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冬の匂い  作者: 桃アゲハ
21/21

第21話 絆。そして恋。

小窓から朝日が差して目を覚ます。

たっぷり寝たわけでも無いのに気分がいい。


昨日散らかしたまま寝てしまったため、今朝は片付けから1日が始まった。


元気のいい涼と希は朝っぱらからアスレチックで駆け回っている。



その姿にみんな呆れ顔。


いつもだったらわたしも参加してる所だけど、今日は夢中になることが他にあった。


エリカさんと連さんの子、チビちゃん2人と子猫が戯れる姿がすごくかわいくて、ずっと見入っちゃった。


子供って可愛い。




「優奈この子猫どうする気?」



「さっき聞いたら、この公園に子猫捨ててく人多いらしくて、保健所に連れて行かれるみたいなんです。この子は一緒に連れて帰りますよ。」



「連れてくの?」



「はい。」



昨日のヒロさんと同じくエリカさんもビックリしてる。



「ヒロの家に置いてっちゃえば?」



「えっ?」



何を言い出すのかエリカさん。



「子猫置いてっちゃえばいつでも逢いに来られるでしょ。ヒロにも子猫にも。」



・・・・。



「それいいじゃん。」



横に居た連さんが会話に入ってきた。

ニヤニヤ顔の連さんは面白がっているようにしか見えないけど・・・。



「え・・・でもこの子とはずっと一緒に居たいんですよ・・・。」



「じゃーヒロの家に住み着いちゃえば?」



ゴホッゴホ。

飲んでいたお茶を喉に詰まらせた。



エリカさん。

わたし、そこまで図太くありません。








お昼が過ぎエリカさん家族・連さん家族が先に帰って行く。



「優奈、またね。」



「気をつけて帰ってくださいね。」



山での別れと違って笑顔でさよならが言える。

この先もずっと、ずっと繋がってる。

またこうしてみんなで会えるって確信があるから。



「ばいばい。」



見送りした後、帰る方向が同じ涼と希とわたしはヒロさんに駅まで送ってもらうことになった。



「寂しいからヒロくんホームまで見送りにきてよ。」



駅に到着するなり涼がヒロさんを車から降ろす。

涼が寂しいだなんて。

かわいくて笑えちゃった。



「えー。」とか言いながらもホームまで見送りに来てくれたヒロさん。



「また、みんなで会おうな。」



「うん。」



「もちろん。」



「バイバイ。」



電車に乗り込むわたしたちに手を振るヒロさん。



『ドアが閉まります。』



のアナウンスと同時にわたしの体が宙に浮く。

後ろから聞こえる「じゃーねー。」の涼と希の声。


ドアが閉まる寸前で電車から降ろされたわたしの体・・・

ヒロさんが受け止めてくれた。



「ご、ごめん。」



ヒロさんの胸の中に納まっている自分の体勢に思わず後ずさりする。

顔から火が出そうに熱い。



「あいつら危ないことするよなー。」



・・・・。



「子猫がいるっつーの!」



って。

心配してるのは子猫ですか?


ジロっとヒロさんを睨むとニコっと笑顔を返された。



「次、電車いつ来るのかな?」



「車で送って行こうか?」



「大丈夫。でも次の電車まで居てほしいな。」



「いいけど・・・。」



「ありがとう。」



ホームの端で壁に寄りかかりながら電車を待つ。

本数も少なく次の電車まで30分以上も間隔がある。


話す話題を探して黙り込む。



「俺って、過去?」



突然口を開いたかと思ったらよくわからない質問をしてきたヒロさん。


ヒロさんが過去?



「過去って?」



「俺は過去になって終わっちゃってるのかなって。」



「・・・・。」



ヒロさんの言ってることにピンとこなくて何も言わずヒロさんを見つめる。



「もう遅いかもしれないけど、俺、優奈が好きなんだ。」



「・・・・。」



いきなりの告白に瞬きも忘れるほど驚いた。

一気に上がる心拍数。

大好きな人がわたしに『好き』って・・・


『好き』って気持ちを伝えてくれてる。



うつむくわたし。


だって、きのうからうれしいことばかりで・・・信じられない。



「今頃気が付いても、遅いよな。ごめん、忘れて。」



同じくうつむくヒロさん。

わたしは人目を気にせず抱きついた。



「おっ、おい。」



ビックリするヒロさん。

それでもぎゅっと抱きしめた。





「大好き。」




遅くないよ。

今でもこれからもずっと大好きだもん。




3年前ヒロさんに出逢って、辛くて、悲しくて、逃げ出したくなることもあった。

忘れたくても消えてくれない思いに悩んだこともあった。


ずっと一方通行の恋だと思ってた。

思ってるだけの・・・

そんな恋だと思ってた。



だけど、だけどね・・・。

届かないと思った気持ちが伝わったのかな。



・・・・神様。


ありがとう。



「ごめんな。もっと早く自分の気持ちに気がつければ・・・」



首を振るわたしの頭をなでるヒロさんの手。

この大きな手も、この声も、ずっと・・・ずっと大好きだった。




にゃぁ。



子猫がわたしのカバンの中から顔を出す。



「これからはずっと一緒だよ。」



子猫とわたし、そしてヒロさん。

これからはずーっと一緒。








そして気が付いたこと。




・・・。



この匂い。




わたしが大好きだった『冬の匂い。』




そう思っていた・・・匂い。




・・・・ヒロさんの匂いだった。














     ―END―











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