第100話 EP12-3 未知との遭遇
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
触手の塊みたいな見た目の、人間サイズの魔物が、魔物用のゴツい鎖でグルグル巻きに拘束される。
「我ハ、魔物ノ勇者ダ」
触手の塊が、抑揚の少ない無機質な声で主張した。鎖の食い込む触手の塊を捩って、不服を体現するように、鎖をガチャガチャと鳴らした。
触手の塊の座るボロい木のイスが、ギイギイと軋む。ボロい板床もギイギイと軋む。
「先入観なく話ができる有識者を呼びにいってるから、それまで待ちなさい。そうでなくとも、全員がピリピリしてるのよ」
エレノアが、背筋の凍る冷酷な目で、鋭く睨んだ。
「……」
触手の塊が、目を逸らして、身を捩るのをやめた。
ハンターギルドの応接室を借りて、拘束してある。広めの部屋で、窓も扉も閉じて、見張りをたてて、厳重に隔離する。
ピンクハリケーンの口の軽さのせいで、大パニックになるところだった。帝都周辺レベルの魔物が町中にいたからって、帝都周辺レベルがいると騒ぐ奴があるか。
その場は、人間の言葉を喋る魔物なんているわけないじゃないですか、との受付嬢の機転の利いた一言で、事なきを得た。肩までくらいの長さの金髪さらさらストレートヘアを六四分けにした化粧美人で、恐怖に顔を引き攣らせながらも、根性で笑顔を維持していた。ギルドの事務的な紺色の制服が似合う、仕事のできる雰囲気だった。
「一つだけ聞かせろ、魔物の勇者とやら。どうして、西の大砦を襲った?」
コルトルが、険しい顔で聞いた。
部屋には、触手の塊と、ワータイガー最上級と、エレノアと、コルトルがいる。
「我ハ、魔王ヲ封印スル大義ヲ成シニ来タ。人間ハ弱者、取ルニ足ラヌ路傍ノ石コロダ、ガ先代ノ口癖ダッタ。魔王ノ居所ヲ目指ス邪魔トナル路傍ノ石コロヲ、蹴飛バソウトシタ」
いかにも、魔物の理屈だ。
「同胞ヲ消サレテ、怒ルカ? 怒リニ任セテ、我モ消スカ?」
抑揚の少ない無機質な声は変わらない。無機質な口調も変わらない。まるで、感情がないかのようだ。
エレノアが無遠慮に、横から口を挿む。
「戦争なんて、そんなものよ。人間同士の方が、よっぽど悪質だわ」
コルトルは、溜め息を一つ、ゆっくりとはく。行き場のない感情を呑み込み、触手の塊を見つめる。
「ではなぜ、人間と話をする気になった? 路傍の石ころに、何の話があるのであるか?」
「戦イ、引キ分ケテ、弱者デハナイト、路傍ノ石コロデハナイト知ッタ。伝エ聞ク英雄譚ヲ半信半疑ニ、魔王ヲ封印スルタメニ、人間ニ協力ヲ仰グモイイカモ知レヌト考エタ」
言い終えて、触手の塊が口を閉じた。
静まり返る。部屋の外から、ハンターギルドの物音が微かに聞こえる。
相手が人間だったなら、問題はなかった。戦って、敵の強さを知って、停戦を申し込む、だけの話だ。
しかし、帝都周辺レベルの魔物で、見た目が触手の塊の邪神で、自分が勇者だなどとほざき、剰え、鎖の食い込む触手の塊を捩ってガチャガチャと鳴らす。これの何をどう信じろと言うのか。
エレノアも、コルトルも、何も答えなかった。答えられなかった。
◇
「トコロデ、コノ待遇ノ差ハ何カネ?」
触手の塊が、抑揚の少ない無機質な声で聞いた。
「ガウッガウッ」
部屋の隅に座り込んだワータイガー最上級が、白い牙の並ぶ大きな口で笑った。大きな手と比べて小さなお饅頭を肉球に載せ、大きな口に放り込んだ。
ワータイガーは拘束されていない。お茶とお菓子まで出されている。
「虎美殿は、ピンクハリケーンの友人らしいからな。醜悪な触手のバケモノより待遇が良くて然るべきだ」
エレノアが、当たり前との口調で答えた。
「言イ方! 我ハ、魔物ノ勇者ダゾ! 不公平ダ!」
触手の塊が、抑揚の少ない無機質な声で抗議した。鎖の食い込む触手の塊を捩って、不満を体現するように、鎖をガチャガチャと鳴らした。
「静かにしなさい、触手。あまり騒ぐと、先端を一本ずつ削ぐわよ」
エレノアが、背筋の凍る冷酷な目で、鋭く睨んだ。
「……」
触手の塊が、目を逸らして、身を捩るのをやめる。静寂に、金属鎧の足音が近づく。
ガタゴトとガサツな音で、ボロい木の扉が開いた。建てつけの悪い扉が荒っぽく扱われて、悲鳴にも似た軋みだった。
◇
「連れてきたわよ」
ハンターギルドの一階フロアの、応接室のボロい扉を開けた。部屋に入って、扉を閉じた。バタン、と今にも壊れそうな音がした。
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がない。両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用し、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれるランクSSの魔物ハンターだ。
「長身の平らにロリ巨乳とは、見事なまでに凸凹コンビね」
エレノアが、他意のない率直な感想を述べた。
「誰がロング俎板よ!」
アタシは間髪入れずに抗議のツッコミを入れた。ちょっと世間話をしただけで分かるほど、エレノアは口が悪い。
「こっちは、アタシの親友で、魔物研究者のフェトよ」
アタシの背中に巨乳を押しつけて腰に抱きつくフェトを、エレノアに紹介する。
フェトは、ロリ巨乳の魔物研究者である。見た目は女の子で、小柄で華奢で普段着の上に白衣を着て、長い金髪を上品に編み込んで、細い銀縁の丸眼鏡をかけ、薄化粧で小綺麗にして、胸が大きい。
「初めまして。フェトと申しましてよ。よろしくお願いいたしますわ」
フェトが、アタシの背中に抱きついたまま、エレノアたちに会釈した。でも、視線はずっと、触手の塊を凝視していた。
好奇心旺盛な子供みたいなキラキラと輝く瞳には、恐怖や迷いもある。魔物ハンターですらない一般人では、当然の反応である。一目散に逃げださないだけ、魔物研究者は普通の一般人とは違うのだなと思う。
「……あれが、魔物の……勇者ですの……? ですが、どう見ましても、邪神ですわ……」
フェトが、かわいらしい声で、困惑の口調で呟いた。
「先入観! 偏見!」
触手の塊が、抑揚の少ない無機質な声で抗議した。鎖の食い込む触手の塊を捩って、不服を体現するように、鎖をガチャガチャと鳴らした。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第100話 EP12-3 未知との遭遇/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




