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第44話.追撃戦

 エルディアードとアドレイアの会談にて、アルディア―ドの予想通り、アルザート本隊の追撃戦を行うことが決定した。


 そして、翌日の朝。


 エイザーグ国王――エルディアードを総大将として、ロドグリスの援軍を含めた2000の増援が王都を発った。


 この中には、アルディアードとリガルも含まれている。


 何だかんだリガルも楽しみにしていたし、アルディア―ドも戦闘狂であるため、戦争に行きたがっていた。


 2人としては、期待通りの良い結果になったといえるだろう。


 この、エルディアード率いる増援2000は、ものすごい勢いで行軍し、その翌日の昼前には、ハーフェンにて敵軍と戦っていたエイザーグ軍の本隊と合流した。


 ここまでは、順調そのもの。


 だが、地の利のお陰で、敵軍との距離も随分と縮まってきて、あともう一息というところで……。


「エルディアード陛下!」


 先ほど放った斥候が、エルディアードの元に慌てて戻ってくる。


 どうやら、何か問題でも発生したようだ。


「どうした?」


「先ほどこの先の道を偵察していたところ、敵軍が陣を張っている模様です!」


「何……?」


 まさか、陣を張っている理由が、「休憩するため」などという訳ではあるまい。


 恐らく、このままでは逃げ切れないと判断した敵軍は、有利な場所に陣取って、一か八か戦うことを選択したのだろう。


 この先は山。


 高台を取られているため、数でこちらが大きく勝っていると言えど、確実に勝利できるかは分からない。


 敵の選択は、間違っていないだろう。


 とはいえ、それでも有利な状況であることは変わらない。


 予想していなかった敵の同行に、一瞬動揺したエルディアードだったが、すぐに余裕を取り戻し……。


「ふむ……。少々厄介ではあるが……とはいえ、問題はない。このまま進み、一気に力でねじ伏せる! 我が軍の勝利は揺るがない!」


 エルディアードの言葉に、行軍が再開される。


 それを他人事のように、リガルは眺めながら……。


「と言ってるが、実際どう思う?」


 隣にいるアルディア―ドに尋ねる。


「どうって何がだよ?」


「そりゃ、ここで戦闘を行うって選択に決まってるだろ」


「あぁ……。けど、別に何も問題ないだろ。地形的には不利だが、兵数の差は歴然。数の力で粉砕する。美しくは無いが、王道の策だ」


「ま、そうだよな」


 一見、脳筋なように聞こえるが、数の力というのは、戦争においては正義だ。


 リガルの言っていることは正しい。


「まぁけど、赤子の手を捻る様に……、とは行かないだろうな。ま、俺としてはそっちの方が戦い甲斐があって嬉しいが……」


「はぁ……あほか。敵が強いことを喜んでどうする……」


 もう1時間と経たぬうちに、大規模な戦闘が開始されるであろうというのに、いつものやり取りをする二人。


 落ち着きがあるのか、どう転んでも自軍が勝利するという確信か。


 それともただのアホか。


 ともかく、この緊迫した状況下で、呑気な話をしながら、行軍していると……。


「止まれ! 陣形を整えろ!」


 アルザート軍を視界に捉えたエルディアードが、大きな声を上げて、止まるように指示をする。


 その声に反応し、ピタリと歩みを止めると、素早く乱れた陣形を立て直す。


 敵軍がここで陣を構えていると知った時から、陣形は組んでいたので、今は本当に整える程度だ。


 だが、自らが戦う必要のないリガルにとっては、無関係のことなので、自軍の陣形のことなど気にせず、双眼鏡を覗いて敵軍の陣形を見る。


 敵は、薄く広く魔術師を配置している。


 恐らく、こちらの兵数が多いことを危険視して、包囲されないようにしているのだろう。


 固まっていては、簡単に回り込まれて、あっという間に包囲されてしまう。


 だが、実は陣形は、この世界の戦争においてはあまり意味がない。


 例えば、地球の戦争でも、有名な陣形の一つに、「ファランクス」というものがある。


 これは、重装歩兵よる密集陣形である。


