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第180話.建国

「帝国への侵略……か。しかし、この議題は今すぐに話し合わなければならない事なのか? どうせ侵略するとなれば、かなり具体的に決める必要があるし、各国それぞれ準備がいる。とてもすぐに決まるような議題には思えないぞ」


 リガルの言葉にまず反論したのは、エイザーグ王。


「まぁ、それはそうだがな。とはいえ、どれくらいの兵力を各国出せばいいのかなどは、決めておかないと同盟に加盟するかどうかも考えられないだろう?」


「……それはそうか」


 しかし、リガルの言葉に、エイザーグ王も納得した。


「では、早速兵力の方を決めて行くとするか。しかし、防衛の時のように、動員可能兵力の10%では流石に足りない。侵略時は、防衛時と違って動くタイミングを選べる。それを踏まえて、どれくらい出せるか教えて欲しい」


 ここで、リガルは少し相手を試すような聞き方をする。


 渋ろうとしたとしても、別に同盟から外したりするつもりは無い。


 それでも、協力的なのかそうでないのかは、一応把握しておきたかったのである。


「そうだな。ヘルト王国は、4000までは出せるぞ」


 初めに口を開いたのは、ヘルト王ランドリア。


 4000というのは、今のヘルト王国では考えられないほどの大軍だ。


 いや、いくら国がいきなり半分の大きさになったからと言って、本来の力が発揮できれば、7000以上は動員できる。


 しかし、先のロドグリス王国との戦争で、大量の兵が戦死――もしくはロドグリス王国の捕虜となってしまったのである。


 本来は、捕虜は金銭取引で返還するものだが、ヘルト王国は大打撃を受け過ぎて、金など出せない。


 それに、実質属国状態になって、統帥権もリガルに譲ってしまったため、最早兵などいても仕方がないというのもある。


 いや、むしろそっちの方が本命の理由だ。


 そのため、4000というのはヘルト王国にとってかなりギリギリだ。


 それほどの兵力を出すと言うのは、リガルに媚びを売っているようなものなのだろう。


 まぁ、(おおやけ)にはなっていないものの、実質ロドグリス王国の属国状態であるヘルト王国は、どうせリガルの命令一つで、限界まで兵力を動員しなければならなくなるのだが。


(ま、それでもここで俺の助けになるようなことを言ってくれたのはありがたい。ボロボロのヘルト王国が、4000も出すと言っているんだ。他の国も、舐めた数は口に出来ないだろう)


 そして、リガルの期待が高まる中、次に口を開いたのは……。


「……我々は6000は出せる。しかし、我々に聞く前に、まずロドグリス王。貴方から言うべきではないのか?」


 エイザーグ王だった。


 ヘルト王国ほど、ギリギリまで捻出(ねんしゅつ)したという感じではないが、それでも誠意をもった数字を言ってくれていることだけは分かる。


 しかし、リガルの他の代表を試すようなやり方は、かなり不満だったようだ。


 リガルにまず、自分から出せる兵を言うように促す。


(なるほどね。エイザーグ王も仲良くやりたい方針やりたい方針のようだが、それでも我々ロドグリス王国の犬に成り下がるつもりはない、ってことか。良いだろう)


「そうだな。いつでも動員できるという訳ではないが、3年後以降ならば、我々ロドグリス王国は15000出せる」


 エイザーグ王の言葉に、リガルは自分の出せる兵力を口にする。


 これは別にハッタリではない。


 ヘルト王国の半分を飲み込み、超大国に成長したロドグリス王国は、本来なら20000もの兵力を動員できる力がある。


 そして、現在のロドグリス王国は、国境を接しているのが、帝国、エイザーグ王国、ヘルト王国の三つの国。


 そのうち、ヘルト王国とエイザーグ王国は良好な関係だ。


 つまり、敵対することになるのは、帝国のみ。


 5000もの兵力を自国に残しておけば、間違いなく安全だ。


 いや、それどころか、過剰な戦力だと言えるだろう。


 本来なら、18000程度は動かしても全く問題がないほどだ。


 しかし、ともあれこれで、全ての国がここまで動員可能兵力の半分以上を宣言している。


(エイザーグ王は、俺が他の代表たちを試すような真似をしたのが気に食わなかったらしいが、兵を出すことを渋るつもりがない俺にとっては、むしろ援護みたいなものだ)


 エイザーグ王の言葉を逆手に取り、むしろ自分の有利な展開に持ち込んだリガル。


 笑みを浮かべて、今度はザギトの方へ目をやると……。


「……我ら騎馬民族は、成人男性は全て兵だ。しかしそれでも、300ちょっとが限度だぞ」


 それに促されるままに、ザギトも自分の出せる兵を口にする。


 もちろんその数は、誠意のある数字だ。


 騎馬民族という括りで見れば、沢山の兵力を出せる。


 しかし、有力部族とはいえ、一つの部族ではこの程度が限界だ。


 そんなことは、リガルも当然承知の事。


 僅かに笑みを浮かべると……。


「分かっている。どちらにしても、帝国への侵略を行うのは、少なくとも3年後以降を予定している。そこで貴殿らには――」


 そこでリガルは息を吸って間を取る。


 一同がゴクリ、と生唾を飲んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「――建国をしてもらいたい!」


「「「な……!」」」


 リガルの言葉に、一同が絶句し、一瞬の静寂が訪れる。


 皆、予想だにしない展開に、今日一番の驚き様だ。


 しばらく、この場の全員が何を言って良いか分からないと言うように、オロオロとするが……。


「な、何故、そのようなことを……? 第一、我々が国を作るなど、どうやって……」


 1分以上の長い沈黙が続いた後、ようやくザギトがリガルに尋ねる。


 しかし、その声音からは、明らかにまだ動揺から立ち直っていないことが分かる。


「元より、私は貴殿らナメイ族、マールー族、エカノド族だけではなく、全ての騎馬民族を味方につけたいと思っていた。だが、個々に説得するのではあまりに骨が折れる。そこで、力がある貴殿ら3つの部族に頼んだのだ。そうすれば、少なくとも3000の兵力は出せるだろう?」


