第5話 後悔
次の日から調子も良くなりいつもの様にバイトに出られるようになった。
1月も中盤に入り、雪も毎日パウダースノーで滑れるほどいい雪が降っている。
「今日わたしの友達が来てみんなで飲むんだけど優奈も希も来ない??」
夕方コンビニでバイト中のわたしと一緒にいた希にエリカさんが声を掛けてきた。
「わたしたちが一緒でも大丈夫なんですか??」
「もちろん。大勢の方が楽しいでしょ。」
「だったら参加させてもらいます。」
バイト後、この前行ったナオミさんのお店に集合ってことで先にエリカさんたちは出かけていった。
「おはよー。あーだるい。」
眠そうな顔をしてお店に入ってきたのは修さん。
修さんはスノーボーダーでパイプに入ったりめちゃくちゃ高いジャンプしてしかも回っちゃったりする。プロじゃないの?って位上手なボーダーさん。って話。
ボーダー特有の雪焼けをしてるのがその証拠。
顔がパンダさんみたいにゴーグル焼けで顔半分が黒い。
でもそれがボーダーにはかっこよく、憧れでもある。
昼間ボードして夜バイトして・・・。
そりゃ、だるいよね。。。
「あまり無理しないでくださいね。」
「夜中は暇だから大丈夫。休みの日滑り教えるよ。」
「うん。」
修さんと交代して部屋に向かう。
滑り教えてくれるって・・・。
そう言えばヒロさんも言ってたよね。。。
あの時のことが頭に浮かぶ。
・・・。
何だったんだろぉ。
「優奈早く用意して行かなくちゃ。」
希は用意バッチリな様子。
って・・・スカートって寒くない??
「希、寒くない??」
「だってここ来てからオシャレしてないし〜。優奈もスカートで行こうよ。」
「え〜。寒い。」
「おばさん!!そんなこと言ってるとおばさんになっちゃうよ〜」
おばさんって。
まだ18ですけど!!
ぶーぶー言いながらも希の勢いに負けわたしまでスカートを履かされた。
「行ってきまーす。」
修さんに挨拶してドアを開けるといつもは降っている雪が止んでいた。
風も無くいつもとは違ったまちの様子。
静か過ぎて気持ち悪くも感じた。
足早に歩く希の後をふら付きながら歩くわたし。
「遅くなってすみません。」
バーのドアを入るとこの前と同じくたくさんの人がいた。
「あー、こっち!!」
エリカさんの側まで行くともう既にできあがっている人達が大騒ぎしている。
「みんな〜、今シーズン入った希と優奈。だれも手出さないように〜!!」
エリカさんはわたしと希に一人一人紹介してくれた。
全員で10人近くいる人たちはみんないい人でエリカさんの友達ってこともあってみんなボードが好きな人たち。
希はいつの間にか溶け込んで一緒に飲んでいる。
わたしはというとエリカさんの横でナオミさんと3人で話しをしていた。
「優奈ちゃんは好きな人いないの??」
ナオミさんの突然の質問に目をまるくする。
「優奈は・・・涼とか合いそうだけどなぁ。」
涼?!
ゴボっとむせた後にチラッと希を見る。
聞かれてない。
よかった。
「この前わざわざ涼に薬持っていくように行ったんだけど。何もなかったの??」
・・・・。
エリカさん・・・。
それって、ありがた迷惑ですって。
「残念ながら、何もなかったです。」
そういうわたしに
「つまんないの〜。じゃぁ他にだれかイイ人いるの??」
他にって。
・・・。
「わたしは優奈ちゃんにはヒロくんみたいな人が似合うと思うけど。」
「えっ」
ナオミさんの口から出たヒロさんの名前に思わず声が出てしまった。
「優奈、ヒロと何かあった??」
「何もないですよ。」
「顔真っ赤だけどー!!」
エリカさんの攻撃に負けそうになるが絶対に言えない。
「まーいずれかはわかるだろうし、ヒロとは付き合い浅いけどいいやつだと思うよ。」
エリカさんがお酒の入ったグラスをわたしに渡す。
それを一気に飲み干した。
「優奈って結構飲めそうだよね。」
そこまでが、バーでのはっきり覚えている記憶。
希とエリカさんの友達数人で寮に向かうころにはフラフラで記憶も飛び飛び。
次にはっきり記憶があるのが最悪な記憶。
エリカさんの友達の男の人に無理やりキスをされた。
ヒロさんにキスをされたあのソファーで、初めて会った男の人に倒されているわたし。
抵抗するがお酒のせいで力も入らず体系のいい男の人に敵うはずも無くスカートに手が伸びる。
なんでスカートなんて履いてきちゃったんだろう。
後悔しても遅いのはわかってる。
「やめて。」
精一杯叫ぶが口をふさがれる。
なんで誰もこないの。。。
涼、ヒロさん・・・。
泣きながらの抵抗もこの男には効かない。
いっそ記憶が無かったほうが幸せだったのかもしれない。
そう思った時だった。
「何してんだよ。」
ヒロさんだった。
ヒロさんは男の服を掴むと男の顔を1発殴った。
思わず目を閉じる。
「んだよお前。」
そういってその男は店を出ていった。
「お前何やってんの??」
クラクラしながらも必死に立つとヒロさんが真剣な顔してわたしを見つめる。
「バカじゃねーの??お前男誘ってんの??」
助けてくれたのはすごくうれしいんだけど・・・。
そこまで言われる筋合いないよね?
