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12. 第五死合!悪役令嬢vs逆襲のスピードスター[ROUND1]【STAGE 冒険者ギルド】

 アレクサンドール領の領都グレコローには冒険者ギルドグレコロー支部があるの。


 そこは3階建ての大きな建物で、この一帯の中では特に目立っていたわ。



「なかなか立派な建物じゃない」

『まあアレクサンドール領はこの国でも有数の領地で、領都グレコローはここダイクン王国の副都とまで呼ばれる大都市ですからねぇ』



 それだけに冒険者ギルドも大きいということね。


 私は口の端を軽く吊り上げふっと笑う。



「幾らの風速(レート)か知らないけれど私を満足させられるかしら?」

『貴女は何処の雀鬼ですか!』


 いやぁ、懐が寂しくって。獲物の換金率が気になるのよ。

『貴女は侯爵令嬢でしょうに』


 お父様もお母様もお金(げんなま)くれないのよぉ。

『当たり前です。貴族令嬢は現金を持たないものでしょう……だから冒険者に?』


 私は女神から視線をギルド会館に戻すと再び口の端を軽く吊り上げふっと笑う。



「それもあるけど……どんな強者(つわもの)がいるか楽しみじゃない?」



 せっかく手にしたこの力……《令嬢流魔闘衣術》を試せる強敵がいるといいのだけど。

『その厨二病全開の名前なんとかなりませんか?』


 えー!これメイヤー先生と三日三晩寝ずに考えた渾身の名前なのにぃ!

『そんな下らないことに無駄に情熱燃やして』



「おいクソガキ!邪魔だ退け!」



 扉の前で突っ立っていた私の背後から冒険者らしき巨漢が足蹴にしようとした。が、ふっ!甘いわ。


 私は男から繰り出された足を半身で躱し男の蹴りの力を利用して掬い上げた。



 ドッシーン!!!

「ぐはぁ!」



 巨体が一瞬宙を舞い、そのまま派手に背を打ちつけた。

 大きな音を立て地を揺るがす。


 ふふふ……私はとっくにこの男の殺気に勘づいていたのよ。

『だったら邪魔してないで脇に避けておけばいいものを……この男も可哀想に』


 こういう演出って燃えるじゃない?

