サウナ好きの僕が家の庭に簡易サウナを建ててたら、いつの間にかツンツン義妹から愛されていた件
サウナというものをご存知だろうか?
いやまあ、一般的なものだから……みんな知っていると思う。大雑把に言えば『水風呂とセットになってるやつ』『熱いやつ』『汗を流せて気持ちいもの』だ。
つまるところ何が言いたいのかというと、僕はサウナが好きなのである。
サウナが設置されている近場の銭湯には、毎週通って欠かさず汗を流していた。
しかし、そんな思い入れ深い銭湯が……営業不振により閉店してしまい、僕からサウナというものが奪われてしまったのである。
──大好きだったサウナへ入る機会を失い、僕『鴉坂奏』は絶望していたのだが……ふと、あることに気が付いたのだ。
『あれ。サウナがなければ、自分でつくればいいんじゃね?』と。
その結論に至った僕は、すぐさまホームセンターへと走った。まずは簡易的なものでいいだろう。まず最初にサウナの核である熱源……今回の場合は薪ストーブだが、運がいいことに薪ストーブは家にあったのでそれを利用させてもらう。
テントの部屋として、耐熱性のあるテントを使うことにした。そういうのは家になかったので、雀の涙ほどの貯金を切り取って思い切って購入した。
ああ、失敗したな……。
自分はまだ高校生で、あまりお金がないことを忘れていたよ。
床が薪ストーブで引火したりしたら嫌というか普通に死ぬので、購入したのは……床がないタイプのテントだ。
これを家に帰って、改造するわけ。
改造する道具として、フラッシングキットと小さい煙突を買っておく。
準備万端。
お小遣いを浪費したものの、気分が上がっていた僕は……上場企業の社長気分で、帰宅した。それなりの敷地を持ち、二階建ての一軒家に。
大きめのレジ袋を右手に持って。
「ただいまー」
「……遅いわよ、お兄ちゃん。何してたの」
「いやいや、別に。ちょっと買い物してただけさ」
「買い物? お兄ちゃんも外に出れるんだね……」
「驚くとこ、そこ!?」
すると、一人の妹が出迎えてくれた。
もっとも、父さんが再婚した時に、新たな母親が連れてきた──義妹だし。妹にしては……酷く冷たい対応だと思うけれど。
それでも気分が舞い上がっていた僕は、あまり気にならなかった。
毒舌。黒髪ツインテール。黒目。すらっとした、まるで幽霊のような体型と雰囲気。
名前を『鴉坂ユメ』という。
「はあ、お兄ちゃん。早くご飯作ってよー」
「まあ待て、まだ午後四時だろう」
「もう午後四時なんですけど、お腹空いたんですけど。パパとママは今日も帰ってくるの遅いだろうしさあ」
「無茶言うなよ」
「私の言うこと聞かないとか、最低じゃない?」
いやいや、僕はむしろ最高のお兄ちゃんというか……。妹の偏った食生活を心配出来る、優しすぎるお兄ちゃんというか。
そうだと、思うんですが。
黒髪のツインテールを翻すユメは、依然として少々無茶を言う妹だ。
「最貞と呼んでくれよ」
「はい?」
「つまり、最優のDTさ」
「……ぁあ、きもっ」
むむ。
確かに、今のはすこし気持ち悪かったかもしれない。いや、ちょっとで済む話だろうか?
なにかしらの犯罪に抵触していたり、してない?
まあ、僕も彼女もまだ未成年だから大丈夫か!
「お兄ちゃんは悲しいよ」
「勝手に悲しんでて、結構よ。むしろ喜んで?」
「……ぁあ、ひどっ!」
流石はツンツンオンリーマイシスターである。
ツンデレなら一向にかまわないんだが……、実際はデレの要素を一つも見せてくれやしないただの棘々しい妹だし、勘弁してほしいものだ。
デレがなくとも、テレの一つは欲しい。
──ラブコメって、そういうものじゃないのか?
