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44. 親子喧嘩②





エストはそう言い残し、恵麻たちをおいて飛び出してしまった。

獲物を見つけたドラゴンは興奮した様子で、エストに向かって火を吹き、長い尻尾で薙ぎ払い、鋭い爪で切り裂こうとする。


エストはそれを精霊術を駆使しながら避けていく。




「…ほう。あの男、なかなかやるな」

「のんびり観戦している場合じゃないって…!」



いくらエストが優秀でも、あんなモンスター相手に勝てるとは思えない。

かといって恵麻が飛び出しても、足を引っ張るだけだ。

恵麻は唇を噛み締めながら、とにかく邪魔にならないようにと木陰にシェドを引っ張って移動する。



「あっ、カミルさん!」

「ラナ様!」



途中、倒れているアイーダを抱えながら移動するエドワードとカミルと合流した。



「よかった、お二人共無事だったんですね!」

「はい。アイーダは…戦っている途中、力尽きたように倒れてしまいました。恐らく大士の術が切れたのでしょう」

「アイーダさん…」



彼女がなぜ大士についたのかは分からない。でも、今は彼女の問題は後回しだろう。



「それにしても、あの獣は…本当に大士なのですか…?」

「はい。エストが戦ってくれているのですが…」

「団長、我々も攻撃すべきでは?」

「そうだな、いくぞ」

「馬鹿者」



飛び出そうとしたエドワードとカミルを、シェドが止める。



「お前たち、精霊術士か?」

「いえ、我々は…」

「少しかじったくらいでは話にならない。遠距離での攻撃手段がないと、足手まといにしかならないだろうな」

「しかし…」



確かに、ドラゴンは高所とまでは言わないが、その重そうな身体を翼を使って浮かせている。エストは浮上するドラゴンに、精霊術で攻撃をしているようだ。



助太刀の手段もなく、ただ皆で奮闘するエストを見ているしか無い。



(どうしたら…)



時間ばかりが経つ。このままではエストの体力が心配だ。

せめて、彼のサポートくらいできればいいのに。敵の弱体化とか。



(弱体化…)



ふと、恵麻の脳裏にある光景が浮かぶ。


「…シェド、さっき、どうして私に大士の精霊術が効かなかったの?」

「ん?ああ」



先程エストに治癒術を掛けていた時、大士から至近距離で攻撃されたにも関わらず恵麻には効かなかった。到達する前に、掻き消えたのだ。



「お前は異なる世界から来た。故に霊力を持たず、まっさらな状態だ」

「うん、今私に宿っているのは、シェドの霊力だもんね」

「そうだ。元々霊力を持たない身体だから、いくらでも霊力を吸収することができる。この世界の人間ならば、一滴だとしても霊力を持つため、拒否反応を起こして他者の霊力吸収は出来ない」

「それは私が器だっていう理由でしょ?」

「そうだが、それは我の霊力に限らない。あの時お前は精霊術ごと吸収したんだ」

「えっ?」

「あの男が放った、風術と火術だったか。元になる霊力ごと吸収した」

「そんなことってあるの?!」

「まあ、あるんだろうな」

「でも、今まで近くで精霊術使われても、何も起きなかったのに」

「無意識だろうが、先程の攻撃をお前の身体が拒んで、吸収したんだろう」



無意識。初めて治癒術を使ったときもそうだったが、無意識でやっていることが多すぎる。



(でも、私が意識的にそれをできれば…)



「まあ、そう悲観するな。あの男、なかなかやるぞ」

「え?」


シェドに言われて目をやると、エストが放った攻撃が大士ドラゴンの翼に直撃し、ドラゴンが落ちてくるところだった。

ドラゴンはちょうど恵麻たちの近くに大きな音を立てて落下する。



「地上にあれば、私達も攻撃ができる!行くぞ!」

「はい!」



エドワードとカミルが勢いよく飛び出していき、エストを含めた3人はドラゴンを囲むようにして攻撃を始めた。

騎士二人の動きは凄まじく、ドラゴンはみるみるうちに弱っていく。



「すごい…!」



これなら勝てる。

そう思った次の瞬間だった。




「がああああああああああああああああ!!!!!!!」



ドラゴンが大きな口を開け、地面が割れんばかりの咆哮を上げた。実際に地面が揺れ、木々が嵐の中にいるかのように激しく揺れる。エストも騎士二人も、立っていることも出来ず耳を押さえてしゃがみこんだ。シェドがすぐに防御してくれたため恵麻は衝撃を受けなかったが、巨大な咆哮は防ぎきれず、耳鳴りがひどい。



ドラゴンは咆哮を終えると、狙っていたかのようにしゃがみ込むエストに向かって口を開けた。



「エスト!!!」

「エマ、動くな!」


その後のことは、よく覚えていない。

どうやってそんなことが出来たのか分からないが、恵麻はシェドの制止も振り切り、エストに向かって駆け出していた。




頭では分かっていた。

ドラゴンの口から放たれようとしていたのは、巨大な火柱だ。恵麻一人がエストの前に立ちふさがったって、防げるようなものではないし、エストを突き飛ばしたとしても彼を助けられるほど遠くへは飛ばせないだろう。



勝算はかなり低かった。でも、そうせずにはいられなかった。



たとえ失敗したとしても、エストと一緒に死ぬなら、それで良いかもしれない。

器が死んだらどうなるのか、それだけはシェドに申し訳なく思うけれど。




恵麻はぼんやりと、そんな自分勝手なことを考えていた。





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