51. Bonus Stage ロード・オブ・ザ・ウルフ 迂闊な魔狼
押忍!おらフェンリル。
今、男に首根っこ掴まれってっぞ!
「軍曹ぉ~こんな危険物を校内に持ち込むなよ」
「う〜…わんッ!」
こいつは確かタクマとかいうご主人様の下僕の1人だ。
なんだよコイツ!
下僕の分際で飼い犬のボクを仔猫のように首をむんずと掴んで持ち上げやがった。ご主人様以外にどんなかわい子ちゃんにも許してない行為を平然としやがって許せないよ。全国6000万人のボクのファンの女の子たちに謝れ!
もちろんボクがホンキになればこんな雑魚を屠るのはわけない。
だけどボクは……誓ったんだよ…絶対に魔狼の姿にならないってな……
誰にだって?
誰でもねぇよ……ただ巨乳子ちゃんの魂にだ!!!!
だけど子犬の姿では脱出は困難。
あぁ、なんということだ。女の子(巨乳限定)のためなら悪い魔法使いだって倒すのに、子犬の力はあまりに非力でしかなかった。魔狼の姿になれたなら、ボクは空を飛ぶことだって、湖の水を飲み干すことだってできるのに……
「わんわん!」
今はこれが精一杯。
「お前、わんわんって……」
あっ!ボクの首を掴んだまま無造作に覗き込みやがって!
下賎な下僕が尊貴な飼い犬たるボクに顔を近づけるんじゃない!
え?下僕とペットじゃ立場はそんなにかわらないだろうって?
バカなの君たち。
考えてみてよ。下僕はご主人様に傅き命令に従ってこき使われる最底辺の存在だよ。それに比べてペットは周りから傅かれる家庭におけるヒエラルキーのトップだよ。
ボクに気安く触れていいのは可愛いボインちゃんだけだ。
「こいつ西の大森林に生息していた大魔獣魔狼フェンリルなんだよな?」
忘れたよそんな過去。
いい飼い犬は野生を振り返らないものさ。
「今ここにフェンリルがいるって知れたら学園どころか王都が阿鼻叫喚の坩堝と化すよな」
知らないよそんな事情。
ボクを見た巨乳子ちゃんたちの黄色い悲鳴の坩堝はよく経験するけどね。
「こりゃあ問題になる前に軍曹に引き取ってもらわんと」
ナニッ!?
ご主人様に捕獲されれば強制送還されるかも……
まだ若い巨乳子ちゃんと巡りあっていないのに!
だがしかしッ!
こいつを振り切るためには魔狼の姿に戻らないと。だけど女生徒が大勢いる学園で魔狼の姿を見せれば、女の子たちがボクに近寄ってくれなくなるかもしれない。
だけどご主人様に捕獲されれば強制送還されるかも……
だがしかしッ!そのためには魔狼の姿に戻らないと……
だけど女の子たちが怖がって遠ざかってしまうかも……
ダメだッ!完全に堂々巡りじゃないかッ!!
「おおい嬢ちゃん!こんなとこにいたのか探したぜ、この危険物なんとかしてくれよ」
って、ジレンマに身悶えしていたら、いつの間にかご主人様の目の前に突き出されてしまいました。
「わん!」
「フェンリル!?」
ご主人様に前足上げて挨拶と……
ちょっとでも愛らしい姿で誤魔化さないと。
首根っこ掴まれて宙ぶらりんの子犬が前足上げて挨拶とか……我ながら恐ろしい程にプリティーだ。
あ、下僕がボクをご主人様に放り投げやがった。
殺すッ!と思ったけどご主人様が抱き止めてくれたからチャラにしてやろう。
ムフフフ……
久々のご主人様の抱擁だぁ!
ご主人様のおっぱい大きく育っているな――ナイスバスト!
大きさ、弾力、芳香、総合してもたらされる幸福感!
ご主人様、相変わらずいい乳してるぜ!
え!?見ただけでバストの事が分かるんじゃなかったかって?