……まあ、僕が目指しているモノはラブコメ主人公ではなく、学園異能系の『覚醒したらまあまあ強くて、滅茶苦茶カッコイイ』主人公だからいいんだけどね。
学園異能系の主人公がいる舞台は、学園異能系でなければならない。
つまり、ラブコメじゃないのだ。
だから、ラブコメじゃないところに、ラブコメじゃなくないと言っても、それは当然だろうと片づけられる。
『お前は寿司屋でラーメンを食うのか?』。
……え? 食べるって?
……いや、まあ。
うん。現代はやはり多様性だよね。
「──で、お兄ちゃんは何を買ってきたの?」
「あ? ああ、これはな。……聞いて驚くなよ? 」
「やっぱ聞かなーい。面白くなさそう!」
「お前、冒頭で判断するとか……シュタ〇ンズゲートに謝れ!」
「意味わかんないよ?」
冒頭で切るのは悪だと、僕はここで断言しておこう。
それはさておき、僕のサウナ計画は聞くことさえされずに、面白くなさそうと一蹴されたので……仕方がなく、独りで誰にも気付かれずに作業しようと思う。
しょぼんとした足並みで、我が家の庭へ向かう。
◇◇◇
我が家の庭は、お世辞抜きでかなり広いといえるだろう。
具体的な数字は分からないけれど……まあ、東京ドーム五千個分ぐらいだ。いや、それは冗談だけど。
車を二十台収容することが容易な広さ、と言えばなんとなく想像出来ると思う。
資本家である両親は忙しい。
そんな彼らの心の拠り所が、庭の自然だった。
……そんなわけで、うちの庭はかなりお金がかけられていて、綺麗なのだ。
芝生が乱雑に敷き詰められているわけではなく。広がる土の道に、石のタイルが並んで装飾されている。美しく整えられた木々たち。小さいものから大きいものまでが植えられており、庭というよりは植物園のほうが近い。
「すぅ」
そんな植物園に酷似した庭の隅で、僕は自然の空気を大きく吸い取った。足元には、満腹になったレジ袋を置いている。
自然。景観の邪魔にならない。
庭の端っこであり……芝生が敷き詰められた、庭のなかだと比較的開けた場所に僕は立っていたのだ。
ここで、簡易的なサウナを作ろうと考えている。
「ここを、サウナ地とする!」
僕が好きなネット芸人を、独りでパロディしながら……届くことのない孤独ジョークをかましながら、開始の合図をあげた。
今からサウナを作る。
まず最初の手順としては、買ってきたテントを組み立てることだろう。……数万円で買った『ちゃんとしたテント』。長細い袋に入ったソレを開き、説明書を読みながら作り方を確認していく。
「まずは、テントを広げて……そして立てる、と」
そして。
「あれ、それだけ?」
今回買ったテントは、フロアレスシェルターというタイプのものだ。いわゆる、床なしテント。どうやらソイツは、普通のテントと違って……建築する工程が、非常に簡単らしい。
ポールを入れる手間もないらしい。
なるほどね。
こりゃ楽だ。
あまりキャンプとかしない僕にとって、それは『新たな知識』となるのだった。テントって、面白い。
よし。
「テントは建てたから、次だな……」
次はそう。
サウナの心臓部分。熱源の薪ストーブを持ってくる工程だ。使わない薪ストーブが、近くの倉庫に眠っていたはずなので取りに行く。
僕はよっこらせと立ち上がり、ここからそう遠くない所にたつ倉庫へと歩き始めた。
三十歩ほど歩けば、ぽつんと倉庫が建っている。
白で塗りたくられた小さめの正方形建造物。
引き戸式の扉を、僕はゆっくりと開けた。中の空気が蠕動したせいか、埃が踊る。
「げほっ! うわ、埃やばいな」
咳をすると、余計に空気が動く。そして空気が動くと、余計に埃が舞う。埃が舞うと、余計に咳が出る。
まさに負の連鎖だった。
