08 覚悟
朝食など朝の準備を済ませた後、今日の探索開始。
この辺りの森は深すぎて、まともな地図など当然無い。
広範囲探査魔導具に表示される地形絵図が、唯一の目安。
「やっぱりこれって、アレですよね」
アイネさんが探査魔導具の表示を指差す。
表示の一部分には、びっしりと赤い光点の集まり。
光点の、緑は味方、赤は敵。
つまりその場所は、魔物の超密集地帯。
「目視確認出来る距離まで接近、遠視魔導具にて調査、以降の判断は現地にて」
シェルカさんの指示に従い、全員前進。
速やかにして静かなる行進にて、目的地付近に到着。
平坦な森の中でも少し小高い場所を索敵地点と選んで、
まずは目視確認。
森の木々が食い採られたような、アレは何だ?
円形状の異様な何かが見える。
広大な、円形の、おぞましい色の、何か。
うごめいている。
目視でも分かる、異様な、集団。
どうやらアレこそが、震源地にして今回の依頼の原因の場所。
要するに、とんでもない数の……
ものすごく見たくないけど、
覚悟を決めて、
遠視魔導具を覗き込むと、
「うわっ、何アレッ」
遠視魔導具を覗いたアイネさんの、心底嫌なモノを見たとでも言うような、つぶやき。
俺が覗いたモノは、
うぇっ、確かに、嫌なモノ、でした。
岩を寄せたら、下には虫がびっしり、という嫌な思い出。
遠視魔導具で見えたのは、正にそれ。
そしてあの一匹一匹は、虫では無い。
つまり……
「なんだ、あの数は……」
いつもは冷静沈着なシェルカさんが、絶句している。
「流石に、直接攻撃で一匹ずつでは……」
ミナモの、困惑したつぶやき。
「ここまで来てくれた皆には申し訳ないが、一時撤退して策を練り直すのが良かろう」
シェルカさん、苦渋の表情。
皆、困惑顔。
いや、アイネさんだけは思案顔、だな。
「アイネさん、何か策でも?」
俺の問いに、意を決したように語り出したアイネさん。
「私の長弓の封印解除での全力攻撃なら、あの魔物の群れを消滅させられます」
「つい最近、久しぶりに封印解除して大きなストーンゴーレムを射たんですけど、魔力全開じゃなくても消滅できたんで、本気の全開を出せば絶対にやれます」
「問題がふたつあるんです」
「この長弓の封印解除攻撃って、動物・植物・鉱物問わずに生物全てに効果があるんですけど、もしあの魔物たちの中心に原因になる何かがいても、跡形も無く消滅させちゃうんで、依頼の目的の原因調査ができなくなっちゃうんです」
「それともうひとつ、全力攻撃したら、私、魔力切れで動けなくなっちゃいます」
「魔物の群れが消滅した後で何か問題が発生しても、足手まといにしかならなくなっちゃうんです」
「どうするかの判断、シェルカさんにお任せしちゃってもいいですか」
見つめ合う、アイネさんとシェルカさん。
突然、シェルカさんが、微笑んだ。
「私は、この素晴らしいパーティーのリーダーを任されました」
「皆さんの力、これまでの旅で十分以上に理解しております」
「アイネさんが出来ると言ったなら、魔物の群れの消滅を必ずや成し遂げてくれると信じています」
「ミナモさんの薙刀の業前と制圧範囲の広さは、アイネさんをかばいながらの防衛戦を任せるに値するものです」
「シナギさんの確殺斬撃は、何が起こるか分からない戦闘において、最も頼りとなる切り札になります」
「私もこの素晴らしいパーティーのリーダーとして、必ずや任務完遂と皆さんを無事に帰還させる事を、騎士の名誉とこのパーティーの誇りに懸けて誓いましょう」
「皆さん、覚悟はよろしいか!」
言葉は無し。
全員、覚悟のまなざしにて了承。