第22話.親友
「では、お二人とも、準備はよろしいでしょうか?」
城内にある訓練場にて、杖を構えながら静かに向かい合う二人。
アルディア―ドも、普段のニヤけた表情と違って、真剣な表情をしている。
「あぁ」
「俺も大丈夫だ」
レイの確認の言葉に、2人は頷く。
レイは、この2人の決闘の審判を務めてくれるようだ。
「では、試合開始!」
レイの言葉に反応し、2人とも動き出すと、魔術を同時に一発放つ。
リガルは、後方に飛びながら、アースウォールを。
アルディア―ドは、右から回り込むように進みながら、シールドのような魔術を。
動きは違えど、お互いに初手ではまず、防御行動を取る。
(ふむ……。どの国でも、使われる戦闘魔術は大体同じだが、それでも少しくらいは異なる点がある。そして、実力が拮抗していた場合、その「少し」が命取りになる。まずは、データ集めのために、慎重に来ているのか……)
アルディア―ドの動きを冷静に確認し、その動きの理由を分析するリガル。
「ははっ、それはアースウォールかな? エイザーグにも存在する魔術だけど、リガルの使い方は凄く面白いね!」
それに対して、アルディア―ドは余裕そうに、リガルに話しかけながら接近してくる。
だが、距離は詰めてくるものの、中々攻撃まではして来ない。
その理由は、攻撃魔術を放つと隙が生まれるからだ。
同時に魔術を発動することは出来ないので、攻撃魔術を使っている間は、防御魔術を使えない。
アルディア―ドは、距離を詰めながらも、攻撃一辺倒という訳ではなく、しっかり自分の身を守ることを忘れていない。
(マジで冷静だな……。こいつの性格的に、脳筋タイプだと思ったぜ。だが、実際はかなり考えて戦っている。このままだと埒が明かないな……)
今までのリガルの戦い方は、カウンター狙い。
レイとの決闘の時も、ヤンキー少年2人組と戦った時も、相手に隙が出来るまで守りに徹して、隙が出来たところで一気に攻撃に転じる。
どちらかというと、そんな守備的な戦いを持ち味としていたが……。
(俺がもっと攻撃的な戦闘が出来るってことを教えてやる……!)
これまでずっと、アースウォールを連発していたリガルだったが、急にその手を止めて、アルディア―ドに一気に詰め寄った。
今まで消極的な戦闘を展開していたリガルが、ここに来て突然、攻めに転じる。
この動きは、アルディア―ドも予想だにしていなかったのか、一瞬面食らったような様子を見せるが……。
「ははっ、面白い。ならば俺も受けて立とう!」
すぐに落ち着いて、対処しようと立ち止まるアルディア―ド。
そして……。
「ウォーターバレット!」
水の弾丸を放ってくる。
ロドグリス王国の、ウォーターアロウに似た魔術だ。
複数の弾丸が飛んできて、一発一発の威力は大したことがないが、一気にそこそこの量が飛んでくるので、回避するのが難しい。
だが、リガルには、すでに発動している防御魔術、アースウォールで創り出した土壁が、すぐ近くにある。
土壁に身を隠して、リガルは水の弾丸を防ぐ。
そして、すぐさまお返しにウォーターアロウを放つ。
「くっ……! なるほど。すでに発動しているから、防御しつつ攻撃も行えるという事か!」
アルディア―ドの傍には、身を隠すことのできる遮蔽物は無い。
「ウィンドシールド!」
仕方なく、風の防御魔術を発動する。
高火力の攻撃魔術を防ぐのは難しいが、その分、ロドグリス王国で使われている防御魔術の、ウォーターシールドよりも防御範囲が広いのが特徴だ。
これにより、リガルの放ったウォーターアロウは、防ぐことに成功。
しかし……。
(よし、主導権を取った! このまま一気に押しつぶす!)