だから咄嗟の判断で、僕は口を抑え、咳によって吐き出された空気を口内へと押し戻す。
あぶない。
死ぬところだった────。
僕はハウスダストアレルギーなんだ。勘弁してほしい。
「ぁは」
そして、ゆっくりと視線を倉庫の奥へとやった。
二度、三度。倉庫内に視線を張り巡らせて、折曲がり、何度か注意深く見て、それを発見する。あった、あれが薪ストーブだ。
「あれか」
幸い、倉庫にある棚……その上にのせられていた薪ストーブは、あまり埃をかぶっていなかった。
埃を掃除する手間が、これで当初の予定よりは少し省けただろう。
良かったぜ。
薪ストーブを持ち上げて、取り出した。
いや、かなり重いなこれ。
僕が……力持ちの陰キャじゃなければ、薪ストーブの重さだけで死んでしまっいていたかもしれない。
「よっこらせ」
そして、苦労しながらもテントの中へと持って行く。
次は最後の工程──、仕上げだ。
薪ストーブとテントさえあれば、最悪サウナは出来るのだけれど……このままだと、普通に一酸化炭素中毒で死ぬからな。
密閉空間で火を扱うというのは、紛れもない自殺行為だ。
流石にそれぐらいのことは、高校生の僕でも分かっていた。
なので……煙突とフラッシングキットを事前に購入し、用意しておいたのだ。それが今、役に立つ。
その時だった。
「あれあれ、ねえねえ、何してるの? お兄ちゃん?」
「……はえ?」
妹の声。ユメの声。
不意に、彼女の声が聞こえてきたのだ。
思わず僕の作業していた手が止まり、体全体が硬直する。
いやいや。いやいやいや。
いやまさか、わざわざ僕が何をしているのかなんて……コイツが気になるはずがないだろう。しかも、それでわざわざ聞きに来るなんて。
もうすぐで夕暮れなのに、外に出るのも気だるい時間帯に。
あの妹が来るわけない。
単なる聞き間違いだ。
これは、そう、幻聴に決まっている。
優しい妹を欲しすぎた僕という人間の願望が生み出した、幻聴に決まっている。
「って、なにお兄ちゃん? どうしたの、急に硬直しちゃって。怖いんだけど?」
ああ。どうやら僕はかなり重症らしい。
まさか幻聴だけではないなんて。
僕の静止していた視界に、入り込んできた『動く物』は生き物であり、それでいて妹の姿をしていたのだ。
幻聴だけでなく、幻覚もって……。
どんだけ願望に支配されているんだ、僕ってやつはさ。
「おーい、生きてますかー? 返事してよー」
────待て。
そんなわけあるか。
これは紛れもない、現実だ。
現実に決まっていた。
だって、そうじゃなきゃ。
彼女が僕の頬を引っ張っているのに、痛いなんてこと、有り得ないだろう?
「いでててて!」
「あ、お兄ちゃん。やっと反応した」
「そりゃこんなに強く引っ張られたら、嫌でも反応する!」
「……そ、そんなに強くやった?」
やったよ。
痛かったよ、しっかり痛かった。
「強かった」
「いやま、でもさ? 反応してくれなかったお兄ちゃんが悪いと、私は思うんだよね」
「暴論だ!」
責任転嫁にも程があるんだぞ、ユメちゃん。
「で、何をしていたのお兄ちゃん」
「さっき話そうとした時は、随分と興味なさそうだったけど」
僕は嫌味っぽく言ってみた。
あの時の、お前の発言は心に響いたんだぞと、暗示する効果があるものだ。だがしかし、どうやら彼女には理解出来なかったようで。
「え? ああ。私はいつでもお兄ちゃんに興味があったよ」
と。
なんとも語弊があるというか。
拡大解釈できそうな言葉を吐く妹が、ここに現れるのだった。
なんでそうなるのか。
いや嬉しいけれど。そうじゃなくてだな。
「ともかく! 何……してるの?」
これ以上意地悪したら、本気で彼女は怒りそうだった。僕には何の非もありやしないのに。まるで僕が悪いみたいに、説教されるのだ!
