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魔女調査隊を結成しました

書籍化&コミカライズが決定しました。

応援ありがとうございます!


詳細は活動報告をご覧下さいませ。

 明日からの2学期に向けて早めに就寝し、次の日はホームルームと始業式だけだったので早々に終わった。


 故に、私たちは昼過ぎには図書室のいつもの席に集合することになった。

 これまたいつものようにカミロが結界をかけてくれたから、誰かに聞かれる心配はない。


「兄上が洗脳されているかもしれないだって⁉︎」


「おいおい、何だそれ!」


 アロンドラの説明を受けて、カミロとエリアス様は驚きの声を上げた。

 それはそうよね、驚くわよね。昨日の私も同じ顔をしていたんだろうなあ。


「まだ推測の域を出ないという前提で聞いていただきたい」


 冷静な口調で昨日と全く同じ話が語られていく。二人は難しい顔をしたり驚いたりしながら話を聞き終えたのだけど、まずはエリアス様が反応を見せた。

 机に肘を突いて、頭を抱えてしまったのだ。


「……あり得る」


 見えなくなった口元から呆れ混じりの低い声が聞こえてくる。

 そっか、弟の目から見てもあり得るのね⁉︎


「おかしいとは思ってたんだ。あれだけ他人を見下している兄上が、何故か能力的に平凡なヒセラ嬢を選んだ。よっぽど好みだったんだろうと思ってたんだけど……魔女か。確かに、色々と説明がついてしまう」


 ああ、エリアス様のため息に際限がなくなってしまった。ようやくお顔を上げてくれたけど、だいぶ疲れ切ったご様子だわ。


「確かに、これは迂闊に声を上げる訳にはいかないな。アロンドラ嬢の言うことが事実なら、将来の国王に危機が迫っていることになる。兄上のことなんてどうでもいいけど、この国のためには何とかしないと」


 アロンドラだけじゃなくエリアス様までアグスティン殿下がどうでもいいの⁉︎

 何だか扱いが酷くないかしら……⁉︎


「俺もそう思う。アグスティンのことはどうでもいいが、国の危機を黙って見過ごす訳にはいかないからな」


 カミロがその認識なのはなんとなく知ってた。うん、もういちいち心の中で突っ込むのはやめよう。


「ふむ。では、お二人ともご助力頂けるということでよろしいのでしょうか?」


 アロンドラが淡々と言って首を傾げる。

 エリアス様は普通の女性徒なら黄色い悲鳴を上げたであろう、麗しい笑みを浮かべた。


「勿論だよ。君が気がつかなかったらとんでもないことになっていたかもしれない。王族の一員として心から感謝する。

 女性を危険な目に合わせる訳にはいかないから、むしろ僕達が中心になって調べてみるよ。なあ、カミロ」


「ああ、そうだな。同じクラスじゃ難しいかもしれないが、二人ともヒセラ嬢には近付かない方がいい。知恵だけ貸してくれ」


 男性陣は揃ってなんの躊躇いもなく頷いてくれた。


 王子殿下こそ危ない目に合わせる訳にはいかないと思うのだけど、頼もしい人たちで本当に良かった。

 この上ないメンバーが集ったことに、私は安堵のため息を吐く。


「心強いわ。良かったわね、アロンドラ」


「ああ、確かに調査にはうってつけのメンバーだな」


 アロンドラが満足げに頷く。

 第二王子という立場でしかも聡明なエリアス様に、竜騎士並みの実力を有するカミロ、そして魔法学に長ずるアロンドラ。確かに魔女の調査にちょうど良さそうよね。


 ……あれぇ? 私、必要?


