表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

176/182

第175話.一歩前進

「同盟を組む……?」


 意味が分からない、と言うように、キョトンとした顔を浮かべるザギト。


 ガタイの良い見た目をした男が、この表情をすると、何ともシュールだ。


 少し笑いそうになってしまったリガルだったが、何とかそれを抑えて口を開く。


「あぁ。これはさっきの話とは関係ないわけではなく、この話を受け入れて貰えたら、こちらの要求は取り下げる。どうだろう?」


「どうだろう? と言われても……」


 ザギトは次の言葉を紡ごうとするが、言われたことがあまりに突拍子も無いこと過ぎて、言いたいことが中々纏まらない様子だった。


 しばしの沈黙を経て……。


「それは、貴国と対等な関係になると考えて良いのか?」


 ようやく一言尋ねる。


 しかし、想定外のリガルの発言に面食らった割には、かなり嫌な問いをしてきた。


「まぁ、我々は帝国と国境を接する者同士だ。奴らは非常に卑怯で狡猾。それに対抗するためには、徒党を組むしかないだろう? 我々は国力で劣るのだからな」


 しかし、リガルはそれに対しても上手く掻い潜る。


 実はこのリガルの発言は、その前のザギトの問いに対しての答えに全くなっていないのだ。


 ザギトの言った、「対等になるのか」という問いに対して、1ミリも言及していない。


 帝国の危険性を訴え、協力を誘っているだけだ。


 確かに、リガルは同盟を組みたいと考えている。


 しかし、対等になると言うのは流石に認められない。


 国家ですらない、一介の部族如きと、大国であるロドグリス王国が、対等な関係であるなど面子が丸つぶれなんてレベルじゃない。


 それをリガルはよく分かっているから、ザギトの問いを上手く誤魔化したのである。


 ザギトもこれについては、上手く誤魔化されたという事を何となく悟っていたが、無理に追求できる立場でもない。


 元より、対等な関係になれるなど思っていないし、ここで話を最後まで聞かずにリガルの機嫌を損ねてしまっても大変だ。


 という訳で……。


「確かに、その点については私も完全に同意するところだ。詳しく話を聞かせて頂きたい」


 ザギトもリガルの言葉に乗る。


 これにはリガルも……。


(ふむ、中々合理的な考えを持っている様だ。見た目に反して頭も良い。意外とスムーズに事が進みそうだな)


 評価をより一層高め、少し安堵したような表情を浮かべる。


 明らかに武闘派感のある見た目をしているが、知的な面も意外とあるようだ。


 やはり、見た目というのは当てにならない。


 確かに、大きな部族を取りまとめる(おさ)であるというのなら、この程度の脳みそは持っていないと務まらないだろう。


「分かった。とりあえず、今私が考えている同盟の構想について話そう。まず、同盟を組む目的は、さっきも言った通り、帝国に対抗することだ。そして――」


 リガルは具体的な考えを話していく。


 ――同盟は、ロドグリス王国と彼らナメイ族だけではなく、他の騎馬民族や、エイザーグ王国、ヘルト王国までをも取り込みたいという事。


 ――内容は、相互防衛や、帝国への侵略時に兵を貸すことを今のところ考えている事。


 それを聞き……。


「なるほど……。それを聞き入れれば、先ほどの要求は全て取り下げると?」


「あぁ。そのつもりだ。それと、今言った通り、我々は貴殿らだけでなく、マールー族とエカノド族にも同じ話を提示することを考えている。その時の協力も頼めるとありがたい」


 これが、リガルの本当の狙いだった。


 騎馬民族から、ヘルト王国、そしてエイザーグ王国までをも巻き込んだ、超巨大な同盟。


 こうすることによって、これからのロドグリス王国における、最大の敵である、帝国への対抗策を用意する。


 それと共に、エイザーグとの問題をも解決しようと言う、一石二鳥の作戦――。


 いや、ヘルト王国と騎馬民族の間のゴタゴタも収めることができるため、一石三鳥だ。


「……ふむ。本当にそれだけなのか?」


「あぁ。無論、今言ったことはあくまでロドグリス王国だけの意見だ。だから、正式に同盟を組むと言うのなら、全ての国のトップを交えて、今一度話し合う必要性があるだろう。だが、少なくとも私は、今言ったことだけが条件で良いと考えている」


