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蝉しぐれ、だと日本で言うそうだ。うなるような暑さに命の悲鳴をあげる虫の声はうるさくて苛立ちを産むが怒りを示すほどのものではない。
否、暑さにやられてなんとも思わない、だけだ。
これらすべての疎ましさをまとめて、ああ、夏だと痛感する。
雪に閉ざされた祖国が恋しいヴラスターリは深い息を吐く。熱を孕んだアスファルトからは蜃気楼が立ち上り、空気が揺れている。
こんな日は家のなかに引きこもって眠っていたいと怠惰が顔を出す。
ここ最近、生きる目的が揺らぎだしたヴラスターリはまるで昼寝好きな猫のようにのんきになった。
目的を無くした、というほうが正しい。
然し今日だけはどうしてもS市支部に行く必要があった。
なくした片腕のかわりに新しくつけた人工腕の確認。
そして。
クローン体であるヴラスターリは定期的に肉体に異常がないかを検査する必要がある。
今から十二年前。あるウィルスが拡散され、世界に散った。
背徳者と呼ばれるそのウィルスの発病者はオーヴァード――超人となる。死んでも生き返り、いくつものシンドローム【能力】を使えるようになる。人でありながら人を止めたバケモノと一部では言われている。
なぜなら超人であるがヒーローではない。
レネゲイドウィルスの侵蝕が深まれば暴走して狂人と化す。化け物の力を持ち、かついつかは暴走するそんなことを普通の人間が知ればパニックに陥り、世界は混沌に陥ることになる。
世界各国はその存在の危険性を感じ秘匿を行い、裏の世界でオーヴァードたちはひたすらに来るべき日のために日夜戦い続けている。
ヴラスターリはある傭兵だったオーヴァード男性のクローン体だ。
彼が生前救った部下が失望から狂い、それ止めるためだけに唯一残った左腕から生み出された。もともとその男は遺伝子マップをある組織に提供し、なにかのときはクローンを作り出すことも承諾していた。
しかし。
オリジナルを元にして男のクローン体はどうしてもうまく作りだすことが出来ず、苦肉の策として遺伝子操作の末に女として生み出された唯一の成功体。
記憶と一部の能力を引き継いで生まれた彼女は、大勢から「それ」または「エージェント」と呼ばれた。
ものとして組織は彼女を認識した。
クローン体とはそういう使い勝手のいい道具なのだ。それでいいとつい先日まで彼女自身が思っていた。
絶望に狂った部下を救い上げ、片腕をなくして死ぬことも――使い終わりと思っていた。
だが元部下は二人でいることを望み、ヴラスターリとギリシャ語で新芽の名も送ってくれた。
そのとき関わった数名のUGNのエージェント、支部長の報告やサポートのおかげで彼が再び暴走しないように監視を行う役目を与えられた。
一生涯自分は彼と生きるのだ。
まるで運命の鎖で縛りつけられた恋人のようだ。
実際、彼は自分のことを女性と認識し、あれこれと世話を焼いてくれ、さらには甘言を囁き、触れてくれた。それが自分もいやではなく、戸惑いながらも喜んで応えてしまった。
世間でいう恋人――それを二つほど飛び越えて、結婚もなにもしてないが、伴侶のような関係に陥った。
困った。
このままずぶずぶと腑抜けになっていくのがわかる。
いや、いっそそのままなにもかも知らない顔をして生きていくのは悪くないのかもしれない。
最近はそう思い始めているのは、新しい、自分の名と、居場所のせいだ。
が、今日は朝一で彼と人生初の大喧嘩をしてしまった。不機嫌丸出しで一口も口を利かず、朝ご飯も食べていない。
ぐぅ。空腹に腹が鳴る。
ひもじい。
家に帰って彼に会ったらどうしようか。考えるだけで憂鬱だ。
「ねぇアリオン、帰り、なにか食べて帰らない?」
赤い髪に飾られた黒薔薇の髪飾りに声をかける。
