54. 最終死合!悪役令嬢vs集結ガルム連合!!!【婚約破棄!】
入学式か……
私がこの学園に入学して、もう1年が経ったのね。
『この1年で色々な事がありましたね』
メイヤー先生と感動の再会をして、先生を困らせるマリク達をシメてカレリンズブートキャンプして、
『入学早々暴れてましたね』
突っかかってきたヴォルフを返り討ちにして、あまりに情け無いからカレリンズブートキャンプして、
『そんな事もありましたね』
その後マーリスがセクハラしてきたのでとっちめてから、更生の為にカレリンズブートキャンプして、
『同情の余地なしでしたね』
セルゲイが最初デキるヤツかと思ったけど、やっぱり無能過ぎたのでカレリンズブートキャンプしたのよね。
『見事にキャンプの思い出しかありませんね』
そんなことないわよ。
フェンリルが清掃隊員にもみくちゃにされ、トラウマを再発してしまって、
『その清掃隊員は貴女が嗾けたんでしょう!』
その後フェンリルが引き篭りになって、ピンク頭の子が突っかかってきて、
『あの娘はいったい何がしたかったのでしょうね』
家に帰ったら犬屋敷になっていて、お母様を奪われたフェンリルがグレて、
『犬達は可愛かったですね。あの堕犬には良い薬でした』
そして、私が実家に帰っている間に3バカはキャンプを脱走してしまった。
『あの連中の更生は無理でしたね』
そうねぇ。あれからも3人はガルム様やラファリィを巻き込んで、なにかと私に挑んできたのよね……ぜ~んぶ叩き潰したけど。
『あいつらも凝りませんでしたね』
あんたもこの1年はずっと一緒にいてくれたわね……ありがとう。
『何ですか急に』
何となくよ。
ホント色々な事があったなぁ。
そう言えば、私の通り名に《霊長類最強》が遂に加わったわ。
『それはおめでとうございます』
清掃隊員達とも結構バカやったっけ。
ふふふ……色々あったし、色々やったなぁ。
『楽しかったですか?』
なによ?そんな優しげな表情して……調子狂うわね。
ま、まあ……それなりに楽しかったわよ。
『それなら良かったです』
あっという間の1年だったわ。
『早いものです。貴女もこの1年で随分と成長しました……胸とお尻が』
なんでなの!?
お尻はともかく胸はもう大きくならないって思ってたのに!
『今は上から……99、50、86ですか。貴女、本当に16歳ですか?』
まさかまだ大きくなったりしないわよね?
『さあ?』
さあって……
『ゲーム設定とは大きくズレていますので……因みにゲームカレリンのスリーサイズは設定では90、53、88です。今の貴女ほどではありませんが、十分に見事な体形ですね』
この大きな胸については諦めるしかないか。
『それよりも本当にこのままでいいのですか?その美貌とプロポーションならガルムも簡単に堕とせますよ』
いいの!成り行きに任せる。ガルム様が私と結婚したいならそれでよし、婚約破棄したいならそれでもよし。私はガルム様の意志を尊重する。
『本当に貴女はガルムのことが好きではないのですよね?』
しつこいなー。好みじゃないって。
『そう……ですか?(好みと好きになることは必ずしも同じではないのですけどね)』
何よも〜。私とガルム様をくっつけたいの?
『私は貴女が幸せになれればそれでいいのですよ(ガルムをかなり気にしているみたいですが無自覚なんですね)』
大丈夫よ!どう転んでも私は自分のやりたいように突き進むだけ。
それじゃあ新入生を迎えましょうか。
見込みのありそうなのいるかしら?
