23. 第七死合!悪役令嬢vs怒りの乱暴者【対戦予告】
「さて、悪役令嬢カレリンは恩師を困らせるランボー者を尋ねて、学園の校舎裏へとやってきました。ですが、その相手とはなんと、数々の魔法師たち倒した最高学年の絶対強者!学園史上最強の男、マリク・タイゾンだったのです。果たしてカレリンは彼に打ち勝ち、恩師の無念を晴らす事ができるのでしょうか。それでは!令嬢類最強!にレディィィゴォー」
オレの名前はマリク・タイゾン。
タイゾン子爵家の三男だ。
後継の長男とそれを補佐する次男の2人の兄貴はそこそこ優秀なようだ。
それに引き換えオレは学力も魔力も低く、身分だって子爵の三男だ。
誰も彼もがオレを無価値だと断じた。
ちっ!クソが!忌々しい……
そんな落ちこぼれのオレもダイクン王立魔法学園に通ってはいる。
親が対面を気にして放り込んだだけだがな。
学力も魔力も低く、素行も悪いオレは完全な鼻摘み者だ。
だがそんな落ちこぼれのオレにも1つだけ取り柄があった。
ケンカだ。
オレはガタイもいいし、腕力もある。しかもデカイやつ特有の鈍重さはなく俊敏で華麗なフットワークもできる。
オレは大抵のヤツを一撃で沈めた。どんな強者もオレと対峙して5発のパンチまで耐えたヤツはいない。
だから、鬱憤を晴らすかのようにオレがケンカに明け暮れたのは言うまでもない。
そんな日々を送っていたら、いつの間にかオレはこの学園の番長になっていた。
もうオレに恐れるものなど何もない!
オレは最高学年の絶対強者だ!
この世界は魔法至上?
魔法の力が勝敗の優劣を決めるとされている?
けっ!くだらねぇ。
オレは今まで対戦してきた魔法師たちを思い出してせせら笑った。
魔法なんざ使わせる前に沈めればいいし、使われたところでオレの敏捷性と巧みな足捌きで躱してしまえばいい。実際にそうやってオレは負け無しだ。
オレより強いヤツなんざいねぇ。
この拳一つでのし上がってやる!
オレはそう調子に乗っていた……
この魔法学園のはみ出し者たちを束ねて、お山の大将になっていた。
所詮は狭い世界でいきがっていただけのガキだった。
だが、それがただの増長であったと思い知らされた。
あの女、カレリン・アレクサンドールによって。
その年の新入生は人材が豊富であると言われていた。
第2王子を筆頭に宰相令息、魔術省長官令息、騎士団長令息など錚々たる面子だ。
オレはそんな甘っちょろいお坊ちゃん、お嬢ちゃんたちを校舎裏の溜まり場で手下たちと嘲笑っていた。
そこへ1人の女がやってきた。
制服の校章の色から新入生だと分かった。
その新入生はガキとは思えないほど起伏に富んだスタイルで、容姿もとびっきりの美女だった。
その時は道も分からず迷い込んだんだろうとオレたちは思った。
オレの手下たちは下卑た笑い声を、卑猥な言葉を、獣欲を隠さない視線を少女に浴びせた。
最初はオレもただのひ弱な甘ちゃん貴族令嬢だと侮っていたので、すぐに泣き出すんじゃないかと思った。
「校舎裏のじめじめして汚らしい場所……貴方がたゴミ屑どもにはお似合いね」
だが、その女は怯えるどころか侮蔑の目をオレたちに向けて挑発してきた。
「なんだぁ!」
「このクソアマ!」
「犯すぞゴラァ!」
仲間たちがいきり立つ。
「私の通う学園に汚物は要らないわ。消えてちょうだい」
ピキーーーン
ザワワッ!
その生意気な女以外の全員に緊張が走り、その場に殺気が溢れる。
ちっ!
オレは内心で舌打ちした。
適当なところで手下には手を出させずに女を追い払おうと思っていたのに、これでは手下どもも収まりがつかない。
これではどんな狼藉を働くか……
別にこの女の心配をしているわけじゃないぜ。
この学園の生徒は貴族だ。
この女に手を出して面倒事になるのが嫌なだけだ。
ひ弱な女、子供に手を出すのは格好が悪いしな。
オレはワルだが、硬派なんだよ!
「おい!痛い目みねぇうちに消えな」
しかし、そんなオレの恫喝を女はふんっと鼻先で笑った。
「魔法も満足に使えない貴方たち落ちこぼれに何ができるのかしら?」
「……その軽口の代償は高くつくぜ」
さすがにオレもこのクソ生意気な女に向っ腹がたち、ボディブローの1発でもかましてやることにした。
それと同時に女が呪文の詠唱を始めた。
ふん!こいつも魔法が絶対有利と思ってやがるな。今までの連中と同じように料理してやる。
大きなオレの体からは想像もできないだろう軽快なフットワークで、一瞬にして呪文を詠唱中の女に接近する。
魔法なんざ発動する前に潰す!