キミたちまだまだだねぇ。大きさが分かるのと実感するのは天と地、蟻とドラゴン、AAAとHカップ以上の差があるよ。
数々のおっぱいを求め彷徨うおっぱいパイオニア、バストの深淵を垣間見んと日々切磋琢磨する巨乳の探求者たるボクが言うんだ間違いないよ。
下僕がご主人様にボクの事で陳情していたら、ご主人様を囲んでいたムサい男どもがバカ笑いを始めたんだけど――
「なんだぁ?このガキどもは……」
――下僕が不愉快そうにドスの効いた声を上げた。
くぁ~っ……
ま、ボクは男に興味はない。
こんなヤツらどうでもいい。
こいつらはどうせご主人様にけちょんけちょんにされる未来しか待ってないしな。
このご主人様に誰が勝てるって言うんだ。一国の軍だろうが、魔王だろうが、勇者だろうが、ボクのご主人様に勝てるわけない。
ましてや、この雑魚集団がご主人様に?
ムリムリのリームーだっちゅうの。
あ〜あ、次々とのされていくよ……圧倒的じゃないか我がご主人様は。
全部片付けるのに何秒かかったのかな?
「フェンリル」
「わん」
全部倒したところでご主人様が急にボクを呼んだ。ついに強制送還か?
「どうせ屋敷に置いていってもまた勝手に学園に来ちゃうでしょうから、明日からは私があんたを連れてくるから」
え!それって学園に来ていいってこと?
やったーご主人様が折れてくれたよ。
これで学園にいるという新たな巨乳をゲッチュだぜッ!
……と、この時のボクは迂闊にも無邪気に喜んでしまった――
「その代わり私の側から離れないのよ」
「わん♡」
――この後に待ち受ける悲劇も知らずに。
その悲劇はご主人様に病院送りにされた身の程知らずどもが退院してすぐに起きた……
さっそくこのバカ者どもを集めたご主人様は容赦の無い矯正という名の粛正を開始した。
未だにご主人様と自分たちの実力差を理解できていないバカが最初に反抗してたりもしたんだけど、トーゼン叩き潰されてたよ。ばーか、ばーか。
初日の生贄でバカ者どももさすがに従順になった。最初からそーしてればいいのに。
だけど、ご主人様ってボインな美人で、サバサバした巨乳で、優しくて大きいおっぱい持ってるけど、時々やる事がえげつないよね。
こうしてご主人様のシゴキは順調に続いたんだけど――
「ジョーカー二等兵!清掃隊員だ!分かるか?」
「掃除をする者です!」
「その通りだ!では掃除とは何だ?」
「ゴミ屑どもを排除し、汚れを消し去る事です」
――なんだか前にも同じようなやり取りが……
デジャヴかな?
「正確だジョーカー!気に入った――」
ん?ご主人様のこのセリフ……
なんかやっぱり前にもどこかで……
なんだろう、この焦燥にも似た胸騒ぎは……
何かこう忌まわしい事件があったような……
思い出さないといけない、だけど思い出したくない……
そんな重大で、だけどそれ以上に悍ましい何か……
それは心の奥底に封じてしまった禁忌の記憶……
ボクはとてつもなく恐ろしい予感に――
それは背中がジリジリと焼き付く様な感覚で――
世界が今にでも滅ぶんじゃないかと感じさせる何かで――
顔を上げてご主人様をジーッと観察すると、ご主人様の目とバッチリと視線が重なった。
――にやッ。
ご主人様の口の端が軽く釣り上がった。
「――――ッ!!!」
その誰よりも美しく、そして何よりも残忍な笑み。
何者よりも邪悪で誰にでも無慈悲な微笑みは淫靡で無邪気で目を惹きつけて離さないくらい艶麗だった――
――瞬間、ボクの全身を激しい雷の奔流が襲った。
お・も・い・だ・し・た!
考えるよりも先にボクは弾かれるように走り出した。
それはゴムが限界まで引き伸ばされたスリングショットから解き放たれた弾丸の如くボクは駆け出したのだ。
逃げなければ!
その思いだけで一心不乱に足を動かして必死に逃げた。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいやパイやパイやパイやパイやパイやパイやパイやパイやパイパイパイパイパイパイパイパイパイ――――助けてオッパーイ!
掴まればあの悪夢が再びッ!!!
あまりに尊厳を踏み躙る悪魔の所業。
その嫌悪と絶望と屈辱に塗れた悍ましい記憶。
もう2度と起こるはずもない悲劇と思い封じたメモリー。
アレクサンドール領で行われた、ボクに対する凌辱まがいの蛮行!
それは――
男どものモフモフッ!
あれはもう嫌だッ!
男はイヤや!女がエエんや!
なにッ!?
撫でられるくらい別にいいだろうって?
愚かなのキミたち!
