第31話.狙撃夜襲作戦
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――その夜。
夕食を終えると、リガルはレイと共に魔術師団の詰所にやってきていた。
詰所内は、明日の出陣の事があってか、非常に喧騒で満ちていた。
しかし、そんなことはリガルには関係ないことなので、無視して進む。
リガルが用があるのは、この建物内にある、とある部屋である。
それは……。
「ここか」
「本当だ。ちゃんと一般の魔術師の方と同じ部屋にいるんですね」
「まぁ、そういう風に手配したからな」
そう言いながら、扉を叩く。
「はい」
室内から、若い男の声がする。
そして、扉が開かれた。
中から出てきた男は、レオだった。
「で、殿下……。このような夜分に、どうされましたか?」
「話したいことがあるんだ。とりあえず部屋に入れてくれ」
「そ、それはもちろん構いませんが、そちらの方は……?」
レオはそう言いながら、レイの方に目を向ける。
「あぁ、そういえばまだお前たち2人は顔を合わせたことが無かったか。彼女はレイ。俺の側近……的な立場だと思う」
「側近……。なるほど」
「レイには話したから、レオの紹介する必要はないよな?」
「はい」
レイには、学園祭が終わった後、少しだけ暇な時間に、レオの事を話していた。
なので、顔を合わせたことが無くても、リガルと同程度にはレオの事を知っている。
「では、どうぞ。あまりしっかり整理整頓している訳ではないので、少し汚いかもしれませんが」
「大丈夫だ」
そう言って、レオはリガルたちを部屋に通す。
室内は、特に散らかっている訳ではなかった。
そもそも、家具が少なく、本や服などの持ち物などもほとんどないので、散らかりようがない。
少し汚いかもしれない、というのは社交辞令的な言葉だったようだ。
レオは、食卓にまで案内すると、水を取ってきて……。
「紅茶なんて用意してなかったもので、水で申し訳ございません」
「いや、そんな気を遣わなくてもいいって」
リガルとしては、よく貴族に必要とされるやりとりを億劫がってしまうので、別に立ち居振る舞いを気にする必要がない場では、正直タメ口で話したいとすら思っているほどだ。
「で、ではそうさせていただきます」
「あぁ。じゃあ早速本題に入らせてもらう。今日ここに来た理由は、明日からの戦争の事だ。お前も、ここにいるんだから、話くらいは耳に挟んでいるんじゃないか?」
「はい。アルザートがエイザーグに宣戦布告したという話は耳に挟みました」
「そうだ。そして、我がロドグリス王国も、当然エイザーグに援軍を送るわけだが、そこに俺が同行することになった」
「え、殿下が!?」
レオが驚くのも無理はない。
リガルは9歳なのだ。
別に、リガル自身は何をするわけでも無くても、そもそも9歳児が戦場に出ること自体が異常だ。
だが、武闘派のロドグリス王家には、そんな常識は通用しないようで、アドレイアに加えて、先代王も10歳未満で戦場を経験している。
「まぁ、俺も最初は驚いたが……。だが、逆に俺はこれを好機と捉えた」
「……! スナイパーである俺を使うってことですか?」
今までの話の流れと、今リガルがここに来ている事実から、その結論を導き出したレオ。
そして、その推察は正確だった。
「その通り。まだ具体的な情報は聞いていないので、何とも言えないところが多いが、こんな機会はそう頻繁には来ないからな。何とかお前を試してみたい」
「確かに、俺も魔術師として、リガル殿下に雇用され、日々訓練を積んでからは、実戦で試してみたいとは、何度も思いましたが……。それにしてもいきなりですね……」
「確かにいきなりではある。俺も今日の朝知ったからなぁ。しかし、お前に拒否権は無いぞ?」
「ですよね……。でも、そういうことなら、問題ありません。別に、準備らしい準備は必要ありませんから」
そう。
実際、戦争を行うのに、一般の兵士に過ぎない魔術師たちにとっては、準備など必要ない。
必要な準備と言ったら、自分の身体の調子を整えることくらいだ。
「そうか。それじゃあ、具体的な作戦をこれから立てて行こう」
「え、でもまだ情報が何一つないのでは?」
「まぁそうなんだが、戦争の流れなんて大体いつでも大雑把に言えば同じだ。別に情報が無くても問題ない」
「同じ?」
リガルの言葉に、「何を言っているんだ?」とは言わんばかりに怪訝な眼を向けるレオ。
「兵を集めて、目的地に向かう。その後敵と交戦するだけだろ?」
「い、いや、でも途中で相手が動きを呼んで進路を変更したり、兵を分けたりといった、駆け引きがあるじゃないですか」
「そりゃあな。だから、大雑把って言っただろ?」
「まぁ、それはそうですけど……。でも、そんな大雑把なんじゃあ、どっちにしろ作戦なんて立てられないんじゃ?」
「それが、そうでもないんだなぁ。よく考えてみろ。スナイパーが一番役に立つタイミングってのはいつだと思う?」
「え? そりゃあ交戦中では?」
リガルの問いに、戸惑いながら答える。
しかし……。
「まぁ、それももちろんではあるんだが、俺が運用したいのは、交戦中ではない」
「交戦中ではないって……。他に撃つ機会なんてないんじゃ?」
「いや、あるさ。交戦前の夜とかだよ」
基本的に、戦闘中は敵も攻撃を警戒している。
スナイパーによる狙撃を警戒していなくても、弾速が遅いため、気付かれて避けられてしまうだろう。
だったら、狙うタイミングは相手が警戒していない時。
