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第79話.3人の王子

 ――2週間後。


 リガルとグレン、そしてその護衛やら世話係やらを含めた一行(いっこう)は、ひとまずアルディアードと合流するために、エイザーグの王都へ向かうべく、ロドグリスの王都を()った。


 護衛や世話係の中には、レイやレオなんかの姿もある。


 道中は、比較的安全なはずである街道を進んでいたものの、幾度か魔物に出くわしたりもした。


 しかし、その度に護衛の魔術師が全て始末し、リガルやグレンに身の危険が及ぶことは無かった。


 むしろ、「俺も戦いたい」などと、アホなことを言いだしたグレンを止めるリガルの方が、大変だったかもしれない。


 結局、馬車に揺られながら街道を進み続け、最初の目的地であるエイザーグ王国の王都にまで辿り着いたのは、出発してから10日目の昼過ぎだった。


 王都に辿り着くと、まずエイザーグ王である、エルディアードに迎えられた。


 他国の王とやり取りを行うというのは、リガルとしても中々大変な仕事である。


 だが、アルザート侵略の時に全く同じことを経験しているので、その時よりは緊張せずに自然とやり取りすることが出来た。


 その後、護衛の魔術師などと別れ、リガルとグレンは部屋に通される。


 今日一日は、エイザーグの王城で厄介になり、アルザート王国に向けて移動は明日からだ。


 アルザート侵略の時などと違い、特にやるべきことなども無いため、リガルは部屋にやってくるなりくつろぎ始めたのだが……。


「殿下、飲み物をお持ちしました」


「1か月も経たぬないうちに、また再会することになったなリガル!」


「兄上、一緒になんか遊ぼうぜ!」


 一息ついて10分も経たないうちに、レイ、アルディアード、グレンの3人が部屋に押しかけてくる。


 レイはリガルのメイドであるため、すぐに駆けつけるのも納得できるが、その他の2人はリガルの部屋に来る必要などどこにもない。


 だというのに、部屋にやってくることがまるで当たり前の事であるように、自然と部屋に入ってきた。


 ただ、グレンもアルディアードもこういう所はもう慣れっこなので、リガルも軽く呆れるだけであっさりと部屋に通す。


「で、グレンもアルディアードも、何の用だよ」


「用なんて別にない。ただ、親友が遊びに来たというから顔を見に来たんだ。当然の事だろ?」


「俺も別に用はないな。どうせ暇だったし、何となく兄上の部屋に行こうかなと」


「誰が親友だ、誰が。そしてグレン。お前はもう少し言葉遣いを改めろ。今から癖をつけておかないと、アルザートに着いてからも、その王族に相応しくない言葉遣いが口をついてしまうぞ」


 リガルはアルディアードにツッコミを入れながら、グレンを注意する。


 グレンの王族らしからぬ言葉遣いについては、もう昔から手遅れだと思い諦めていたが、これからは5年間をアルザート王国で過ごすのだ。


 ロドグリスにいる時のような振る舞いは許されない。


 だが、あのグレンが言葉遣いをすぐに使い分けられるとはとても思えない。


 だから、アドレイアに留学の話を聞いたときから、グレンには度々注意をしていたのだが、一向に治る気配はない。


「確かに、アルザートの留学中、その言葉遣いでずっと過ごすというのは流石に問題があるだろうな」


 グレンとリガルのやり取りを見ていたアルディアードも、頷きながらリガルの言葉に同意する。


「お前が言うなって感じではあるが、まぁアルディアードの言う通りだ」


「何でだよ!」


「いや、お前もグレンと似たような感じだからだよ。初対面でタメ口聞いてきたの忘れてないぞ」


「そ、そうだっけ?」


 アルディアードの言葉に対して、呆れながらも頷くリガル。


 アルディアードはそれに対して文句を言うが、言葉遣いを指摘できるような立場ではないのは誰が見ても明らかなので、リガルの反論でたじろぐ。


「ま、まぁそんなことはどうでもいいだろ? それよりもアルザートに行くの楽しみだよな!」


「おい、強引な話題転換やめろ。それにこれはどうでもよくなんて――」


 都合が悪くなったことで、アルディアードが話題を無理矢理に変えようとする。


 しかし、リガルはそれを素早く咎める。


 が……。


「確かにアルディアード殿下の言う通りだな! いやぁ、アルザートではどんな強い奴がいるのか、ちょっと手合わせしてみたいな!」


「おぉ、分かってるじゃないかグレン! 俺も是非自分の実力を確かめるためにも、アルザートの強者どもと戦うというのはいいな」


 グレンはリガルの説教にまともに取り合いたくないので、アルディアードに同調して話をうやむやにしようとする。


 そのまま戦闘狂トークが始まってしまった。


 そう、問題児だらけのこの場では、リガルの方が少数派なのだ。


 レイはリガルの味方だが、相手がグレンとアルディアードとなると、2人と比べて身分が圧倒的に低いレイは、下手なことは言えない。


 リガルが、「俺の援護をしろ」と言わんばかりにレイに目配せをするが、目を逸らして回避する。


 残念ながら、こうなってしまってはリガルが劣勢だ。


「はぁ……。本当にお前らは……」


 無駄に追及してこの場の空気を悪くしてしまっても問題なので、リガルは特大のため息を吐いて諦める。


「つーか、楽しむとか吞気すぎるだろ。今回アルザートと同盟を結びたいのはこっちの都合だが、エイザーグにとっても重要なはずだ。今回の戦争でかなり中心部まで侵略されて、エイザーグ国内はだいぶ荒れてるだろ? この同盟が俺たちのせいで上手くいかなくなるなんてことになれば、一大事だぞ?」


