第11話 最後の日
次の日のお昼、修さんからのメールが届く。
『ヒロくん今日1度帰るみたいだよ。見送り行ってくれば?』
帰る?
『でもまた戻ってくるんでしょ?』
『そう言ってたけど。』
『だったら・・・』
『でも行ってきな。店は少しの間なら閉めて大丈夫だから。』
なんでそんなに言うのかわからなかったけど、わたしは見送りに行くことにした。
ヒロさんが乗るバス停に向かおうと外に出る。
でも遅かった。
すでにバスが到着していて走り出そうともしている。
ー ヒロさん。―
間に合わない。
精一杯走ったけどバスは走り出してしまった。
無情にも横を通り過ぎて行くバス。
チラッと見えたわたしの大好きな顔は一瞬の間に見えなくなった。
また戻ってくるんだよね。
だったら少しの間会えないだけ・・・。
そう思っていたのに。
ヒロさんはそのまま1週間帰ってくることはなかった。
元気の無いわたしを見かねたのか朝早くに涼がわたしの部屋にやってきた。
「滑りにいくよー!!はい着替えた着替えた!!」
わたしにウエアを投げつける。
「あと1週間で優奈ちん帰るんだよ。楽しまなきゃもったいないよ。」
どこかで聞いたことのある言葉。
そぉだ、ヒロさんも言ってた。
同じ言葉。
「俺、下で待ってるから着替えたら降りてきて。」
そう言ってドアを閉める涼。
ヒロさんがいない今、どうやって楽しめばいいの?
このまま、もう会えないのかもと思うと辛くて、泣きそうになる。
「優奈ちん。ヒロくん何か事情があるんだと思うよ。俺達もよくわからないけど・・・。でもあと1週間あるし。ここで会えなくても花見やるんだろ!!俺達仲間なんだからいつでも会えるって。」
下に降りたと思った涼がドアの外で話す。
今のわたしの気持ちが聞こえているかのようではずかしくなる。
「とりあえず今日は俺と一緒に楽しむこと!!じゃ、下にいるからね。」
涼の言葉に元気をもらえた。
そうだよね。
また会えるよね。
少し納得できない部分もあるけど・・・今は涼の気持ちを素直に受け止めよう。
こんなに心配してくれて元気づけてくれる人がいるんだもん。
「お待たせ。ごめんね。」
ごめんね。の意味はすごくいっぱいあるけど、今はその言葉だけで許して。
「行くぞ〜。」
ドアを開けると雪国には似合わない、真っ青の空が広がっている。
涼は1日一緒に居てくれた。
滑ってる時も、転ぶわたしを笑いながら待っていてくれて、歩く時も小幅を合わせて歩いてくれる。
何度涼を好きになればよかったと思ったかわからない。
希には申し訳ないけど今日は一緒に過ごせてすごく救われた。
ここであと1週間楽しく過ごせる気がした。
仕事最後の日。
結局ヒロさんは帰ってくることはなかった。
みんなの前では明るく振舞ってたけど夜になると寂しくて、不安になって・・・この1週間毎日泣いていた。
恋をするってこんなに辛いのかな?
わたしは希のように強くないからそう思うのかな。
弱虫なわたし・・・大嫌い。
ここに来て成長したつもりだったわたし、全然何も変わってなかった。
最後のバイトが終わり修さん、希と話をしていると涼と連さんがやってきた。
「明日帰っちゃうんでしょ?」
「うん。」
いつもは元気な希までも大人しく感じる。
「じゃーさ、今日は俺達ずっとここで一緒にいるってどう?」
「いいねー。朝まで寝ないでここで最後の思い出作ろうか。」
涼の提案に修さんが乗ってくる。
わたしと希も顔を見合わせて頷く。
「まじで?俺もー?」
「連さんは帰ってもいいよ。」
希の一言で場が和む。
「なにそれ?そう言われたら帰れないじゃん。」
結局帰りたくないんじゃないの?って思ったのはわたしだけじゃないはず。
ヒロさんが居ないことが引っかかっていたけど今は最後の今を楽しもうと必死だった。
「優奈、ビリヤードしよう。」
修さんからのお誘いでビリヤードを始める。
ここに来た時にはビリヤードなんて触ってもみたことなかったけど・・・
ビックリするくらい上手になったんだよ。
眠れない夜に下に来て眠れるまで修さんに相手をしてもらったっけ。
最初から最後まで修さんに勝てることはなかったけど楽しかったな。
何をするにも思い出が浮かんできて寂しくなる。
レジ下で見つけたレターセット。
希とレジ横に座り1人1人に手紙を書く。
渡すことのないヒロさんへの手紙も。
朝になりオーナーから迎えの電話がかかってくるまでみんな一緒にいてくれた。
「今月、絶対お花見やろうね。」
「もちろん。」
最後にみんなに手紙を渡すと反対に涼と連さんからも手紙が返ってきた。
思わぬ事態にビックリしたのと嬉しさで思わず涙がこぼれた。
「ありがとう。」
希も同じくビックリしているようで言葉がでない。
「じゃ、またね。」
2人は手を振って帰って行った。
その後を修さんも歩き出す。
「また地元でね。気をつけて帰ってね。」
最後までやさしい修さん。
ありがとう。
一気に寂しくなって子供のように大泣きをするわたしの頭をなでる希。
希・・・。
希にもありがとう。
ここでこんな幸せな時間を過ごせたのは希のおかげ。
本当に、本当にありがとう。
希を抱きしめた。