『貴女の演出のために彼は被害者に……哀れです。人に思い入れのない女神の私でもさすがに涙が出そうです』



「こ、このクソガキ!何しやがる!」



 巨漢の冒険者が起き上がると私に掴み掛かろうと手を出してきたけど、逆にその腕を取って軽く捻って関節をキメると簡単に地に組み伏せてやったわ。


「《令嬢流魔闘衣術》を使うまでもないザコね」

『もともと貴女が悪いのでしょうに……』


 この男は物語を盛り上げるための尊い犠牲者なのよ。

『人間の道徳観念のない女神の私でも呆れてしまいそうです』



「何を表で騒いでる!」



 ギルドの中から1人の赤シャツの青年が出てきた。黒髪の地球でいえば東洋風のイケメン細マッチョ。


 ふむ……足運び、立ち姿、少しはデキそうな奴ね。

 美幼女である私を前にしても油断のない眼光も気に入った。

『自分より遥かに大きい男を組み伏せる幼女を見れば誰でも警戒しますよ』


「何があったザッコ?」

 ふーん、ホントにザコだったのね。


 私に腕の関節をキメられて地で無様を晒すザコは黒髪イケメン細マッチョを組み伏せられた状態で見上げた。


「タ、タクマ……」

『(ふむ……この男は隠し攻略対象のタクマ・ジュダーですね。本来なら3年後にカレリンの手によって冒険者生命を絶たれるはずだったのですが……)』


「このザコが私にちょっかいかけてきたから可愛がってあげたのよ」


 にやりと笑いながら私は長く美しい金色の髪をかき上げる。


 ふっ!決まったわ。

『貴女が8歳児でなければ艶のあるシーンになったでしょうね』


「ちょ、ちょっかいって……ザッコお前まさかそんな幼女に手を出そうと」

「ち、違う!このガキが扉の前で……イタタタタ!」


 私はザコの腕をさらに捻る。


「ザコのくせにこの美しい私に手を出そうなんて身の程を知りなさい」

「ザッコ、お前――幼女趣味だったとは……」


 黒髪イケメンはドン引きよ。

『可哀想にこの男はロリコンの汚名を着せられてしまいましたか……』



「それで嬢ちゃんは何者だ?」



 私はザコの腕を離すと立ち上がって乱れて肩にかかった自分の長い金髪を手で払うと胸を逸らした。



「カレリンよ!今日からこのギルドでお世話になります!」

「世話にって……冒険者になるつもりか!?まだ子供だろう!」


「8歳よ!」

「8歳だと!?」



 黒髪イケメンは起き上がったザコに呆れの目を向けるとザコは顔を青くした。



「ザ、ザッコ……お前はまさか……」

「ち、違う!俺はロリコンじゃねぇ!!!」

「言い訳は見苦しいですわ。あンた、背中が煤けてるぜ」



 うわぁぁぁん!違うんだぁぁぁ!!!と泣き叫びながらザコのやつは消えた。


 所詮はザコね。

『か、可哀想すぎる……私、同情を禁じ得ません』


「まあ、あのザッコを倒す腕前だ。嬢ちゃんを侮ったりはしねぇよ。受付カウンターで登録してきな」


 俺はタクマ・ジュダーだと名乗った黒髪イケメン細マッチョは親切にも私を受付まで案内し、お礼を言う間もなく去っていった。


 あのザッコがロリコンだったとはなぁ、との言葉を残して……



 うん……さすがに私もあのザコが可哀想になってきた。

『100%貴女が悪いクセに』


 ……とにかく冒険者登録をしちゃいましょう。

『流しましたね』


「こんにちは!キレーなお姉さん」

「あら?可愛いお嬢ちゃんね。私は受付のセレーナよ。タクマさんに連れてこられたみたいだけど……」


 受付の優し気なお姉さんが、私をまじまじと見詰めると頬に手を当てて小首を傾げた。


「まさかあなたみたいな小さくて可愛い女の子が冒険者になるの?」



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…


 受付のキレーなお姉さんの言葉にギルド内が騒々しくなり冒険者どもが私に注目する。



「そのつもりなの……年齢制限があるんですか?」

「いいえ。でもお嬢ちゃんくらいの年で冒険者になる子は珍しいかな?」



 まあ、採取系の依頼もあるからいいか、と割とあっさり許可が降りた。


 受付のお姉さんの説明によると冒険者の仕事はランクごとで受けられるものが違うらしい。ただし、採取や狩猟などの常時依頼などは契約があるわけではないので、現物を持ってくれば依頼の受諾達成が承認されるから冒険者ランクは関係ないらしい。


 冒険者ランクは昔の冒険者が使用していた剣や防具などの装備素材から呼び名が定着したようで、


 木級

 革級

 青銅級

 鉄級

 鋼級

 ミスリル級

 アダマンタイト級

 オリハルコン級


 の8等級に区分されているそうよ。


 ちなみに現在の冒険者の防具はほとんど革製である。今どき青銅製を身につける者はいないので本当に名残りなんだって。


 今日初めて登録した私のランクは木級だ。当たり前よね。このギルドで私が1番強いからもっと上のランクにしろなんて、非常識なバトルマンガの主人公みたいな要求はしないわ。私はとても常識的だから。


『さっき非常識にも無実の男に汚名を着せたくせに』

 うっさい!そんな過去の男は忘れたわ。いい女は過去の男には縛られないのよ。

『なに昔フった男の話みたいに言っているのです』



「それじゃあカレリンちゃんは木級スタートだけど依頼はどうする?」



 受付の優しくキレーなお姉さん、セレーナさんが心配そうに尋ねてくる。まあ、こんないたいけなか弱い美幼女が冒険者なんて心配して当然ね。


『さっき大男をボコっておいて、いたいけ?か弱い?――プーックスクス』

 くっ!このポンコツ駄女神いつかコロス!


 見てなさい!私の比類なき美幼女力の威力を!


「えーっと……うーんっと……」


 私は後ろに手を組みモジモジしながら上目遣いでセレーナさんを見上げた。


「きゃー!なにこの子!すっごい可愛い!」


 私の愛くるしさをまともに食らったセレーナさんは顔を赤く染めて口を手で覆いながら私を凝視――ふっ!チョロいな。これでこの女はもう私の虜。

『貴女ロクな死に方しませんよ――って、既にトラ転というロクな死に方していませんでしたね』



「分かったわ!私がカレリンちゃんのためにとっておきの仕事を紹介してあげる!」


 ホントにチョロいなこの人。

『貴女は違う方向性の悪役令嬢になれそうですよ』


「でもこんな可愛い子を1人で行かせるのは心配ね……そうだわ!タクマ・ジュダー!!!」

「え!?俺?」


 セレーナさんが大人しそうな見た目に反した大声で呼び出したのはさっきの黒髪イケメンね。



「なんだよ突然」

「これからカレリンちゃんが仕事をします。ですが、こんな小さな女の子を1人にするのは私の精神衛生上よろしくありません。そこで――」



 セレーナさんはビシッとタクマを指差した。



「――貴方のパーティでカレリンちゃんの仕事を護衛しなさい!」

「はい?」

 はい?

『おかしな方向になってますよ』



 あれ?

 あれれれ~?

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