14 帰路
森から抜ける道中では、特に問題無し。
残存する魔物とそれなりに遭遇したが、質・量共に異常と言う程では無し。
無事に森を抜けると、辺りに見えるは道無き草原。
「まだ日は高いのですが、ここで一晩休んでいきたいのです」
ややお疲れの様子のシェルカさんの言葉に、一同、即了承。
野営の準備もてきぱきと、お互いが阿吽の行動。
焚き火の準備中、皆の姿を眺めながら、ふと思う。
もし眠り姫たちにいたずらしていたら、この平穏な気分は味わえなかっただろう。
たとえそれがバレなかったとしても、だ。
これまでの旅で育まれた信頼を裏切らないで済んだこと、
自分のへたれに感謝しながら、焚き火の準備に集中。
夕食は、お芋多めの優しい味付けの煮込み料理。
お疲れシェルカさんも、優しい笑顔で味わいながら食しておられますね。
しかし何と言いますか、アイネさんの料理ですが、美味いの一言だけではバチが当たりそうです。
家を出て旅暮らしをしてきた身には、美味い料理を常に作れることがどれほど大変でいかに凄い事なのか、身に染みて分かるのです。
しかもアイネさんは『えろスライム』戦でも分かる通り、冒険者としても傑出した能力をお持ちなのです。
『天は二物を与えず』などと言いますが、その後には『自らの行いこそが所持する能力の数と価値を決める』と、続くのではないのでしょうか。
料理に限らないアイネさんの素晴らしい能力の数々は、決して才能にあぐらをかいたものではない。
彼女を支えてくれた人たちとの絆と、それに応えるべく努力してきたアイネさん自身の頑張り。
父親のロイさんが羨ましいな、なんて考えてしまう、俺。
もちろん、シェルカさんもミナモも、アイネさんと同様、賞賛に値する素晴らしい乙女。
今回の冒険、いろいろありましたが、このシナギ、勿体無いくらい幸せなのです。
などと、もの思いにふけりながら皆を見まわすと、
シェルカさん、うつらうつらと、おねむ。
「安心、しちゃったみたいですね」
見つめるアイネさんの、優しいまなざし。
「故郷の味、ですものね」
ミナモのつぶやき。
なるほど、そこまで考えていらしたとは。
あのお芋多めの煮込みは、シェルカさんの故国クルゼスの名物家庭料理。
初めて組んだパーティーのリーダーを頑張ってきた、お疲れシェルカさんへのねぎらいのご褒美、なのですね。
気遣ったアイネさんも、それに気付いたミナモも、なんて言いますか、凄いな。
「またいつか、このメンバーで冒険したいですね」
俺のつぶやきに、ふたりとも、うなずいてくれました。
「それはそうと、シェルカさんが風邪をひかないようテントにエスコート、お願いしますね」
もしもしアイネさん、そんなとんでもクエストをいきなり依頼されても……
「せっかく気持ち良さそうにおやすみしているシェルカさんを、起こしたりしたら、お仕置き、です」
もしもしミナモさん、とんでもクエストの難易度をさらに上げちゃってどうするんですか。
乙女ふたりからの、挑むような優しい眼差し。
うむ、それでは、やってやろうじゃありませんか。
実はこんな事もあろうかと、お姫さま抱っこについては予習済み。
我が心の師匠であるカミスさんが、
不覚にもお姫さま抱っこで腰を痛めた際に、
二度とお姫さま抱っこなどには負けぬようにと、
こっそりふたりで文献を読み漁って、
お姫さま抱っこのノウハウを学んだのです。
なぜジオーネ図書館にそのような文献があったのかはさておき、
今の俺は、お姫さま抱っこマイスターとでも呼べる存在。
もちろん実技はまだだがな。
それでは、
せーの、




