2. 第一死合!大型貨物自動車vs格闘少女【STAGE 公道】
「もしよろしければ皆様方に格闘少女芳田紗穂里についてご説明させていただきましょう。彼女は弱りきった格闘界に新風を巻き起こすべく闘って、闘って、闘い抜いて将来は霊長類最強になることを夢見る少女なのです。
本日は大事な大会の日。しかし、彼女の前に次々と刺客が現れるではありませんか!
はたして紗穂里は、その刺客たちを倒して無事に霊長類最強の座につけるのでしょうか?
それではみなさん、令嬢類最強!にレディィィゴォー」
私の名前は芳田紗穂里。
霊長類最強の女を目指し、日々鍛錬を惜しまない17歳の女子高生。
中学にあがるまでは空手一直線で頑張っていたんだけど、小学生の時に強くなりすぎた私は小学生のみならず中高生もぼこってしまって……誰も対戦してくれなくなっちゃった。
さすがに師範代までボコったのは不味かったかな?
師範代は泣いて許しを乞うし、道場のみんなドン引きするし……
それに大会にも年齢制限があるしね。だから、それならと中学ではアマレスに転向してみたの。アマレスなら国際大会もあるしね。
自慢じゃないけど、私はアマレスでもすぐに頭角を現し、将来は金メダル間違いなしって言われているの。
だけど私って天才でしょ?
『格闘技の天才少女』までは良かったんだけど『可愛すぎる格闘少女(14)』と報道されたのは今でも黒歴史ね。
視聴率取りたいのは分かるんだけれどあれはない!
本人の許可なくその見出しはない!
だってそんな見出し見たら、どんな可愛い娘だろうってみんな確認しにくるじゃない?
それが人の性ってもんよね?
そして、大したことないじゃないって嘲笑うのよ!
あれが、あの『可愛すぎる格闘少女(14)』(笑)って!
間違いないわ。
私ならやるわ!
私は格闘の天才だけど、容姿に関しては凡庸よ。ブサイクってほど酷くないけれど、私を見て可愛いと言ってくれるのはせいぜい100人中50人くらいのものじゃない?
微妙よ、微妙!
そんな私に『可愛すぎる』は痛いッ!
恥ずかしくって外も歩けないわよッ!
その報道の後は中々ほとぼりが冷めなくて『可哀相すぎる』格闘少女状態だったわね。
室内で筋トレに励んだけど……
そんな格闘人生を送る私の好きな言葉はとーぜん
《霊長類最強》!
座右の銘も
《霊長類最強》!
ちなみに小学生の時に書いた将来なりたい職業も
《霊長類最強》!
あの時は本気で《霊長類最強》は職業と思ってたなぁ。
そんな私は可愛いと思う。
だって、マンガに出てきた《地上最強の生物》はかなり裕福な生活していたじゃない?
それ見て強いと稼げるんだなぁと幼心に思ってたのよ。
勘違いしても仕方がないじゃない?
現実には格闘技で食べていくのは大変みたいだけど。
テレビタレントになる人が多いのね。世知辛いわ。
でもそうすると、あの《地上最強の生物》も貧乏なのかしら?
豪華な食事たべたり、戦闘機乗り回したり、高級ホテル泊まってたりしてなかったっけ?
は!まさか!?
絶対の暴力で無銭飲食?
人外の腕力で無賃乗車?
圧倒の恫喝で無銭宿泊?
ないわぁ。
それ絶対ないわぁ。
犯罪はだめよね。犯罪は。
人としてどうよって感じよね?
あ、地上最強の『生物』だから人じゃないのか!
中国最強の146歳の老人も「人と闘っとる気がせん」とおっしゃっておられたわ。
いくら強くても無銭飲食はダメよね。無銭飲食は。
やつは人でない可能性もあるから、やっぱ私が目指すのは《地上最強の生物》ではなく《霊長類最強》!
それにしても幼少期は危なかったわ!
将来なりたい職業《地上最強の生物》か《霊長類最強》で迷ったのよね。
危うく人の道を踏み外すところだったわ。
だって《地上最強の生物》を謳っててやる事が無銭飲食よ。無銭飲食。
あまりにも情け無いわ。
さて私のことはこれくらいでいいでしょ。
私には今もっと大事なことがあるの。
今日はアマレスの全国大会があるのよ。
オリンピックの選考にも関わる大事な試合。
アマレス始めてから無敗神話を築いている私は優勝間違いないけどね。
朝起きてから絶好調だからどんな強敵も瞬殺できる自信があるわ。
自称で私の宿敵を謳ってるのがいるけど、今まで負けたことないし当然今日もぶっ潰す!!!