これはレネゲイドビーイング――レネゲイドウィルスが一定に高まり形となった知能を持った存在であるアリオンだ。
アリオンは本来馬なのだが、本人はそれを嫌い、別の形をとっているのだが、はじめてあったときはなんの変哲もない黒い石だったが、今はヴラスターリの髪の毛を飾ることを本人は楽しんでいる。
クローン体でウィルス値が安定しない自分のために、自分を作り出した科学者があてがってくれたアリオンは、はじめは暴走しない為のストッパー、精神的な安定を与えるお目付け役として一緒にいたが、気がつけばいつも支えてくれ、ともに戦ってくれている相棒となった。
そもそもアリオンもまたUGNに保護という名目でとらえられ、自由はなかった。ヴラスターリの傍にいることで彼は仮初の自由を手に入れているのだ。
二人で一人前だから、なにかあればついしゃべってしまう。そしてそれをアリオンはいやがらず受け入れ、長年一緒にうまくやっている。どんな相手ともコミュニケーションが大切だ。
「自分は食べれませんよー」
「おなかすかないのよね」
「すきませんねぇ」
「……私はすいたわ」
「検査の前は食べちゃだめだからいいじゃないですか? けど、そのあとの食事って家に帰ってもあー、そっか、あいついませんもんねぇ」
「うん。そ、そうだわ。気分を変えてかき氷とかどう? あなたも食べない? アリオン」
「だから自分は食べれませんって……支部の人たちを誘ったらどうですか?」
「えっ」
「一人はいやなんでしょう?」
「……うん。一人で、食べるのはいやなだけ」
「最近あいつといつも食べてますもんねぇ」
ちくりと棘のある言い方だ。
「アリオンっ、そんな言い方っ」
「自分は食べれませんし、今からいく支部の子をお誘いしたらいいじゃないですか。きっとお話したいと思いますよ」
今から行く支部には自分のことを助けてくれたUGNのエージェント、チルドレンたちがいる。彼らとは今もときどきラインやメールをする。
世界を巡って生きてきたため、人付き合いをほぼしたことのないヴラスターリはどういう返事をしていいのかわからなくて途方に暮れてしまう。
とりとめないコメントやスタンプといった絵がスマホに届いてくるたびにどういうことだろうと悩んでしまい、まともに返事も出来ない。困った。
今日は定期健診で、支部に行く。きっと彼らがいるはずだ。
「素直に暑いからかき氷食べたいって誘えばいいんですよ。マスターってそういうところ引っ込み思案ですよね~。けど、一人で食べたくないなら。勇気出して、ほらほら、愚痴や悩みも言わないと」
「愚痴ってなによ」
「今朝のあいつとのこととか」
なんとか別方向に行っていたと油断したら話が戻った。
「……いやよ。気にしてるけど、気にしてるのばれたくないし。あーもう、いや、ちがうのどういう言葉をかけたらいいのかわからなくて」
ぷー、とアリオンが髪飾りのくせに器用に吹き出して笑う。
「ふつーに一緒に食べたいっていえばいいのに、ほら自分に言ったみたいにー」
「それでいいのかしら……?」
「いいです、いいです。ほらもう支部だ。マスターはいつも自分とばかり一緒にいるから対人間コミュニケーションをそろそろ学ばないと」
「う、ううっ」
アリオンの明るい声に顔をあげると、小さな喫茶店の看板が目に入った。
【黒猫亭】見た目は喫茶店で中身もそうだが、この街でのUGNの支部だ。
こんなにも当たり前みたいに、日常にUGNは溶け込んでいるとはきっと誰も思うことはないだろう。世界の表と裏は案外とぴったりとくっついているのだ。
組織の活動場所として以外求められていないので売り上げ関係は赤字でなければ構わないので好き勝手していいというのが上からのお達しだ。
そのため支部長である高見の趣向で、この店はメイド服を着た従業員たちが礼儀正しく相手してくれる。ちなみに料理も凝った本格派。中世の貴族を体験できるということで一部では話題である。
