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24. 第七死合!悪役令嬢vs怒りの乱暴者[ROUND1]【STAGE 学園】

 私は校門から校舎までの路を歩きながら、校内を軽く見回した。


 ここが今日から私の通う王立魔法学園……

『そして、ゲームの舞台でもあり、悪役令嬢が断罪される場所でもあります』


 私の運命が決定される、言わば戦場ね。

『貴女の場合はどこにいても戦場じゃないですか?』


 私のモットーは常在戦場だからね。

『最初にそんなこと言っていましたね』


 いつ何時、誰の挑戦でも受けたーつ!

『頼もしい限りです』


 だけどまずは、あの人に会わなきゃね。

『誰かと待ち合わせでも?』


 来たわ!


 向こうも私を探してくれていたみたいね。

 この学園で最初に会うべき目的の人物の方もどうやら私に気が付いたようだ。



「メイヤー先生!」

「お嬢様!」



 私とメイヤー先生はお互い駆け寄るとひしっと抱きしめ合った。



「ああ!先生……会いたかった」

「私もお嬢様に会えない日々は寂びしゅうございました」



 長年(3ヶ月)引き裂かれた師弟の久々の再会。

 なんて感動的なのかしら!

『見ないと思ったら、この学園にいたのですか』


 メイヤー先生は私の両頬を手で包み、愛おしそうに私を見つめた。


「しばらく見ないうちにご立派になられて……」

「そんなことありません……先生が居なくなって開発は完全に頓挫してしまって」

「まあ!それでは令嬢流の完成は……」

「はい、まだです。やはり先生がいないと――私ダメなんです」

「――ッ!お嬢様!」

「先生!また一緒に令嬢流の技名を考えましょう!」


 感極まって再びひしっと抱きしめ合う私たち。

『美しい師弟の絆みたいに見えますが……内容があまりに下らない』


 なんてことを言うの!?

 メイヤー先生は凄いのよ!


 私が1ヶ月も悩んでいたのに、たった3日3晩考えただけで令嬢流魔闘衣術の名前が決まったのよ。なんて素晴らしい命名センスなの!

『異世界でその厨二病チックなセンスはある意味では確かに凄いです』


 その後も次々と技を完成させたその才能は悪魔的!

『完成させたのは技じゃなくて名前ですよね?』


 私は歓喜したわ。


 全く進展しなかった命名がメイヤー先生のお力でどんどん進んだの!

『技自体はとっくに完成してましたよね?なんなら名前なんて無くても問題ないでしょう?』


 なんてことを言うの!?


 名前は大切なのよ!技は名前がついて初めて完成するの!

『それでつけた名前が厨二名称ですか……』


 メイヤー先生のハイセンスを理解できないポンコツ駄女神がッ!

『分かりたくもありません……それで彼女は何故この学園に?』


 それは聞くも涙、語るも涙の物語……


 私はメイヤー先生というブレインを手に入れ狂喜乱舞したわ。

 それから夜毎に2人で令嬢流魔闘衣術の技名を語り明かした。

 私たちの師弟の絆は深まり、先生との蜜月の日々が続いたわ。

 時間も忘れ2人で朝まで濃密な時間を過ごし充実していたの。

『なんだか恋人との逢瀬みたいな語り口です』


 だけどそんな幸せは長続きせず破局が訪れたの!

 私たちの仲の良さに嫉妬した侍女が現れたのよ!

 その者は卑怯にも、お母様に全てを密告したの!

『ここだけ切り取って聞いてると、昼ドラの愛憎劇みたいですね』


 お母様から事情を聞いたお父様はメイヤー先生を学園の教師として送り込んだの。

 今年、私が入学するので、その下調べと学園での私のサポートの名目で!


 こうして愛し合う私たちは卑劣な者どもの手によって引き裂かれてしまった……

『まあ簡潔に言うと、貴女がたがいつも夜更かししているのを他の侍女が心配して、お母上に相談したら、お父上にまで話が伝わって、貴女と引き離すためにメイヤーを専属侍女から外して学園に放り込んだのですね。

(経緯は異なりますがゲームの設定通りメイヤー・ロッテンが魔法学園の教師に……これも強制力でしょうか?)』


 まあ、ぶっちゃけるとそんな感じ?