おかしな世界だぜ、全くさ。
当然。説教されたくないので、意地悪はここら辺にしておいて、僕は彼女の質問に答える。
「サウナをつくってるんだよ。あくまでも簡易的なものだけどな」
「サウナ!?」
サウナという言葉を聞き、嬉々とする彼女。
その様は、妙に興味津々だった。……コイツ、サウナ好きなんだっけか?
「サウナねえ、いいよね! グッジョブ!」
「ユメ。お前って、サウナ好きだったんだっけ? ハイテンションだけど」
「え? そうだけど。知らなかったの」
「普通に知らなかった」
「まあ言ったことないからね、そんなこと」
「分かるわけねー!」
びっくりした。
『え? 愛しい妹の趣味さえ分からないの? 当然のことなんだけど』みたいなリアクションするから、ただ僕がユメに対して無知なのかと思ったぞ。
実際はただの無理難題だけど。
なにせ僕は空気を呼んだり、関係性で察するのとか。
大の苦手だからな。
「取り敢えず。楽しみにしてるよ、お兄ちゃん。サウナ。頑張ってね」
「……お前にしては珍しいな、僕のことを褒めるとか。もしかして、この偉大なお兄ちゃんの凄さがやっと理解出来てきたのか?」
「異大さ? まあ確かに、お兄ちゃんは他の人と大きく異なってるよね。陰キャ度合いとか」
「それは勘違いだ!」
「これは漢違いだよ」
こんなの、文に起こしても混乱する会話だぞ?
漢違いなんじゃなくて、漢字違いって言ってほしいものだ。観客のためにも。
「取り敢えず。楽しみにしてるよ!」
やはり、珍しい。
妹が僕に期待の言葉をかけてくるなんて。普通はまずないからな。……やはりサウナには特別な力があるのかもしれない!
サウナは世界を救う。はっきり分るんだね、それが。
妹に喝を入れられた僕は、意気揚々と作業を再開するのだった。
妹が横で見守るなかで。
◇◇◇
「はあ、やっと終わったー!」
「完成だね!」
勿体無い気もしたけれど、テントの天井に丸形に穴を開けて、薪ストーブから煙突を通した。一酸化炭素中毒を避けるための配慮である。
当然というか、命を守るためのものだ。
そして……煙突がテントの生地に直接触れると火事の原因になってしまう場合があるので、煙突がテントに直接触れないように買ってきたフラッシングキットを取り付けた。
これで、簡易的だがサウナの完成である。
時刻は既に夜の七時を回っていた。
「よし、試運転してみるか」
腕を伸ばして、テント前に立ちながら僕はそう言った。どうせなら、妹を誘おうという粋な計らいである。……いや、全然粋じゃなくて、普通だって?
