05 俺
討伐メンバー四人目にしてしんがりは、俺、シナギ。
俺については、先日あらかた語りましたので、
流派について少々補足など。
俺の修めた流派『深影』
目指すは、大切な者を守るための確実な勝利。
などと申しておりますが、
実は、大切な者とは表流派の継承者。
要するに裏流派『深影』は、表流派を命懸けで守る用心棒なのです。
表流派は、本流『表陽』
正しく刀を振るうための技、とでも申しましょうか、
御前試合などでも恥じぬよう、
正々堂々が持ち味の、愚直なまでに真っ直ぐな業前。
次期当主たる兄上が修めた『表陽』
強いです。
まともに試合えば、万に一つも俺に勝ち筋などありません。
試合なら、ですけどね。
それでも、無敵では無いのです。
勝負に影響する様々な要因、
一つ読み違えれば『表陽』を極めた者とて、敗北するのです。
ご先祖様のどなたかが、思いつきました。
流派を絶やさぬため、ただそれだけのための裏流派をこしらえてでも、守護すべし。
裏流派『深影』
基本は、表の技。
ただし、正々堂々とか、真っ向勝負とか、
そう言うのは全部うっちゃって、
目指したのは、ただひたすらに、勝つ事のみ。
死角を攻める、
意表を突く、
急所を堕とす、
そして、とどめを刺す。
とても分かりやすいです。
でも、当たり前ですが、こんなのは名門道場が表立って誇れる業前では無いのです。
より確実な勝利のために、というか更なる強さを磨くために、陰ながら実戦にて実践されてきました。
コイツはヤバいという道場破りが来た時とか、
あの流派は将来ライバルになりそうだ、となれば、
惜し気も恥ずかしげも無く、裏を投入。
そして勝利のたびに更なる改良を繰り返されて、
ただ勝つためのみの裏流派、いっちょ上がりです。
当然、当代にも、裏流派の師範がおります。
俺の叔父上です。
普段は飄々として武芸者らしく無いのですが、
俺との修練の場では、鬼、でした。
前述の通り、体さばきに変なクセが付いてしまった俺は、
表流派の方を早々に見限られ、
叔父上を師として、裏流派『深影』を叩き込まれます。
修行は過酷でしたが、自身が徐々に強くなっていく過程は、俺なりに楽しいものでした。
まあなんだかんだと、叔父上と気が合ったというせいもあったかと。
妖刀呼ばわりされていた家宝『ぶなしめじ』は、叔父上の愛刀となってました。
首しか切れないなんて、表流派ではとてもじゃ無いけど使えませんでしたし。
家を出る際に、親父殿から『ぶなしめじ』を持っていくように言われました。
叔父上には以前から話を通してある、と。
親父殿なりに、アレな三男坊に気を遣ってくれたのかもしれません。
故郷の街の外、林の中にあった叔父上の家。
「コイツも『深影』もお前には合ってるが、死にたくなければ『深影』の型にこだわるな」
『ぶなしめじ』を手渡してくれた時の、叔父上の言葉です。
長旅の途中の荒事をこなすうちに、段々と意味が分かってきました。
"受け継ぐ人が途絶えぬ限り『深影』は今なお進化中"
ですよね、叔父上。
で、今は、用心棒兼冒険者に。
実は『深影』を進化させる事より、冒険者としてのあれこれを学んでる方が面白いのです、
なんて言ったら、叔父上は怒るかな。