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13. 第五死合!悪役令嬢vs逆襲のスピードスター[ROUND2]【STAGE 冒険者ギルド】

「はい?」

 はい?

『この受付嬢、完全にぶっ飛んでますね』



 唖然として体も思考も停止した私とタクマ。

 セレーナさんは左手を腰に当て、右手でタクマをビシッと指差した。



「聞えなかったのですか。私はあなたのパーティーでカレリンちゃんの仕事をフォローしなさいと言っているのです。その命に代えても!」



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――マジか?

――ミスリル級冒険者のタクマさんを護衛に!?

――アレクサンドール1番の冒険者パーティに子供のお守りをさせるなんて……

――ちょっと贅沢すぎないか?

――いや、タクマさんもさすがに断るだろ?

――バカ!このギルドの裏ボス、セレーナさんの命令だぞ。

――ああ、拒否権などない。



 周囲が騒めく。

 でもこれは私も予定外。



「おいおい、他の冒険者の仕事を護衛するなんて聞いたことないぞ」

「カレリンちゃんが心配です。貴方がたのパーティが護衛につけば薬草採取くらいは問題ないでしょう」


「いやいやいや!正気か!?」

「私はいたってまともです」



 まともかしら?

『まあ、貴女が普通の幼女だったらそうでしょうね』



「貴方こそ正気?こんな可愛いカレリンちゃんを1人で森に行かせるつもりですか」

「だがこの幼女はさっきザッコを表で瞬殺に……」


「何をバカなことを……あんな大男をこんな小さな女の子が倒せるわけないでしょ!」

「いやホントに……」


「つべこべ言うな!」

「はい!」


 セレーナさんの一喝でミスリル級イケメン冒険者が直立不動となった。



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――ホ、ホントだ。あのミスリルのタクマさんが……

――だから言っただろう。

――あの人このギルドのフィクサーだし。

――セレーナさんはえげつねぇんだよ。

――見た目は優し気で大人しそうな美人なんだがなぁ。

――個人情報からギルドメンバーの弱み握ってるんだよ。

――タクマのやつぁ駆け出しのころセレーナの正体知らずに熱上げてたから。

――色々と弱味を握られてるんだよ。



「分かっているでしょうね?もし断ればあなたが私にあてた恋文の恥ずかしい内容を……」

「わー!わー!わー!分かりました!やります、やります、やらせていただきます!」


『どうやらこのギルドはこの娘に牛耳られているようですね』

 セレーナさん……恐ろしい子。


「ちっ!子守で薬草収集とは……」

『まあミスリル級冒険者がする仕事じゃありませんね』

 ちょっと可哀想?


『可哀想ではすまないでしょう……』

 しょうがないなぁ……


 バシッ!

「いてっ!」


 私はタクマのお尻を引っ叩いて気合をいれてあげた。

 ホントは背中に喝を入れたかったけど、幼女の今の身長では届かないからしょうがないじゃない?


「何すんだこのガキ!」


 (いき)り立つタクマに私はニヒルににやっと笑う。


「あンた、背中が煤けてるぜ」

「お前のせいだろ!」


 何よ!ちょっと元気付けてあげようとしただけじゃない。

『貴女ホントに馬鹿ですか?』


「タクマさん!カレリンちゃんへの暴言は許しませんよ!」


 ふっふっふっふっ!私には私の可憐さで傀儡と化した女神がついているのよ。

 反抗的な態度は許しまへんでぇ。


『まあ確かに女神(わたし)がついてますが……』

 ポンコツ駄女神と私の女神(セレーナさん)を一緒にしないで!


『……それで、彼はどうするんですか?』

 そーねぇ……まあ、ちょっとは使えそうだけど……いても邪魔なだけよね。



「セレーナさん!申し出はとてもありがたいのですが、私は採取系より狩猟系がやりたいの」

「そ、そんな!ダメよ!」


 セレーナさんは一気に青褪め、カウンターから出てくると私の小さな手を両手で包んだ。


「こんな可愛いカレリンちゃんにもしもの事があったら……」

「だいじょーぶ!私はつおーい!そしてあのお兄ちゃんは邪魔だから要らなーい」



 ピシッ!

 一瞬で空気が凍った。



「て、てめぇ……」


 あら?タクマの顔に青筋が入ったわ。何を怒っているのかしら?


 せっかく、嫌がってた仕事から解放してあげたのに。

『貴女は真正のアホですか!』



「あのねカレリンちゃん。このお兄ちゃんはこう見えて意外と強いのよ」

「えー!でも私より弱そう」


「おいおい嬢ちゃん、確かにお前はザッコをボコれるくらい腕に覚えがあるみたいだが、俺とアイツを一緒にすんなよ」

「うーん……十把一絡(じゅっぱひとから)げ?」



 首を傾け人差し指を頬に当てる私の愛らしい仕草にセレーナさんは黄色い悲鳴を上げた。

 タクマは怒声を上げたけど……何故に?

『当たり前でしょう!』


「なんだとぉ!?」

「じゃあ五十歩百歩?」


「お前なぁ!俺はミスリル級冒険者だぞ!」


 タクマは左手で自分の胸を叩く。

 そこにはミスリル級冒険者を証明する認識票(ドッグタグ)がぶら下がっていた。


「みくびる級でもミスする級でも関係ない。要らん子は要らん子よ」

「俺は見縊られてもミスもしてない!ましてや要らん子ではない!」


 何よコイツ!私がせっかくやんわり護衛を断っているのに。

『貴女、底無しのアホですよね』



「えーなに?私と一緒にお仕事したいの?」



 私はタクマに色っぽく流し目を送ると、ふっとミステリアスに笑みを浮かべる。

『8歳の幼女に色気も神秘性もないでしょう』

 黙れ!



「ミスリル級冒険者も惑わすなんて、私も罪作りな女。この美しさがいけないのね」



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――え!?タクマさんってロリ!

――ミスリルの冒険者が幼女趣味だと!

――このギルドの面汚しめ!



『とんでもない風評被害ですね』

 私の可愛さ天元突破ね。


 もはや止まるところを知らないわ。

 皆がこの美貌にメロメロね!

『貴女の残念思考は既に天元どころか天界も突破してそうですがね』



「もう勘弁ならねぇ!」

「やめて!カレリンちゃんはまだ子供なのよ!」


「どけセレーナさん!ガキの戯言でも許せん!」

「んーなに?私と勝負する気?私はいつ何時誰の挑戦でも受けてたーつ!」

『貴女は赤マフラーのレスラーですか!』


 まあプロではないけど元アマレス選手ね。

『そうでした……』



 結局その場のノリと勢いで私とタクマは対決することになりましたとさ。

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