「……なるほど」


 思案気にしばし沈黙した後、ザギトは短くぽつりと答えた。


 その表情は、了承するかどうかを迷っている……という訳ではなさそうだ。


 読み取れる感情は、困惑。


 何故リガルはこんな条件を提示している? と言ったところだろう。


 この条件は、ナメイ族にとって有利過ぎる。


 そう、これがリガルのこの提案の凄いところだ。


 この同盟を組むことにより利益を得られるのは、リガルだけではない。


 双方互いに利益を得ることが出来るのだ。


 しかし、その点が逆にザギトを疑心暗鬼に陥らせた。


 そもそも、今回の話し合いは、「ナメイ族がヘルト王国に対して貢物を払うか払わないか」という内容であった。


 つまり、デメリットを被るかそうでないかの二択であり、メリットが得られる可能性は無い。


 そのはずだったのに、リガルの方からメリットが得られる提案をされた。


 そりゃあ、不気味過ぎて警戒するのも当然だ。


 とはいえ、もちろんメリットだけではなく、デメリットもある。


 その(さい)たるものが、望まない戦争に駆り出される点。


 相互防衛であるため、自分が他国に守ってもらえるというメリットもあるが、同時に自分たちも他国を守らなくてはならない。


 それと、帝国への侵略時に兵を貸すと言うのもあるので、帝国と事を構えたくなくとも、戦わざるを得ない。


 だが、そんなことは、得られるメリットと比較すれば、些事(さじ)も同然。


 相互防衛についても、他国を守るために出兵する必要が出てくるとは言え、自国の安全がその程度で得られるのなら安いものだ。


 帝国への侵略時に兵を貸し出すというのも、自分も勝ち馬に乗れると考えれば、むしろデメリットですらないかもしれない。


 ロドグリス王国単体では帝国に勝てずとも、エイザーグ王国やヘルト王国、それに加えて騎馬民族まで加われば、そのパワーバランスは簡単に逆転する。


 しっかり一致団結することが出来れば、帝国を打ち倒すのは十分に可能だ。


 まぁ、このような同盟が締結されれば、帝国の方も慌てて近隣の国を味方につけようとすると予測されるため、そう簡単に行くかは分からないが。


 とまぁ、これほどのメリットがあるため、逆に疑り深くなってしまったザギトだが、いくら考えてもリガルの狙いは見えない。


 本当ならしばらく猶予を貰って、じっくりと考えたい問題だが……。


「……いいだろう。その提案、呑ませてもらう」


 時間が無いリガルに対して、無理に時間を貰おうとすれば、ここまでの話が水に流れてしまう可能性もある。


 そんな危険を冒すくらいなら、ここはすっぱりと決断した方がいいだろう。


 そう考えて、ザギトはリガルの話に頷いた。


 それに対し、交渉が上手くいったことにリガルは笑みを浮かべると……。


「では、交渉成立だな」


 そう言って、リガルは握手を求めるように手を差し出した。


 ザギトの方もその手を取り……。


「あぁ。では、これから盟友となるなら、一緒に酒を飲み交わそう。時間が無いという事だが、1,2時間程度なら問題ないだろう?」


「…………い、いや、どうせなら同盟を組む予定の、各国の代表全員と飲んだ方がいいだろう? その場もしっかり準備する予定がある。今はやめておこう」


 リガルは一瞬顔を引き攣らせたが、すぐに冷静にそれを断る言い訳をスラスラと述べていく。


 この辺の頭の回転は流石に速い。


 ザギトの方も、この言葉の真意を知ってか知らずか……。


「それもそうか」


 あっさりと納得する。


「では、申し訳ないのだが、これから早速次のマールー族の(もと)へ向かいたいと思う。着いてきてもらえるか?」


「あぁ。そういう約束だからな。しかし、私が着いていったところで、正直大した役には立てないと思うぞ? 我らは部族間の仲があまり良くない」


「いや、どこか一つの部族が我らと組んだとなれば、パワーバランスが狂いだすだろう? そうなれば、他の部族も我々の話を受けざるを得ない。だから、何か口添えしてほしいと言うよりは、いてくれるだけで助かるのだ」


「なるほど……」


 リガルの言葉に、ザギトは心底感心したように呟いた。


 こうして、話し合いは無事にリガルの思い通りに進み、そのまま幕を閉じたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