第19話 サプライズ
日も暮れだし周りのキャビン前でもバーべキューが始まっている。
「焼けたよ。」
いつの間にか焼き場担当になってるわたしと涼。
・・・・。
今日の涼はよく働く。
「涼もあっちで飲んできていいよ。」
「ああ、大丈夫。優奈こそ戻っていいよ。」
「わたしも大丈夫。」
そう言って必死になってお肉を焼く涼の姿がかわいくて思わず笑ってしまった。
「ん?」
「涼くん21歳には見えない。」
「え?俺、大人になったつもりなんだけど。」
「涼くんが大人?」
「優奈ちんだって21歳には見えないよ。」
「涼くんよりは大人なつもりなんだけどな〜。」
「ははは。」
「笑わないでよ〜」
「でもさ、この先もずっとこんな感じでさ、裏表の無いままの関係って言うの?汚れた大人に染まらないでさ、俺達の関係がずっと続けばいいよね。」
たまに出る、涼のまともな言葉がわたしの心に響く。
「そうだね。でもわたしたちなら大丈夫だよ。」
「そっか。」
「うん。」
涼がそんなことを思ってたなんて意外で、なんだかうれしかった。
一通り焼き終わって賑わっているテーブルに戻る。
「優奈、これ優奈が買ったの?」
希が取り出したのは水風船。
「そうそう、ちょっと来て。」
希を連れて水道へ向かう。
イタズラを考えたわたしは希を仲間につけた。
「全部水入れちゃおう。」
何個あるのだろう・・・
結構たくさんあった水風船全てに水を入れる。
その水風船を持ってみんなのいる所に戻った。
丁度良くトイレから帰ってきた涼を発見。
「いくよ!」
そう言って二人で涼の前後に回り水風船を投げつける。
バンっ。
と勢い良く割れ、水が飛び散る。
「あー、冷て〜。」
見事に的中。
イエイ。と希と顔を見合わせる。
みんな涼の姿に大笑い。
涼もニンヤリすると隠してあった水風船を見つけ出し奪い取った。
「俺がやられっぱなしな訳ないだろ。」
こうして水風船投げが始まった。
いつの間にかヒロさんと連さんも参加してる。
日も落ち辺りは真っ暗。
こんな中で走ってるわたしたちって、周りからしたらおかしな奴等に見られるのかもしれない。
でもこんなバカができるのもこのメンバーだから、なんだよね。
とにかく笑って、とにかく逃げた。
残り一つの水風船を持って走る涼に逃げ続けるわたしと希。
「危ない!」
の声と同時に近くに居たヒロさんが駆け寄ってきた。
ヒロさんの伸ばした手があと少し、あと少しで届いたんだけど・・・
そんなドラマのようにうまくいくはずも無く、わたしは石に躓き横にあった池に落ちた。
「きゃっ。」
バシャン。
・・・・。
なんでこんな所に池があるのよ。
・・・・。
もう。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃなーーーーい。」
一瞬張り詰めた場だったが、ヒロさんに引き上げられ頭からビッショリのわたしを見てみんなが笑う。
最悪。
惨め過ぎて自分も一緒になって笑た。
「優奈、風邪ひいちゃうからシャワー浴びて着替えてきな。」
エリカさんの言葉に素直にキャビンの中に向かう。
池に落ちるくらいなら水風船に当たっていればよかった。
そう思ってももう遅い。
いつも誰かしら何かやらかしてはくれるけど、まさかそれが自分になるとは・・・。
やっぱり情けなくて笑えてくる。
シャワーを浴びて持って来たTシャツとジーンズに着替える。
着替え持ってきててよかった。
濡れた髪を乾かし、軽く化粧をし直す。
昔だったらスッピンも平気だったのに・・・今はなんだか恥ずかしい。
「飲み直そうかな。」
部屋の電気を消して外に出る。
パン、パン、パン。
一斉に鳴るクラッカー音にビックリ。
と同時に目の前のテーブルの周りに置かれたキャンドルがキレイに揺れているのが目に入る。
中央には大きなホールケーキ。
『Happy Birthday YUNA』と書かれたチョコレートケーキ。
状況を飲み込めないわたしに近づく希。
「来週優奈の誕生日でしょ。」
たんじょうび・・・・。
「優奈おめでとう。」
みんな一人ずつおめでとうって言ってくれた。
うれしくて、涙がでてくる。
うれしい涙は流していいんだよね。
泣かないと誓った自分に問いかける。
「ありがとう。」
「優奈とヒロだけ冬の生まれじゃなくてあの年祝ってあげられなかったから、ちょっと気になってたんだよ。ヒロはともかく、優奈の誕生日は祝ってあげたくて。」
エリカさん・・・・。
「これからもよろしくってことで、はい。」
缶ビールを渡す連さん。
「優奈の誕生日と俺達のこれからに」
『かんぱーい』
みんなの笑顔の中しわくちゃ顔のわたし。
池に落ちて化粧をし直したのに・・・結局落ちちゃった。
サプライズパーティーに感激のわたし。
「ちょうど良く池に落ちてくれたから準備もしやすかったよ。」
感激中のわたしにニヤニヤして近づく涼。
「池に落ちるのも計算してたの?」
「まさか。優奈ちん勝手に落ちたんじゃん。」
あはは。
そこまでしないか・・・。
「でも、本当にありがとう。わたしこんなうれしい誕生日は初めて。」
「少し早かったけどね。」
涼がニコっと笑う。
早くてもいい。
みんなが一緒にいてくれてみんなが祝ってくれた。
それが、なによりもうれしい。