 槍と大盾を装備する重装歩兵が、ギッシリと固まることで、互いが互いを守り合って、非常に強固な守備力と、長い槍による破壊力を兼ね備えた軍が完成する。


 しかし、この世界の戦争では、武器など魔術のみ。


 固まっていても、防御を貫通できるような破壊力のある魔術を撃ちこまれて、ハチの巣にされてしまう。


 結局、集団の連携よりも、個々の力で打ち破った方がいいのだ。


 もちろん、少人数での連携は重要になってくるだろうが。


 こうして、戦いの火蓋は切られた。


 まず、ロドグリス軍は、盾として扱うことのできる、取り回しの良い水属性防御魔法、ウォーターシールドを構えながら、走って前進する。


 エイザーグ軍も、ウォーターシールドと似たような魔術である、ウィンドシールドを発動しながら、ロドグリス軍同様に前進していく。


 対するアルザート軍はというと、ロドグリス、エイザーグ連合軍が、守りに徹しているため、ひたすら攻撃魔術を放ってくる。


 弾幕のように、大量に攻撃魔術が放たれるが、連合軍の魔術師は、ほとんどがその全てを回避するか防御するかしていた。


 その能力は、流石である。


 だが、リガルはこれを納得いかないような表情で見ていた。


 それを見たアルディア―ドが……。


「どうしたんだよ。そんな顔して」


 リガルに問う。


「いや、何か戦い方が下手くそだなぁって思って……」


「おいおい、いくら親友とはいえ、その発言はエイザーグの王子として看過できねぇぞ?」


「あ……! い、いや、悪い。悪気(わるぎ)は無かったんだ。勘弁してくれ」


 思ったことを、素直に口にしてしまったリガルを、珍しく真剣な声音で咎めるアルディア―ド。


 自分の何気なく放った発言が、失言だと気が付いたのは、リガルの言葉を聞いた後だった。


 現在、軍の指揮を執っているのはエルディアード。


 アルディア―ドの父親だ。


 それを貶されれば、怒るのも当然。


 しかも、それを口にした人間と、その言葉の矛先が、同盟国の王子と国王なだけあり、下手をすれば国家レベルでの問題にもなりうる。


 流石に今のは全面的にリガルが悪いので、素直に心の底から謝罪する。


「まぁ、いいけど。でもお前、これを他のエイザーグの貴族とかが聞いてたら、大変なことになってたぞ」


「悪い、本当に悪い」


 しかし、2人しかこの場にいなかったので、何とか助かったリガル。


 いつもと異なり、完全に平謝りだ。


「で、この采配の何が悪いんだ?」


 リガルにそう尋ねるアルディア―ド。


 怒っている訳ではなく、単純に好奇心の様だ。


「いや、防御一辺倒にしてるから、今敵に一方的に攻撃されてる訳じゃん?」


「まぁ、そうだな。反撃が来ないなら、攻撃し放題だ。けど、この状況で敵との距離を詰めるためには、防御に徹するしかないだろ。流石に全てを避けることは出来ない」


「本当にそうか?」


「え?」


2人組(ツーマンセル)を作るのさ」


 リガルが現在の戦闘を見て考えたのは、2人組を組んで戦う作戦である。


 片方が防御、もう片方が攻撃の役割を担うことで、安全に前進しつつ、敵に反撃をすることもできる。


 連携よりも、個々の力といえど、少人数で連携することは重要だ。


「なるほど。確かに。今までは個人の力で上回ることばかりに意思が向き過ぎて、戦闘訓練と言ったら、個人練習ばかりだった。2人で協力するというのは盲点だったな」


 納得して感心するアルディア―ド。


 リガルからすると、何故そんなことも思いつかない? と言いたい気持ちになるが、全くその知識を持たないものからすると、あまりに革新的な発想なのかもしれない。


「他にもさ、せっかく戦場が森で、木という障害物が沢山あるのに、それを利用しないのもよく分からないよ」


「障害物? あー、そういえば、決闘の時お前は障害物の使い方が上手かったよな」


 しかし、リガルの発想は、中々この世界の人間の常識の中には無いことばかりの様だ。


 アルディア―ドは感心するばかりである。


 とはいえ、連合軍はほとんど兵力を失うことなく、敵と激突した。

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