だいたいあの女はいけ好かないのよ。
チョーッと美人だからって鼻にかけやがって。
まあ、100人中80人は美人だと言いそうな容姿よね。
そうよ!認めるわ。
あいつは私なんかよりずーっと美人よ。
だからあの女と対戦するとチョー闘争本能が湧くのよね――ぶっ潰す!って……
あいつとやると脳内麻薬物質がでまくるのよ。
私が女に生まれて良かった。
男だったらきっと試合で人を殺してた。
さすがに不味いわよね人を殺したら……試合でも。
とにかく今日は誰が相手でも勝つイメージしか湧けないわ。
今の私なら《地上最強の生物》――の息子にだったら勝てる!
え?《地上最強の生物》はって?
あれは霊長類じゃないからパスよパス!
超高齢の中国最強様もリームー、リームーとおっしゃっておられたわ。
でもいつかは強くなって、道を誤った《地上最強の生物》の横暴を私の手で止めると誓うわ!
そんな取り留めも無いことをツラツラ考えながら今日の大会会場へ向かう私の前に現れた1人目の刺客――2人乗りの原チャ。
道行く私の前方から奴らはこちらに向けてやって来たの。
それは爆音を上げて(音のわりに遅い)生活道路を走る迷惑なスクーター。
ありふれた車体にフルフェイスを被った2人乗りで、格好もラフなTシャツにどこにでもあるジーンズを身につけた男たち。
何の変哲も無いと思われた彼らは突如スピードを上げると私とちょうどすれ違うところだった若い女性のクラッチバッグを背後から近づきひったくった!
被害女性は突然の出来事に目を点ににして唖然としているようなのは当然ね。
だけど、同時にひったくり犯も唖然としているでしょうね。
フルフェイスで顔を拝めないのが残念だけど。
何故かって?
彼女がバッグを奪われ認識し目が点になるまでの僅かな間に、私の横を通り抜けようとした強奪犯に私がタックルをぶちかましたからよ。
その間わずか0.2秒!
そして今この2人は私の足と腕で彼らの悪事も完全フォールド。
通常では反応できるはずもないタイミングの犯行ね。彼らは背後からバッグに手を掛けた瞬間、自分たちの勝利を信じたことでしょう。
だけど、それは甘い!
グラブジャムンより甘い!
彼らがバッグを奪うか奪わないその瞬間私の本能が告げたのよ!
ヤツらをやれ!……と。
その瞬間、衝動の赴くまま私は男たちに襲い掛かったの。その後はあっという間よ。力ずくで組み伏せ、全てを奪い、彼らは抵抗する気力も失ったようね。
あっ!目のハイライトが無くなったわ。
……って、いや待って、ちょっと待って!
字面だけ見たら私アブナイ人みたいじゃない!?
男に飢えた野獣が襲い掛かって力ずくで奪ったみたくなってない?
絶対に違うから!
私飢えてないからね!
奪ったのはバッグで貞操ではないから!
確かに彼氏いない歴=年齢だけどさぁ!
絶対に飢えてないから!!
まあ、いいわ。
こんな奴ら大会前の肩慣らしにもならなかったわ。もっと強い猛者はいないものかしら。と、思ったのが良くなかったのか。
現れたのは第2の刺客――両手包丁の通り魔。
私が警察にひったくり犯を引き渡していると可愛い園児の集団が2人1組お手々繋いで私たちの横を通り過ぎて行ったの。
か~わいい!
なんとも微笑ましい光景よね。まるで天使たちの戯れ。心が洗われるよう。
いつも思うの。純真無垢な彼らは人をありのままに見ていると。
時々デリカシーがないとか感情的でうざいとか色々言う人いるけど、それはあの子たちがまだ忖度の分からない年齢だからからよ。
逆に言えば彼らの純粋な瞳に映った嘘の偽りのない真実を表現しているだけなのだと思うの。そして彼らの瞳に映る自分の本質に耐えられない人たちが彼らを非難し、時には危害を加えるのよね。
そうアイツの様に!
そこには澱んだ雰囲気を纏った30過ぎくらいの男が両手にそれぞれ包丁を持って近づいているのが見てとれた。一触即発の場面。
「いっつもうるせぇんだよ!人のことバカにしやがって!ぶっ殺す!!」
突如その包丁を振り回し男は園児たちの行手を阻んだ!