「まぁな。帝国の兵力は思ったよりも大したことが無かったから、それだけなら多分何とかなったんだが、謎の内乱が起きたのが一番の誤算だった。事の重大さは分かってるけどね……」


 リガルの問いに対して、苦々しく答えるアルディアード。


 アルザート侵略は、エイザーグにとって随分と痛手になったのだろう。


「だったらもう少し真面目にこれからのことでも考えろよ……」


「いや、そうは言ってもよ。俺たちのやることは別に外交交渉とかじゃあないんだ。俺たちに任されていることなんて、要は俺たちの間で行われている両国の訪問の時と同じような事だろう?」


「あれ、確かにそうか……」


 呆れたような反応をするリガルだったが、アルディアードの言葉に、意外にも反論することが出来ず、悩みこむような素振りを見せる。


 これまでリガルは、アルザートとの関係の改善という、抽象的な事ばかりに目を向けていて、具体的に何を行うかという事は特に考えていなかった。


 だが冷静に考えると、アルディアードの言う通りで、政治的に重要な任務がリガルに任されている訳ではない。


 やることはシンプルで、交流をするだけ。


 リガルは自分が逆に難しく考えすぎていただけという事に気が付く。


「な? 交流をするってんなら、やっぱり戦ってみるのが一番だ」


「それは絶対におかしいが、まあ向こうの軍事制度なんかについては少し話を聞いてみたいよな。他にも今回の我々のアルザート侵略に対して、どうしてあんな完璧に対応できたのかとかも詳しく聞きたいな」


 さきほどからずっと難しい顔をしていたリガルも、少しだけ楽しそうな表情を浮かべ、アルディアードに言葉を返していく。


「確かにそういう話はお前好きそうだもんな。俺も軍事制度の方は少しだけ興味あるかも」


「えー、俺は正直戦ってるだけいいなぁ。そういう話を聞くのとかは苦手だぜ」


 ここはグレンとアルディア―ドで意見が分かれる。


 グレンは勉強が出来ないアホだが、アルディアードは勉強が出来るアホだからだ。


 アルディアードに頭脳的な一面もあるのは、リガルもよく知っている。


「まぁ、お前は魔物との戦い方についてきっちり勉強して来ればいいだろう。父上も、対魔物専用の魔術師団を作って、お前をその団長に据える気でいるんだ」


「おぉ、そういえば! 兄上が提案してくれて、その計画が本格的に進められているんだったよな?」


「あぁ。お前の望む地位に就けそうで良かったな。アルザートはロドグリスよりも魔物の出現頻度が高い。対魔物の戦闘に関しては、ロドグリスよりも一日(いちじつ)(ちょう)があるだろう」


「マジか、それは知らなかった。いやぁ、戦闘系の仕事が出来そうで良かったぜ。文官とかにさせられたらどうしようかと……」


「いや、流石に父上もお前に文官が無理だと言うのは分かってるよ。まぁ、幸いお前には戦いの才能があるし、お前自身も戦うことを望んでいるんだ。当然お前の望みを叶えてくれるさ」


 意外にもグレンは自分の将来をしっかり案じていたようで、望み通りこれからも戦うことが出来て嬉しそうだ。


 リガルの言う通り、グレンには圧倒的な戦闘の才能がある。


 考えて戦うより、感覚と身体能力にものを言わせて戦うグレンの戦闘スタイルは、対人よりもむしろ対魔物と相性がいいかもしれない。


 リガルもそこまで意図して、アドレイアにこの事を提案したわけではなかったが。


 グレンの将来の地位については、全ての問題が偶然都合よく、ピタリとハマったような結果となった訳だ。


「へぇ、ロドグリスでは、対人と対魔物で魔術師を使い分けるなんてことを考えてるのか。それは面白そうだな」


 グレンとリガルの話に興味を持ったようで、アルディアードも珍しく真面目な表情で呟く。


「だろ? 今までは魔術師は魔術師と一括りにされてきたが、対人魔術師と対魔物魔術師と言った具合にカテゴライズした方が、訓練の効率が良い」


「だよな。むしろなんで今までどの国でも似たような試みがされていないのか、不思議なくらいだ。夕食の時に父上にでも話してみるか」


 こうして、リガルとグレンとアルディアードの3人は、意外にも夕食まで真面目な話をして過ごしたのであった。

そういえば、アルディアードの名前の長音記号が、何故かだいぶ前の話からずっと、ダッシュ記号になってしまっていることに気が付きました(前回から修正してます)。

しかし、すでに数が多すぎて手遅れなので、修正はせず放置させて頂くつもりですが、どうしても気持ち悪いという方がいたら頑張って修正します。

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