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20. 第六死合!悪役令嬢vs恋する殿下[ROUND4]【STAGE 中央広場】


 淡い緑色のAラインのワンピースに身を包み、つばの広い麦わら帽子を被る。

 いつもの令嬢スタイルや冒険者スタイルとは違う街娘がちょっとおしゃれしたような感じ。


「わんわん!」


 嬉し気に尻尾を振って走り寄ってきたフェンリルに咥えていたリードを首輪につけると、一緒に正門を抜けて屋敷を出た。



『フェンリルは人語を解していたはずですが……』

 子犬の姿だと喋れないんだって。


 リードはフェンリル的にはおしゃれみたいよ。

 時々首輪やリードつけた自分の姿を鏡で見入っているわ。

『犬の分際で色気付きおって』


 私にリード引かれて街を歩くと、みんなから餌もらったり、女の子にチヤホヤされるから、私が外出しようとすると絶対についてくるのよ。

『もう野生のカケラもありません』


 太るからあんまり餌を与えないでって言っているんだけど、フェンリルにジーッと見られるとみんな餌あげちゃうのよね。

『散歩の意味がないですね。それなのにどうして街まで?』


 私にも日課があるの。

『日課……ですか?』



 フェンリルのリードを握りながら私は目的地に向けて街中を歩いていく。


「カレリン様こんにちは」

「こんち!」

「お嬢!この間は助かりました」

「いやいや」

「カレリンちゃん!最近ギルドに顔を出さないじゃない」

「今お父様にギルド出入り禁止令出されてんの」

「嬢ちゃん一狩り行こうぜ」

「だから今はリームーだって!」


 行き交う人々の中に顔見知りが多いせいかやたら声を掛けられるわね。


 面倒だけどそれに挨拶や軽口などをいちいち返す。

『なかなかの人気ですね』


 冒険者としてだいぶん活躍してるからじゃない?

『冒険者以外の方も大勢いますが?』


 まあ、しょっちゅう街に来てるしね。

『そうなんですか……それで、この街の広場が目的地ですか?』


 ええ、そうよ。




 私は広場中央の噴水あたりでリードを外すとフェンリルがさっそく餌をくれそうな(胸の大きな)若い娘へと突撃をかけてるわ。


 フェンリルが向かった先々で若い娘の黄色い歓声が上がってる。

『もはや魔獣の本能も失ってますね』


 餌さえもらえればフェンリルは無害よ。

 あれは放っておきましょう。


 こちらも、もう少ししたら来るわ。

『来るって……もしかしてデートですか!?』


 なんであんたが嬉しそうなの。

『貴女もやっと色気づいたのかと思うと……』


 あんたは私のおかんか!

 デートなんてするわけないでしょ!

『何故!?いいじゃないですかデート。逢引、逢瀬、密会、乙女なら憧れるワードでしょう』


 あんたホントに昭和の親父なんじゃないの?

 だいたい今の私が異性に興味持てるわけないでしょ。

『どうしてですか?』


 私は12歳よ。

『そうですね。見た目は随分おとなっぽいですが』


 だけど中身は元女子高生なのよ。

 とても同年代と付き合う気にはなれないわよ。


 悪いけど私にショタの趣味はないの。

『歳上とならいいのでは?』


 12歳と付き合う歳上男性ってロリコンじゃない!?


 いやよ気持ち悪い。

『貴女の容姿なら十分ありと思うんですが、まあ仕方ありません。それではいったい誰と待ち合わせを?』

 もう来たわ。


 私は空を見上げた。

『あれは……』



 パタパタ―― パタパタ――

  パタパタ―― パタパタ――


『鳥?』


 白に青いラインの入った数羽の小鳥たち……

 私の周りに群がってくる。

『かなり人に慣れていますね』



 チチチチチ……

  チチチチチ……



 鳥たちが期待の眼差しで私を見上げる。それに応えるように私が鳥の餌を取り出すと、彼らは肩や腕に飛び乗ってきた。


「こらこら、そんなにがっつかないの」

『随分と貴女に懐いているのですね』

 けっこう餌付けしたからね。


 私は小鳥たちに順に餌を与えていく。


『囲まれた鳥と戯れる少女ですか……ホントに絵になりますね』

 ん?ありがと。


『で、鳥を餌付けして、いったい貴女は何をしているんです?』

 見ての通り小鳥たちと戯れているのよ。


 時折、小鳥たちが翼をパタパタと羽ばたかせていたが、食べ終わった後も飛び立っていかない。


 小鳥たちも私から離れたくないのかしら?

 私の魅力は種族も超えるのね。

 ふっ、美しすぎるのも罪ね。

『……』


 そんな疑りの目で見ないでよ。

 そうよ!小鳥たちは飛び去らないのではなく、飛び立てないのよ!

『あの訓練ですか……』


 さすがサブカルの腐女神(ふじょしん)

『いえ私サブカルを司っていませんし、腐女子でもありませんから』


 そう……あれよ。

『(聞いてねぇし)』


 鳥の飛びたつ際のメカニズム――

 つまり一度ジャンプしてから羽ばたくという習性を利用し

 最初(はじめ)のジャンプを自らの肌に感じ取り手を(わず)かに下げ

 初動作を封じることにより飛びたたせないというものである



 これで機を読み、機を合わせる訓練を行なっているのよ。

『貴女はどこぞのグラップラーですか!?』


 いつかは地上最強の生物を打倒しないといけないしね。

『全羽同時にそれをやる貴女はもう人間を超越していますよ』


 これで、1対1(タイマン)だけでなく、多対1でも機を読み切れる自信がついたわ。

『貴女はいったい何を目指しているのか……』


 もちろん《霊長類最強》よ!

