第42話.駆け引き
「グー!」
「チョキ!」
「チョキ!」
「チョキ!」
一発で決まる。
勝ったのは、アルディア―ドだった。
じゃんけんが終われば、次はプレイヤー全員がカードを1枚セットするフェイズになる。
(さて、髑髏か薔薇、どちらを伏せるか……。まだ相手の出方が分かっていない、この序盤が一番難しいところだが……。まぁここは、安全策を取るか)
他の3人が早々にカードを選択してセットする中、リガルはじっくりと考えた末に、薔薇をセットする。
このゲーム、「如何に相手に髑髏を引かせて、蹴落とすか」というのは、もちろん醍醐味の一つである。
しかし、髑髏ばかりを伏せていると、全員に警戒されて試合が膠着状態になってしまう可能性もある。
そうすれば、泥沼な試合展開になってしまう。
(ならばここは、序盤は敢えて薔薇ばかりを伏せて、相手を油断させる!)
「よし、最初は俺からだな。うーん、俺はカードをセットするぜ」
一番最初の手番のアルディア―ドは、数字の宣言ではなく、カードのセットを選択する。
これで場のカードは5枚。
現在、5以下の数字を宣言することができる。
次の手番は、リガル。
「じゃあ俺は早速数字の宣言を開始しよう。1だ!」
自分が薔薇を伏せていて、安全なリガルは、堂々と1を宣言する。
これで、これ以降のプレイヤーはカードをセットできなくなった。
「僕も薔薇を伏せてるんで、2を宣言します」
リガルの次の手番であるクリストスが、強気に2を宣言する。
しかし、強気に宣言するから、薔薇を伏せているのかと思ったら、実はブラフで、髑髏を伏せている可能性もある。
そこら辺の読み合いや駆け引きが、このゲームの真骨頂なのだ。
「うーん、僕はパスかなぁ。リガル殿下の1のコールはブラフな気がしますし……」
カインは、リガルのブラフを疑って、パスをするようだ。
しかし、これも髑髏を自分が伏せているからパスをしているだけで、リガルのブラフを疑ったというのは、それを誤魔化すための言い訳という可能性もある。
「俺もパスかなぁ……。5枚しかない状態で、3枚ってのは中々宣言しづらいよ」
続くアルディア―ドも、パスを選択。
このパスも、中々怪しい。
4枚ならともかく、3枚ならギリギリ攻めてもよさそうな数字だ。
何より、アルディア―ドがもし、セットしたカードの2枚とも薔薇ならば、残りは1枚だけ。
普通ならば攻めたいと考えるだろう。
つまり、髑髏の可能性が高い。
(うーん、全員怪しく思えるな……。こいつら本当に子供かよ……)
まだ始まったばかりだというのに、すでに最終局面のような緊迫した展開に、リガルは他3人のレベルの高さに慄く。
非常に高度な心理戦だ。
まぁ、リガルは精神年齢的に高校生だし、他の3人も上級貴族の家に生を受けているので、こういった駆け引きは得意分野だろう。
年齢に似合わずレベルが高いのも不思議ではない。
次はリガルのターン。
(まぁ、ここは無理するところじゃない。仮にクリストスが上がっても、まだ1ポイント。負けは無い。ここはとりあえずリスクを回避してパスにしよう)
「なんか皆怪しいし、俺もパスにしとくわ」
「えぇー。2枚なんて簡単に抜けちゃいますよ」
そう言って、クリストスは自分の手元のカードをめくる。
そこに書いてあったのは、「〇」の文字。
つまり、薔薇だ。
「ほらね。僕は人を嵌めたりする人間ではないので、髑髏なんて置いたりしないんですよ。さて、じゃあもう1枚はどうしましょうか……」
そう言いながら、他3人の表情を伺うクリストス。
恐らく、表情から伏せたカードを読もうとしているのだろう。
リガルは、クリストスの伏せカードが薔薇だったのを見て、「俺のカードをめくられたら、上がられてしまう」と少し焦りを見せてしまったが、クリストスが表情を確認しているのを見て、すぐに平静を装う。
「うーん、分かりませんね……。まぁ、ここはとりあえずリガル殿下のカードをめくらせてもらいましょう。とりあえず、1を宣言していますし、殿下はあまり初回からギャンブルをする人には見えない」
そう言いながら、リガルの手元に伏せてあるカードを、クリストスはめくる。
結果はもちろん薔薇。
「お、やったあ。早速先制ですね」
「くっ……。やるな」
自らの性格まで完璧に読み切られ、悔しそうに呻くリガル。
しかし、まぁこれくらいは想定の範囲内。
1ポイントを取られたところで、リーチが掛かった次から警戒していけばいい。
リガルは気持ちをリセットして、次のカードをセットする。
今回も、選択したのは薔薇。
2戦目にしてすでにクリストスがリーチなので、薔薇を置くのは若干リスキーだが、最初に考えた作戦を貫く方がいいとリガルは考えた。
そして、今回はリガルが一番最初の手番だ。
(うーん、カードを伏せたりするのも悪くは無い。だが、俺の作戦は、序盤で敵を油断させること。それなのに、敢えて怪しげな行動を取って、相手に訝しがられても困る。ここはシンプルに……)
「俺は普通に1を宣言するよ」
先ほどと同じ行動。
「カードは4枚だけですか……。でも、私も髑髏など伏せていませんし、リガル殿下を信じて2を宣言します」
クリストスは、強気に2を宣言してくる。
リーチも掛かっているし、本人のと言う通り髑髏を伏せていないのなら、当然宣言はしてくるだろう。