警察官たちは包丁の男に気が付いたが、2人のひったくり犯を取り押さえている状態のため初動が遅れたようね。動きが固まってるわ。
だけど心配無用よ。私のモットーは常在戦場。
暴漢が包丁を振り回す前にトーゼン動き出しているわ。
極めた武術の歩法の1つ《縮地》で一瞬で暴漢と園児たちの間に割って入ると、私は男が握る両手の包丁を腕を捻り上げて奪いとった。
私の両手が包丁で塞がったけど、空手で磨いた上段回し蹴りを炸裂させアスファルトへと沈めてやったわ。
「子供たちの純粋な目はあなたの真実の姿を映しているのよ!こんな馬鹿なことしないで、その自分の本質に向き合い耐えられる心の強さを持ちなさい!」
ビシッと指をさし男を諫めた私は次に怯える園児たちを振り返った。
安心させてあげないと。
「さあ、もう大丈夫よ」
私は両手を広げて園児たちを迎えてみたの……両手に包丁持って。
「ぎゃぁぁ!ナマハゲ!!」
「マ゙マ゙〜ゴヷイ゙よ゙ぉ!」
「あ、あっち行け!」
阿鼻叫喚の園児たち……
純粋な瞳――
真実の姿――
本性を映す鏡――
自分の本質――
私――ナマハゲ?
あ、だめ、耐えられそうにない……
膝をガックリと折り、両手を地について私は血涙を流した。
いや待って!
きっと包丁のせいね。
この包丁がナマハゲを連想させるのよ。
そうよね!包丁なんて持っていた私が悪かったわ。
包丁を置いてと――
「あなたなんで子供たちを追いかけまわすの!」
「子供たちが怯えているわ!」
「お願いだから止めてあげてぇ!」
――心が折れました。
私の顔ってそんなに怖いのかしら――まさかナマハゲ顔!?
このあと保母さんとお母さんたちの懸命の努力で園児たちも次第に落ち着いてきたんだけど、「不幸は独りではこない、必ず連れを伴ってくる」とはよく言ったものね。
この後、まだ我が生涯最大の強敵が控えていたのよ。
そう、最後の刺客が。
私は証拠物件の包丁を警察に渡し、ひったくり、通り魔と事件から解放されたとほっとしたのもつかの間……
――ブォォォォン!!!
――パパァァァン!!!
そこに奴が現れた。
私の生涯最大の強敵。
それは大型貨物自動車!!!
奴は暴走しているみたいだった。
公道から半ば歩道に乗り上げ、コントロールを失っているわね。
私ひとりなら問題なく避けることができるんだけど……
実は先ほどからの事件の連続と今回のトラックの爆音で私の後ろにいたおばあちゃんの腰がいってしまったみたい。
へなへなと座り込んでしまい、立ち上がる力もなさそう……
仕方ない、背後のおばあちゃんは私が守る!
私はいつなんどき、誰の挑戦でも受けて立つのよ!
それにさっき《地上最強の生物》の横暴さえ止めると誓った!
誰かが道をあやまった時は、私の手でかならず横暴を封じてくれる!と――だから!
「誓いの時はきた!いま私はあなたを超える!!」
「「「それ越えられないから!」」」
声援を送る野次馬たち!
迫る大型貨物自動車!
立ちはだかる芳田紗穂里!
大丈夫よ!《地上最強の生物》以外にも焼き菓子や恐竜君などなど色々な面々が大型貨物自動車を打倒してきたもの。
奴らにできて私にできない道理はないわ!
脳内麻薬物質が私の脳を駆け巡る。
先ほどまでの連戦の興奮と、この大舞台に対する高揚で私の閾値は振り切った!
今までの闘いはこの大型貨物自動車と相まみえるためだったに違いないわ。
この高揚
この活力
気が満ちる
勝機!これは間違いないっ!!
「今の私は大型貨物自動車にだって勝てる!」
「「「勝てるかぁぁぁ!!!」」」
観客たちの息のあった一斉突っ込みが対決のゴング!私と大型貨物自動車の勝負の幕が切って落とされ――
キッキィィィィィ!
ドンッ!
――一瞬で閉じた
私は吹き飛ばされ――敗れたのだ。
筋肉が足りなかったのかしら?
――いや、自分を信じて戦った。悔いはない!
だけどおばあちゃんは大丈夫だったかな?
薄れゆく意識の中で、その気がかりだけを残して、私の意識は完全に闇の中へ落ちた……
YOULOSE
[CONTINUE10……9……8…]
みなさんお待ちかねぇ!
驚いたではありませんか!主人公が初戦敗退するという番狂わせ!
しかも対戦相手は人どころか生物ですらなかったではありませんか!
しかし、ここで更に驚きです!
なんと死んだはずの紗穂里の前に突如現れた女神ルナテラス!?
女神はいったい何の目的で紗穂里の前に現れたのか?
そして紗穂里はどうなってしまうのでしょうか?
令嬢類最強を目指した闘いのゴングが今鳴り響きます!
次回令嬢類最強!ー悪役令嬢より強い奴に会いに行くー『第二死合!格闘少女vsポンコツ女神』に、レディィィ、 ゴォォォ!
中のネタ幾つ分かるかな♪