裏にはUGN支部の顔としてオーナー兼支部長である高見、そして従業員たちはみんな支部員で構成されている。
なかに入ろうとすると楽しそうな顔の女性のお客人たちと玄関まで送り届けてきた高見が――今日も黒いメイド服に白のふりるのついたエプロン。長い黒髪を一つにまとめて、メイドらしい白のカチューシャつき。
きちんと玄関の外まで出ていき、またのご来店を、お嬢様と口にして見送る。
客がいなくなると高見が鋭い眼で見つめてきた。愛想のあの字もないが、それがクールでいいと評判だそうだ。
オーヴァードとして前線で戦うために鍛え上げられた肉体はすらりとして無駄なぜい肉はなく、美しいプロポーションだ。
「ヴラスターリ、来たのか」
「ええ。お仕事お疲れ様、いいかしら?」
「ちょうど客がひいた。来るといい」
ぶっきらぼうな言い方だが、これが彼女のいつものスタイルだ。
店のなかにはいるとクラシック音楽が響き、広い室内を贅沢に使用してセットされたテーブル席が二つ、三つ。
ここは本と手紙を書く空間――そんなコンセプトで作ったと聞いた。見た目や態度は男ぽいし、実家が槍術を扱う武闘家というのもあるせいだがその反動で彼女は可愛らしいものが好きだし、乙女思考な性格をしている。
木製の建物を奥へと進み、従業員用のドアをくぐってさらに長い通路を歩いてついた先はこの建物はこんなにも広いのかと驚くような空間となる。見た目は小さいが奥――地下を改良したこの支部は広い。
支部員のためのメンテナンスを行う白衣を身に着けた科学者たちが行きかったりするし、奥には訓練場も設けているので案外と騒がしい。
「来たぞ」
高見が長い廊下を歩いた先にあるドアを開けると、そこにいた白衣の女性――顔色が悪いがそれはいつものことだ。
ふわふわの癖のある髪の毛を無造作なボブヘア、疲れ切ったくまの出来た虚ろな目をした戸口がにこりと笑った。
「いらっしゃい」
ねっとりとしたものにまきつけられるような声で、誘われる。
「来たね、さっそく、君の体のメンテナンスをしよう」
必要だと言われても、メンテナンスは苦手だ。
ウィルス値の測定にくわえて、定期的に肉体の変化がないかの確認。
UGNにいるオーヴァードは月一でこれを受けることを義務とされている。安定しているとわかれば三か月に一度になるが、任務などに駆り出されたあとは入念に行われる。また覚醒したてのオーヴァードは一か月科学者の世話になる。安定しづらいウィルスとの付き合い方、人のなかで今まで通り生活するためのウィルス安定のための処方など行うのは科学者よりは医者として肉体を、良き理解者として精神を支える役割が大きい。
オーヴァードにはまことしやかに囁かれている噂がある。
メンテナンスを行う科学者――調律者の腕前によってそのオーヴァードの今後の活躍はある程度決まるといっても過言ではない。
持って生まれた才能と潜在能力や努力も関わるが、はじめにあたった科学者の調節次第で力の出し方、扱いかたもある程度決まってしまう。だから覚醒したての者は原則としてベテランや腕のいいものが必ずつくようになる。
ヴラスターリの初期メンテナンスを行ったのは、彼女を作った科学者だ。どの国に赴き、メンテナンスを受けても、みな口を揃えてすばらしいと断言する。それだけ腕が良いのだ。
世界各地を転々として任務につくオーヴァードは早死にしやすいと言われるほどに過酷だ。
オーヴァードの安定は心の強さだと言われている。
ウィルスによる衝動に飲まれないようにするか、暴走してもいかに自己を保つか。
いくつも研究を重ねているが古典的な方法だが、心の強さはその個人がかけがえのないものを作ることに直結している。つまりこの世に存在するための杭が必要なのだ。
流浪することはそれだけ特定の大切なものを作りづらいということだ。ゆえに精神、肉体がウィルスに支配されてジャーム化というパターンが多々見受けられる。