『貴女の被害者が増える未来しか見えません』
ふふふ……楽しみね――――
――――で、始まった入学式なんだけど。
「カレリン・アレクサンドール侯爵令嬢!第2王子の婚約者にあるまじき行為の数々、もはや我慢ならん!――私ガルム・ダイクンは貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」
あらら……突然、壇上に上がって何事かと思ったら、入学式でぶちかましますか。
『周囲の生徒は呆れていますね』
まあ、ここのところ私に頻繁に突っかかってきてたから、もう日常風景みたいなもんなんでしょ。
だけど、婚約破棄かぁ……
本当にこの時がきたのね。
『そう言う割に随分と落ち着いていますね』
婚約破棄になる可能性は生まれた時から分かっていたでしょ。その為に私は心身を鍛え上げてきたのよ。私は何者にも負けるつもりはないし、負ける気はしないわ!
『まあ、貴女に勝てる者はこの学園には存在しないでしょうね』
私が壇上をキッと鋭い目つきで見上げると、そこにはガルム様と3バカが私を見下ろし、その背後からラファリィが伺い見るように隠れていた。
ラファリィ・マット――
小柄な身長、淡いピンク色の髪、青く澄んだ大きな瞳、可愛い顔立ち……
そして何より薄い胸と足が短く重心が低い――いつ見ても格闘家に理想の寸胴体型ッ!
『本気で言われている彼女が哀れでなりません』
今日はガルム様と3バカとピンク頭の揃い踏みなのね。
『いつも各々で難癖つけてきていたのに珍しいですね』
まあやる事は変わらないけど。
「これはこれはガルム殿下と側近の御三方……とキンギョのフンゲフン、負け犬男爵令嬢」
「マット男爵令嬢よ!"ま"しかあってないじゃない!」
「お前誤魔化せていないからな!言っちゃってるから!3バカって、金魚の糞って言っちゃってるから!」
「今のワザとだろ!絶対ワザとやってるだろ!その不遜な態度も今日までだからな!」
「今日こそ積年の恨みを晴らし、その性根叩き直してくれる!」
壇上で騒ぐラファリィと発言の順にヴォルフ、セルゲイ、マーリスの3バカ。
「今日まで?恨みを晴らす?――ッくす」
「そう言う寝言は1度でも私に勝ってから言ってね」
「「「「くっ!」」」」
喰らえッ!私が唯一悪役令嬢になって良かったと思った人を殺せる眼力!
『女の子としてその誇るべきところはどうかと思いますよ!?』
ラファリィと3馬鹿は屈したか……軟弱者めッ!
おっと、ガルム様は耐えきったんだ。
『ずいっと前に進み出て全身から黄金の魔力を迸らせ耐えたのは、さすが王族と言ったところでしょうか』
ガルム様……本気なのね。
『寂しいのですか?』
そんなわけないでしょ。
ガルム様が婚約破棄を望むなら、それも止むなしよ。
『本当にそれでいいのですね?』
と~ぜん!さあ、婚約破棄に向けて一世一代の悪役令嬢……見事演じてみせるわ!
「いつもいつも物理で解決できると思うなよ!」
「ふっ、戯言を……」
ガルム様ったら何バカな事言ってんの?
「力こそ真理!筋肉こそ至高!パワーこそ全て!物理で解決できぬものは無し!」
『バカは貴女の方です!』
「なんという脳筋発言!?」
ガルム様が驚愕しているけど……なんで?
