニコソ相応シイ」
あちこち焦げた触手の塊が、厳かな口調で取り繕った。二本の触手で厳かに差し出された剣を、リードは苦笑いで受け取って背負いなおした。
全員が、リードの背負う剣に注目する。
「そして何より、確かな物証があるのよね。抜いただけで魔物にダメージを負わせる武器なんて、聞いたこともないわ」
エレノアの呟きこそが、全員の総意だった。かつて勇者に封印された魔王が復活して、この世界も魔物の世界も今や滅亡の危機にある、なんて触手の妄言に信憑性が生まれてしまった。魔物の勇者だなんて自称する胡散臭いバケモノに、全力で協力しなければならなくなったのだ。
◇
「で、どうするのであるか?」
コルトルが、ボロい木のイスに座ったままアタシを見た。ちょっと前まで帝国最強の将軍だったのに、今はただの初老のオッサンになり果てた。
「ハンターギルドに魔王の情報を流して、協力者を募るわ。前代未聞で深刻な状況だから、ギルドも便宜を図ってくれると思う」
アタシは答えて、情報を纏めてもらった書類に手を置く。
「人は集まるのであるか? 物証を見せられず、情報だけ広めても、誇大妄想の与太話に逆戻りである」
「このアタシ、最強見習い『ピンクハリケーン』の名前で募集をかけるから、ある程度は集まってくれると思う」
「わたくしの、『フェトシャール』も連名させてくださいませ」
フェトが、爪先立ちで背伸びして、テーブルに巨乳を載せて、書類にサインを入れた。
「有象無象のザコを集めてもダメよ? 帝都周辺レベルの魔物地帯を突破して、帝都の帝国軍を敵に回して、魔王と戦うのよ? 最強か、最強見習いか、せめて捨て駒になれるランクSが欲しいわ、なるべくたくさん」
エレノアが、歯に衣着せぬ物言いを挿んだ。
「エレノアさん、言い方」
リードが気まずそうに、エレノアを窘めた。気苦労が多そうだ。
アタシは、考えるフリをする。考えるのも、難しいのも、苦手である。他の人に任せたい。
「最強は、一人は来てくれると思う。あとは運次第かなぁ」
頼りない返答しかできなかった。
「嘘でも誇大広告でもいいのよ、俎板? 集まりさえすれば、どうとでも言い包めてみせるわ」
「エレノアさん、言い方」
リードが気まずそうに、悪いことを企む微笑のエレノアを窘めた。
「だから、不義理はできないってば。嘘で集めるとか、アタシの信用が地に落ちるじゃない。……誰がロング俎板よ!」
一番大事なのは、素早く的確で容赦ないツッコミ、じゃなかった、信用だ。コイツが言うなら間違いない、と信じられることだ。
アタシを知るフォートレスやスピニースさぁんなら、無条件に信じてくれるだろう。でも、面識すらない相手には、肩書きと実績を説得力にするしかない。
はっきり言って、最強見習いは、肩書きとしては弱い。実績だって、目立ったものはない。多少の面識がある相手であっても、とてもじゃぁないが信用には足りない。
なにせ、依頼内容が『帝都にいるらしい魔王の封印』なんて誇大妄想の与太話だ。昔話か伝説か作り話にしか出てこない魔王を、口にするのも憚られる協力者と封印するから、死ぬ覚悟で一緒に魔境の帝都まで行ってくれ、だ。
まだ、北の大砦を救ったフェトの名前の方が、説得力がある。今は、フェトに思いっきり頼るしかない。
「あとは、運次第かぁ……」
アタシは、頼りなく呟いた。この名前でも、帝都に辿り着ける戦力だって集まりはしない、と分かりきっていた。
◇
「それで、どうやって魔王を封印するの、触手? 魔物の勇者ってくらいだから、アンタ一匹で魔王に対抗できるの?」
アタシは、魔物用のゴツい鎖でグルグル巻きに拘束された触手の塊に聞いた。
「過信ハ困ル。我ハ所詮、勇者ノ子孫ダ。イツカ血族ノ誰カガ魔王ト戦ウ、ト聞カサレテハイタガ、マサカ我ガ貧乏籤ヲ引クトハ夢ニモ思ワナカッタ」
抑揚の少ない無機質な声で、どこか偉そうに『貧乏籤』と断言した。鎖の食い込む触手の塊を捩って、不運を嘆くようにガチャガチャと鳴らした。魔王討伐に燃えるタイプではなさそうだ。
「某も、賢者の子孫でしかないのである。種族としての力はあれど、かつて魔王を封印した御先祖様には、遠く及ぶまい」
ゴートも偉そうに相槌を打った。
この二匹も、潔いほどに頼りない。アタシも他人のことは言えないので、口には出さない。敵が不死身の魔王なら、全てが頼りなくて当たり前なのかも知れない。
「凶悪な帝都周辺レベルの魔物が、全く頼りにならないわね。醜悪な触手のバケモノは見掛け倒しなの? 役立たずなの?」
エレノアが口に出した。もっと酷い言い草まで口に出した。
「言イ方!」
触手の塊が、抑揚の少ない無機質な声で抗議した。鎖の食い込む触手の塊を捩って、不満を体現した。
深刻さの欠片もない掛け合いに、アタシは笑う。悩むのがバカバカしくなる。もともと、悩むなんて性に合わない。
「まぁ、そう、無茶なら無茶を通してこその魔物ハンターよね。よし、受付嬢に説明するから、リードと触手も一緒に来てね」
開き直った笑顔で、一人と一匹に手招きした。リードが察して苦笑した。証拠を見せるためにまた退魔の剣で焼かれるとも知らず、触手が不思議そうに首を傾げていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第102話 EP12-5 退魔の剣/END
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