僕みたいな陰キャからすれば、これでも頑張ってるんです! 許してください。
「うん! やってみよう」
「この一酸化炭素計で試してみよう。一酸化炭素は匂いがしないから、こういうのを持っておかないと不慮の事故が起きた時に普通に死ぬ」
「当然のリスクヘッジだね!」
「……そうだな」
にしても、やはり妹のテンションが高い。
かなり高い。
「さて」
テントの中へと入る。火力になる薪は、薪ストーブと一緒に倉庫においてあったものを流用させてもらう。
あらやだ、なんてうちの倉庫は便利なのかしら。
もしかすると……我が家の倉庫は、四次元を超えて、五次元倉庫ぐらいになっているかもしれないな。
──冷静に考えると、意味が分からないけど。
いや、冷静に考えなくても意味分からないか。
「じゃ火をつけるよ?」
「うん! ワクワク」
お前はそういうこというキャラじゃないよ、と突っ込んでも良いだろうか……。いや、だめか。あれだ。キャラチェンだ。彼女はきっとキャラチェンしたのだ。
なんでだよ。
心の中でツッコミしながら、薪に火をつける。
火の付け方を詳しく説明していると、多分夜が明けるので……詳細は省くが。簡単に言ってしまえば、薪を大きく横に二本置いて、その周りを山のように、囲うように小さめの枝で着火剤代わりにするのだ。
そこにチャッ〇マンで点火し、ドアを閉める。
薪ストーブは他にも色々なことをしなきゃいけなかったりするのだが、説明は先述した通り割愛。
……数十分ぐらい経つ頃には、かなり暖かくなってきた。
室温は大体、八十度ぐらい。
サウナにしてはヌルメだが、まぁ始めだし、改良の余地はまだ沢山あるので、最初にしては上出来だとしておこう。
「暖かいな」
「私的にはもうちょっと熱さがほしいけどね」
「それは確かにそうだな」
百度ぐらいが一番好き温度である僕的にも、たしかに今はぬるい。ぬるすぎる。
持ってきた椅子に座る彼女は目を瞑って、仰向けになっていた。なんとも扇動的な雰囲気を放つ妹はなんだか綺麗だ。
いつの間にかトゲトゲが丸くなりつつあるユメに、お兄ちゃんは成長を感じたよ。
うんうん。
……ちょっと今のは気持ち悪かったかもしれない。
「ねえお兄ちゃん」
薪ストーブの薄ら灯りだけが、暗いテントの中を照らしていく。この暗室のなかにいると、なんだか落ち着くことが出来た。
人々の騒がしさを忘れることができているんだろう。
そんな中で、彼女が話しかけてくる。
「なんだ?」
「あのさ、今まで黙ってきたけど。お兄ちゃん、私……お兄ちゃんのこと、好きなんだよね」
「うんうん、うん?」
「びっくりした?」
──?
「いや、びっくりしてないけど」
「……え、そうなんだ」
「ん? ちょっと待て。誰が、何を好きだって?」
「私がお兄ちゃんを愛してるって」
──?????
急な告白に、正直僕の理解は追いつかなかった。
どうしてこうなった? と言うまでもない。呆然としながら、ただ過去に対して聞き返した。
おかしいだろう。
なんだよ、それ。
ユメが僕のことを愛しているって?
──!?!?!?!?!?
思考が冴え、理解が追いつく。
「は!? ユ、ユメが僕のことを愛しているだってッ!?」
「そうだよ、お兄ちゃん」
「いやあ、てへえ。まじぁあ、べ、別に……嬉しくないけどな?」
「私、お兄ちゃん、だーいすき!」
そう言って、いつの間にか暑苦しくなっていた部屋で彼女が僕に抱きついてきた。なるほど。暑い原因が分かった。暑いのは部屋じゃなくて、僕なんだ。
妹……義妹に愛していると言われて、気恥ずかしくなってしまったのだ。やべえ。
マジですか?
「だから」
追撃。
鴉坂ユメは、僕にその絶壁を押し付けながら、耳元で囁いてきたのだ。
「だからさ、私の誕生日プレゼントにサウナストーンを買って?」
……なるほど。
どうやら新手のパ〇活女子が、ここに現れたらしい。いや、僕はお前のパパじゃねえよ。ブラザーだよ。
ってそういうことじゃねえ!
理解した。なんで急に彼女が僕に告白してきたのか。
単純にサウナストーンがほしいからだ。
『このサウナを更に楽しみたい』という願望が隠れていない!
しかも誕生日プレゼントにサウナストーンて。どんな女子中学生だよ。パワーワード過ぎるだろ。
誕生日プレゼントにサウナストーンて。
驚きすぎて、サウナで燃え尽きてしまうぞ?