『当たり前です!』
「そのなんでも筋肉で片付けようとする思考は天才の私には理解の範疇を超えています」
「私より定期考査の順位が圧倒的に低いくせに天才が聞いて呆れるわ」
「テ、テストの点数が全てではないッ!」
「それはそうだけど……あんた私に勝てるもの何かあるの?」
「うがぁぁぁあ!」
『何だか今の貴女は悪役令嬢と言うよりいじめっ子みたいですよ』
私の指摘にのたうち回るセルゲイを見ていると確かに弱い者いじめしているみたいになってくるわね。
「そういうところだ!他人に対して思いやりが欠け情け容赦のない言動の数々に俺達は断固として立ち向かう!」
って、今度はマーリスか……相変わらずモヒカン肩パッドの世紀末スタイルね。
「あんたは強さに欠け、あまりに情け無い筋肉はガルム様の護衛としては落第よね」
『それよりもモヒカン肩パッドの方が問題では?』
全くね。ガルム様の護衛としての自覚に欠けるわ。
『あれって貴女の発案ですよね?』
「そんな事はない!強さより……筋肉より大切なものが人にはある!」
「戯けッ!護衛にとって最も重要なのは筋肉!!もしここで私がガルム様に危害を加えようとしたら貴様はどうするつもり?今の貴様では私を倒す事はおろかガルム様を守る事も逃す時間稼ぎもできないわよ。それとも――」
私が凍てつくような視線をマーリスに向けたら顔が真っ青になったわ。
『マーリスが固まってますよ。貴女の目力はもう凶器ですね』
「――また逃げ出すのかしら?」
「僕は逃げてない!僕は逃げてない!僕は逃げてない!」
『逃げ出すという単語にヴォルフが過敏に反応していますね』
「あんたはいつも逃げてるでしょうが!魔法の勉強から逃げて、訓練からも逃げて、男の娘……じゃなかった女の子からも逃げて」
「ぼ、僕は男の娘じゃなーい!」
こいつホントに男の娘に魔改造してやろうかしら?
『……本当にいじめっ子になっていますよ』
「そこまでにしろッ!」
あら?ガルムが声を荒げてしまったわ。
『相当に激昂していますね』
「いつもいつも傍若無人に振る舞いおって!」
ビシッと指差されてしまいました。
ガルム様……他人を指差してはいけませんと習わなかったのかしら?
『論点はそこですか?』
「今日こそは横暴な貴様に鉄槌を降し、婚約を破棄してくれる!」
「そして、お隣の可憐なご令嬢と結ばれると?」
「貧弱言うな!ラファリィこそ私の最愛、私の真実、私の唯一だ!!!」
ガルム様……
『本当にいいのですか?今の貴女はとても寂しそうですよ』
くどいわよ!今日の私は華麗な悪役令嬢よ!
『非道ないじめっ子の間違いでは?』
「あらあら公衆の面前で大胆な浮気発言ですか」
「黙れ!貴様によって傷つけられた私の心をラファリィだけが癒やしてくれたのだ!」
『貴女いったい何をやったんですか?』
えーと……私ってガルム様に何かしたかしら?
『無自覚なんですね』
やったこと前提なの!?
「私が?殿下を?いつ?」
「分からんのか!貴様は婚約が決まってから私が贈ったプレゼントの数々を踏みにじった!」
「宝石の指輪よりオリハルコンのメリケンサックが良かったと貶したことですか?」
『うわぁ貴女そんな事を言ったのですか?』
だって指輪とかいらんし。
「王室御用達の細工師によるブレスレットを贈った時は、竜皮の籠手じゃないのかとの暴言も!」
『いやもう貴女を擁護できません』
えぇ〜私が悪いの?
『100%貴女が悪いです』
「ガルム様の瞳色のドレスの時には幻獣の道着を要求したっけ……懐かしい思い出です」
微笑ましくて良い思い出じゃない?
『どこがです!立場と物を逆にして自分に当てはめてみなさい』
え?……
……………………
……なんかちょ〜っぴり悪かったような気がするような……しないような?
『ガルムが哀れすぎます』
「他にも数々の心を込めた贈り物を貴様は心ない言葉で足蹴に……」
『まだ他にもあるのですか!?』
しょうがないなぁ。
それじゃ、悪役令嬢としてガルム様とラファリィの花道となってあげますか。
「そんなことで……みみっちい男」
「うがぁぁぁあ!貴様のそういう所が嫌なんだぁぁぁあ!」
「殿下しっかりして下さい」
「殿下ファイト!」
「殿下ガンバ!」
「くそぉ……私の初恋を返せ」
ガルム様が泣き出しちゃった……
『少しは反省してください』
そ、そうねぇ……ガルム様には悪い事しちゃったかな?
