死期神書類
「おはようございます」
立花は小さく手を振る。
「立花、急ぐぞ」
新一は淡々と言う。
「はい」
立花は慌てて追いかけた。
「今日の魂は80代男性。死因は心臓発作です」
立花はそう説明する。
「場所は?」
「病院です」
新一の問いに立花は答える。
「分かった」
二人は総合病院へ向かった。
総合病院。
「この病室の男性です」
立花は病室前の名札を確認する。
「行こう」
「はい」
ピー。
――停止状態。
――このまま、行けば、魂が勝手に出てくるはず。
――そこで魂を確保すれば……。
「おかしい。本当にこの男性か?」
新一は疑問に思う。
「どうして?」
「魂が離脱しない」
「え!? そんなはずは!」
立花は資料をあさる。
「あれ?」
「どうした?」
新一は彼女の方を見る。
「死期神の書いた書類がない」
「なくしたのか?」
「そんな」
立花は血の気が引く。
「ちょっと待て、それを見せろ」
「え?」
――白紙の紙。
新一はそれを手に取る。
「なぜ、白紙が?」
「情報が抜き取られたのではないか?」
新一はそう推測する。
「一体、誰が?」
立花は問う。
「この場は、一旦、引こう。戻るぞ」
「はい」
天界の資料室。
「あったか?」
新一は立花に問う。
「まだ、見つかりません」
「そうか」
「一体、何をしているんだ?」
幸之がやって来た。
「あ、湯木君」
立花は顔を上げて、表情を明るくする。
「これを見ろ」
そんな彼女を無視して、新一は彼に話しかける。
「ん?」
「死期が記された資料が、白紙に変化している」
新一は彼にその白紙になった資料を見せる。
「というと?」
「誰かが、資料の情報を抜き取っている」
「なるほどね。他にも同じことが起こっているものがあるかどうかを調べていたのか」
「まぁな」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう」
立花は少し微笑んだ。
一時間後。
「あ! これ、白紙!」
立花は声を上げる。
「何!?」
「見せてみろ」
二人は立花のところへやって来る。
「本当に白紙のようだな」
幸之は確認する。
「これじゃ、元々誰の死期紙か分からないな」
新一は腕を組む。
「いや。これは分かる」
「え?」
幸之は呟くように言った。
「この棚の死期紙は俺が作成した。だから、この棚の資料は俺が覚えている」
「そうなの?」
立花はきょとんとする。
「あぁ、安心しろ」
幸之は微笑む。
「それで、誰なんだ? 魂の持ち主は」
新一が話を先へ進める。
「10歳の男児だ。一ヶ月前の冬、氷の張った湖に落ちたが、奇跡的に生還した」
「何か、共通点はあるのか?」
「あぁ、同じ病院に運ばれている」
「え!?」
立花は驚く。
「あの病院に何かある」
幸之はそう言う。
「行ってみるか?」
新一は問う。
「それがいいな」
「私も行きます!」
三人は総合病院へ向かった。
三人は一般の人間には見えない。
――怪しい人物なんて、どこに?
立花たちは辺りを見回す。
――なにあれ!?
立花は驚いた。
「おい、あれ。ヒトカタの札を病室に埋め込んでいるぞ」
幸之は指さし、言う。
「何!? 確かにそう見える」
「あいつら、誰だ? 何の為に」
幸之は彼らを初めて見た。
「十二支団」
「え?」
立花はぽつりと呟く。
「前回の魂、紛失事件は十二支団っていう人物たちが関わっていたの」
「十二支団? ということは、十二人いるのか? あいつらがその可能性があるということか?」
「あぁ」
新一が答えた。
「なるほどね」
幸之は納得する。しかし、新一が止める。
「ここで、戦うのは危険すぎるだろ」
「それもそうだな。だが、先手必勝だろ?」
「行くか?」
「あぁ、行こう」
「ちょ、ちょっと!」
立花の制止も聞かずに、二人は鎌を持ち出し、走り出した。
――人間に見られてないからって!
立花も後を追った。
「お前ら! 十二支団か!?」
新一が叫ぶ。すると、寅の渡亘と卯の佐富里美が振り返った。
「それがどうした?」
亘はかぎ爪を構えた。すると、新一は亘に鎌で切りかかろうとした。しかし、攻撃は届かなかった。
「何!?」
隣の里美が毒霧を放ったのだ。新一は倒れた。
「新一!」
立花は驚きのあまり、フリーズした。
――そんな!
「お前もくらえ!」
里美は毒霧を吐く。しかし。
「結界!」
立花は結界を張る。
「ちっ! 書類守護神か」
里美は舌打ちをする。
「そんな結界、切り刻んでやる!」
亘が襲い掛かる。しかし。
「大丈夫か?」
幸之が鎌で亘のかぎ爪を受け止めた。
「攻撃は、俺にしてもらおうか」
「生意気な」
亘はかぎ爪を構える。じりじりと距離を詰める。そして、きぃぃぃんと刃物の交わる音が辺りに響いた。
「俺に勝つつもりか?」
「当たり前だ」
きぃぃぃん、一旦離れた。そして、再び轟く。
「新一! 大丈夫!?」
立花は新一に駆け寄る。
「あぁ、何とか」
新一はよろよろと立ち上がる。
――くそっ! かっこわりぃ!
「俺は毒霧の奴をやる。お前は結界を張って、援護してくれ」
「うん。分かった」
立花は頷いた。
「さぁ、かかって来い」
里美は煽る。新一は鎌を構え、里美へ襲い掛かる。
「毒霧!」
里美は毒霧を吐く。しかし、立花が結界で封じこめる。
「ちっ! 厄介な」
里美は舌打ちをする。
「縮小」
「何!?」
――まさか、毒霧を圧縮させて? なのか!?
「爆破!」
それと同時に結界が破裂した。そのせいで、中の圧縮された毒霧が飛び散った。
「危なっ!」
幸之は驚く。
「大丈夫。結界はこちらにも張っていたから」
立花はそう説明する。
「ありがとう」
幸之は礼を言う。すると。
「くそっ! 覚えておけよ!」
「ん?」
小さな妖怪の姿に戻った二人は、少し甲高い声でそう言うと、立ち去って行った。
「一件、落着だな」
新一は胸を撫でおろす。
「あ、見て。魂が病室から」
立花は指さす。
「心臓発作の男性のものだろう」
「回収してくれよ? 俺は先に天界へ戻る」
幸之はそう伝える。
「あぁ、分かった。あとは任せろ」
新一がそう答えた。
「じゃ」
幸之は背中ごしに手を振る。
「一ヶ月前の男児の魂も体から抜け出ているはずだ。回収しに行くぞ」
「はい」
新一の指示に、立花は笑顔で返事をした。