「ところで、気になったのだけど。ヒセラ嬢が一度目の人生の記憶を取り戻しているということはないのかな」


 私はエリアス様が思案げに言ったことに衝撃を受けていたので、この時のカミロが一瞬だけ顔色を白くしたことに気が付かなかった。


 ヒセラ様が記憶を取り戻している? もしそうなら、色々とややこしいことになるのは間違いない。


「エリアス様、どうしてそう思われるのですか?」


「いや、特に根拠のない可能性の話だよ」


 エリアス様が仰ることはこうだった。


 ヒセラ様が黒い魔力を持っていたとして、普通の魔力が少ない可能性はある。

 そうなると記憶の蓋は弱く、何をきっかけにして思い出すかわからない状態だと言える。

 相手が悪意を持った魔女となれば、最悪を想定した方がいいのだと。


「それに万が一記憶を取り戻しているなら……兄上とうまくいかないことを、レティシア嬢のせいにしたりはしないだろうか」


「え、わ、私ですか⁉︎」


 私が裏返った声を上げたのと同時、カミロが俄に表情を厳しくした。


「レティシアのせいってのはどう言う意味だ、エリアス」


「嫌だな、僕に怒らないでくれよ。前に言っただろう? あの二人が一度目の人生で盛り上がったのは、レティシア嬢という障害があったおかげじゃないかって。

 いや、むしろ……洗脳魔法を使うほど狡猾な人間なら、レティシア嬢を上手く利用していたとも考えられる」


 私を上手く利用していた。

 もしもその仮説が本当なら、二度目の人生では利用できなかったことにどう感じるのだろうか。


 カミロが怖い顔をして腕を組んでいる。何を考えているのか問いかけようとした時、不意に若草色の瞳と目が合った。


「……もしかすると、あの女に狙われるかもしれない、ってことか?」


 ……はい?


「ああ、僕もそう思うよ。もう一度兄上のことが好きになるように洗脳するなり、逆恨みで害そうとするなり、ね」


「そんなこと、俺が許すはずないだろ!」


 え? え?


「確かにあり得るかも知れませんね。油断は禁物でしょう」


 アロンドラまで?


「——レティ!」


「はいっ⁉︎」


 カミロが大声を出して手を伸ばしてくる。机の上に置いた両手を上から握り込まれ、怖いくらいに真剣な瞳で見つめられた私は、呆気なく赤面した。


「しばらく君の警護を固める! 絶対に守るから安心してくれ!」


 ……いや、ええっと。

 みんなまだ確定していない事のために、考えすぎじゃないのかな?


「あの、そこまで頑張ってもらわなくても……」


「良いではないか、レティシア。用心するに越したことはないのだから」


 アロンドラは真面目に言う割に、その顔にニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 エリアス様も同じ様な顔をしているのを確認した私は、カミロにお礼を言いつつさりげなく手を離した。


 うう、揶揄われるのって辛い! 早く話題を変えよう!


「う、あの、ところでエリアス様! アグスティン殿下のご婚約はお決まりになられましたか?」


 それは咄嗟に出した話題だったけれど、重要な確認事項でもあった。

 何せアグスティン殿下がヒセラ様以外と婚約するなら、その人は最終的には処刑される可能性が高い。私が婚約を断って未来が変わったせいで、別の女性が悲劇の王妃になるなんて絶対に駄目だ。


「ああ、それについては僕も父上に聞いてみたんだけどね。やっぱりヒセラ嬢との婚約は認めず、兄上に婚約候補者リストを渡したと仰っていた。

 けどそのリストの内容は、御令嬢たちの名誉に関わると言って教えてもらえなかったんだ」


「……そうですか」


 国王陛下の賢明ぶりを聞いて、私はそっと肩を落とした。


 やっぱり婚約者候補が別で立てられてしまったのね。ヒセラ様が王太子妃になるより国のためには良いのかもしれないけど、選ばれた女性が心配だわ。

 せめて名前がわかれば今からでも対策が打てるかもしれないのに……。


 考え込んでいると、ちょん、とアロンドラが私の腕をつついた。


「考えても仕方がないよ、レティシア。誰が王太子妃になろうが君のせいではない」


「アロンドラ……」


 優しい友人は小さく微笑んで慰めてくれるから、心強くて温かい気持ちになる。


 けれど、自分には関係ないと割り切るのはやっぱり無理そうだ。何せ一人の人間が命を落とすかもしれないのだから。


 私こそが何とかしなければ。アグスティン殿下が洗脳されていると証明できたら、未来の王妃となる女性も救うことができるのだろうか。


 考え込む間にも話は進み、最後にはエリアス様がにこやかにまとめてくださった。


「では、ここに魔女調査隊を結成しよう。各自警戒を怠らないようにすること、いいね?」


「おう!」


「はい」


 それぞれの調子で返事を返すカミロとアロンドラ。三人の表情は真面目ながらも生き生きとしており、さながら秘密結社と言った風情だった。


 なんだかみんな楽しそう。まあかく云う私も、少しだけワクワクしてるんだけど。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カミロの一瞬白くなった表情に、いろんな思いが凝縮されてますね。レティシアの死後のカミロの思いは切なかったですから…。 エリアスとアロンドラが、カミロとレティシアを温かく(?笑?)見守ってる…
[良い点] 書籍化&コミカライズおめでとうございます [気になる点] 以前、コメントのお返事で、 >レティシアの眼鏡によって記憶が戻ることは間違いないので、まずこの点から考察を始めたのは、そうおかし…
[一言] 書籍化&コミカライズ化おめでとうございます。
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