でも――
「あいつ見た目だけは極上ですからねぇ」
「幼少期から絶世の美幼女で通っていましたしねぇ」
「婚約が決まった時は殿下も大喜びでしたもんねぇ」
――こいつらはとっちめてもいいんじゃない?
『それは私も全面的に賛成です』
「ぐっ!だがそれも今日まで!貴様との婚約を破棄し、この因縁に終止符を打つ!!」
「国王陛下がお許しになりますかねぇ」
「貴様との婚約、国王が許そうとも私が許さん!」
「それは暴挙というものでは?」
「貴様を王子妃にするほうが暴挙だ!貴様は満足に王子妃教育も修めていないではないか」
『カレリン……貴女まさか……』
「――はい?」
――はい?
「ま、ま、まさかカレリン!お前は自分がきちんと妃教育を習得できていると思っていたのか?」
「えーと……何か問題がありました?」
「ダンスのステップも友好国の言語も社交としての舞踏会も熟せていないだろ!?」
「何だそんなことか……」
『それ本当ですか!?貴女は最高の悪役令嬢の身体なんですから、それらは問題なく習得できたはずですよね?』
もちのロンで大丈夫よ。
バッチリに決まってるじゃない。
「ダンスなぞ武技の歩法でパートナーを翻弄!」
『翻弄してどうするんですか――ッ!』
「肉体言語があれば世界の強敵達とばっちり会話!」
『戦争でも起こすつもりですかッ!?』
なによ……カマちゃんとの交渉は上手くいったわよ?
『あれは恫喝と言うのです!』
「武闘会に参加して強敵達との社交も十分ね!」
『武闘会に出場したのですか!?何人殺したんですか!』
人聞きが悪いわね。
殺してないわよ――再起不能が何人かでたけど。
「アホか貴様!」
「相手が死ぬわ!」
「俺よりも脳筋とは……」
『不本意ですが私も同意です』
あんたまで!
『馬鹿だ馬鹿と思っていましたが……超弩級の大馬鹿でしたか』
「な、なによ!みんなで寄って集って!私は何も間違っていないわッ!」
『貴女は脳みそどころか骨髄の全てが筋肉でできているのですね』
「まだ言いやがりますか、この史上最強の脳筋令嬢!」
「私はセルゲイより成績良いわよ!」
「成績云々ではなく、思考パターンを言っとるんじゃあ!」
「モヒカンのマーリスには言われたくないわ!」
「いつもいつも弱い者いじめばかりの残虐非道令嬢!」
「なによ!ヴォルフなんて逃げてばかりの軟弱薄弱男の娘じゃない!」
『何と言う低レベルな言い争い……もう子供の口喧嘩ですね』
ホントよね。
『貴女も同レベルです!』
「「「この令嬢類最強の脳筋がぁ!!!」」」
「私は《霊長類最強》の令嬢よッ!!!」
なによ!令嬢類最強って!
『私にもそちらの方がしっくりきますよ』
「殿下!大丈夫です。霊長類最強がなんです!」
「そうです!僕の攻撃魔法で叩きのめしてやりますよ!」
「しかりしかり、我が家の家宝魔剣|《鬼斬り》の錆にしてくれる!」
「私の魔法でみんなを援護、回復するわ!」
「そ、そうだな!私には皆がついている――私とて王家の漢だ!無駄死にはしない!!」
『なんだか私もガルム達を応援したくなってきました』
あんたまで!
『ここまで貴女が理不尽だとは思いませんでした……力も言動も』
判官贔屓極まれり!?
『貴女は強すぎるんです。義経に同情して贔屓した気持ちが理解できました』
「カレリン・アレクサンドール侯爵令嬢!私ガルム・ダイクンは貴様との婚約を破棄させてもらう!!そして、禍根を残さぬため国外追放を言い渡す!!!」
「婚約破棄?国外追放?……ふん!」
くっそぉぉぉお!どいつもこいつも……もういいわよ!
「ごちゃごちゃうるさい!かかってこい!」
『カレリンが切れた!?』