想像してよ――
筋肉隆々のゴツい男たちが集団で群がり揉みくちゃにされる恐怖を!
男どもの運動後の熱気と汗臭い体臭が充満した空間の気持ち悪さを!
そしてしばらく夢に見るんだ。
髭もじゃの男たち、脈動する筋肉の群れ、無数のゴツい手がボクを蹂躙しようと伸ばされる光景……
全て現実で起こり、毎晩うなされたんだよ!
もう完全無欠のトラウマだよ。
思い出しただけで、頭痛と悪心と悪寒と腹痛と発汗(犬に汗腺はありません)がボクを苛む。記憶を封じたのも無理からぬ事だろ?
とにかく今は一歩でも遠くご主人様から離れない――ぐべッ!?
ご主人様に首根っこ掴まれ捕獲された!
しかも既に元の場所に戻ってるしッ!
あれだけ距離を稼ぎ全力疾走していたボクをいとも簡単に捕らえるなんて……ホント化け物じみたスピードだよ。
魔狼の姿に戻って逃走すべきだったか?
子犬モードよりも大きく速度も出る。さすがのご主人様でも簡単には……いや魔狼モードでも無理か。
魔狼の姿でもこの脅威のスピードからは逃れられないし、魔狼のサイズであってもドラゴンを片手で持ち上げるご主人様には抗いようがないや。
ご主人様はボクをジョーカーとかいうヤツの前に突き出した。
「――私のフェンリルをモフモフしていいぞ」
やっぱりぃぃぃ!!!
ジョーカーがボクを舐め回すように凝視してるよ!
この男の大きく目が見開かれ、瞳孔もめいいっぱい広がってる!
この目はアカンやつや!
ジョーカーの血走った目は獲物を狙う獣のようで、まさしく獣欲に染まっている!
犯される〜〜〜!!!
「――ッ!キャイン!キャイン!」
逃げなきゃダメだ!逃げなきゃダメだ!逃げなきゃダメだ!逃げなきゃダメだ!逃げなきゃダメだ……
り〜む〜!
だけどどんなに暴れてもご主人様がボクを捕まえる手はびくともしない。つーかピクリとも動かねぇ!
いぃぃやぁぁぁぁぁ!!!
「ギャン!ギャン!――…キャイ〜ン、キャイ〜ン……」
そうしてボクは次々とゴツい男たちに蹂躙されていった……
「クゥ〜ン、クゥ〜ン」
そして次の日からボクは学園から姿を消した……
「フェンリルそろそろ学園へ行くわよ〜」
誰が行くもんか!断固拒否するよ!
「ウゥゥゥ〜」
ボクは妖艶系巨乳美侍女キャスリンちゃんの背後に隠れ、スカートの裾から顔だけ出して唸り声を上げながら恨みがましい目をご主人様に向ける。
「もう、困った子ねぇ」
なんだよボクが登校拒否の問題児みたいに言って。ご主人様が騙し討ちして、ボクを生贄にしたのが悪いんじゃないか!
「カレリン様、フェンちゃんが怯えているじゃないですか」
足元で震えるボクをキャスリンちゃんが優しく抱き上げて、よしよしと優しく撫でてくれる。なんて優しい娘なんだ!
あゝこの屋敷はこの地に残された最後の桃源郷だ!
ボクはもうこの屋敷……いや、この胸から離れない!
「必死になってキャスリンの胸にしがみつかないの!ほら、服にあんたの爪が食い込んでるじゃない」
いやや、いやや!
この乳から絶対に離れない!
あの筋肉の群れがいなくなるまで学園へは行かないんだ!
「私なら大丈夫ですからカレリン様は学園へ行かれてください」
「そ〜お?じゃあフェンリルのことは任せたわ」
ご主人様はそう言い残すと一瞬で姿を消した。
魔法使えないんだよね?
どうしてあんなに速いんだよ!
学園まで秒で着くって言ってたけど、
それって転移魔法の呪文詠唱している間に到着するってこと?
やっぱりおかしいよ!
ご主人様はもう人間じゃないよ。
なんか化け物も可愛く見えるよ。
完全に超越存在じゃん。
破壊神だよあれは。
ボクもうガクブルだよ。
そんな震えるボクをキャスリンちゃんが優しく撫でさすってくれる。
あゝ癒しだ。
「さあフェンちゃん、今日は私が一日中お世話して上げますからね」
「わんわん♡」
ここが王都に残されたボクの最後の安息地だ……




