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冬の匂い  作者: 桃アゲハ
20/21

第20話 穏やかな空気

買ってきたお酒も全て空にして、みんながキャビンに入る。

酔いも回ったのかみんなシャワーも浴びずに寝ちゃった。



二荘借りたキャビンは男女別にしてあって子供たちはとっくの前に寝ちゃってたんだけど、その横でエリカさんも連さんの奥さんも眠りについてる。

さっきまで大騒ぎしていた希までもがパッタリ寝ちゃった。



わたし、昔から泊まりに行くと眠れないんだよね。

どんなに疲れてても、お酒を飲んでも。



一気に静かになったことで余計に眠れそうに無く、上着を羽織って外に出る。




周りのキャビンの電気も消え、辺りは静まり反っている。

暗くはあるが怖さはなく、自然の中にいるせいか空気がとても心地よく感じる。



散歩でもしようと月が照らす道を歩き始める。



ゴソゴソ。



草むらから物音がして一瞬ドキっと体の動きを止める。

何?

さっきまでの穏やかな空気が消える。

・・・・。



にゃぁ。



草むらから出てきたのは小さな子猫だった。

かわいい。



「おいで。」



しゃがんで子猫をなでるとゴロゴロと言って体を寄せてくる。



「あなたのお母さんはどうしたの?迷子なの?」



子猫を抱き上げ歩き始める。

ゴロゴロいいながら腕の中でうずくまる子猫。



「寝ちゃったの?ねぇねぇ。」



子猫の顔を覗き込むと子猫はわたしの腕の中で眠りについた。

あーあ。

子猫ちゃんまで寝ちゃった。



「さっきから誰と話してんの?」



後ろから声がする。

声の主が誰かは振り向かなくてもすぐわかる。

大好きな人の声だから。



「一人でしゃべってると頭おかしいと思われるよ。」



「一人じゃないよぉ。」



そう言って腕の中の子猫を見せる。



「すげーかわいい。俺にもかして。」



わたしの腕の中から子猫を取り上げる。

すごく愛おしい顔をして子猫に頬をよせる。



「こいつかわいい顔してるな〜。柄がちょっとブサイクだけど、そこがまたいい。」



「何それ。」



クスッと笑うわたしの頭をポンポンっと軽く叩く。



「ヒロさんも眠れないの?」



「おう。何かな・・・。」



「わたしも。」



「外に出てきて良かった。こんなかわいい奴に会えたし。」




ヒロさんが猫好きなのは3年前に知った。

雪が降る中、道端で猫を追いかけるヒロさんを見て笑ってたことがあった。

その話をすると「もういいだろ。」って嫌がるけど、わたしはあの光景が忘れられない。


犬派だったわたしが猫が大好きになったのはあの日からだったのかもしれない。




しばらく歩いて行くと小さな丘に一本の大きな木が立っている場所があった。

その木の下に座って少し話しをしようとヒロさんが言ってくれた。



「ごめんね。」



「ん?」



いきなり謝ってきたヒロさんに首をかしげる。



「三年前。お別れも言わずに帰っちゃって。」



「うん。」



「おまけに約束してた花見まで行かなくて。」



「うん。」



「優奈に謝らないとって思ってた。」



「・・・。」



あの時のことが甦る。

どうしようもなく悲しかった。

そう、覚えてるよ。



「ごめん。」



「全然気にしてないよ。」



「ごめんな。」



子猫をなでながら話すヒロさんを見つめるわたし。



「ヒロさんにはヒロさんの事情があったんだと思うし仕方ないじゃん。今は今。今ヒロさんがいてみんながいて、こうやっていられるんだもん。それでいいよ。」



「優奈大人になったな。」



「でしょ。二十歳超えたんだから、ちょっとは成長しないとまずいでしょ。」



えへへと笑うわたしと一緒になってヒロさんも笑う。

3年前とは違う、二人の空気。



「昔のことは過去としていい思い出にすればいいんじゃないかな。」



「過去ね・・・。」



「わたしね、3年前は楽しいことも悲しみに染めてたの。山から帰ってきた時なんて寂しくておかしくなっちゃいそうだった。でも、今ではそれもいい思い出。笑って話せる思い出に変わってるの。」



「そっか・・・。優奈の中ではもう過去になってるんだね。」



「ん?」



「いや、優奈が今笑っていられる過去ならそれでよかった。」



「うん。」



過去は過去。

今ヒロさんを思ってる気持ちは今、ここにあるんだもん。



「この子どうするの?」



「明日公園の管理人さんに聞いて捨てられた猫だったらわたしが連れて帰る。」



「本気?」



「うん。」



ヒロさんは少し驚いた表情。

だってこの子が捨てられていたとしたらこの子には頼る人がだれもいないんだよ。

わたし、見捨てられないよぉ。



「なんだか冷えてきたな。」



「うん。キャビン戻ろうか。」



夏も近いが夜中はまだ冷える。

わたしたちはキャビンへ足を向けた。



「あのさ」



「ん?」



「あ、やっぱりいいや。おやすみ。」



「うん・・・おやすみ。」



キャビン前で別れる。

言いかけた言葉が気になったけど聞き返すことはしなかった。



「今日は一緒に寝ようね。」



子猫と一緒にベットに横になる。

いつもは眠れないまま朝を迎えるわたしがこの日は自然と眠りにつくこたができた。






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