ヴラスターリも流浪し続けてきたからわかるが本当に落ち着く暇もないし、誰かと関わるのもかなり少ない。ときとして長期にわたってメンテナンスを受けられないこともある。
道具として扱われ、死にやすいクローン体でも、ここまで生きながらえたのは自分の能力が高いからだけではない。
自分を作った科学者のことは変態と嫌っているし、会いたくもないがあの男が施した技術は完璧だった。
なにせ彼は旧世代のよりすぐられた狂人なのだから。
「うむ、いつもながら見事なものだな。ウィルスは一定値以上にあがることはない。そのうえで、腕だが……君を作った人から人工腕が届けられ、それを使わせてもらったがよくなじんでいる。痛みもない、違和感もない。メールでは自分はいけないから、つけてあげてね、ってね……君の調律師はああクロウリーか」
「腕だけはいいのよ」
ぶっきらぼうに言い返す。一体どこで自分の片腕が敵に食われて再生不可能になったのをどこで聞きつけたか知らないが、その事件が解決直後に人工腕が送られてきたというのだから恐ろしい。
「変態だけど、あいつはオリオンよ」
「ふふ。オーヴァードが生まれて混乱の三年を生き抜いたオーヴァード科学者のことを第一世代<オリオン>、彼らは非道な研究を行ったことから嫌われやすいがそれでも腕だけは確かなものが多い」
くすくすとティシャ猫を彷彿とさせる笑みを浮かべたあと、真剣な顔になって戸口は感嘆の吐息を漏らす。
「素晴らしいな。脱帽だ。これだけのことを一人でやってのけてしまう技は本当にすごい。確か、クロウリーはUGNから五年前に脱退したんだったな? もともと彼の師であるFHの科学者であるファントムに深い敬愛をして危険分子とされていたが、そのあとで幾つものクローン体を作ったということも人事どもに印象が悪くて、今は流れでどこぞの組織にいるのかは不明だが……クローン体なんて厄介なものを生み出せる倫理度外視の性質はおいといても惜しい科学者だ」
「それ本人に言ったらつけあがるわよ」
「言わないよ。ああいう輩はかかわらないのが一番だ。まぁ私もオリオンなんだけどね」
さらりと告白されたヴラスターリはぎょっとした。
「本当だよぉ、私はここにいる支部の数名に……ひどいことをしたっていう自覚はある。彼らも私を蛇蝎の如く嫌ってる」
ひどいこと。オーヴァードが生き物として未知数ゆえに――今もだが――どのようなものかを知るためにいくつもの非人道な実験をおこなった科学者たちの悪行を、今の時代に覚醒したオーヴァードたちは知らない。ヴラスターリはオリジナルの記憶といくつかの文献で読み知っている。
「あの世代だというけど、とても理性があるわね」
「あっははは~。そういわれると嬉しいけど、私もクソだよ。はい、おわり。君のウィルスの安定は君の旦那様もかかわっているのかなぁ」
「だんな、さま」
言われた意味がわからなくて繰り返したあと、頬に熱が集まるのがわかった。
「おいおい、うぶだなぁ~。まぁいいや。だって君、最近衝動に負けてないじゃないか」
「……それは、力を使ってないから」
「愛しい旦那様~以外の血はいや~。ふふーん」
けらけらと笑われてヴラスターリは大いに慌てた。
「べつに、そんなじゃ、いや、その」
「けど血を一滴も飲んでないわけじゃないだろう?」
伺う視線にヴラスターリは俯いた。
オーヴァードが持つ衝動は大ざっぱに分けて十二個と分類されている。さらに個人の価値観や性格によって細かく分類されるが、基本的にその十二個の衝動に分けて精神安定のための薬が処方されたり、ストレスなどを溜め込んだ際はそれに合わせての発散方法などが提供されるようになる。
個々のオーヴァードの衝動を特定し、分類に分けて、管理するというのは衝動に負けないための基本の対応だ。
