第一話 初めまして。
主人公は天才型なので、物事がとんとん拍子に進みます。
つまり!
このシーンもとんとん拍子で進みます!
「あはは~!流石、黒!似合う~!」
「…。」
何でこうなったんだ。
・・・
春。
「あ~。飽きたわ~。」
「は?お前、またかよ?この間、働き始めたばかりじゃねぇか。」
「仕方ないだろ?だって、つまらないんだから…」
「つまらないって…そんな理由、初めて聞いたわ。」
とある喫茶店の一角。
のんびりした日曜日の昼下がりに、男が二人でお茶をしていた。
その片方が俺『黒木 流星』。
俺は今、昔からの友達に愚痴を零していたところだ。
会話の内容は俺の悩み事。
飽き性の俺は、色々な仕事を転々としていた。
駄目だとは分かっているが、飽きてしまうから仕方ない。
今までの仕事の中で、一番続いて3ヶ月だ。
「逆によくそんなに仕事を変えられるな。」
「そうか?」
「普通じゃねぇよ。俺は今の仕事を失ったら終わりだよ。」
「そんなもんかなぁ。」
「そんなもんだよ。それに比べていいよな~。お前は何でもできて!」
「…。」
「身長高いし?イケメンだし?そりゃ、女にモテるし?運動もできるし?頭だって」
「あー!もう、分かったって!これからは愚痴零したりしないから!」
「冗談だよ。」
「…もう、何を信じればいいか分からない。」
「ごめんごめん。」
「…相談に乗ってくれるなら真剣に頼む。」
「はいはい…そうだなぁ… 彼女でもつくってみたら?」
「…何で?」
「何でって…彼女のために頑張ろうとかなるじゃん。やる気がでるかも。」
「それは興味無いかな。」
「はぁ!?だいたいさ、何であんなに告白されといて一回も付き合ったことないんだよ。」
「…興味ないから?」
「…チッ。」
「今、舌打ちが聞こえた気が」
「気のせいだ。」
「そうか。」
「あぁ。あ、森の中にあるお屋敷で、お嬢様の専属執事の募集してるみたいだぞ?泊まり込みだって。お前、今のマンションの契約もうすぐ切れるし、ちょうどいいんじゃね?」
「え、何で急に?」
「検索したら出てきた。面接行ってきたら?つーか行け。」
「はーい。」
こんなアップテンポの会話が俺の退屈な人生を変えるなんて、全く思わなかった。
この友人には感謝してもしきれないな。
・・・
面接は勿論、完璧。
俺は完璧主義者だから、何に対しても全力投球だ。
採用通知が来てから丁度一週間たった今日、初めてお嬢様と対面する。
荷物をまとめた俺を迎えに来たのはなんと黒いリムジン。
初めて乗った高級車に興奮を覚えながら、お屋敷へ向かう。
にしても…もう何時間も走行している。
そろそろ着いてもいいと思うが…
何でこんな森の奥にわざわざ家を…?
「まもなく到着します。」
「あ、はい。」
考えを遮るように告げられ、窓の外を見ると、本当に木しかない。
こんなところに家なんてあるのか?
まぁ、頑張ろう。
体をほぐそうと立ち上がった瞬間、
「うわっ!」
クルマが急ブレーキで止まり、体が前に傾いた。
危ない危ない。
もう少しで転ぶところだっ
「着きました。」
扉を開けた運転手と、変なポーズの俺の目が合う。
運転手は呆然としていたが、じわじわと笑いを堪えている顔になる。
俺は恥ずかしくなって、小さく咳払いし、身だしなみを整えて、リムジンから降りる。
「おっ、お気をつけて!」
今にも笑いだしそうな声で告げられ、顔から火が出そうだった。
大きな門をくぐり、長い庭園を通り、お屋敷の扉を開くと、そこには年を召した執事らしき人物がたっていた。
その人は俺を見るなり、恭しく頭を下げて言った。
「黒木様、お待ちしておりました。私『西原 伝蔵』と申します。お嬢様の専属…いえ、元専属執事で、お嬢様には『銀』と呼ばれておりました。しかし見ての通り、もう年ですから、この仕事を若い人に継いでもらいたく、募集しました。私はもう仕事を辞めた身ですが、最初の一か月はお邪魔させていただきます。何か分からないことがあれば、何でも聞いて下さい。」
「はい、よろしくお願いします。」
成る程、この方が上司にあたる方か。
いい人そうで良かった。
今は、まだ仕事の質問は無いが…一つだけ気になることがある。
どうでもいいことだけど…何で呼び方が『銀』になるんだろう。
名前には一切関係ないと思うけど。
…変わった感性を持ったお嬢様なのか?
それとも、よっぽど幼いとか?
そんな呑気なことを考えていると、銀が声をかけてきた。
「黒木様。お嬢様がいらっしゃいましたよ。あの方が『桜木 乃ノ花』お嬢様です。」
急なお嬢様の登場に、慌てて顔をあげるが…そこには誰もいなかった。
辺り一面見回してみても、誰もいない。
…まさか、幽霊っていうオチはないよな?
勘弁してくれ。
怖いのは苦手なんだよ…
このままでは、この身が危うい気がしたので、恐る恐る銀に尋ねてみる。
「あの、お嬢様はどこに…?」
「あ、申し訳ありません。お嬢様は人見知りなので…あの柱の裏に隠れておられます。」
成る程。
大きな柱の一つからひょっこりと柔らかそうな髪が覗いていた。
幽霊じゃなくて、心底ほっとしたよ。
しかし、人見知りか…
こちらから歩み寄らなくては、始まらないな。
俺はゆっくり近づいて、優しく声をかけた。
「始めまして、お嬢様。私は新しい専属執事を勤めさせていただきます、黒木 流星と申します。これからどうぞよろしくお願いします。」
「!?」
髪がビクッと揺れたかと思うと、柱の陰に引っ込んでしまった。
何がいけなかったのかが全く分からなくて俺はどうすることもできなくなり、お嬢様の次の行動を待っていた。
3分くらい待つと、お嬢様はそっと顔を覗かせた。
俺と目が合うと、お互いに固まる。
見つめ合ったまま動けない。
けれどお嬢様は先に我にかえり、急いで銀のところへ避難し、影からこちらの様子を伺った。
だが、俺はそれどころではない。
まだ固まっていた。
なぜなら…
お嬢様…可愛い過ぎだろー!!!
まだ幼い子供だと思っていたのに、高校生くらいで驚いた。
可愛くて、愛らしい顔立ち。
スタイル抜群。
俺は初日で、お嬢様に心を射ぬかれたのだった。
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