44. 第九死合!悪役令嬢vs颯爽登場!風のヒョロい【風の如く去りぬ】
「ぜんた〜い――進めッ!」
現隊長マリク・タイゾンの号令一下、魔法学園の世紀末モヒカン清掃隊が前進を始めた。
――ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!
激しい動きにも一糸乱れぬモヒカン――どんな髪してんのかしら?
身に纏うは肩パッド装着の特注制服――恥ずかしくないのかしら?
この炎天下で暑苦しい筋肉の群れ――絶滅させた方がいいかしら?
『…………』
ツッコミなさいよ!
『いや、もう今さらかと思いまして』
久々に現れたと思ったら、満足にツッコミ役もできないのかしら。
『私は別に貴女の相方ではないのですが……貴女は相変わらず無駄に元気で不遜ですね』
「ぜんた〜い――駆け足ッ!」
マリクを先頭に、足並みを揃えたランニングが開始された。
――ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!
『彼らも相変わらずのようですね』
ところがそうでもないのよねぇ。
「唱和開始ッ!」
俺たち無敵の清掃隊♪
(俺たち無敵の清掃隊)
落とせぬ汚れなど何も無い♩
(落とせぬ汚れなど何も無い)
拭け!拭け!(拭け!拭け!)
磨け!磨け!(磨け!磨け!)
『どこか変化がありますか?私には特に変わったようには――――』
「「「きゃ――ー!!!」」」
「清掃隊員の皆さまよ〜〜!」
「マリク様ぁぁぁ!」
「ジョーカー様もいるわ♡」
『――――何ですかあれは?』
清掃隊ファンクラブの娘達よ。
『あの世紀末のザコキャラっぽい連中にファンクラブですか?』
ぽいじゃないわ……真正のザコよ。
『貴女が鍛えたのに、それはあんまりでしょう』
まあ少しはマシになったけど、旧ザコがザコIIになった程度よ?
『連邦の白い悪魔に瞬殺される雑魚なのは同じですか』
せめて赤色になれれば善戦できるかしら?
『赤色3倍説は仮面の金髪碧眼マザコン男の妄想ですよ』
目立つ分だけ不利よねぇ。
その点では黒いダンゴ3兄弟の方がマシかしら?
「すてきぃぃぃ!」
「マリク様ぁぁぁこっち向いてぇぇぇ!」
「やぁぁぁん♡清掃隊員の皆さまのスマイルいただきですぅ!」
『自分達に対して沸いた黄色い悲鳴に、清掃隊員達が爽やかな笑顔を送っていますね』
無駄に白い歯をキラリと光らせてるのがイラッとくるわ。
「あぁん!濡れちゃうぅ」
「抱いてぇぇぇ!!」
清掃隊員のイケモヒっぷりに令嬢達がいっちゃってるわ。
『この令嬢方はよくモヒカンやられキャラに頬を赤く染めて熱いため息をはけますね』
「やっぱり清掃隊員の筋肉は素晴らしいわねぇ♪」
「マリク様のモヒカンが決まってるわ♡」
「漢らしいわよねぇ」
「他の男子生徒がひ弱すぎよ!」
「騎士科の連中は使えない筋肉ばっかりだしねぇ」
あんなむさっ苦しいモヒカン集団に女の子達が熱を上げるなんて世も世紀末よね。
『あれ貴女が生み出したんですよ』
だって、あいつらが冗談を真に受けて、ホントにモヒカン肩パッドの世紀末スタイルになるとは思わなかったのよ!
『しかも何故か女の子にモテモテですしね』
「「「きゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」」」
くッ!あいつら女の子達に手なんか振ってやがるわ。
『物凄い歓声が湧きましたよ。凄い人気ですね』
俺たちイカした清掃隊♪
(俺たちイカした清掃隊)
俺たち学園を守ります♩
(俺たち学園を守ります)
汚物は消毒!(汚物は消毒!)
ゴミ屑は排除!(ゴミ屑は排除!)
あいつら最近ちょっと調子に乗り過ぎじゃね?
やっぱ今からあいつら殲滅してこようかしら?
『やめなさい!……あら?』
ん?向こうからやって来るあいつは……ヴォルフ?
「来たか!!」
「いや、来たのはヴォルフの方でしょう?」
「山も雲も動かない!ならばこの風が動かねばなるまい!」
「話しが通じてないし!?」
山?雲?風?
ヴォルフのヤツなに言ってんの?
『さあ?貴女のせいで気でも触れましたか?』
え!?私のせいなの?
『貴女以外に誰がいるんですか?』
おかしいわね。
私は仲良くしようと努力してきた……つもりだけど。
『側近3人は貴女に酷い目に合わされたと、思い詰めていましたよ』
そ、そうなの?
『無自覚に虐めていたのですね……』
「だ、大丈夫ヴォルフ?あんたがおかしいのは私のせいじゃないわよね?」
『貴女という人は!?』
なによ!私は悪くないわ。
私は仲良く遊んだり、可愛がったりしただけよ!
『虐める側はみんなそう言うんです』
「僕は五車聖のひとり!風のヒョロい!」
は?
『はい?』
「いや、あんたはヴォルフでしょ?」
「五車聖はガルム殿下の守護聖!僕らの救世主をおびやかす貴様の死拳!今、消滅する時が来たのだ!!」
「えーと、五車聖というのはガルム様の側近のこと?救世主は分からないけど、とにかく私に因縁をつけて勝負を挑むと?」
『貴女に叩き潰されて、いよいよおかしくなりましたか?』
いや、普通に果たし合いに来たんじゃない?