「終わりだ!」
鋭いブローをえぐるように繰り出す。
オレは勝利を確信した。
だが……
ガンッ!
女のボディを捉えたと思ったオレの拳は、その腹部に直撃する直前に何か硬い壁を殴った感触を伝えてきた。
「――なッ!なんだ!?」
驚愕するオレに嘲りの微笑を湛えて女は悠然と立っていた。
「障壁も知らないの?」
「障壁?」
「随分と調子にのっていたようね。貴方が倒してきたのは未熟な魔法師たちばかりのくせに……」
詠唱を中断した女は余裕の表情だ。
「み、未熟?」
「一流の魔法師なら貴方程度の打撃なんて魔法で簡単に防げるわ」
「クソったれ!」
オレはガムシャラにパンチを繰り出すが、そのことごとくが見えない壁に阻まれた。
「今までの児戯ではない本物の魔法を味わわせてあげる」
女が中断していた詠唱を再開した。
「くっ!だがオレのフットワークなら魔法なんざ躱せる!」
「躱す?――ふふふ、あーっはっはっはっ……」
本当におかしそうに女は笑い出した。
「躱せるわけがないでしょう。《暴風よ全てを薙ぎ払え》!」
《強き言葉》による魔法の完成。
オレは襲いくる魔法に備えて身構えた。どんな速い攻撃もきっとオレなら……そう信じて疑わなかった。
次の瞬間までは……
――ごごごごごぉぉぉぉぉ!!!
凄まじい轟音が鳴り響く。
女を中心にしてとんでもない強風が渦を巻き、その勢力を一気に拡大する。
躱す?
無理だ!
こんな辺り一帯の何もかもを、目に見える全てを、あの女以外の一切合切を吹き飛ばす暴威の風なんて今までの魔法師たちの魔法とはまるで格が違う。
これが本物の魔法……
オレは手下ともども風に攫われ、嬲られ、壁に打ち付けられて、地面に倒れ伏した。
風がやむと女の狂ったような高笑いが聴こえてきた。
「覚えておきなさい。私が――カレリン・アレクサンドールよ!」
その名前だけが鮮明に心の中に残った。
そして薄れいく意識の中で、オレは思い知らされた……
この女は化け物だと……
次に目が覚めたのは真っ白なベッドの上だった。
あれから既に数日が経過しており、学園に戻ってもオレの居場所はなかった。
カレリンに敗れて手下達はオレから離れたのだ。今ではみんなあの女に従うようになり、魔法という圧倒的な力と侯爵家の強大な権力を背景にした恐怖による支配が始まった。
誰もあの女に逆らうことができない。
楯突けば情け容赦のない仕打ちが待っている。
カレリンは血の通わない冷酷無比な女だ。人間の情けなど存在しない怪物だ。
カレリンに敗れ、あの女を恐怖し、逃げ回るオレはただただ惨めに落ちぶれていくだけだった。
――(惨めに落ちぶれていくマリクの愚痴がぐちぐち続くので割愛)――
カレリンは使えないと判断したら、誰であろうと簡単に切り捨てた。ヤツの周りの連中は戦々恐々としていた。
少しでも自分が有益であると示すべく、こぞって学力、魔法、家柄を誇った。そうしなければカレリンに見捨てられるからだ。
オレの手下だったヤツらはカレリンの手足となって、意にそぐわない者たちを排除している。
カレリンに従わないオレは途端に誰も相手にしないはぐれ者となった。
勉強も魔法も落ちこぼれ。
手下も失い全てだったケンカにも負けたオレにはもう何も残っていなかった。
何かをしようとする気がおきず、
カレリンに抵抗する気もおきず、
ただただ、無為に毎日を過ごす。
そんな死人のように精気を無くしたオレの前に彼女が現れた。
彼女は言った。
「学力、魔力、家柄……そんなもので人の全てを判断し、差別するのはおかしいわ。みんなが平等に幸せになる権利があると思うの。あなたにも素晴らしい才能があるじゃない。あなたは価値の無い人間じゃない!立派な1人の男性よ。誇りを持って胸を張っていいの!」と……
人はみんな同じ……
オレはその言葉に心救われ、もう一度立ち上がる力をもらった。
そしてオレという存在を真っ直ぐに見てくれた彼女を虐げるカレリンと再び戦うと誓った。
その後、ヒロインとともにカレリンと対決して打ち勝ったマリク・タイゾンは格闘技の世界へと入り、メキメキと頭角を現した。恵まれた体格と俊敏な動き、優れた格闘センスによって無敗のチャンピオンとなった。その勝利の影にはいつも薄桃色の髪の女性の姿があったという……
『(『恋の魔法を教えます』攻略本51ページ《攻略対象マリク・タイゾンエピソード“炎のチャンピオンロード”》より抜粋)』
(恋魔教製作委員会:エンドは実際にゲームをプレイしてご覧ください)