 確かに、個々に集まった3つの部族が協力すれば、全ての部族をまとめ上げることも不可能ではない。


 リガルの言い分も、違和感はなく、納得できる内容だ。


 騎馬民族が3000出してくれれば、ヘルト王国の4000、ロドグリス王国の15000、エイザーグ王国の6000と合計して、28000だ。


 かつてないほどの大軍が完成する。


 これならば、打倒帝国も夢物語ではないだろう。


 しかし、騎馬民族が建国する事のメリットが分かっても……。


「な、なるほど……。それは理解した。だが、具体的にはどうやって……」


 それを実行する策が、具体的に決まっていなければ、ただの絵空事だ。


 だが、リガルはそれすらもすでに考えていた。


「まず、貴殿ら三部族が手を組んだことを公表するんだ。そして、我らの同盟の事も近いうちに公表する。そうなれば、他の部族も冷静ではいられない」


「なるほど。確かに……」


 リガルの言葉に、ザギトは頷く。


 他の族長2人は、どちらも完全に話に着いていけていない様子だ。


 それでも、彼らを置き去りにしてリガルは続ける。


「そして、僅かでもこちらに味方する部族が現れ始めたら、もうその流れは止められない」


 そんな状況で、リガルたちに(くみ)せずにいれば、粛清されるのがオチだ。


 それくらいは、どんなバカでも簡単に分かる。


 だから、「他の部族がリガルたちに下ったなら自分たちも……」という考えになり、芋づる式にすべての部族を仲間に引き込むことが出来るという訳だ。


「そして、騎馬民族全てを支配できれば、もう建国を宣言すればいい。目指す国家体制は、『共和制国家(もど)き』だ」


()()?」


「そうだ。本来の共和制国家は、政治を行う議員を国民が選出する。ただ、その代わりにそれぞれの部族の族長を議員に据えるんだ。そして、ナメイ族、マールー族、エカノド族の族長である貴殿ら3人が、執政官(コンスル)――つまりは国の最高指導者だな。これを務める。どうだろうか?」


 地球における共和制国家の始まりは、古代ローマだと言われている。


 ローマは元々君主制国家であったが、紀元前六世紀ごろに王を追放し、共和制が始まった。


 その時に生まれた役職が、執政官(コンスル)だ。


 執政官(コンスル)の本来の定員は2人だが、別にそこまでローマの真似をする必要も無いだろう。


 これが、リガルの考える騎馬民族に作り上げて貰う、新たな国家の構想。


「無論、そうなれば生活様式も大きく変化することになる。強制は出来ない。これはあくまで提案だ」


(まぁ、強制はしないよ。その後どうなるかは知らないけどね)


 ザギトにそう言ったところで、リガルは心の中で邪悪な笑みを浮かべる。


 まだこれだけで判断するのは、早計かもしれない。


 建国というのは、そんな簡単な事ではない。


 これから予想だにしないような問題が、数えきれないくらい発生するだろう。


 ザギトはそれを理解したうえで……。


「……それは、もしもこの同盟が成立した場合、この同盟に所属する国は我々の建国を支援してくれるのか?」


 確かに、遊牧をやめて定住するのなら、都市を建設する必要がある。


 それに必要な人手や物資は、あまりに膨大。


 とても彼らだけで賄えるものでは無い。


 支援は必須だ。


「少なくとも、ロドグリス王国は支援するつもりだ」


「ヘルト王国も同じく」


「エイザーグ王国もだ」


 ザギトの問いかけに、即答する3人。


 それを受け、覚悟を決めたのか……。


「いいだろう。成功するかどうかは分からないが、私は挑戦してみたい! 貴殿らはどうだ? マールー族族長、エカノド族族長」


 力強く宣言するザギト。


 そして、隣に座るマールー族とエカノド族の族長を見回すが……。


「と、言われても……」


「つまりどういうことなのだ……?」


 やはりと言うべきか、2人とも理解できていなかった。


 一同ガクッ、と肩を落とすが、ザギトは諦めずに説明を試みる。


「はぁ……。だから、つまり――」


 結局、10分以上かけて説明し、ようやく()()()()分かってもらうことが出来た。


 そして、単純な彼らは……。


「ほーう、中々面白そうだな」


「建国ね……。そして私がその執政官(コンスル)? とやらになると」


 笑みを浮かべて口々に言い合う二人。


 声音からはかなりノリノリなことが分かり、感触はかなり良さそうだ。


 そして、そこから間を開けず……。


「「いいだろう。その提案、乗った!」」


 力強く2人は答える。


「では、同盟の方も加入してもらえるか?」


 建国の話は、まだ詳細は考えられていないものの、受け()れてくれた。


 後は、本来の目的である、同盟の締結だ。


 まず初めに口を開いたのは、リガルの傀儡(かいらい)のような存在であるヘルト王ランドリア。


「私は無論加入させてもらう」


「当然、我々もだ!」


 それに続き、3人の騎馬民族の族長たちも立ち上がる。


 まぁ、リガルの建国提案に乗ったのなら、同盟への加入も必然だろう。


「エイザーグ王国も、もちろん参加したい」


 そして、元々ロドグリス王国との関係を悪化させたくなかったエイザーグ王国も、拒むわけがなく……。


「よし……。それでは、ここに新たな同盟を締結することを宣言する! 同盟の名は――」

次回 最終回

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