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42. 大士との対決②





「エスト!!!」


恵麻は彼の左半身が血に染まるのを見て、悲鳴のように叫んだ。

エストが、血を流している。エストが、エストが。


「エマ」

「ちょっと、出掛けてくる!」



恵麻は意味のわからないことを叫びながらも、シェドの手を振り払い、結界から飛び出していた。

シェドは浮いていたので、数メートルほど落下する。恵麻は必死に風術を使い、火事場の馬鹿力ならぬ馬鹿精霊術で、みっともなく転がったが何とか怪我はせずに済んだ。



「エスト!!」



転がった体勢から必死に顔を上げ、エストの名前を叫ぶ。

またもや転がるようにエストの元に駆け寄り、大士からその身体を奪うように抱き寄せた。


「エスト、聞こえてる?!エスト!!」

「…ら、な」


幸いにもエストに意識はあったが、彼の左脇腹からはおびただしい血が流れ出している。


(脇腹、脇腹って大事な臓器があった気がする、とにかく止血、いや、治癒術、治癒術しかない)


恵麻は初めて見る大怪我に半ばパニックになりながらも、エストの怪我に集中して治癒術を発動しようとした。


(大丈夫、できるはずよ。今できなかったら私、何のために練習したのよ。流れに身を任せて、そう、あのときと同じ…)


しばらくして身の内から温かいものが溢れてくるような感覚がしてきた。同時に光が二人を包む。今ならわかる、これは霊力だ。



(お願い、エストを助けて。傷を治して。お願い…!)







「器の女、お前も精霊術が使えるのか。だが私の目の前でこんな無防備になるとは、愚かだな。二人で仲良く死ね」


大士が何か言い、恵麻達に精霊術を放ったのが感覚でわかった。


(…うるさい)


治療に集中していた恵麻は、向かってくる攻撃的な気配にもそれしか感じなかった。

そしてその気配が、恵麻達に届く前に霧散する。



「…は?」



大士は何度か恵麻に攻撃を放つも、その全てが恵麻に届くことなく消えていった。



「お前…何者だ?何をした?!」


大士がここに来て初めて、動揺したような声を上げる。




結界ではない。恵麻は今、治癒術しか発動していない。

大士から見た恵麻は隙だらけだ。

しかしその体は大士の放つ精霊術を全て、吸い取るようにして消してしまった。



「…不気味な女だ。だがこれなら避けようがあるまい!」



大士は氷のつららを握りしめると、それを持って恵麻に斬り掛かった。



しかしそれも届くことなく、大士は見えない壁のようなものに当たってひっくり返るように転倒した。



「…もうそろそろ良いだろう。我は十分に待った。もう待つにも飽きた。お前を殺せば終わり。そうだな?」


振り向くとシェドがいつの間にやら大士の目の前に降り立ち、そう言い放った。大士を睥睨しながら、躊躇うことなく彼に向かって手をかざす。



「…ば、馬鹿め、かかったな!!」



しかし大士はそう叫ぶ。

すると、辺りにいた騎士や精霊士がバタバタと倒れ始めた。

同時に黒い靄のようなものが現れ、周囲を暗くする。

 


「あいつらは人柱よ!お前が私の目の前に来る、その瞬間を待っていた!!」



黒い靄はどんどんと濃くなり、シェドを包んでいく。



「シェド…!」



何やら良くないことが起きているのは、恵麻にも分かった。



(もしかして、封印が発動しているの…?最初のときと違う、真っ黒いなにかだけど‥!)



恵麻はまだエストを抱えている。彼の傷は治りかけているが、完全ではない。彼に助言を求めるのは無理だ。



「シェド!!!」



恵麻はとにかく無我夢中で、一歩離れたところに立つシェドの足を引っ張った。シェドがぐらりとバランスを崩し、正座のような体勢でいた恵麻の膝の上に倒れ込む。



黒い靄はしかし、そのままシェドを追いかけるようにして近付いてきた。



「ぎゃーっ!気持ち悪い!」

「エマ、何か策があったのではないのか?」

「ないよ!とにかくあれにシェドを連れて行かれないようにって思っただけ!大精霊様頑張って!」

「そうしたいが、これは発動すると面倒なタイプだ」

「そんな!」


恵麻とシェドがキャンキャン騒いでいると、意識を取り戻したのか、エストが掠れた声で呟いた。


「…ラナ、これ、を」

「エスト?!」

「これ、を、くだいて」


エストが血まみれの手で差し出してきたのは、布に包まれた小さな黒い石。


いや、いつぞや手に入れた、核だ。


「砕いていいのね?!」


エストは青い顔でコクコクと頷く。

恵麻は急いで核を近くにあった石で叩いた。砕けない。


「シェド!何か固いもの、ない?!」

「…ほら」


シェドの手から放られたのは、見たこともないような美しい、白っぽい半透明の石だった。

しかし見惚れている暇はない。恵麻はその石で、核を渾身の力で叩いた。




バギ、と核が割れた瞬間、濃密な霊力の気配があたりに飛び散る。

あまりの濃さに、さすがの恵麻も軽く胸焼けのようなものを感じた。

エストに至っては顔面蒼白で、手で口元を押さえている。恵麻は慌ててハンカチで彼の口元を拭った。



核を砕いても黒い靄は変わらず恵麻たちを包み込む。辺りが真っ黒になり、もうダメかも、と思った次の瞬間、パンっと景色が晴れた。

何事もなかったかのような青空が、頭上に広がっている。




「…は?」



間抜けな声を上げたのは大士だ。彼は尻餅をついた体勢で、こちらをぼんやりと見ている。


「…は、ぁ」


しかし大士は段々と苦しそうな表情に変わる。息が荒い。


「…?」


恵麻がわけも分からず見守っていると、大士の顔が赤くなり、そして、赤黒く、ついには黒に近い色に染まってしまった。



「あ、が、ぁ、ぎゃぁ、く、がげ」



大士の口からは言葉にならない、叫び声にもならない苦悶の音が漏れる。


「あ、ぁ、が、がぁぁ、ぎゃぁぁぁ!!」

「きゃあっ!!」


大士の喉から断末魔の叫びが飛び出す。

思わず恵麻も叫び、身を竦めた。



彼の叫びを皮切りに、大士の身体が変形していく。

猫背と言うには異常なほど背が丸まり、四肢が変な方向に曲がる。見える範囲すべての肌の色が黒くなり、手足が人間の2倍ほどに膨れる。身体もどんどん大きくなり、肌が爬虫類のような皮となり、ついには背から羽が生えた。




その姿は、まるで漫画や映画に出てくるドラゴンだった。




いつもイイネ、ブクマ等ありがとうございます!

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