「だれでもいいのかよお前は。」
なんでこんなに言われなきゃいけないのかわからず涙がボロボロ出てくる。
「ヒロさんにそこまで言われる筋合いないでしょ!!」
「お前は隙がありすぎるんだよ!!」
「バカ!!」
助けてもらった恩人にバカっと言い残し部屋に戻るわたし。
それから少ししてエリカさんが部屋に入ってきた。
「優奈。大丈夫??」
「エリカさん。。。」
エリカさんに抱きつき大泣きするわたしにごめんっと何回も謝るエリカさん。
「ヒロに聞いたよ。あの男、基の友達なんだけど女癖悪いんだよ。わたしが油断してた。ごめん優奈。」
わたしはただ泣くことしかできなかった。
「優奈ごめん。」
騒ぎを聞きつけた希も部屋にやってきた。
「優奈大丈夫??」
2人はわたしが落ち着くまで側に居てくれた。
次の日、珍しくお土産屋でのバイトになった。
ぼけーっと外を見ているとお店の電話が鳴った。
内線だった。
「はい苗場1号店です。」
「俺。基だけど・・・。俺のダチがわりい。エリカに怒られて。」
『それだけ?もっと謝りなさいよ!!』
横で話すエリカさんの声が丸聞こえ。
思わず笑ってしまう。
「まじ悪かった。」
「大丈夫じゃないけど基さんのせいじゃないし・・・。」
「本当にわりぃ。」
電話が切れた。
「あ〜もう全部忘れよう!!!そうだそうだ!!!!」
大きな独り言を言うと大音量で有線をかけた。
でもね。
忘れられないことがあるの。
うん(涙)
ヒロさんのあの顔。
めちゃくちゃ怒ってた。
酔ってなかったらきっとその顔に泣いてたはず。
あ〜恐ろしい。
んも〜今は忘れよ!!
今日はお土産屋なので6時あがり。ナイターでたっぷり滑れる!!
よーし。今日は気合入れてナイターで滑るぞー!!
一人気合を入れるわたし。
夕方になり一人ウエアに着替え板を担ぐ。
今日は1人思い切り滑ってきます宣言をしてゲレンデに向かう。
早速リフトに乗り1本目を滑り終わりご機嫌で2本目のリフトに乗ると見た覚えのあるウエアの人が相乗りしてきた。
あえて何も声をかけずにゲレンデに目を向ける。
でも声をかけてこないはずがないってことはわかってる。
わかってるんだけど今日は1人で滑るの!!
なんて通じないよね。
はい。わかってます。
「優奈ちん。上達してんじゃん。見てたけどしっかりしてきたよ。」
昨日の話題には触れないんだ・・・。
昨日お店に居たはずなのに。
それが涼なりの優しさなのかな。
「上達したでしょ。」
どうだ〜って感じで言ってみた。
「まじで、うまくなったよ。まぁ俺にはまだまだ追いつかないけどね〜。」
「涼くんになんて追いつけるわけないじゃん。」
「そんなのわかんないじゃん。」
真剣な顔してわたしを見る。
そんな顔して見ないでください。
「もうちょっとヒザ落として滑ってみな。かっこいいよ。」
リフトから降りると涼が先に滑り降りていった。
さっき言われた通りにヒザを落として滑ってみる。
だが、こけた。
苦笑いのわたしに下から声が飛んできた。
「曲げすぎ!!」
下まで滑って行ったと思っていた涼がコースの中盤あたりで止まって見ていた。
「もっとエッジ立てて。」
鬼コーチかよっと心の中で突っ込みを入れつつ言われたようにして滑っていく。
涼のいる場所に着くとまた先に涼が滑りだす。
「見てて。」
・・・。
はい。
言われるがままですよ・・・わたし。
そのまま今日はナイター終了まで涼と一緒に滑った。
わたしは1人で滑ろうと思ってたんだよ。
別に教えてって言った覚えもないし、一緒に滑ろうって言ったわけでもない。
希に言い訳しているような感じ。
2人で帰っているとお店の中でヒロさんが修さんとレジで話しているのが見える。
今1番会いたくない人発見。
でもレジを通らないと寮には帰れない。
何も知らない涼はスラーっとドアを開けて中に入って行く。
その後に付いて誰もいないかの様に通り抜けるわたし。
・・・。
何か言われるかと思ったけど何もなく部屋に戻ってきた。
わたしの考え過ぎだったのかな。
その日からヒロさんはあまりコンビニに来なくなった。
来てもわたしと一言も話をしてくれない。
1度声を掛けようとしたけど顔さえ合わせてくれなかった。
完璧シカトされてる感じ。
わたしどうしたらいいの??
自分でもどうしたいのかよくわからなくて、気持ちがもやもやで、悲しくて。
いつの間にかヒロさんの事ばかり考えてる自分がいた。