「お前、現金なやつだな」
「……現金なやつのほうがね、きっと人生は得すると思うの」
「ただ一点、僕はキャッシュレス派であるということ以外はほぼ同感だ」
「そういう意味での現金じゃないから!」
違ったらしい。
用法を間違えたか?
「まあ別に……さっきのは冗談じゃないけどね」
「はい?」
「いやだって、お兄ちゃんってなんだかんだ頼りになるし。面白いしさ。ちょっと気持ち悪いところあるけど」
鴉坂ユメは、僕を直視せずに、そう静かに吐露した。
僕からゆっくりと離れて、元の椅子に座る彼女。
なんだかおかしな雰囲気だ。
このままだと、僕はオオカミになってしまうかもしれない!
「──ちょっと、す……─きかも」
「───」
もじもじと内股で、彼女は恥ずかしそうにそう告白するのだった。僕に対して、真摯に。
「お兄ちゃんはさ、私のことどう思ってるの?」
彼女の問い。
僕もそれに……真摯に、答える。
どうやら彼女にとって、僕は思ったよりも魅力的にうつっているらしい。正直、彼女は僕のことを『クソアニメオタク陰キャ』だと捉えられていたと思っていたんだが──思い違いだったらしい。
ユメは正しく、乙女だったのだ。
「そうだな……可愛らしいと思ってるよ」
きっとそういうことじゃないだろう。
真摯に答えるとはいっても、相手は義妹だ。
で、問題なのは義妹であることじゃない……彼女が、僕の妹であることだ。僕と彼女はあくまでも『兄と妹』という関係なのである。
その先の関係には、少し踏み出せない。
ちょっとアリだと思っても───そうなんだ。
でも、そういうことじゃない!
僕は本心に問いかけた。
関係性とかどうでもいい。
そんなことは気にせずに、ただ彼女の告白を受け取るのだ。
そして僕は答える。
勇気のない僕は……、答える。
「ごめん。それを答えるには、今はちょっと早すぎると思う」
流石に──イキナリはちょっと、無理なんだ。
どれだけ今回のことで距離が縮まろうと、それはちょっと無理がある。だからゆっくりと関係性を溶かして、慣らしていこう……ということなんだ。
その言葉に、彼女は顔を俯かせた。
泣きそうなのか、肩を震わせている。
……ダメだ。泣かせはしないぜ?
「ユメ。別に僕はお前の告白を断ったわけじゃない」
「……え?」
「ただ、時に身を任せようっていう勇気なし男の、僕なりの答えが、それだっただけだよ」
「う、うん」
「妹としてお前は愛している。だけどその問いに答えるのには、まだ時間が足りないんだ」
───僕は顔を俯かせた彼女に近づいて、顔を上げさせて、眼を見た。
「だから。まずは……一緒にサウナストーンを買いに行こう。僕をおとしたいっていうんなら、話はそれからだ」
少なくとも……新たな関係性を築きたいのなら、今回のキッカケをつくってくれたサウナと共にしよう。
周りからみたら、奇天烈でおかしな関係性かもしれないが、僕はこれでいい。この関係性が心地よかったのだ。
「う、うん!」
まずはサウナストーンを買いに行こう。
そして一緒にこのサウナに入り、思い出をつくっていこう。僕たちは──新築のサウナの中で始まりの思い出を作り、そう誓うのだった。
──あれから数週間が経過した。あの後、僕はサウナストーンを買いに行き、このサウナで、ユメと様々な思い出を作っていくのだった。
だがそれを語ると、長くなってしまうので。
僕のサウナ物語はここらへんで一幕おろさせてもらおうと思う。
今後の話は、またいつか、機会があった時にでも話すとしよう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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最近は短編作品ばかりを書いているので、そろそろ現実恋愛のラブコメを連載したいなあと考えていたりします。最近全然伸びなくて、メンタルが破壊されています。そろそろ何かしら伸びてほしいなあと淡い願望を抱いている僕が、ここにいます。