『貴女に勝負を挑む段階で、もはや正気ではないでしょう』
どういう意味!?
『だって人外に戦いを挑むなんて、素手でライオンに挑むよりも無謀でしょう』
素手でライオン?
…………普通に勝てるわね。
赤子を捻るって意味かしら?
『貴女の基準がおかし過ぎた!?』
「カレリン!僕は昔の僕とは違うぞ!!……万物の根幹たる四の一、飄々なれ風の精霊……」
なんか呪文唱え始めたけど……
『放っておいていいのですか?もうすぐ魔法が発動しますよ』
昔みたいに発動前に叩き潰してもいいんだけど……可哀想だから受けてあげるわ。
『随分と甘いのですね』
どうせこいつの魔法じゃ《令嬢流魔闘衣術・ドレス》の防御力を抜けないから。
『全身に魔力を漲らせるから、通常防御だけではなく魔力耐性も高くなるのですね』
ハーンメリ賢帝国で揉めた時に、ランドルフとかいうヤツが出てきて大陸最強の攻撃力だとかほざいていた魔法にも耐えたわよ。
『それグレン・ランドルフの核魔法の事じゃありませんか!?』
そんな名前の魔法だったわね。
『それ戦略級の大魔法ですよ!個人に使用するような代物ではないんですが……もう貴女は化け物通り越して超越存在になってません?』
私は霊長類最強よ!
そんなわけのわからない存在ではないわ!
『あくまで言い張りやがりますか……』
「わが魔法は風を友とし風の中に真空を走らせる!その真空の力は鋼鉄をも断ち割る!!」
おっと!ヴォルフの魔法が発動したわね。
『周囲の木々や地面がばっくり裂けていきますね』
「はあ〜!!」
『跳躍してきましたね。風魔法の応用ですか』
あ〜なんで飛び掛かってくるかなぁ。
空中じゃ攻撃を躱せないし、隙だらけでしょうに。
(ビシッ!)
風が私に襲い掛かってきたけど……やはりね。
「そんなやわな風ではこの体に傷ひとつできぬ!!」
『カレリン!?貴女には傷ひとつついていませんが制服がボロボロですよ』
あっ……いま着ているの普通の制服だった。
つい冒険者の時の防具の感覚でいて……
『あまり肌を露出させない!女の子なんだから気をつけなさい』
くッ!恐るべき風のヒョロい……私を裸にひん剥くのが狙いだったのね。
恐ろしいヤツ!(ギラッ!)
なので速攻で退場させま〜す。
「ぬう!!」
喰らえ!ワ〜ンパ〜ンチッ!!
(グウオッ!)
「うお!!」
私の空を切り裂く拳が音速を遥かに超えて、生じた衝撃波が拳の代わりにヴォルフを襲う。
「ぐは!!」(ズシャ…)
『ヴォルフ側からは等身大の拳に襲われた様に見えましたよ』
こいつ弱すぎッ!
『貴女が強すぎなんです!』
こんな弱くちゃガルム様を守れないでしょう。
これじゃあ側近は務まらないわ。
『一応婚約者を気に掛けているんですね』
「グフ…さすがだな恐るべき強さだカレリン!!
だが、おまえの運命もここまで地獄でまってるぞ!!」
グフッ!…ガクッて……別にあんた死んでないからね。
『さすが風のヒョロい!風の様に現れて、まさに風の如く去りぬです』
「何言ってんのヴォルフ?あんたが行くのは地獄でさえ生ぬるい――マリクッ!」
「サーイエッサー!」
即時対応。
さすが私が鍛えた精鋭ね。
『さっきまで貶していたくせに!』
そんな昔の話は忘れたわ。
「喜べマリク!今日から貴様は一等兵に昇進だッ!」
「「「おお!」」」
周囲の清掃隊員から祝福の言葉が次々とマリクへ送られている……私が勝手につけてる階級なのに、そんなに嬉しいのかしら?
『本人も喜んでいるみたいですし、いいのではありませんか?』
「それに伴い貴様に任務を与える」
「サーイエッサー!」
なんか嬉しそうね。
仕事を押し付けられて喜ぶなんて……マゾかしら?
なにこいつ。気持ち悪い。
「貴様に部下を与える!そこで無様なカエルの様に倒れている新兵ヴォルフ二等兵だ」
私の言葉にマリク以下清掃隊員達の視線が地に倒れてヒクヒクしているヴォルフに注がれた。
「この使えぬ新兵を鍛え直す!その役をマリクに任せる。地べたで這いずりまわる糞虫を苛めて、虐めて、イジメて、いじめて、徹底的にいびり抜いて使える清掃隊員へと鍛え上げろ!!」
「サーイエッサー!」
なんか楽しそうね。
他人をイジメろと言われて歓喜するなんて……サドかしら?
なにこいつ。人としての情は無いのかしら?
『貴女がそれを言いますか!?』
さあ、これでヴォルフを鍛え直せば、少しはガルム様の役に立つでしょう。
『そうやって貴女は3人を追い詰めたのですね……』
ガルム様も喜んでくれるんじゃないかしら?
『貴女はガルムを気に掛けているのか、どうでもいいのかどちらなんですか?』
え?結婚する相手だし、仲良くはなろうとしているつもりだけど?
『貴女の気持ちは絶対相手に伝わっていませんよ……』