リガルの攻撃はこんなものでは終わらない。
動き回り、角度をつけながら、弾速の速いウィンドバレットで確実に削ろうとする。
ウォーターバレットは、回避は難しいが、防御をすることならできる。
しかし、ウィンドバレットは弾速が速いので、防御することも難しい。
おまけに、そこかしこにアースウォールで創り出した土壁が立っているので、リガルの正確な位置が特定しづらい。
とはいえ、アルディア―ドも簡単には終わらない。
全てではないが、防御をしたり、時に回避もしたりして、何とかリガルの猛攻を凌ぐ。
そして、回避に成功した時には、反撃にも出る。
しかも、これがまた、態勢が悪い状態で放っている攻撃だというのに、正確なのだ。
(なんて運動能力と、エイム力だ……)
レイに匹敵する、運動能力と正確なエイム。
さらにアルディア―ドは、脳筋な戦い方をするレイと違って、かなり冷静に戦っている。
見た目的には、どう考えても逆のはずだが。
正確な反撃に、リガルもいくらかの攻撃を、避けきれずに受けてしまう。
リガルも、運動能力は高い方ではあるが、アルディア―ドと比べると、少し見劣りする。
(だが、やっぱりこいつも戦闘の仕方が分かっていない。それじゃあ、いくら冷静に戦うことが出来ても、俺には勝てない)
アースウォールを活用して、変幻自在の攻撃をするリガルと、高い運動能力とエイム力で、反撃するアルディア―ド。
二人の戦闘は、一見すると、互角なように見える。
しかし、勝負の天秤は、僅かにリガルに傾いていた。
時間が経過するにつれて、徐々にリガルとアルディア―ドのHPの差が広がっていく。
一度できてしまった流れは、中々断ち切ることは出来ない。
漫画のように、突然大逆転のアイディアを閃いたりすることも、現実ではほとんど起こりえないのだ。
「勝者! リガル殿下!」
そして、アルディア―ドはそのまま敗北した。
アルディア―ドは、落ち込んだようにがっくりと膝をついて項垂れると……。
「負けたぁぁぁ!」
突如大声で叫び声をあげて、天を仰いだ。
しかし、その表情に、落ち込んだ様子は見られず、むしろ清々しそうだった。
アルディア―ドはそのまま立ち上がると……。
「いやぁ、負けたよ! 魔術戦闘には自信があったんだけどね! 流石はロドグリスの王子なだけある!」
そう言って、手を差し出してくる。
「あ、あぁ」
リガルは、少し戸惑いながらも、その手を取った。
「にしてもさ、リガルの強さの理由は何なんだ? 強い魔術師は、これまでにも沢山見てきたが、リガルの強さは、そのどれにも当てはまらない、異質な強さだ」
確かにこの世界では、エイム力の高さや身体能力の高さばかりが注目されがちだ。それを考えると、立ち回りに重点を置いたリガルの戦い方は、異質なのかもしれない。
「そうだな……。見ている景色の違い、とだけ言っておくとしようか」
立ち回りの知識は、話すと不利になるので、ぼかした。
手の内を話すなど、愚の骨頂だ。
「見ている景色の違い……? まぁ、詳しくは教えてくれないってことか」
「まぁ、すまないが、そういうことだ」
別にアルディア―ドも、深く探ろうとしている訳ではないようだ。
純粋に気になっただけなのだろう。
「ふーん。まぁ、それはいいんだけどさ……」
「ん……?」
「その堅苦しい口調を、いい加減やめてほしいんだけど。もう俺たちは戦ったんだ! 戦った後は、親友になるもんだろ!? 親友同士は、そんな堅苦しい喋り方はしない!」
「だから、少年漫画かよ!」
意味不明な理論を熱く語ってくるアルディア―ドに、デジャヴを感じる突っ込みを入れるリガル。
「そうそう、そんな感じで!」
「あ……」
リガルは、またアルディア―ドのような軽い口調で喋ったことを後悔したが……。
(まぁ、もういいか。なんかこいつと喋ってると、王族同士であることを忘れちゃうよ……。俺だけ気にしてるのも疲れるし、もうタメ口で話していいか)
「はぁ、分かったよ。アルディア―ド」
諦めたように、ため息を吐くと、リガルは口調を崩して、アルディア―ドの事を呼び捨てにする。
それに、対してアルディア―ドは……。
「あぁ、じゃあ改めてよろしく。リガル」
そう言って笑いかけた。
こうして、2人は親友になったとさ。
めでたしめでたし。
「じゃあ、決闘2回戦と行きますか!」
「ふざけんな」