★単行本発売記念SS バチバチの二人、決着?
待ちに待った冬休みがやってきた。実家へと帰省した私は、最愛の弟との再会を果たした。
「サム……!」
「おねえさま、お帰りなさい!」
玄関に入るなり、サムが満面の笑みを浮かべて走ってくる。私は小さな体を抱きとめて、思い切り頬ずりをした。
「わ、あははは! おねえさま、くすぐったいよお!」
「サム、会いたかった!」
出会い頭に走ってきてくれるだなんて、相変わらず私の弟が天使だ。もう本当に、なんて可愛いの!
「レティ、お帰り」
「お帰りなさい、レティ」
お父様とお母様が笑顔で迎え入れてくれたので、私もまた笑顔で挨拶をする。ヒセラ様の事件では随分と心配をかけてしまったから、この冬はきちんと親孝行しなくちゃ。
「お父様お母様、これ、お土産です」
手にしていた紙袋を差し出すと、二人は目を丸くして感嘆の声を上げた。
「まあ、レティがお土産⁉︎」
「おやおや……いつの間にか気遣い屋さんになって」
うーん、この反応。私ってやっぱり気の利かない娘だと思われていたみたいね……!
「カミロと海に行った時に買ったのです。開けてみて下さい」
お父様にはガラスペン、お母様にはガラスのベルを用意した。青いグラデーションに綺麗な細工が施された品、きっと二人とも気に入ってくれるはず。
ドキドキしながら両親が包装を開けるのを見つめる。中から品物を取り出した二人は、いつもの朗らかさに輪をかけて、嬉しそうな笑みを見せてくれた。
「素敵ね! ありがとう、レティ!」
「これは綺麗だなあ。さっそく仕事に使う事にするよ。ありがとう」
私は安堵のため息をついた。こんなに嬉しそうな両親は初めて見たかもしれない。
目の前のことに必死になるあまり、なかなか恩返しをすることができなかったけど、これからはもっと両親との時間も大事にできたらいいな。
「はい、これはサムに」
もちろんサムの分のお土産も購入してある。サムはワクワクした様子で紙袋を開けると、輝かんばかりの笑みを浮かべた。
「わあ、汽車ぽっぽだあ! かっこいい!」
サムにあげたのは、きちんと車輪が動く仕様になっている木製の汽車の模型だ。
「気に入ってくれた?」
「うん、すっごくうれしい! おねえさま、ありがとう!」
ああ、嬉しそうに飛び跳ねて、もう本当に可愛いわ。喜んでもらえて嬉しいな。
私はサムと目線を合わせるべく、膝をついて薔薇色の瞳を覗き込んだ。
「ねえサム、実はカミロもあなたにお土産を買ってくれているの。明日渡しに来たいって言っていたから、会ってもらってもいいかしら」
その瞬間、全身で喜びを表現していたはずのサムが、ぴたりと止まったような気がした。
私は違和感を覚えたけれど、見間違いと断じて問題ないほどに短い時間だった。サムはすぐに嬉しそうな笑みを浮かべて、大きく頷いて見せる。
「カミロさまのおみやげ? 僕、とってもたのしみ!」
「ふふ、そうね。楽しみね」
何を買ったのかは私も知らないのよね。気を遣ってもらって申し訳ないけど、サムも嬉しそうだし有難いことだわ。
次の日、カミロは午後一番でやって来た。
客間に通したところでサムも登場して、走ってカミロの隣に座り込んでいる。
「カミロさま、いらっしゃいませ!」
「久しぶり、サム! 元気にしていたか?」
あらあら、懐いちゃって。最初の頃は恥ずかしそうにしていたのに、いつの間にか随分と仲良くなったのね。
私は機嫌良く頷いて、二人とは対面のソファに腰掛けた。
こうして見るとカミロとサムって美形同士で本物の兄弟みたい。微笑ましい光景だわ。
「カミロさま、おねえさまと海に行ったんでしょ? こんどは僕も行きたいなあ〜」
(ざまあみろ、これでお姉様はお前の隣に座れない。今日もとことん邪魔してやる)
「サムも海が好きなんだな。実際に見たらきっと気に入るぞ」
(絶対に来ないでほしい。まさかこいつ、今日も邪魔する気か⁉︎)
ふふ、仲良しね。ちょっと妬けるかも。
……あら? 私、どちらに妬いているのかしら。自分でもよくわからないわ。
「今日はサムにお土産を持って来たんだ。気に入ってくれるといいんだけど」
自身の胸に生まれた感情に気を取られていると、目の前ではカミロがお土産を取り出していた。サムは天使もかくやと言った笑みを見せて、紙袋を受け取っている。
「うわあ! カミロさま、ありがとう!」
(お土産ね。お姉様への点数稼ぎのつもりか?)
いそいそと中身を取り出したサムだけれど、お土産と対面した瞬間の表情は私でも見たことが無いものだった。
いかにも子供らしい好奇心に溢れた顔。まさに私が面白い本に出会った時なんて、こんな顔をしてるのではないかしら。
「これ、海の化石のセットだ!」
興奮に満ちたサムの声が響き、私は腰を上げて弟が手にする品を覗き込んだ。
あ、ああー! 子供の頃絶対に一度は欲しくなる、博物館系のお土産屋さんで見かけるアレだわ!
「素敵! サム、良かったわね!」
「あそこの海は近くに遺跡があるからな。こういうのが沢山出土するんで、街中でも売ってるんだよ」
どことなく得意げなカミロを他所に、薔薇色の目を輝かせたサムは綺麗に並んだ化石たちから目を離さない。
こんなに目をキラキラさせるサムは見たことがないわ。
うん、やっぱり私、嫉妬したのはカミロにだったかも。子供心をよくわかっているし、孤児院で子供たちに一瞬で懐かれていただけのことはあるわね!
「化石、かっこいいなあ! ぐるぐるして、すごいなあ……!」
サムはもはや周囲の雑音も耳に入らない様子で化石を見つめている。ひとしきり観察したところで顔を上げると、改めてカミロに笑顔を向けた。
「カミロ様、ありがと! 僕、すっごく嬉しい!」
「そりゃ良かった。こんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ」
対応するカミロの笑顔はやっぱり爽やかだったけど、彼は小さく何事かを呟いたようだった。
「……懐柔策戦成功、だな」
何て言ったのかしら。小声過ぎて聞こえなかったのだけど。
「カミロ、どうしたの?」
「ああ、嬉しいなって言ったんだよ」
私に笑いかけて世間話を始めたカミロの横で、サムが化石の虜になっている。
素敵なお土産を貰えて良かったわね、サム。この子もこれを機に考古学や生物学なんかに興味を持って、ガリ勉になっちゃったりして……なんてね。