53. 自由自在のようです
今日は短めですみません。
(ど、ど、ど、どういうこと?!)
突然猫に戻ったことに、恵麻は動揺して思わずエストに飛びついた。
もはやエストは慣れた手付きで恵麻を抱き上げる。
「シェド、どういうこと!?また猫になっちゃったんだけど!」
「そう慌てるな。元の体に戻るよう、念じてみろ」
「念じろって言ったって…」
よく分からないがシェドに言われた通り、恵麻はエストの腕から下りると戻れー、戻れー、と強く念じる。
なかなかうまく行かず試行錯誤する内、何となく身体がムズムズするような感覚を覚えた。
(…こうかな?)
次の瞬間ぐぁっと身体が大きくなる感覚がし、目を開ければ元の人間の姿に戻っていた。
「…って、わあああああああ!」
「…っ!!!」
幸い、猫になった時に床に落ちていたワンピースの上で人に戻ったので全裸というわけではなかったが、ワンピースが引っかかっただけの際どい状態だったため、恵麻は叫びエストは無言で目を逸らした。あと床に下着が落ちている。猫になった衝撃で気付いていなかった。最悪だ。
アワアワと身なりを整え、何とか元通りの状態に戻った恵麻は改めてシェドに迫った。
「一体何だったの!?いきなり猫になってまた元に戻って、わけわからないよ!」
「以前、この世界に残る場合身体に変化があるかもしれないと言っただろう。それだ」
「え?」
「我が与えた猫の姿が、どうやらエマに定着したようでな。お前の意志で変身できる」
「えっ…そうなの!?」
「ああ。やり方は先程ので掴んだだろう」
つまり自由自在に猫の姿になれるということか。
「それは…結構、便利かも」
「気に入ったのならいい。…エマ」
「うん?」
改めて呼びかけられ、恵麻はシェドの方を向いた。
「お前がこちらに残ること、喜ばしく思う」
「えっ…」
「これからは我と、それに我の眷属がお前と共にある。健やかに生きろ」
「…ありがとう」
シェドが優しい。少々戸惑ったが、彼が恵麻の存在を歓迎してくれることに、恵麻は純粋にとても嬉しく思った。
「ではな」
シェドはそう言うと、来たときと同じように突然消えてしまった。
それでも、何となく彼の存在を感じる。共にあるというのは本当なのだろう。
「…なんか、シェドって、結局優しいよね」
「それはまあ、エマだけにだと思うけど…」
「でも最近、エストもちょっと気に入られてるよね」
「そうかな?」
「名前呼ばれるようになったじゃない」
「確かに」
隣でエストが苦笑いしている。
大精霊なのだから人と同じ感覚は求められないと思うが、それでもシェドは何となく徐々に、こちらを気遣ってくれるようになっていると思う。
恵麻は試しに猫の姿になってみた。
コツを掴めば簡単で、今度は苦労せずに猫の姿になれた。
恵麻はそのままエストの腕の中にぴょんと収まる。
「ふふ。抱っこしてほしい時は猫の姿になろうかな」
「人の姿でもいつでも抱っこするよ」
「それは流石に重いでしょ…」
「恵麻は軽いよ、平気」
「乙女心が許さないんだよ」
軽口を叩きながらもエストは恵麻の頭を撫で、恵麻はエストの手に頭を擦り付ける。
懐かしい感覚だ。これはこれで幸せなので、やっぱり時々猫になろうと、恵麻は思った。
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