第12章 春のにおい
帰りの電車の中で連さんと涼からもらった手紙を見る。
結構長い文章が書かれている涼に対して、一言だけの連さん。
らしい。と言えばらしい。
この2つの手紙は一生の宝物だね。
隣で手紙を開く希。
それは涼から希への手紙。
内容を聞くことはしなかったけど、希は泣いていた。
涼と希の中ではきっと解決したんだと悟った。
地元に帰り1週間が過ぎた頃。
涼たちも山から戻ってきたと連絡が来て、お花見の日程が決まった。
埼玉県の有名なお花見の観光地。
連さんがみんなに呼びかけてくれて集まることになったけど・・・ヒロさんの話がでない。
ヒロさんに会いたい。
番号を知ってるのにかけられない携帯。
お花見に来てくれると信じその日を待った。
期待は以外にも簡単に打ち砕ける。
ヒロさんに会える。そう思って、できる限りのオシャレをしたのに。
朝早く起きてお弁当も作ったのに。
一緒に行こうねって言ってたじゃん。
楽しみだねって言ってたじゃん。
どうして?
連さんはヒロさんが来ない理由を知っていたと思う。
でも何も言ってくれなかった。
わたしの気持ちとは反対にピンク色のキレイな桜が風に吹かれて舞っている。
冬とは違う柔らかな春の匂い。
ヒロさん・・・。
わたしの心は冬のまま、春が訪れることはないのかな。
涼や連さん、修さんに会えたことはすごくうれしかった。
みんな大好きだから。
でもね、みんな一緒なのにヒロさんの姿がない風景に違和感があって。
笑顔なのに心が笑えてないんだよ。
時間はあっという間に過ぎて帰りの電車のホーム。
反対のホームに立つ涼が言った
「元気だせよ!!」
の声がいつまでも耳に残って、涙をこらえるために必要以上に希とおしゃべりをした。
わたしって幸せ者だね。
こんなにいい仲間がいて・・・。
ホントに幸せ。
その日からしばらくはふさぎ込んで泣いてた。
みんなに会えない寂しさも、ヒロさんに会えない切なさも全部が混ざり合って涙に変えていく。
部屋の片隅にかけてあるスノボのウエア。
微かに残る雪の匂い。
冬の匂い。
心が落ち着く。
ウエアに触れた時だった。
ポケットの中の何か・・・。
「カメラ。」
思い出の詰まったヒロさんに貰ったカメラだった。
これ。
ここにヒロさんがいる。
そう思ったわたしは現像しようとカメラ屋さんに走った。
1時間程で出来上がった写真を受け取ると急いで家に戻り写真を袋から取り出す。
そこにはたくさんのみんなの笑顔と大好きなヒロさんがいた。
「ヒロさん。会いたいよ!!」
この気持ちを一体どうしたらいいのか、どうしたらこの辛さがなくなるのか、この時のわたしには考えることもできなかった。
着信を知らせる携帯がわたしを呼んでいる。
名前も確認しないで出る電話。
「もしもし。」
「優奈??」
「・・・・。」
「もしもし?」
心臓が飛び跳ねた。
電話の向こうまで聞こえそうなくらいドキドキしてる。
「ヒロさん・・・。」
「花見行けなくてごめん。」
「・・・。」
「忙しくて。」
「そうだったんだ。」
うれしくて、泣きそうで声にならない。
「また何かやる時は絶対行くから。」
「うん。」
「たまには電話してきなよ。」
「いいの?」
「いいよ。」
「うん。」
「じゃーね。」
「うん。」
電話を切ってどのくらいだろう。
うれしくてずっと携帯を握り締めてた。
聞きたいことはいっぱいあったのに、何も聞けなかった。
言いたいこともいっぱいあったのに、何も言えなかった。
でもいいんだ。
声が聞けただけで、今、すごく幸せだから。
希に知らせたくて電話をかけると、興奮気味で早口なわたしに「落ち着いて」と希。
浮かれてるわたしと一緒になって喜んでくれた。
「優奈、ヒロさんに気持ち伝えてみたら?」
「えっ。」
「地元に戻ってきてもヒロさんのこと好きなんでしょ?」
「そうだけど。」
「このままでいいの?」
「・・・。」
「彼女できちゃったら優奈、相手にしてもらえなくなるよ。」
希の言葉がズッシリと心に響く。
ヒロさんに彼女。
考えたくも無いことだったけど、希の言う通りだ。
「後悔したくないんだったら気持ち伝えなさい。」
「う・・・・ん。」
「ガンバレ!!」
「わかった。でももう少し待って。」
「今すぐにって言ってないよ。優奈の気持ちが整理ついたらでいいんじゃない?」
「うん。ありがとう。」
電話を切った後さっきまで手にしていた写真を見つめる。
わたしの気持ち聞いてくれるかな。