つまり……。
「野戦になりそうなら、相手の陣地にいる指揮官を狙撃する。攻城戦になりそうなら、都市の外から狙撃する」
「そ、そんなことできるんですか……?」
「まぁ、難しいだろうな」
「えぇ!?」
「だから待つ。ひたすら待って相手の隙を伺う」
スナイパーの任務というのは、気が遠くなるほどの時間をひたすら待つ、忍耐が必要だ。
基本的に、1日2日で終わるようなことは無く、下手をすれば1週間も食事すらとらずに野外で微動だにしないでいなければならないほどに過酷なのだ。
歴史上のスナイパーで、世界最強と名高い、シモ・ヘイヘという男がいる。
彼は、400m以上の狙撃を、スコープを使わずとも外さないというほどに、天才的な狙撃の腕を持っていた。
彼は、ロシアとフィンランドの間で行われた、「冬戦争」において、550名ほどの射殺を記録している。
公式に記録されていない、射殺も当然あるだろうから、恐らく彼が冬戦争で殺した敵兵はその1.5倍くらいはあるのではなかろうか。
とはいえ、実際はすべての殺しを狙撃で行ったわけではなく、半分くらいはSMGで射殺したため、狙撃で殺した数は、400ほどだろう。
ヘイへは、冬戦争で半年ほど戦い続けていたので、1日当たりの狙撃による射殺数は、2~3人。
そう。
彼のような、圧倒的な天才でも、日に狙撃できる数というのは、3人ちょっとくらいが限界なのだ。
狙撃というのは、ただ遠くから敵を撃てばいいというほど、単純ではない。
相手から絶対に見つからないように、自分の一挙手一投足に気を配る必要性がある。
それが出来たうえで、初めて狙撃の腕が問われるのだ。
まぁ、スナイパーという存在が浸透していないこの世界で、そこまでする必要はないかもしれないが。
それでも、用心するに越したことは無いだろう。
命あっての物種だ。
「それは、一夜で成功するものなんでしょうか?」
「知らん。でも、失敗したなら失敗したで、次の機会を待てばいい。もしも成功すれば、スナイパーの強さの証明ができる」
「確かに。しっかり警戒していれば、リスクはほとんどありませんしね」
「そういうことだ」
リガルが考えているのは、現代スナイパーの定石を守った立ち回りをして、自身が死亡するリスクを極限まで減らして、作戦が成功しなくてもいいという考えで動く安全策。
今回も、一度の交戦でエイザーグとアルザートの戦争が終結するとは限らない。
それどころか、どちらかといえば複数の地域で戦闘が発生し、幾度か交戦する可能性の方が高い。
そして、仮に今回の戦争で作戦を成功させることができずとも、戦争はこれから先に何度も起こってしまうのだ。
焦る必要性は何処にもない。
「それは分かりました。けど、一体何について作戦を練る必要があるんですか? 今のところ、後は現場で臨機応変に動くしかないと思うのですが」
「それはな、今回の作戦――『狙撃夜襲作戦』とでも仮称しようか。狙撃夜襲作戦を決行するまでの事についてだよ」
「決行するまでの事?」
「あぁ、考えてもみろ。俺は、常に父上の傍にいなきゃいけないんだぞ? どうやって父上の目を盗んで、この作戦を決行すればいいんだ?」
まず、そもそもこの狙撃夜襲作戦は、アドレイアに内緒で行う作戦である。
そのため、アドレイアにバレないようにする必要性があるが、リガルは常にアドレイアの傍にいなくてはならないので、それが難しいのだ。
ついでに言えば、リガルの側近という名目で同行するレオも、下手な行動はとることができない。
作戦以前の問題があるのだ。
「なるほど……。そこは盲点でした。完全に戦うことに意識が向いてしまって、まさか足元にこんな落とし穴があったとは……」
「そうなんだよ。しかも厄介なのは、一瞬の隙を盗んで陣幕の外に出ても、外にいる見張りに見つかると駄目だし、何よりその後もバレずにいる必要性がある」
「長時間、アドレイア陛下とその側近たちに、我々の同行を察知されてはいけないって訳ですか。……って、それはもはや不可能なんじゃ……」
「それな。しかもな、俺は実は過去にこんなことがあるんだけどよ……」
そう言って、リガルは氷の魔道具を作るために、城をこっそり抜け出した話をした。
完全にバレていないと思い込んで、好き放題にやっていたら、実は隠密行動部隊にずっと追跡されていたこと。
そしてその後、捕獲されてしまったこと。
「え、あの氷の魔道具って、リガル殿下が発案したんですか!?」
「あー、いや、そうなんだけど、驚く所そこ?」
リガルとしては、隠密行動部隊の危険さや、バレていないと思っていても実はバレていたりすることを伝えようとした。
だが、レオはそこよりも氷の魔道具をリガルが発案したという事実に、思考を持っていかれてしまったようだ。
確かに、当時7歳であったリガルが、王国民に広く使われている氷の魔道具を開発したという事実は、あまりに衝撃的なことであるのは分かるが。
「まぁ、今はその話は置いておいてくれ」
「わ、分かりました……。しかし、話を聞けば聞くほどに、不可能な気しかしてこないのですが……」
「うーん……」
そう言って、悩みこむ。
しばらく静寂が室内を支配した後、リガルは口を開いた。
「待てよ……。父上の目から逃れることが出来ないのなら、俺たちから目を離さざるを得ない状況を作ってやればいいんじゃね?」
「はい……?」
活動報告で、書けるだけ書いて投稿するとか言っておきながら、1話しか書けなかった……。
気合があれば6000文字くらいなら書けると思ったんだけど……。