『そうでした……』


 もう、この特訓も終了ね。

 さてと……



「フェンリル!帰るわよ〜」



 お気に入りのお姉さんの(現段階で私より大きい)胸で恍惚の表情を浮かべるフェンリルを呼びつける。

『大魔獣から堕淫獣(だいまじゅう)へとクラスチェンジしていますね』


 あ!フェンリルのやつ少し嫌そうな顔をしたわね。

 この野郎!


 私がちょっと威圧すると、フェンリルは慌ててお姉さんの腕から飛び降りて尻尾を丸めてすっ飛んできた。

圧力(プレッシャー)に負けたようですね。一生懸命に尻尾振って媚び売ってますが……もう完全に貴女が飼い主になっていますね』


 有無を言わせずフェンリルにリードを繋げると私は家路についた。

 その私の耳に女の子の鳴き声が届いた。


 その発生源では小さな女の子の前でオタオタするヒゲモジャの姿とその周囲を何事かと見守る人だかり。

『あの髭の大男は確か山賊の……』


 ええそうよ。

 あれから全員お父様に売り渡して私の小遣いとなった男よ。

『貴女という人は……』


 いいじゃない。

 きちんとした仕事を斡旋してあげたんだから。

強制労働(むりょうほうし)のくせに』


 失礼ね。

 彼らも服役した後は、お父様がきちんと賃金を払っているわよ。

『お父上はまともな方のようで安心しました』


 まあ、最低賃金すれすれ……いえ少し割っているけど。

『完全にブラックでした!?』


 今ではアレクサンドール領の貴重な労働力(せんりょく)の1人よ。

『もと山賊ですよね?大丈夫なのですか?』


 奴の牙はバッキバキにへし折ったから大丈夫よ。

 今じゃ大人しいものよ。

『見た目は恐いままですけどね』


 そうなのよね。

 見た目はそのまま。

 あのナリで子供に近づくから恐がられちゃって……

『そりゃあの巨漢でヒゲモジャ強面ですからね』


 全くあのバカは!

 毎度々々懲りないんだから!



「何をやっているの!」



 私は一喝してヒゲモジャと女の子の間に立つと、途端にヒゲモジャは顔を青くし、へこへこと委縮した。


 でっかい図体して情けない。

『貴女が恐怖のどん底に落としたからでしょう』


「こ、これは教官!」

『教官?』


 山賊たちに私の考案した矯正プログラムを施したのよ。

『……内容は聞かない方がよさそうです』


「ヒゲモジャ!民間人には迷惑をかけるなとあれほど言ったでしょう」

「い、いえ自分はただ……」

「口答えするな!」

「サ―イエッサ―!」


『ヒゲモジャが敬礼している……』

 矯正プログラムの参考にしたのは前世の映画『フルメタル・ジャンパー』(注1)のハートフル軍曹(注2)よ。

 彼はわざと嫌われ者になりながら新兵たちを一人前に育て上げる熱い男よね。


 最後はみなが心を1つにして闘いに赴くの。

 スポ根に通じるものがあるわ。

『……違うと思いますよ』



「それで?この女の子は誰?」

「は!迷子であります教官!」


 私は腕組みをして下からヒゲモジャを睥睨した。


「ふむ……保護しようとして泣かれてしまったのね」

「サ―イエッサ―!」


「あんたじゃ保護じゃなくて人攫いにしか見えないわよ」

「それはあんまりなお言葉であります」


「もういいわ。この子は私が保護します」

「そ、それは自分が……」


 ギンッ!!!


 殺気を乗せた視線をきつく送ればヒゲモジャはすぐに震え上がった。

『可哀想に……』



「この私に意見しようとは偉くなったものね」

「――!」


 私は直立して硬直しているヒゲモジャの胸倉を掴むと、グイッと引き寄せた。

 身長差のためヒゲモジャは情けない前傾姿勢となるが、構わず私は彼の耳元に口を近づけ囁いた。



「もう1度カレリンズ・ブートキャンプへ行きたいか?」

「サ―ノ―サ―!!!」


「そうかそうか行きたいか……近いうちに召集をかけるから楽しみにしておけ」

「サ―ノ―サ―!ノ―サ―!ノ―サ―!ノ―ッ!ノ――ッ!ノ――ッ!!!」


 私は手を離すと頭を抱えて叫ぶヒゲモジャの胸をポンと軽く叩いた。


「ふふふ、そんなに喜ぶなよ」

『完全に恐慌状態に陥っていますが……』


 その後、ヒゲモジャは魂が抜かれたようにフラフラと人混みの中へと消えて行った。


 大丈夫かしら?

『貴女が追い詰めたんでしょう!』





『こうしてガルムのカレリン視察はとんでもない方向で幕を閉じた……』

 え!?見られてたの?


『カレリンに一目惚れしたガルムは……』

 どこに惚れる要素が!?


《美しく、優しく、気高いところらしいですよ。あと艶めかしい脚?》

 うお!ポンコツが増殖した!?



『王都に戻るとカレリンとの婚約を成立させようと各方面に働きかけ、この1年後、ゲームの設定通りにカレリンはめでたく彼の婚約者となったのでした』


 何故に!?

注1:『フルメタルジャンパー』

某国の映画産業地区で制作された架空の国家メリケン合併国の海兵隊新兵達(ニューピー)の訓練を題材としたハートフルコメディである。決して似た名前の海兵隊訓練所での過酷な訓練とベトナム戦争を題材とした映画ではない!

注2:ハートフル軍曹

熱いハートに溢れる鬼教官。決して似た名前の叱責と罵倒、殴る蹴るの体罰与える鬼軍曹ではない。

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