「うーん、あまりリスクは負いたくないし、パスしたいところだけど、そうするとクリストス君が勝っちゃうからなぁ。……仕方ない。ここは攻めの3を宣言する!」
じっくりと悩んだ末、カインは数字を宣言する。
クリストスの勝ちを阻止しようとしてくれるようだ。
「確かにクリストスが勝ちそうだよな……。けど俺はパスでいいや。俺は髑髏を伏せてるから、クリストスが4を宣言しても、勝ちを阻止できるし」
アルディア―ドはパス。
さらに、髑髏伏せをカミングアウトすることで、クリストスの4の宣言を牽制する一手。
(こいつ……。普段はアホな癖に、本当にこういう時だけ頭の良さを発揮しやがるんだよなぁ)
それを、驚きの表情で見るリガル。
本当に、普段のアルディア―ドの姿からは、とても想像できない頭の回転具合だ。
「まぁ、そういうことならアルディア―ドを信じてパスだな」
リガルも、ここで攻める必要はないので、パスを選択。
これで、もしもクリストスが勝ってしまったら、その時はもう諦めるしかない。
しかし、これはクリストスとて中々4は宣言しづらい状況だ。
まず、リガルが宣言してた数字は1のみ。
いくら場のカードが4枚しかないとはいえ、1の宣言に対して、全員がパスをすることは、ほとんどないだろう。
となると、数字を宣言したからと言って、髑髏を伏せていないとは限らない。
怪しい。
次にカイン。
彼は3という、場のカードが4枚の状況では、中々に大きな数字を宣言している。
しかし、自らがペナルディの手札1枚を払ってでも、クリストスの勝利を防ごうとしたと考えることは出来るので、信用はあまりできない。
さらにアルディア―ド。
アルディア―ドに関しては、堂々と伏せカードが髑髏であることを自ら宣言している。
とてもブラフと断定することは出来ない。
これには、今までサクサクと進めてきたクリストスも、じっくりと悩む。
2分ほどかけて考察した結果、彼が選択したのは……。
「ここは攻めます。宣言、4!」
数字の宣言だった。
リスクは非常に高いが、それで得られるリターンは、勝利である。
手札1枚をベットする価値はあると考えたのだ。
クリストスは、一気に伏せカードをめくっていく。
まずは自分のカード。
場に伏せられてあるカードの最大枚数である、4を宣言したので、伏せてあるカードは当然薔薇。
次はリガルのカード。
これも、薔薇。
次にカインのカード。
流石に3枚の宣言をしたので薔薇に決まって……。
「えぇ!?」
いなかった。
カインの伏せていたカードは髑髏。
「あはは。やっぱり引っかかったね。クリストス君は頭はいいけど、かなり勝ちを急ぐタイプだからね。必ずここで強気の宣言をしてくると思ってたよ」
「うわ……読まれてたか……」
先ほどは、クリストスが鮮やかな性格読みで、1ポイントをかっさらったが、今度はカインが鮮やかにクリストスを性格読みで騙した。
クリストスとカインは、家自体がかなり仲が良いらしく、そのおかげで2人も仲が良くなったようだ。
そのため、互いの性格については熟知しているのかもしれない。
「ほら、引きなよ」
騙されたクリストスは、若干不機嫌そうな態度で、手札を見せないようにして差し出す。
この内の1枚を、カインが選んで捨てるのだ。
「それじゃあ、どれにしようかなぁ……」
カードは見せないようにしているので、いくら悩んでも無駄だ。
しかし、それでもカインが悩んでいるのは、クリストスの表情から、何とか髑髏のカードを捨てることが出来ないかと考えているのだ。
クリストスの手札の中から、髑髏を落とすことが出来れば、もうクリストスは髑髏を伏せることが出来なくなる。
捨てたカードを確認することは出来ないが、だとしても、もしも髑髏が落ちれば大きな成果と言えるだろう。
それに対してクリストスも、すぐにカインが自分の表情を確認していることを察知する。
そこで、手札にある4枚のカードのうち、薔薇のカードを1枚だけ突き出して……。
「ほら、これが髑髏だよ。髑髏を捨てさせたいんだろ? 選びなよ」
ババ抜きなどで偶に用いられる手法で、頭脳戦を仕掛けていく。
ここで、カインが適当に選択した場合、髑髏が落ちる確率は、普通に4分の1だ。
しかし、薔薇を1枚突き出すことで、まずは相手に「突き出したカードが髑髏か、否か」という2分の1の選択をさせる。
その後、相手が「否」と判断した場合は、さらに3分の1の選択がやってくる。
つまり、本来なら髑髏が落ちる確率は、4分の1のところを、6分の1に変える作戦である。
カインは、この作戦の沼にハマってしまい、突き出したカードが髑髏なのかと、悩みこむ。
ここで悩むのは、クリストスの術中。
突き出したカードが髑髏か否かなど、じゃんけんで相手が何を出すのか考えるのと同じくらいに、不毛なことだ。
結果……。
「残念、髑髏は落ちなかったね」
手札を1枚失った後、自分の手札を確認したクリストスは、軽く煽るようにカインに言う。
最も、そんなのは噓の可能性も十分にあるが。
真実はクリストス本人以外には分からない。
「では、再開しようか」
息抜き回は、今回でちゃんと終わらせようとしたんですよ。
でもね、終わらなかった……。
流石に次回で終わらせます。
絶対、多分、きっと……。