『被害者ぶって……悪いのは貴女たちの方ですよね』



「学園の方の準備は整っております。護衛のタクマ・ジュダーも昨日、着任致しました」

『タクマ・ジュダーも王都に?(これはいよいよ強制力ですか)』


 タクマ?来てるわよ。

 私は要らないって言ってるのに、お父様が護衛をつけろとうるさくて。

 まあそれでカレリンズブートキャンプで1番マシだったタクマを連れてきたの。

『貴女に護衛は不要そうですが……』


 まあいらないわね。

 でも、お父様の命令だから。


 あいつは学園の臨時用務員としてしばらく在籍する予定よ。

『アダマンタイト級冒険者が学園の用務員って……』



「タクマは用務員と聞いていますが、メイヤー先生は新任教師として新入生の魔法学を受け持たれるのですか?」

「はい。ただ……」


 メイヤー先生の顔が曇る。

『何かトラブルでしょうか?』

 先生……心配だわ。


「実は急に生徒指導も兼任するように言われまして」

「まあ!さすが優秀なメイヤー先生。新人でありながらもう役職を与えられたのですね」


 私は我が事のように喜ぶが、メイヤー先生の顔は晴れる様子がない。


「どうされたのですか?何か問題でも?」

「それなんですが……」


 メイヤー先生の話を要約すると、


 1.この学園にはケンカに明け暮れる問題児がいる

 2.そいつは強く教師たちでさえ手がつけられない

 3.そいつを中心にはみ出し者が徒党を組んでいる

 4.現在メイヤー先生はそいつらに手を焼いている


 という状況らしい。


「つまり、そいつを恐れて他の教師たちがメイヤー先生に生活指導員を押し付けたのですね」

「まあ、そういう見方もあります……」


「そして、その不良どもがメイヤー先生のお手を煩わせていると……」

「あの子達、私の言う事を聞いてくれなくて……」


「許せん!!!」


 私は拳をぐっと強く握りしめ、怒りを露わにした。


「私のメイヤー先生に迷惑をかける不届き者どもめッ!――ぶっ潰す!!!」

「ああ、お嬢様。私のために……」

『過去、全く言うことを聞いてくれなかった生徒が目の前にいますけどね』


 感動でうっうっと声を詰まらせて泣くメイヤー先生の手をガシッと握った。


「安心してください。私がそいつらにギャフンと言わせてやります!」

「いけません!私のためにカレリン様が危険な事をされるのは……」


「大丈夫です。私には先生と共に編み出した《令嬢流魔闘衣術》があります!」

「で、ですが、令嬢流はまだ完成していないと……」

『できてないのは名前だけですけどね』


「確かに《令嬢流魔闘衣術》はまだ完璧とは言えません……」

『技名だけですけどね』


「ですが、メイヤー先生と苦心して生み出した《令嬢流魔闘衣術》は、未完成と言えども不良ごときに遅れを取るものではありません!」

「お嬢様!私のせいで不完全なまま闘いに赴かれるなんて……」

『どこまで技名が大事なんですか』


「メイヤー先生!私達の令嬢流を信じてください!」

「お嬢様!」


 手を取り合い、涙を流す私とメイヤー先生。

『おかしい……全く感動できません』


「それでメイヤー先生を困らせる慮外者はいったいどこの誰なのですか?」

「最高学年のマリク・タイゾンという生徒です」

『(分かっていたことですが、やはり攻略対象でしたか)』


「マリク・タイゾンですね。分かりました!」


 不安そうなメイヤー先生に私は拳を握りしめ胸を叩いてみせる。


「このカレリン・アレクサンドールがメイヤー先生に代ってお仕置きよ!」


 そして更に拳を天に突き上げる。


「そして私はメイヤー先生の教えに恥じぬよう《レディ・ザ・レディ》の栄冠を手に入れます!」

「――ッ!お嬢様、その意気です!」

『何ですかそれ?』



――《レディ・ザ・レディ》

 それは貴族令嬢の目指す到達点!

 全校生徒の覇権を懸けて、毎年この時期にこの国の貴族令嬢たちが、学園をリングに闘う熾烈な《武闘会》があるのよ!

『それ字が違いますよね!?《舞踏会》ですよね!?』


 そして闘って!闘って!闘い抜いて!

 最後まで立っていた者が「レディ・ザ・レディ」の栄光を手にすることができるのよ!

『絶対に間違ってますよね!?』



 まずは前哨戦としてメイヤー先生の敵を血祭りに上げるわ!


 マリク・タイゾン……

 ヘヴィー級チャンピオンみたいな名前で調子こいているようね!

『名前は関係ないと思いますよ』


 この私が完膚なきまでに叩き潰してくれる!

『ほどほどにしてくださいね……』



 不良(ヤンキー)ども覚悟なさい――汚物は消毒よ!

『嫌な予感しかしません……』



『ゲームの強制力か、メイヤー・ロッテンとタクマ・ジュダーは王都へとやって来てしまいました。まあ、ゲームと違ってカレリンの味方のようですから問題はないでしょう――問題はゲームと同じようにマリク・タイゾンと不良たちとの対決が実現してしまったこと。さてカレリンはこのイベントをどう切り抜けるのか――不安(たのしみ)です』

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