26. 人間でお姫様抱っこはキツすぎる
話の区切り的に短くなったので、もう一話連投します。
「…大丈夫?ラナ」
「エスト…?!」
ローブを着た人物はエストだった。
彼はかなり心もとない格好をしている恵麻を見ると、着ていたローブを慌てて恵麻に着せ、気遣わしげに恵麻の顔を覗き込んだ。
「怪我は…?ああ、こんなに」
「え、エスト、その、なんで…」
どうして恵麻が恵麻だとわかったのか。今の術は何なのか。というかこのローブはどこから持ってきたのか。色々と聞きたいことがあって、恵麻はどもった。
そんな恵麻を見て、エストはふっと表情を緩める。
「ラナのことなら、すぐにわかったよ」
「ど、どうして?」
「うーん、表情、かな?猫のときと変わらなかったよ。あとは瞳の色も同じだし」
「表情…?猫に?」
「とにかく、移動しよう。ここは精霊塔の裏手の森で、さっきの場所からあまり離れていないんだ。私の使える転移術だと、少しの移動が限界で」
「むしろそんな術を使えるのが驚きだよ…」
「ほとんど使う場面がなかったんだけど。まさかこんなふうに使えるとは思わなかったよ」
エストはそう言うと、恵麻の膝裏に手を入れ恵麻を抱え上げた。俗に言うお姫様抱っこだ。
「うゎ、エスト?!」
「ちょっと我慢してね。とりあえず落ち着ける場所まで逃げよう」
「私、歩けるよ!」
「駄目だよ、裸足だよ。こんな森を裸足で歩いたら、それこそ怪我するよ」
「でも、私、もう猫じゃないから…その、重いから!」
そう、猫のときとは違う。
エストに抱っこされるのは慣れっこだが、人間状態でされるのは恥ずかしすぎる。
恵麻は顔が熱くなっていくのを感じた。
「…、全然大丈夫だよ。気にしないで」
「なんか、間があった!変な間があったよ!」
「気の所為だよ」
結局エストは森の奥で湖を見つけるまで、恵麻を抱え続けた。