ヴラスターリのウィルスによって与えられた衝動は――吸血。
他者の血を飲みたい、生命を欲しがるというものだ。だから定期的にヴラスターリは吸血鬼よろしく、人の血を吸うことがある。
「……ヴァシリオスが、飲んでもいいって、いうから、彼のを……彼だけよ。たまに」
「ほらーらぶらぶふぁいあー。すばらしいね、愛によってウィルス安定。UGNは基本自由恋愛だし、恋愛についての事件については寛容だからねぇ」
なんだか改めて言われると恥ずかしい。
「いいじゃないかー。一度暴走した彼が君の愛によって戻ってきたなんて美談だよー。まぁ、実際はどうなのかなんてわからないけどねぇ、君が生きてることが彼のストッパーになってる、ならいいじゃないか」
さりげなく嫌味を言われた気がしてヴラスターリは背筋を伸ばした。
そうだ。彼は一度ジャーム認定をされた。傷ついたヴラスターリを助けるという行為と、ヴラスターリが一生涯監視するという義務を負うことで一時的に解除されたにすぎない。
一度ジャームと言われた者は信用されない。
今回は別々の任務を受けるようにと――ヴラスターリの定期健診もあったため、彼は一人で今朝早く任務へと向かって行ってしまった。思い出すとまた心配になってきた。
「私、もう帰らないと」
帰ったところで、ヴァシリオスは任務が終わるまで帰ってこないけど。
「おいおい、せっかく来たんだ。私はいいが、高見は井草と住原を連れてくるぞ」
井草と住原はこの支部のチルドレンでライン友達。この二人はヴァシリオスのことで世話になった。
「けど、」
「たまには旦那から解放されて一息つく、というのも味わいたまえよ。どうせたいした任務じゃないんだろう? 確か、今朝、港に不審な船があっただったけ?」
「ええ、それの確認だけど、あ」
ピロンと音がしたのにみればスマホのラインだ。
ちらちらとそちらを見ていると、戸口がどうぞと口にするのでお言葉に甘えて確認する。
ヴァシリオスからのラインだ。
いま、仕事中、という短い文字が書かれている。そのあと、検査はどうだった、と文が続く。
彼が忙しい合間を縫って連絡してくれているのがわかると嬉しい。なんと返そうかと迷っていると
「顔がにやけてるよー」
「うっ」
「マスター隠せてないですねー」
アリオンまで言ってくる始末だ。
「ふふふぅ。せっかくだ、女子会トークしようじゃないか。君、出会った頃はとげとげしいところもあったけど、旦那様をげっとぉしてずいぶんと隙が出来てきたしねぇ」
「ううっ」
なんだか好き勝手に言われている気がするが、反論の言葉がない。だってそれは真実だ。
自覚があるだけまだましと思っていたが他者から見たらひどかったらしい。
スマホには「大丈夫、早く帰ってきてね」とだけ返した。今朝の喧嘩があるからそっけない? ううん。これでいいはず。ちゃんと既読はついている。顔を合わせたら今朝のことは謝らないといけないという後悔がふつふつと湧き上がってきた。
「変わる、というのは悪いことじゃない。生き物の適応能力ってやつさ、それに、おや」
「こんにちはー」
明るい声にヴラスターリは振り返ると笑顔の井草と住原がいた。
栗色のおさげの小柄な少女が井草ちよ。主に非戦闘員として前線で戦う者たちの支援を行う彼女は治癒者としての腕は確かである。片腕を失くしたヴラスターリに諦めずに治癒してくれたのも彼女だ。
その横にいるすらりとした身長に黒髪にショートカットの住原かすみ。片腕をUGN特別製対オーヴァード用の機械腕で戦う活発な少女だ。
二人ともまだ高校生だが優秀な子たちだ。ちなみに幼馴染。そして大の仲良しの今時の子たちだ。
「お茶しませんかっ」
「ねぇ、ヴラスターリさんっ」
明るい笑顔で誘われてヴラスターリは目をぱちくりさせたあと笑って頷いた。
「ええ、喜んで」
よかったですね、マスターとアリオンの声に口元がにやけてしまった。ああもう。